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児童虐待の現状と“FRANK & BARBARA SINATRA CENTER”| 五十嵐ゆう子の米国日記

五十嵐ゆう子の米国日記

児童虐待の現状と“FRANK & BARBARA SINATRA CENTER”

2010年03月10日(水曜日)
カテゴリー:
  • 五十嵐ゆうこからのメッセージ
  
11:33 AM

 奈良県桜井市で幼い5つの児童が実の親による虐待で餓死した。
その翌日には、埼玉県で2008年に亡くなった4歳児も虐待による衰弱死であることが判明し、両親が逮捕された。

自分が母親になって以来、私はこの手のニュースを直視することができず、新聞やインターネットニュースの見出しに幼児虐待に関するトピックがあると、いつも意識的に読むことを避けてしまっていた。親を信頼することしかできない幼子が、その親に裏切られ、まるで物のように扱われる現実があまりにも残酷で、ふと自分の子と置き換えてしまう。

“あぁ、こんなに小さいのに、どんなに辛かったろう。どれほど助けや、抱きしめてくれる親のぬくもりが欲しかっただろうか”と。彼らが絶望の淵で泣きじゃくる声が耳に響き、生々とその姿が目に浮かび、自分の心まで痛くなってしまう。4歳や5歳といえば、いつも抱っこして欲しいとせがんで甘えてくる、一番かわいい盛りであるというのに……。

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どうして日本は幼児虐待が無くなるどころか、年々増加しているのだろうか?

昨年だけでも、公になった児童虐待事件は335件あり、おそらくそれ以上の虐待が実際にはおこっているはずだ。
それは児童所によせられる相談対応件数が一年に4万件をはるかに上回ることでも予測される。

役所ならびに児童福祉施設などの行政は一体、何をしているのか?
少子化対策も大事だが、苦しみや、時によっては残酷な死に直面している罪も無い子供たちの尊い命をなぜ救えないのか?
虐待によって子供たちの命の灯火が消される時、「何故なの!」と何度も私は叫んでしまう。

先日、衛星放送で日本の報道特集を見ていたら、関西の児童福祉センターでは虐待問題を扱うスタッフが常に不足していると報告されていた。だから手遅れになるケースが多いのも当然であろう。
この状況を見ていると、行政から捻出される資金に限界があるのは一目瞭然である。一刻も早く政府が抜本的な手をうち、児童が虐待によって殺されてしまう前に、もっとアクティブな対策を実行しなくてはいけない。それには人手が必要であり=お金が必要なのだと思う。お金が足りないのであれば、民間企業の協力を求めるべきである。

2010年3月2日に、4月から幼稚園の先生になる日本の短大生、総勢50名以上をつれ、「フランク&バーバラ・シナトラ チルドレンセンター」へ表敬訪問した。

ロスアンゼルスから180キロ南の人口4万5千人の町にあり、1986年から虐待を受けた児童に無償でセラピーを行う非営利団体施設である。名称から想像できるように、センターの創設者は世界的に有名な故フランク・シナトラ氏とその未亡人。
運営にはシナトラ氏の莫大な遺産が活用されている。また、全米から絶えることなく寄付金が集まる。
この町はゴルフ場が90箇所以上あるリゾート地で、全米オープンが行われる有名コースも多い。そこで、裕福な人々から寄付金を集めるゴルフコンペが行われ、集められた利益がセンターの運営費となる。

施設内は清潔で、とてもカラフルで明るく、近隣の人から寄付されたおもちゃやぬいぐるみ、本、絵画などが豊富に置かれている。
心理療法医は5人も従事している。
ここでは虐待の加害者である親と、被害者である子供に対して、交互にカウンセリングを行なうケースが多いそうである。

待合のロビーや各セラピールームは機能的で、各部屋が放射線上に配置されている。真ん中のウエイティングセクションには熱帯魚が泳いでいる大きな水槽が置いてあり、親がどの部屋に入っているかが一目瞭然となっている。子供を不安にさせないという工夫が随所に施されている。施設内には実際に虐待を受けた子供達が多くいるので、我々は一切の写真撮影を禁じられた。

アメリカでも、1974年に連邦政府が児童虐待防止法(Child Abuse Prevention and Treatment Act)を立法するまでは、6歳になるまでの女子の3人に1人、男子の4人に1人が何らかの虐待をうけているという現実があった。

そして30年以上たった今、虐待の件数は減少してはいるが、それでもまだ完全に無くなるということはない。

「子供の虐待はユニバーサルな問題であり、米国でもこのことに触れたがる人は決して多く無いのが現状である」と、シナトラセンターのクリニカルディレクターであり、児童心理療法医としておよそ10年の間、子供達の治療にあたってきたドクター・ローズメアリーは語る。

幼児虐待は“DIRTY SECRET―穢れた秘密 ”であり、加害者はその事実を知られないために手練手管でカモフラージュする。そして虐待を受けている児童側、特に女の子はそのことを隠そうとする傾向があるそうだ。
加害者は児童の母親と暮らしている内縁の夫という場合が最も多く、そのボーイフレンドを母親が庇うため、虐待の事実が表に出ることが少ない。そのため、手遅れになるケースも未だに後を絶たないそうである。

このセンターではそういう母親達に対して、我が子を守り、愛情のフォーカスを子供に向けることの重要性について教育を行っている。また、子供時代に虐待を受けたことのある親が、自らも我が子にその過ちを繰り返してしまうという虐待の連鎖を断ち切るために、大人向けのグループセラピーも専門のセラピストにより実施されている。

ドクター・ローズメアリー曰く、虐待を一番最初に発見するのは保育園や幼稚園の先生方であり、おそらくこれは日本でも同じではないのかと尋ねられた。
保育・幼稚園の指導者には、「虐待の兆候に関する知識を取得し、それを早期に発見し、迅速に児童保護局などへ通報する」という行動がこれまで以上に望まれる。そうすることが子供たちを救い、命を守ることになるのだと彼女は繰り返した。私もそれを訳しながら、日本の児童虐待防止に対する指導法がさらに強化されることを強く願っていた。

アメリカでは芸能人のみならず、企業が慈善団体に多額の寄付をおこなっており、特に子供達の福祉に関しては力を入れている。
その見地からいえば、日本はまだまだ後進国である。
時々、日本でも若くて美しい女優さんが第3国に赴き、慈善事業めいたことをやっているのを見かけるが、彼女の飛行機代と、引き連れていくカメラマンを含むスタッフに一体どれほどの金が費やされているのかしらと?いつも考える。
それならば、大地震の後に食料や医薬品を積み,自らの手で自家用ジェットを操縦してハイチへ飛んでいったジョン・トラボルタ夫妻の方が、何百倍も素晴らしいと思ったのは私だけではないはずである。

日本マクドナルドとトイザラスの創業者である故藤田田氏は、経営が苦しくなってきた時期にもかかわらず、財団法人ドナルド・マクドナルドハウス・チャリティーズジャパンを設立した。
同財団が運営する形で、難病の子供の為の病院とその親が暮らせる施設を東京都世田谷区にオープンし、死没した後も新しい施設をオープンしている。
生前はアグレッシブな意見を発し、“勝てば官軍”などの強気な発言で敵も多かった企業家であったが、最後は業績不振の責任をとった形をイメージさせるような寂しい退任だった。
だがその死後も、藤田氏は難病患者達からは神様のようだと崇められている。
そして顧客がマクドナルドに対する信頼の裏づけの一つにもなっていると思う。その背景には、藤田氏が若い頃、米国で学んだ「儲けを社会に還元する」というスタイルにある。慈善事業への出資や活動は、企業が社会や顧客の心にアピールできる大きな広告戦略になると考える。

 今年83歳になる、「ねむの木学園」の園長であり、女優としても知られる宮城まりこ女史は、この障害者の為の学園運営と、その後、社会に出ようとしても対応できない障害者たちを守るために設立した「ねむの木村」のために、何億という莫大な借金を背負っているそうである。
現在も資金集めの為に行なわれている講演会では、“もし私が死んだら、お葬式には来なくていい。その代わりにお香典を千円でもいいから送ってください。日本人の人口1億の人が千円づつ送ってくれたら、それでたくさんの子供達が救えます。”と常に言っている。

障害者を守るにも支援が必要で、一人の力では限界がある。

かつて日本には、他人の子も自分の子のように育てる社会があった。私も5歳で母を亡くし、祖母と父に育てられたが、周りに暮らしているご近所の人達からも、まるで我が子のように育んで頂いた。
実家が商売をしていたので、夕食を食べる時間がまちまちだったため、色んな家で美味しいご飯を頂いた経験がある。その思い出はとても素晴らしく、それが故に母親のいない寂しさを味わったどころか、恵まれていたとさえ思う。

今、企業はもっと倫理的なことに、そして将来の日本を担う子供の命を守るために、是非お金を使ってほしいと切実に願う。そして、日本の児童福祉関連の方々や、もしできれば企業の米国視察にも、このような施設の訪問を加えていただければ幸いである。

五十嵐ゆう子
JAC ENTERPRISES, INC.
ヘルス&ウエルネス、食品流通ビジネス専門通訳コーディネーター

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2 件のコメント

  • まいどjack より:
    2010年3月11日 10:33 PM

     日本は宗教心が欠けていることに起因するのか、近親憎悪的な人間観があるのか、自分を大切しない人間観か(自虐的な人間観か?エフィカシーという概念がないのか)、色々な理由があると思われます。
     この虐待問題は、DV、いじめ、自殺(10年間3万人以上)など日本特有の陰湿で刹那的な自虐観念に由来するのはないかとも思われます。
     私は日本の中にあった「情」などの伝統的な価値観が根絶したのではと思っています。
     社会的なケアシステムの構築と同時に、その背景にある日本人の思想と行動のゆがみと是正が家庭の中や教育現場に必要だと思います。
     私も藤田田氏の書物を若いころ多数読みました。氏の西洋的な合理主義やユダヤ的な契約発想、約束遵守の生き方には感銘しました。氏の設立したマクドナルド病院や施設が今も活躍しているのは非常すばらしいことだと感じます。
     

  • 五十嵐 より:
    2010年3月16日 12:09 AM

    コメントありがとう御座います。
    これ以上、罪も無い尊い命が絶たれてしまわぬように
    本当に何か、しっかりとした解決策が日本には必要だと思います
    1日も早い行政の動きを願います。


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五十嵐ゆう子プロフィール

食品流通小売業・ビューティ・ウェルネス(健康食品関連)のコーディネーター、通訳、執筆、翻訳、コピーライター。

米国食品展示会日本語通訳デスク、米国健康博覧会(Natural Product Expo West)にてプレス通訳、米国優良企業Trader Joesの専門バイヤー(カテゴリーリーダー)と共にプライベートブランド商品開発のアシスタント業務など、活躍中。

【執筆活動】
日本生活協同組合連合会『生協運営資料』に“クローズアップ米国小売業―その変化と成長戦略の舞台裏”を2部構成で執筆。 南カリフォルニア、オレンジ市のタウンページ“スイートオレンジ”にてグルメ特集連載。 CMP JAPAN社の美容専門誌『ダイエット&ビューティ』に米国の健康・美容情報記事を2005年より6年間毎月連載中。

【講演活動】
2008年、2009年と2年連続で東京ビッグサイトで開催の“ダイエット&ビューティ展示会”にて講演。

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