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「物流業界」の基礎知識

「物流業界」の基礎知識

vol. 08-1 輸送事業の中心を占める陸運業界

2010年06月08日(火曜日)
カテゴリー:
  • 運輸業界
  
10:21 AM

★鉄道に代わり自動車が国内輸送の主役に

前回に紹介したように物流、なかでも輸送の仕事は、
トラックなどの自動車、鉄道、船舶、航空機といった輸送機関が担っている。
ではそれぞれの輸送機関は、どの程度の勢力を占めているのだろうか?

わが国の国内輸送に限ると、
1年間に運ばれる荷物は、約54億トンといわれる(2007年、平成19年度)。
そのうちの49億トンは、トラックなど自動車輸送によるもので、
分担率でいうと、全体の9割超を自動車輸送に依存している。

自動車輸送に次いでは、
大きく差が開いて内航海運の4.1億トン(分担率7.6%)、
さらに差が開いて鉄道輸送の5100万トン(同0.9%)、
そして航空輸送の115万トン(同0.02%)が続く。

一方、輸送量を示すには、重量(トン)だけでなく、
「重量×輸送距離」の「輸送トンキロ」という指標がある。
つまり、「どれだけの量」を運んだかだけでなく、
それらを「どれだけの距離」運んだかも加味することで、
各輸送機関の本当の実力を示そうというものだ。

これでいうと、全体の年間輸送量は5800億トンキロ。
自動車輸送はそのうちの3550億トンキロ、分担率で6割超を占める。
次いで内航海運が2030億トンキロ(分担率34.9%)、
そして鉄道輸送230億トンキロ(同4.0%)、
航空輸送12億トンキロ(同0.2%)と続き、
分担率の順番は変わらないが、その割合は重量だけの場合とは異なり、
自動車以外の輸送機関も意外と健闘していることがわかる。

ちなみに輸送機関ごとの平均輸送距離は、
自動車に比べると鉄道が6.4倍、内航海運が6.9倍、
航空にいたっては14.5倍だ(いずれも2007年度)。

輸送量については、第二次大戦から5年後の1950(昭和25)年には、
重量で4億9000万トンと現在の11分の1の規模だった。
それが10年後には15億2500万トンと3倍強に増え、
高度経済成長時代を経て、60億トン近い現水準に拡大した後、
バブル経済でピーク(約68億トン)を迎えてから、緩やかに減少している。

もちろん多少のデコボコはあるものの、
輸送量の推移は、面白いほどにわが国の経済の実体を反映しており、
物流はまさに「経済動向を映す鏡のようなもの」だということがよくわかる。

1950年と2007年について、各輸送機関の分担率の推移を見ると、
目につくのは、鉄道輸送の退潮と、その反対に自動車輸送の躍進ぶりである。
鉄道が重量で26.9%から0.9%へ、
トンキロでも50.3%から4.0%へと分担率を落とす一方で、
自動車は重量で63.1%から91.4%へ、
トンキロでも8.7%から60.9%へと分担率を上げている。

このように、国内の貨物輸送の主役の座は、相変わらず陸運業界が占める。
ただしその中心は、高速道路網の整備などと軌を一にして、
1960年代から急速に進んだモータリゼーションなどの影響で、
鉄道輸送から自動車輸送へと移っているのである。

次回は、そうした主役交代の背景などについて、見ていくことにする。

(続きます)

〈by 二宮 護〉

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vol. 07 物流活動を支える各プレイヤーたち

2010年06月01日(火曜日)
カテゴリー:
  • 運輸業界
  
10:21 AM

★輸送事業を担うキャリアーとフォワーダー

物流の仕事には、よく知られている輸送や保管に加えて、
荷役(にやく)、包装、流通加工、情報管理などがあることは、
すでに紹介したとおりである。
では、こうした仕事のそれぞれを、
どんな事業者たちが、どんなふうに担っているのだろうか。

今回はまず、物流コストの約6割を占める輸送の仕事を担うプレイヤーに
スポットをあてることにしよう。

貨物輸送の仕事というのは、
トラックなどの自動車、貨車などの鉄道、
貨物船やフェリーなどの船舶、航空機といった輸送機関を使い、
モノを移動させることである。
そこで輸送事業は主として、
これら輸送機関を自社で保有する各事業者によって行われている。

こうした事業者たちは、
輸送機関そのものを示すキャリアー(運ぶもの)という言葉から、
「キャリアー」(輸送事業者)と呼ばれる。

だが、鉄道、船舶、航空機などのように、
駅や港湾、空港にしか発着できない輸送機関では、
発荷主や着荷主などへ直接集荷配送することができない。
そこで、自社の別部門や関連会社、他の事業者に依頼して、
部分的にトラック輸送を行うといったことが日常的に行われる。
あるいは、トラック輸送事業者が納期によって、
一部で鉄道や船舶、航空機といった他の輸送機関を使うようなケースもある。

このように、自社の輸送機関ではなく他社保有のものを活用した輸送事業を、
「利用運送事業」(フォワーディング事業)と呼ぶ。

大手の輸送事業者の中には、「陸運事業者」でありながら、
事業内容に「船舶輸送」や「航空輸送」などを加え、
複数の輸送機関を使って事業を展開したり、
「鉄道利用運送」「船舶利用運送」などを事業内容に含めて、
キャリアーながらフォワーディング業務にも手を染めているところが多い。

輸送事業に限らないのだが、
大手の物流事業者の大半は複数の業務を兼業しており、
物流の中の一部の業務だけを提供する事業者というのは、
中小規模に多い傾向がある。

フォワード事業に特化している事業者たちは、
キャリアーと対比して「フォワーダー」と呼ばれている。

フォワーダーは、キャリアーである事業者から貨物スペースを買い取り、
不特定多数の荷主から荷物を預かって混載して輸送するので、
貨物取り扱い業者とか貨物混載業者などとも称され、
特に空運業界の航空フォワーダーがよく知られている。

さて、自動車輸送と鉄道輸送は「陸運」、船舶輸送は「海運」、
航空輸送は「空運」と言い換えることができる。
さらに海運は、国内の「内航海運」と国外の「外航海運」に、
空運も国内と国際に分かれる。

このように輸送の仕事は
四つの輸送機関による陸・海・空の各輸送事業者(キャリアー)と、
利用運送事業を行う事業者(フォワーダー)たちが関わって行われている。

次回からは、輸送機関ごとに
物流市場に占める地位などについて見ていくことにする。

(続きます)

〈by 二宮 護〉

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vol. 06 自社物流も含めた「物流」の市場規模

2010年05月25日(火曜日)
カテゴリー:
  • 物流業界
  
10:55 AM

★自社物流分21兆円が加わり44兆5000億円程度

前回は、わが国の物流業界の市場規模を、
物流事業者の売上高(営業収入)などから見てみた。

しかし、物流事業は専門事業者にアウトソーシングされるばかりでなく、
荷主自身が倉庫やトラックを持ち、
「自社物流」で行われるケースも決して少なくない。
とくに、一般的な消費財などのように、
輸配送や保管等に極端な専門性を必要としない商品では、
製造業者や流通業者による自社物流が、かなり日常的に行われている。

たとえば、わが国の緑ナンバーの営業用トラックと
白ナンバーの自家用トラックを比べると、
車両数では1対5.2と自家用が圧倒している。
ただし、輸送量(重量=トン)を比較すると1対0.67、
重量に輸送距離を掛けたトンキロでは1対0.14と、
営業用がメインとなっている(06年度、国交省『自動車輸送統計年報』)。

そこで今回は、物流コストという観点から、
物流業界のみならず、物流事業全体の市場規模を確認してみよう。

日本ロジスティクスシステム協会の『物流コスト調査報告』によると、
わが国の経済全体に占める物流コスト(マクロ物流コスト)の総額は
44兆5000億円(06年度概算)で、GDP(国内総生産)に対する割合は8.7%。
物流コストのうち28兆3000億円(63.6%)が輸送コスト、
14兆4000億円(32.4%)が保管コスト、
1兆8000億円(4.0%)が管理コストという内訳だ。

単純な比較はできないものの、
国交省の各種統計では、物流業界の市場規模が約23兆5000億円だったから、
44兆5000億円から23兆5000億円を引いた21兆円あまりが、
荷主の自社物流コストだということになる。

ちなみに、同調査では
アメリカの05年度のマクロ物流コストは1兆3060億ドルで、
同じくGDPに対する割合は9.3%。
物流コストのうち8090億ドル(61.9%)が輸送コスト、
4470億ドル(34.2%)が保管コスト、
500億ドル(3.8%)が管理コストとしている。

また、この調査では、産業ごとの売上高に占める物流コストの割合と、
さらに物流コストの内訳を「自家物流費」「支払物流費(対子会社支払分)」
「支払物流費(対専業者支払分他)」に分けて示している。

これによると、08年度の売上高に占める物流コストの割合は、
全業種では4.87%、製造業が4.78%で、
卸売業が5.06%、小売業が4.84%となっている。

消費材関連でとくに物流コスト比率が高いのは、
小売業のうちの「通販」12.90%、「コンビニ」6.63%、
製造業の「食品(要冷)」10.38%など。
他に製造業では「食品(常温)」「石鹸・洗剤・塗料」が、
卸売業では「日用雑貨系」「繊維衣料品系」「食品飲料系」、
小売業では「生協」などが、それぞれの産業平均より高い比率だ。
一方、「総合商社」「百貨店」などの物流コスト比率は
あまり高くないという結果になっている。

(続きます)

〈by 二宮 護〉

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二宮護プロフィール

1953年秋田市生まれ。
1978年に早稲田大学商学部を卒業しビジネス系出版社に入社。
月刊の経営情報誌の記者として取材執筆活動を行う。その後、書籍の編集に携わり、書籍編集長、ムック編集長を歴任し、2000年に独立。現在はフリーで書籍の企画・制作のかたわら経営誌等で執筆を続けている。執筆を担当した書籍も『JR・私鉄・運輸』(産学社・産業と会社研究シリーズ)など多数。
最新刊は『物流業界大研究』(産学社刊)

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