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「物流業界」の基礎知識

「物流業界」の基礎知識

vol. 05 物流業界の業界規模ってどのくらい?

2010年05月18日(火曜日)
カテゴリー:
  • 物流業界
  
11:44 AM

★おおむね20兆円超の規模と見られる

現在の物流事業者は、
輸送や保管といった関連する各種事業を、総合的に行う方向にある。
だが元々は、事業ごとに業界を形成して現在に至っているために、
それらを「物流業界」としてひと括りに捉えるのは、ややむずかしい。

一つの手掛かりとして、総務省の『日本標準産業分類』には、
「大分類H 運輸業、郵便業」というのがある。
そして、財務省のシンクタンクである財務総合政策研究所によると、
この標準産業分類による「運輸業」の業界規模(平成19年度)は、
事業者8万2100社、売上高67兆3600億円 従業員316万人だとしている。

ただしこの中には、モノを運ぶ貨物部門だけでなく、
ヒトを運ぶ旅客部門が含まれている。
しかも鉄道会社などには、本業の「運輸」部門よりも、
「流通」や「不動産」部門などのウエートが高いところが多く、
その分によって水増しされた数字になっている。

一方、国交省が事業ごとに行った調査報告がある。
それぞれ、トラック輸送業13兆円、外航海運業4兆7000億円、
倉庫業1兆6000億円、港湾運送業1兆1700億円、
内航海運9000億円、航空利用運送事業8000億円などとあり、
これらを単純に積み上げると、
事業者約7万5000社、売上高約23兆5000億円、従業員約150万人となる。
調査期間や調査方法が異なるために、あくまで参考数字だが、
これが「物流業界」の業界規模をある程度示している。。

参考までに他の民間調査機関の調査を見てみても、
業界全体の市場規模を20兆円弱としており、
国交省の統計をまとめた概数とも近い数字になっている。

ちなみに、国交省の推計による物流業界の業界規模を、
他産業と比べてみよう。

約7万5000社という「事業者数」は、
建設業や卸売業、小売業の30万〜40万社よりは、かなり少ない。
だが、製造業の各産業(数千社からせいぜい5万社)に比べると、かなり多い。
これは、トラック事業者のように零細事業者が多いことが影響している。

「従業員数」は約150万人だが、
製造業の各産業は一部を除いて数十万人から100万人超なので、
事業者数ほどの差はない。
これも、物流業界に零細事業者が多いことの一つの証明だといえる。
ちなみに、建設業、卸売業、小売業の従業員数は、
350万〜500万人超となっている。

約23兆5000億円の物流産業の「売上高」は、
百数十兆円から400兆円を超す建設業、卸売業、小売業には遠く及ばないが、
金属製品製造業とほぼ同規模、
21兆円超の石油製品・石炭製品製造業や鉄鋼業とも近い規模だ。

物流業界としての業界規模はこの程度だが、
物流事業の事業規模はこんなものではない。
その理由は次回に。

(続きます)

〈by 二宮 護〉

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vol. 04 物流とロジスティクス、SCMはどこが違う

2010年05月11日(火曜日)
カテゴリー:
  • 物流業界
  
10:32 AM

★より総合化と情報化が進んだ進化形

物流の話題でよく耳にする「ロジスティクス」や「SCM」。
どちらも物流の進化形であり、管理対象を拡げたものだと考えるとわかりやすい。

物流自体、1950年代までのわが国では存在しなかった概念だ。
それまでは、物流を構成する六つの活動は、輸送は輸送、保管は保管というように、
それぞれ単独のサービスとして提供されていたのである。

それが、朝鮮戦争特需などによって「大量生産・大量消費」の時代に突入。
さらにアメリカ発の「流通革命」の影響で、日本でもチェーンストアが多数生まれ、
「多品種大量輸送」が求められるようになった。

多品種大量輸送を実現するには、単純に輸配送に注力しただけではムダが多い。
在庫の調整や荷役、流通加工など周辺業務との連携が不可欠。
そこで、こうしたサービスを統合的に管理しようとして誕生したのが、
「物流」の概念というわけだ。

物流業者側も、それぞれの活動を専門に請け負うだけでなく、
輸送会社が事業の中に保管活動を加えたり、倉庫会社が流通加工活動を行うなど、
仕事の垣根をまたぐような動きが拡大した。

80年代半ばには市場の成熟化が始まり、時代は「量から質へ」と転換する。
その結果、モノづくりや流通も「多品種少量」が主流になると、
輸配送も効率の悪い多頻度小口が増えざるを得なかった。

そのために増大した物流コストを問題視して、新たに導入されたのが、
「(ビジネス・)ロジスティクス」の考え方である。

企業が行う原材料の調達から販売までのモノの流れと、
それにまつわる物流全般を管理する、
いわば、自社の「企業内物流の最適化」を目的としたものだった。

さらにバブルとその崩壊を経た90年代の半ば、
物流の効率化やローコスト化に対する要請がより厳しくなるなかで、
トヨタの「かんばん方式」を手本に米国企業が発案した
「SCM」の手法が脚光を浴びるようになった。

SCMは「サプライチェーン・マネジメント」の言葉どおり、
原材料などを供給するサプライヤーや販売先の流通・販売業者などまでを、
サプライチェーンという商品供給の一つの過程と見なし、
その全課程を一気通貫して最も効率的に管理しようとするものだ。

企業内部にとどまらず、他企業まで巻き込んでムダを省く
「企業間全体の最適化」を目指して、大手家電などを中心に導入されている。

こんなふうに段階的に進化してきた物流だが、さらに将来は、
モノの供給で終わらずに、使用・消費されたモノの回収、そして再資源化する
「循環型ロジスティクス」が注目されている。

(続きます)

〈by 二宮 護〉

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vol. 03 物流を構成する六つの要素

2010年04月27日(火曜日)
カテゴリー:
  • 物流業界
  
10:05 AM

★「輸送」「保管」だけが物流の活動ではない

生産と消費の分業化によって、三つの“隔たり”が生じた。
この隔たりを埋め、経済活動をスムーズに行うための役割が「流通」。
「物流」はその一部として、「輸送」と「保管」の機能を果たしている。
ここまでは前回の内容。

では、物流とは具体的にどんな仕事なのか。
すぐに思い起こすのは、トラックや船による輸送活動だろう。
街を歩けば、頻繁に宅配便会社やコンビニのトラックなどを目にするので、
そう思うのも当然かもしれない。

だが、輸送活動はあくまで物流の表舞台。
実は私たちの目には触れないその裏で、重要な活動が行われている。
それが、保管、荷役(にやく)、包装、流通加工、情報管理などの活動だ。

輸送を含めたこれらの六つの活動が、
相互に密接に関連しながら存在していて、
物流の仕事を構成している。

それぞれの活動の内容を、簡単に紹介しておこう。

◎輸送
トラック、鉄道、船、飛行機といった輸送機関を使い、
モノを移動させること。
厳密には、地域間で長距離大量の移動を行うことを「輸送」、
近距離で小口の移動を「配送」、
工場や物流センター内の狭い範囲内での移動を「運搬」という。

◎保管
運んだモノをいったん留め置くこと。
これにより、需要に応じたタイミングで供給するための「需給調整」、
大量輸送されてきたモノを、輸・配送するために小分けしたり、
行き先別にまとめたりするなどの「輸送調整」、
包装や流通加工などの活動を提供するための「物流拠点」
という三つの大切な役割を果たしている。

◎荷役
モノを輸送したり保管したりする際に、
輸送機関から積み降ろしたり、倉庫に出し入れしたりすること。

◎包装
輸送や保管をするにあたって、
そのモノの価値や状態を保護したり、向上させたりするために、
適切な容器に入れたり包んだりすること。

◎流通加工
生産者や流通の川上から送られてきたモノを、
川下の業者や消費者が便利なように加工すること。
たとえば、メーカーから大きな箱に大量に詰めて送られてきた商品を、
小売店頭で扱いやすい小さな化粧箱に詰め替えたり、
値札をつけたり、キズがないか検査したりするなど。
商品を組み立てて、半完成品や完成品に仕上げるようなことも含まれる。

◎情報管理
以上のような諸々の活動をより合理的、効率的に行えるように、
運ぶべきモノがどこにどんな状態であるかといった情報を、
コンピュータや通信回線を使って管理すること。

ここで重要なのは、
近代的な真の物流業者たちは、過去の単なる“運送屋”からの脱皮を目指して、
輸送活動だけでなく、その他の活動に力を入れてきたという事実だ
たとえば、宅配便分野でヤマト運輸が急成長した主要な理由として、
優れた情報管理システムの構築があったように。

小売業・サービス業サイドも、パートナーとしての物流業者を選ぶ際には、
そうした総合力で判断する時代になっていることを、知っておかなければならない。

(続きます)

〈by 二宮 護〉

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二宮護プロフィール

1953年秋田市生まれ。
1978年に早稲田大学商学部を卒業しビジネス系出版社に入社。
月刊の経営情報誌の記者として取材執筆活動を行う。その後、書籍の編集に携わり、書籍編集長、ムック編集長を歴任し、2000年に独立。現在はフリーで書籍の企画・制作のかたわら経営誌等で執筆を続けている。執筆を担当した書籍も『JR・私鉄・運輸』(産学社・産業と会社研究シリーズ)など多数。
最新刊は『物流業界大研究』(産学社刊)

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