〈第11話〉 ヨハンナさんとの出会い

2010年4月1日(木曜日)

カテゴリー: 第4章 - Optimum Health Institute  10時23分32秒

第4章 ―――― OPTIMUM HEALTH INSTITUTE(オプチマムヘルス協会)

ヨハンナさんとの出会い

 オプチマムヘルス協会(O.H.I.)で過ごした中で一番楽しかったことは、毎週金曜の夜に行われる恒例のエンターテインメント・ナイトである。これは入所者による隠し芸大会で、金曜の朝になると食堂の隣にあるラウンジに希望参加者名と発表する演目内容を記入する用紙が置かれる。昼を過ぎる頃にはその用紙が参加者の名前で一杯になる。

 最初の週はこんな催しがあることに気が付かず、2週目に初めて観に行ってみた。
体操やヨガを行う大きな体育館に椅子が沢山並び、前方には舞台になる場所が設けられていた。そこではピアノやバイオリン、そして、ギターなどの演奏、寸劇やオペラ、歌やダンスが入所者によって順番に披露されていた。ピアノは元々そこにあるが、その他の楽器を持ち込む人もいた。彼らはここへ入所する前からこのような催し物があることを事前に知っていたのだろう。

 あまり上手いとは言えない人から、プロなのでは?と疑うほど上手な人もいた。後で聞くと、私は名前を知らないが実際にプロとしてニューヨークのオフブロードウエイで活躍する役者さんもいた。私が滞在中には著名な絵本作家も参加されていて、自らの作品の読み聞かせをしてくれた。

 私も3週目の金曜日にを披露することにした。英語の曲では敵わないと思ったので、私の好きな歌である“竹田の子守唄”を日本語で唄った。う前に、どういう状況で歌われた子守唄なのかと簡単に紹介し、私なりの解釈を付けた。
私があやす赤ん坊は自分が抱える病気で、私は家族と離れて慣れない場所(O.H.I.)へ来てその病気の面倒を見、いつかは役割を終え、在所を越えて家族が待つ町に帰るという状況に置き換えて
うつもりだと説明した。
い終えると、皆から暖かい拍手を貰った。日本語はよく解らないけれど、私の説明で唄の真意が掴めたし、ノスタルジックなメロディーに涙が出そうになった、感動したよとまで言われ、少し恥ずかしかったが、嬉しかった。唄って良かった。

 このショーのとりは、元エンターテイナーで、今はO.H.I.のスタッフリーダーとして働くミス・ルイスのものまねヒット曲メドレーだ。O.H.I.の名物と噂される多芸な彼女は、マイケル・ジャクソンから、シュール、ダイアナ・ロスなど、有名歌手の歌真似を毎週披露してくれる。
ショートヘアーでボーイッシュな彼女は、普段は化粧一つせずに働いている。けれども、カセットレコーダーからカラオケ音楽が流れ、メークアップをして派手なジャケット一枚を羽織ったミス・ルイスが登場すると、殺風景な体育館がラスベガスのショーステージと化す。見学の人々は「待ってました!」とばかりに席を立って口笛を鳴らし、拍手喝采でミス・ルイスを迎える。特に、彼女の十八番であるジャズ歌手ペギー・リーのものまねで歌う“Fever”は、抜群にセクシーな演技で歌い上げるので、毎回リクエストが入る。ものまねのコロッケさんではないが、少しデフォルメされたミス・ルイスのものまねに皆が大笑いし、本当に素晴らしいの一言である。

 それを観ながら、O.H.I.特製の酵素発酵飲料リジュビネーションを飲めば、お酒が無くても酔っぱらったような良い気分になる。

Flowers in the forest.

 そして、このエンタテーメント・ナイトで、私はある女性との出会いを体験する。
東海岸ペンシルバニア州からアメリカ大陸を渡り、西海岸にあるO.H.I.へ入所するためにやって来た彼女の名前はヨハンナさんといった。歳の頃は見たところ60代前半くらいで、華奢な体をした彼女は、肩まで伸びた白髪を品よく纏めて結っていた。

 ヨハンナさんがゆっくりとした足取りで舞台に現れ、終始微笑みながら歌を披露した。何という題名かは忘れたが、それは美しい賛美歌だった。
歌い終えると彼女はこう言った。
「2年前の夏に、初めてO.H.I.へ来くる前の私はとても弱っていて、小さな声で途切れ途切れに話すことしか出来ない状態でした。あの時は、こうして皆様の前で歌うことなど考えられませんでした。けれども、O.H.I.のプログラムで健康を取り戻し、今この場所に立ち、こうして皆様の前で歌うチャンスを与えて下さった神様に心から感謝します。」

 私はヨハンナさんのことが印象に残り、次の日の昼食後に庭で彼女を探しあてた。
先ず自己紹介をして、前夜の歌に感動したことを伝えると、ヨハンナさんはありがとうと何度も繰り返して私を抱きしめた。
彼女は、このO.H.I.へ入所するのは今回が3度目で、毎年来るつもりだと話した。ヨハンナさんは日本食が大好きだそうで、一度も訪れたことのない日本に興味を持ち、何でもいいから日本のことを話して欲しいと私にせがんだ。

 それからは彼女に会うたびに日本について様々な話をした。敬虔なクリスチャンであるヨハンナさんは、私をいつも優しくハグして、
「私の大事な娘よ、貴方に神様のご加護がありますように。」
と、私の為に祈ってくれた。
慣れない環境で時折孤独を感じていた私は、ヨハンナさんに自らの母の面影を重ね甘えた。

私より先にO.H.I.を出ていくヨハンナさんが、別れ際に、
「貴方ならこれを日本語に訳すことも出来るでしょう。日本にいる沢山の人達にも、いつか私のストーリーをシェアー(分かち合う)してください。」
と言うと、自らの記録を綴った4枚の原稿用紙を私に手渡した。
そこには、ヨハンナさんが2度目の癌を発病して瀕死の状態に陥り、そして再び蘇った記録が綴られていた。彼女が健康を取り戻していく過程でのターニングポイントとなったO.H.I.での生活習慣を今も続けて、仕事をしながら健康に生きるヨハンナさんの事を知った。
そして、この事実が私に大きな希望を与えてくれた。

 ヨハンナさんと別れて1週間後、私が出所する日が訪れた。
主人に連れられたユウキが私を見つけて息を切らしながら走ってくる。私は両手を一杯に広げて再び我が子を抱きしめた。彼の小さく細い両腕が私の腰に巻きつき、ギュと力が込められた。寂しい思いをさせていたのだと感じて切なかった。
懐かしい息子の甘い匂いを深く吸い込んだ。

 「もうぼくをおいて、どっかへいかないでしょ?」
「うん。いかないよ。」
「ずっといっしょにおる?」
「うん。ずっと、ずうーと、一緒におるよ。」

五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウェルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター

〈第10話〉  Health Opportunity(健康を得る機会)

2010年3月25日(木曜日)

カテゴリー: 第4章 - Optimum Health Institute  10時23分39秒

第4章 ―――― OPTIMUM HEALTH INSTITUTE(オプチマムヘルス協会)
 
Health Opportunity(健康を得る機会)

 オプチマムヘルスとは、「最善の条件に満たされた健康な状態」という意味で、ここにいる人達は“真の健康を手に入れる”ということだけに集中する。

 入所は必ず日曜の午後からと決まっており、これは前の章でも触れたように、一般の見学ツアー日と同時に入所者たちが帰宅する日でもある。従って、1週間に施設の門が開かれるのはこの日のみであった。

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 ツアーが終了する頃、見学客と混じり、O.H.I.滞在中に出される食事を主人と共に食べた。この日のメニューは、豆の種子を発酵させて擦り潰し、チーズ状に固めたシードチーズと名づけられた物と、アルファルファなどのもやし類、カットされた季節の野菜が盛り合されたプレートであった。それらは全て、一切の加熱処理を行なわない“RAW VEGAN FOOD(生菜食)”と呼ばれる究極のベジタリアンフードであると説明を受けた。

 RAW VEGAN FOODなるものを初めて口にした主人は、“味が殆ど無く、モサモサしていて、まるでウサギの餌を食べているようだ。”と評した。これから毎日この食事を食べるのだなと思いながら、私はフォークで無理やり口の中に食べものを押し込んでいた。そして、主人に見えないように小さな溜息をついた。

 食事の後、送りに来てくれた家族と別れ、門には次の日曜日まで錠がかけられる。ただそれだけ聞くと、何だか刑務所に入れられるように思うかもしれないが、こうすることで外の社会から離れ、ただ健康になることのみに集中することが出来るというO.H.I.の理念なのだ。その考えのもと、テレビやラジオ、新聞も一切置かれず、携帯電話の使用も厳しく制限される。

 ここでの1日は、早朝5時からの体操とウォーキングに始まり、日が暮れるまでヨガ、ストレッチ体操、バウンシングと呼ばれる小さなトランポリンを使用して小刻みにジャンプするエクササイズ、恨みや怒り、罪悪感や恐怖心などを心理的療法で取り払う精神のデトックスや、瞑想、自家菜園法、食事療法を続けて行くためのクッキングクラスの授業がある。これらのコースは自分で選んで受けるか、または、スタッフのアドバイスによって受講する。

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 食事はおもに、O.H.I.内の畑で栽培・収穫された有機野菜と果物。それを毎日3度きちんと食べる。そして1日に2回、2オンスづつ、見学の際に見たこの施設内で栽培して保管されているウィートグラスジュースという小麦草の濃縮ジュースを、施設内に置かれている専用ジューサーで自ら絞って飲む。このジュースは高濃度の葉緑素、酵素、マグネシウム、ミネラルを大量に含む強力なデトックス効果のある小麦草のエキスだ。

 それから、“リジュビーネーションドリンク”と彼らが呼ぶ、麦などを発酵させた酵素飲料(漬物の水が腐ったような匂いで、味は非常に酸味がある)と、施設で特別に蒸留している水(室温)をコップで8杯飲用しなくてはならない。

 極めつけは、このO.H.I.のプログラム中で最も重要である“エネマ”―すなわちデトックスの為の浣腸と、”インプラント” と称される絞りたてのウィートグラスを管で直腸へ挿入させる療法だ。これを1日に2度行わなくてはならない。

 この療法を行ってから用を足すと、緑色をしたウィートグラスの葉の塊に、浣腸では出し切れなかった便が絡みついて出てくる。中央に黒い種がある皮をむいたマスカット葡萄を想像して頂きたい。それがポロポロ出てくる感じである。種の部分は便だ。

 入所中、このプログラムを繰り返し行うことにより、最も効果的な宿便取りが出来る。ちょっと異様な光景だが、インプラントを行いトイレで用を足した後は便器を覗き込み、出した便の状態を必ず観察する。しかし、不思議な事にそれらの便は殆ど匂いが無く、あまり汚いという感じがしない。人が一般に想像する便のイメージとかけ離れている。

 O.H.I.へ入所すると、一番最初にこの為の浣腸に使用する挿入セット(ぬるま湯を肛門に挿入するため、先端が医療用ゴムになった点滴用の管が底に通された小さなプラスチックの手桶とその管を引っ掛けるもの。ウイートグラスを少しずつ体内に押し流すために使用する、手の平サイズのスポイドとチューブ入りの潤滑クリーム。それに子犬のトイレトレーニングに使用する真四角で水がもれない紙シーツ数枚)が全員に配られ、その手順説明が行われる。

 説明後、部屋に入って早速試すようにと言われる。最初は抵抗があって管がきちんと入らず、お湯を溢してしまったり、ウィートグラスの挿入に失敗して衣服や床を汚してしまったりといささか大変だったが、それも回数を重ねる毎に慣れていく。

この方法を行うことで、本当に腸の中がすっきりして軽くなりガスも徐々に出てこなくなる。毎日しっかりと便を出し宿便を溜めないというのは、様々な病から身を守るためにとても重要なことだと学んだ。

 費用は、それら全てのプログラムに部屋代と食事を含み、別にトリートメントルームで受ける施術を除けば、日本円にすると1週間8万円ほどである。

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 そして入所者の食事の世話や掃除、主な食料となる有機野菜を栽培する畑を耕すのは、ミッションと呼ばれる無償でボランティア奉仕をする人々である。彼らの殆どは元入所者で、最低3ヶ月間は院に滞在しなければいけない。しかし時間の空いた時は無料でプログラムに参加出来、寝るところも食事も入所者と同じものが提供される。ミッション体験の希望者は多く、時期によっては順番待ち状態だそうである。特に仕事をリタイヤした人々の年齢層が圧倒的に高く、定期的にミッションとしてO.H.I.へ戻ってくることが、余生の楽しみだと語る人もいた。

 O.H.I.に滞在している間は、自らの病名を語ったり病気を治す為に来たとは余り口に出さない。代わりに、私のような事情で訪れた人は皆『Health Opportunity(健康を得る機会)』のためにここへ入所しに来たのだと表現する。

第1週目は、塩や醤油の塩分調味料を全く使用しない野菜と果物だけの食事を効率よく消化吸収させる為に、よく咀嚼し、唾液のみで飲み込まなければならない。よって、食事の前後と食間に水は一切出されない。

 そのため、うまく食事を食べることが出来ずに食欲を無くした。身長157センチで、41キロあった私の体重は34キロまで落ちて、体力を消耗した。気分が悪くなっては吐き、顔や体中にアトピーのような吹き出物が出来た。なれない生活環境にホームシックも重なって、ましてや一日中英語だけを用いて誰かと話をするという気力も失せ、暇を見つけては横になって寝てばかりいた。体調は最悪で、こんな事を続けていたら死んでしまうのではないかと不安になる時もあった。

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 O.H.I.内部にあるカウンセリングセンターで相談すると、私に起こっている症状は解毒による好転反応であり、多くの人が体験する症状だと言われたが、精神的にも肉体的にかなり追い詰められていたのでそんな事は信用できないと思い、脱走して家へ帰ろうかと真剣に考えた。実際、そのころ私と同じ時期に入所し、脱走して二度と戻ってこなかった男性が1名いた。でも、あそこまでの思いをして子供と別れ、入所に反対していた義母を説得してまで来たのだから、今更帰るわけにはいかないという思いもあり、とにかくその週を耐えた。


2週目に入ると、少しずつ食欲も沸いてきて、唾液だけで食事を噛み下すことが出来るようになり、最初は味気なかった食事が美味しいと思うようになってきた。
やがて、吹き出物が出来ていた肌は赤ちゃんのようにツルツルになり、長年あったシミさえも薄くなった。

 さらに驚くべき事なのだが、野菜と果物しか食べていないのに、3週目に入ると体重がぐんぐん増えて活力が体中に漲ってきた。早朝のウオーキングでは、ちょっとした小走りを続けても息が切れなくなった。

 広大な敷地を囲む、朝露でキラキラ光る広葉樹の下を走り抜けながら息を吸い込み、空気ってこんなに美味しかったのかと感動した。体は軽く、空まで飛んで行けそうな気がして、自分が病気だという事すら考えなくなった。

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 食事の後は、思い思いの場所で入所している人々と気軽に語り合ったり、一人で瞑想したり、図書館で(ここには健康関連とスピリチャル関連しか置かれていないのだが)本を読んでみたり、畑に行ってはぶらぶらと散策して食用の葉っぱ類を味見してみたり、ゆっくりと時間が流れる中で好きに過ごした。

五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウェルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター