商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.37

2010年03月26日(金曜日)
カテゴリー:
  • スーパーマーケットのマーケティング
  
11:16 AM

第37回スーパーマーケットのマーケティング……日本における導入期

■ 衣料スーパーと食品スーパー


日本のスーパーの導入期、まず頭角を表したのは、衣料スーパーであった。衣料品の販売には食品の鮮度管理に匹敵するような決定的な店内作業システムは不要であったこと、メーカーの出荷価格と小売売価の差が大きかったことなどが原因で、薄利多売の効果が出しやすかったので、衣料スーパーは導入期にすぐ充分な利益を確保できた。

  また、衣料品と食品のマーケティング上の最大の違いは、前者は買い回り商品、後者は最寄商品と呼ばれ、商圏の広さが全く違うことである。衣料品は著名な店から出現すると、百貨店に例を見られるように、(百貨店は衣料品部門が主力の業態)商圏がどんどん広がるのに対し、食品の商圏は、既存店では拡張されることはほとんどないのである。

  チェーンストアの導入期には、以上のような理由で、衣料スーパーが素朴な薄利多売戦略でスタートダッシュした。「もっと店を大きくすれば、もっと売れるようになる。」という思いで、隣接店を買い取り、売場を拡張することもしばしばあった。これが人気となって、商店街の商圏が拡がり、客数は更に増加した。このような衣料スーパーは食品部門も併設し(1号店から食品売場を併設した企業もあった)、いわゆる日本的GMS、または総合スーパーと呼ばれるようになった。

  これに対し、食品スーパーは鮮度管理を中核とする、店内業務システムが、一定水準に達するまでは、ロープライス戦略も効果が上がらず、店舗の拡張も新店の出店も思うにまかせなかった。

  このようにして、昭和40年ころには、総合スーパーは、すでに成長期と迎えたが、今日のスーパーマーケット企業はまだ、導入期の苦吟を続けていた。

  食品スーパーが成長期を迎えたのは、昭和45年前後からである。

続きます

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スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.36

2010年03月24日(水曜日)
カテゴリー:
  • スーパーマーケットのマーケティング
  
11:26 AM

第36回スーパーマーケットのマーケティング……“店舗づくり”

■マーケティングの今日的課題

これからはスーパーマーケットのマーケティングの今日的課題を考えてみたい。

“店舗づくり”とは、安土敏氏の著書・『スーパーマーケット原論』の文中の名台詞で用いた、小売業のコンセプトである。
曰く。「製造業のプロダクト(産出するもの)は文字通り、プロダクト(商品)であるが、小売業のプロダクトは、“店舗づくり”である」(店舗づくりとは、店舗のハードウェアと店舗で実施されるマーチャンダイジング、人物サービスなどのソフトウェアの総称)

追加説明は蛇足の感をともなうが、あえて補足すれば、チェーンストアは、使命としてより優れた店舗づくりを産出するために本部、店舗、その他の部分で、総力を結集すべき、ということになる。

著者は、また同著の中で、次の名台詞も残している。
曰く。「主婦は、毎日の買い物で何を買うかを決める前に、どこ(どの店)に行くかを決める」
この台詞の帰結は、「スーパーマーケットは、より多くの主婦に選ばれる“店舗づくり”を励むべき」である。

製造業のプロダクト(商品)は国内はもとより、全世界に移動することが可能である。
しかし、小売業のプロダクト(店舗づくりのハードウェア)は移動不能である。地区産業と呼ばれる所以である。
したがって、店舗づくりでは、まずどこに店をつくるかが大切になる。

この場合の「どこ」には、どの地域のどの地点に、という2つの意味が含まれている。
小売業では、どの地域のどの地点に、どんな店をつくるかを検討することを立地戦略と呼ぶ。

思えば、我が国のスーパーマーケットの立地戦略も、ここ半世紀の間に大きく変わったものである。この変貌はもとより、社会の変化に影響されたものであるが、スーパーマーケットの店舗づくりのソフトウェア、すなわち販売力の発展が影響している点も見逃せない。

■モータリゼーションの影響

一例をあげてみよう。昨今は、ショッピングセンターに主婦がマイカーを運転して買い物に行くことは、ごく普通のこととなっている。
50年、いや30年前でも、畑の中に建てられた店に主婦が夕食のおかずを買い物に出かけるなどのことは考えられなかった。
モータリゼーションが、買い物の仕方を変えたのである。
その結果、駅前商店街には、寂れてしまったところが少なくない。

ところで、スーパーが登場した頃は、スーパーも、駅前商店街でなければ採算がとれなかった。単独店に充分な集客力がなかったからである。食品スーパーは商店街に出店しても思うようには業績を伸ばせなかった。生鮮3品が、既存の繁盛業種店に敵わなかったからである。

この頃、食品スーパーと衣料品スーパーは未分化であった。セルフ・サービスで安売りをする店をスーパーと呼んでいた。

続きます

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スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.35

2010年03月02日(火曜日)
カテゴリー:
  • スーパーマーケットのマーケティング
  
10:04 AM

第35回スーパーマーケットのマーケティング……「スーパーマーケティング」の定義②

■マーケティングの使命


企業の使命とは、企業活動が社会・市場に貢献する機能を呼ぶ言葉である。経営活動は社会・市場にプラスにもマイナスにも影響をもたらす。プラスの影響をとらえる場合、使命という言葉を用いることが多いようである。

 使命という用語は、宗教的または倫理的ニュアンスを含めて使われることが多い。
また、受け取る側にもそのような感覚が強いのであろう。

 しかし、経営を論ずる場合の使命という用語は、倫理とは無関係である。

 といっても、経営が倫理と無関係というわけではない。逆に、倫理性は経営に欠くことのできない重要側面である。
原爆や公害問題に代表されるように、科学も研究結果の使い方は重要な倫理問題である。しかし、科学そのものは、倫理とは関係なく自然の法則性を研究する学問である。同じように経営活動の市場にもたらす影響の関係の論理を追求する場合、その経営の機能(活動)を使命と呼ぶ。いわば、社会科学の用語である。

 製造業の使命は、商品を製造してユーザーに提供することであり、運輸業の使命は、人および貨物を輸送することである。
小売業の使命は、商品を仕入れ、店に陳列して、販売することである。

 使命が成り立たなくなると、企業は存続しえなくなる。

 戦前には、絹の製糸および織布工業は、綿糸布の製造業とならんで、日本の花形産業であったことがある。しかし、ナイロンなどの合成繊維に需要を奪われ、使命が消滅したので、企業も消滅した。また、綿糸布製造業も、発展途上国との価格競争で立ち行かなくなったので、縮小を余儀なくされている。
企業は存続のためには、使命システムを変えざるを得なくなることもある(転業)。また発展のため、他の使命システムを導入することもある(多角化)。

 使命の選択、使命遂行の効果を高めるため、企業が行う調査に始まる計画・実施・レビューの一連の経営活動をマーケティングと呼ぶのである。
マーケティングと経営戦略は、経営活動のほぼ同じ領域をカバーする用語で、マーケティングは使命と市場の関係に焦点を置いた場合によく使われ、戦略は使命利益、能力開発(組織)との循環系の中の考察を行う際に用いられる頻度が多いように思われる。

 次回からは、スーパーマーケットのマーケティングの今日的課題をいくつか掘り下げて考えることにする。
続きます

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