基本的理念に立ち返ること
東日本震災からちょうど一ヶ月がたちました。原発の屋内避難区域からは比較的離れていますが、私の親類は福島県の会津若松にいます。さらに仕事を通じてお世話になった方々が被災をされ、安否の確認や、余震、福島の原発事故問題などで気持ちが沈み、ブログに手をつけることが出来ませんでした。
仙台へは昨年の夏に息子と旅をしました。“瀬音ゆかしき杜の都”と歌にあるように、水と緑の美しいところでした。
青葉城址の高台から見下した夕日に輝く景色を今でも思い出します。
つい数ヶ月前に日本生協のツアーでご一緒した岩手生協を始めとする東北の生協方々も数多く被災されました。その被災地に生協連本部の根本さんが現地先遣隊として、先月の14日に岩手県の三陸河の最大被害エリアに入られたそうです。その時のことについて、彼は、「壮絶な状態で2日間は眠れず、本当に足がすくみ、写真など撮れなかった・・・」とメールで語っていました。
今回の震災は私たちが日々あたりまえに感じていた命、暮らし、安全などを、全てひっくり返してしまうほどの大きな出来事だったとあらためて実感しました。
被災された人々の暮らしが、元の状態に戻るには時間がかかると思います。けれども結城先生が標語に書かれている、“ひとつずつ、すこしずつ、いっぽずつ”という言葉のように、立ち止まらずに、今、出来る事から始めていかなければいけないのだと考えます。
先日、衛星放送でNHKの日曜討論を見ていたら、“花見や旅行や買い物などの自粛をすることが本当に被災された人々の為になるのか?”ということを話していました。その時、数日前に東北の酒造者の方が、被災を免れた酒を手にして「花見の自粛などせずに、どんどん花見をして私達の作った酒を飲んで欲しい。」と言われていたこととダブりました。結城先生も「店を開けましょう、店の前に立ちましょう」と震災の時より、何度もブログで謳われています。経済を活性化させるには、“お金を使える人から使う”ということでなければいけないと、私も感じます。
ところで最近の米国の景気は回復の兆しが見えてきたのですが、ご存知のように原油価格の上昇で再びその成長に歯止めがかかっています。Whole FoodsやWalmartの株価もマイナスの日が続いています。
ただ、その中で一番影響を受けやすそうな高級スーパーマーケットGelson’sの親会社である、Arden Groupが健闘しているのです。
つい先日、南カリフォルニアのセンチュリーシティーにある店舗に寄りました。ここは結構古くからある店舗で、以前は視察ツアーでもよく訪問していた店です。アップスケールなオープンショッピングモールの一角にあります。
私がこの店舗に訪れた最初の目的は買い物ではなく、ただ、お手洗いを使用したかったのです。というのも、先月視察でマリナデルレイのGelson’sでインタビューをした際の質疑応答の中で、「まわりにRalphs Fresh Fareの新店やWhole Foodsがありますが、競合に対抗するために行なっていることは何ですか?」と聞いた際、答えの中の1つが非常に印象に残ったからでした。
「Gelson’sはハイエンドなデパートメントやホテルと同じ環境を顧客に常に提供しています。例えばお手洗いはどのグロサリー店より清潔できれいです。2時間おきに掃除を行い、それ以上にもお客様からの報告や、アソシエートが気が付けば常にキレイにしています。これは他の店では行なっていないことだと思いますよ。私が客の立場で考えても、どんな高級レストランや、見た目が華やかな店でも、お手洗いが汚いとがっかりしますね。私は以前アルバートソンで8年働いていましたが、アルバートソンではそのような意識は無かったと思います。Gelson’sに来るパトロンはこういう日々の姿勢も理解し、来店されているのだと信じています。」
その言葉を聞いた参加者の人達から感心の溜息が漏れたのを今でも覚えています。凄く基本的なことなのですが、これが顧客サービス理念の中で一番大事なのだと気付かされました。
と言うことで、まずお手洗いに行きました。私はやはりあのときの店長さんの言葉に間違いはなかったと確信しました。特に感心したのは、この店は忙しいショッピングモールの中にあり、他店舗よりお手洗いを利用する人が多いはずです。その状況できれいなお手洗いを維持するのは、素晴らしいことだと思いました。
そのお手洗いの中に”WE CARE”と書かれた用紙が壁にかかっていました。
そこには「ハイクオリティーのクリンネスを保つために、2時間おきの掃除とサプライの補給を行なっています。もし、クレリンネスの状態が保たれていないと感じられた方はすぐフロントデスクか店長にお申し付けください」と書かれと書かれていて、トイレ掃除を行なった担当者の署名がありました。
お手洗いを借りただけでは申し訳ないという気分になった私は、バスケットを掴み、多少お高いとは知っていながら夕食の買い物をして帰りました。
店内を見て回ると、店中クリンネスが行き届いていて、グロサリーの陳列は期待通りの美しさでした。
アスパラガスも、「買ってね!」といわんばかりに美味しそうな陳列だったので、その日の我が家のメニューに加わりました。
精肉売場もクオリティーの高いお肉が美味しそうに並んでいました。
この店もすぐそばにSafewayのアップスケール店舗である、Pavillionsができ、Whole Foodsもあるので、それらの競合に囲まれて厳しい戦いをしているはずです。しかし、平日にしては客足は結構ありました。
“トイレには それはそれはキレイな女神様がいるんやで”という歌が昨年大流行しましたが、(私もおばあちゃん子なんで、この歌を聴いて2回も大泣きしました)トイレには女神様だけではなくて、商売の神様も女神様の隣に居られるのだと思いますよ。
(故松下幸之助氏も職場に行って一番にトイレ掃除をしたそうですから。それが株価に出たのかもしれませんね。)
景気が厳しくなる中でも、顧客にリピートして来店してもらうため、何か小さなことでも出来ることから始め、それを維持するということ。これも結城先生の標語に通じているのだなと気付かされました。
“ひとつずつ、すこしずつ、いっぽずつ”
五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウエルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター