商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング Vol.14

2011年01月20日(木曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
3:03 PM

14. W転換期の戦略コンセプトの見直し

■産業と社会のW転換

 成長期から成熟期へという産業のライフサイクルの転換、近代化(工業化)から現代化(脱工業化)へという社会(市場)の歴史的転換というダブル転換の進む中で、スーパーマーケット企業が基本的戦略コンセプトの見直しを迫られていることを、かいつまんで解説した。

 しかし、多くの多忙な実務家にとっては、冗長な前置きの理屈はやめて、早く何をすべきか、結論を聞かせろという印象を与えていることを恐れている。

 同時に、日頃多忙を極めて、結論・結果を早く求めざるを得ない実務家には、大きな転換期には、深い思考が必要だという気持ちも強い。そのためには解説が中途半端だという思いも強い。なぜならば、転換期はこれまで成功をもたらした施策の踏襲だけでは乗り越えられないからである。

 転換期を乗り越えるためには、新しい施策をつくり出す知恵が必要である。有効な知恵を生み出すためには、広範な知識と深い考察が必要なのである。このような知恵を出せる実務家を結城さんは「知識商人」と呼んでいる。

■マス・カスタマイゼーションという概念

 さて、W転換期の戦略コンセプトの見直しは、マス・セール一辺倒から発展的に脱却することである。マス・セールは、度々述べてきたように、不特定多数客をターゲットとしている。そのために自分好みの食生活にこだわる人達の不満が増大することになった。

 また、自分好みの食生活にこだわる消費者が増えている。

 そもそも、人間は自分を“One of them”(多数の中の一人)として扱われると反感を感じるものである。反対に自分を個性ある人間として、そしてその個性を尊重してくれる行為に親近感をもつものである。

 小売業は昔から店のお得意さんを大切にして商売をし、店を繁栄させてきた。上得意の多い店ほど繁盛していた。お得意さんとは、固定客の別の呼び方である。お得意さんは店側が自分のためのサービス(世辞、へつらいも含めて)をしてくれるので、その店を贔屓するようになり、リピートの回数を増すものである。

 近代化を目指してきた小売業は、古くから培われてきた以上の原則を等閑視していた。現代化に移行している今日、この原則を復活させねばなるまい。

 流通の先進国アメリカでは、すでに数10年も前から、不特定多数客から固定客づくりに戦略コンセプトが変わりつつある。アメリカでは、この動きをマス・カスタマイゼーションと呼んでいる。日本語に直せば、「大量仕入れ、大量販売時代の固定客づくり」ということであろう。元来、大量販売とは、不特定多数客をターゲットとするという概念であった。

 つまり、「マス」と「カスタマイゼーション」は相反する概念であるものを二つ合わせて一つの新しい概念にしたものである。

続きます

コメント (0)

スーパーマーケットのマーケティング Vol.13

2011年01月19日(水曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
3:02 PM

13. W転換期の戦略コンセプト

■トータル経営システム

 スーパーマーケットが産業として成熟期を迎えた頃、時代背景は脱工業化が進み、現代化がすでに進捗していた。つまり、二つの転換が同時に進行しているわけで、我が国のスーパーマーケットは二重の転換の対策としての戦略課題をたてねばならなくなっている。

 成熟期には企業間の競争はより激しくなる。企業はお互いにより多くの収益を追求するため、立地戦略、営業戦略、業務システム、接客、その他のサービスなどのシステムの整合性を高めながら、トータル・システムの成熟をはかるからである。

 ところで、各社が力を入れて整備を急いでいる、トータルの経営システムを詳細に列記するのには膨大なエネルギーと時間、それに紙数が必要になる。

 そこで、必要最小限の圧縮して要約すると、次の3領域にまとめることができる。

 第1に、社会(市場)が当該企業が行っている使命機能のパフォーマンスを評価し、受け入れていること。

 第2は、当該企業が期日中に投入する資源(資金、人的能力)が期間中に増大して回収され続けていること。

 第3は、当該企業の組織の凝集性が高まり、組織行動についての意見統一。目標達成意欲、行動調整のレベルが高まり続けていること。(したがって、後に解説することになっているイノベーションのための組織的知恵が生まれやすくなっていること)

 以上の3つの領域は、循環的で複雑な相互関係をもつシステムであるが、社会背景との関係、すなわち現代化を遂げつつある市場に対する対応策を見るにはまず、使命領域に着目すべきであろう。

■マス・セールの効果と弊害

 スーパーマーケットの発生時の合言葉は、大量生産に対する、「大量流通、大量販売」であった。スーパーマーケットは大量販売、すなわち、マス・セールを行う新しい小売業態であった。マス・セールの特徴の一つは、不特定多数客に低価格で大量の商品を売ることである。

 スーパーマーケットがマス・セールを行うようになったため、我が国の食生活は大変豊かになった。誰でも、それまでは買えなかった食材を安価で入手することが可能になったからである。牛肉は、戦前は高級食材で、普通の人は特別な日にしか口にできなかった。

 しかし、消費者がマス・セールで満足していたかというと、その答えは「ノー」である。

 消費者は自分好みの食生活を求めるため、多くのスーパーマーケットに不満をもっている。

 私事を例に使って恐縮だが、私は赤いラディッシュをかじるのが好きである。時々、無性に食べたくなる。だが、最寄りのスーパーマーケットに行っても品揃えしていないことが多い。たまたま品揃えしてあっても、食べてみると、シャキッとした歯ざわりに欠ける。鮮度に欠けるからであろう。昔風に言えば、このような不満は贅沢として片づけられてしまう。しかし、これに似た不満は誰もが持っている。そして、スーパーマーケット側はマス・セールの対象商品ではないとして力を入れようとはしない。ここに食生活の実態とのミスマッチがある。

 このようなミスマッチを正そうとする動きもある。誰でも欲しがる商品、無くてはならぬ商品を「コモディティ商品」、少数のお客しか欲しがらぬ商品を「ライフスタイル商品」と分け、ライフスタイル商品にも力を入れだしている。ライフスタイル商品の代表は惣菜である。惣菜は調理する時間をもてない、あるいは調理が嫌いなライフスタイルの主婦、ないしは単身者のための商品である。多くの惣菜はマス・セールの対象商品にはならない。

 もっとも、こんな話しをテレビのワイド番組で聞いて驚いたこともあった。九州のあるスーパーマーケットでは、お客の要望する商品はすべて品揃えすることにした結果、味噌の品揃アイテムが500を超えたという。こんなことをしたのでは、商売は成り立つまい。

 しかしながら、コモディティ商品だけでは満足できない顧客が増えつつあることも事実である。

 コモディティ商品にはスーパーマーケットがマス・セールを行った結果、顧客との相互作用の中で選び出された。すなわち、ABC分析のAランクの上位アイテムで占められている。昔風に言えば、売れ筋、儲け筋商品がこれに当たる。また、マス・セールの効果をあげるための“品揃えの絞り込み”を基本方針にした結果でもある。

 “絞り込み”に代表されるような企業の戦略コンセプトは現在では時代遅れとなり、消費者は不満を唱えだしている。そこで、戦略コンセプトの見直しが求められる。

続きます

コメント (0)

スーパーマーケットのマーケティング Vol.12

2011年01月18日(火曜日)
カテゴリー:
  • 商業の現代化
  
3:00 PM

12. 日本の現代化

■「富国強兵」政策

 現代化の発生と進行のパターンは、国、地域、産業、文化、政治、等々によってさまざまである。これらの流れの総合的、体系的解明は歴史学、社会学の研究者にゆだねざるを得ない。拙稿では、我が国の商業の現代化をかいつまんで見ることにする。 

 我が国の近代化は、ペリーの黒船に驚かされ、徳川幕府が大政奉還した頃に始まる。欧米列強により植民地化されることを防ぐため、明治維新の先人達は必死の努力を行った。「富国強兵」がスローガンであった。

 「強兵」はさきの大戦によって消滅したが、「富国」策は戦後も継承されている。「富国」の中核課題は工業の発展による「貿易(輸出)立国」である。戦後、技術革新に成功を収めた我が国の経済は先進国の仲間入りを果たした。

 商業の近代化は工業、金融業などに比べ、かなり遅れて始まった。富国には工業最優先の国民的コンセンサスがあったからであろう。商業は、徳川時代では「士農工商」の格付順位の最下位にランクされ、金儲けのみを目的とする人間の営みという意識が明治に変わっても続いた。百貨店を除いて、ほとんどの小売店は生業、家業のまま、小規模の経営を続けていた。

 それでも各地に商業学校が設置され、主要都市に高等商業、さらには商科大学まで出現して、商業に対する認識は少しずつ変化していた。また、「職業に貴賎なし」という思想は商業従事者の中から広まっていた。しかし、商店経営論には敗戦まで注目すべきものはなかった。

 小売店経営論が本格的に論議されるようになったのは昭和30年代に入り、チェーンストアが登場してからである。

■小売業の近代化

 小売業の近代化は潜伏期間が長く、戦後の奇跡と言われた経済復興期に現実の社会現象としての変化を示しだした。潜伏期間が長かっただけに、市場条件が成熟していたので、チェーンストアは爆発的に成長した。

 急成長の原動力は、大量仕入れ、大量販売、つまりマスの概念にあり、マスの追求にはロープライス戦略が消費者の要望にマッチしたのである。

 マスの概念は製造業で生まれた。つまり、近代化の中核概念の一つであった。そして、我が国の小売業がマス追求を始めた頃、先進国はすでに現代化に移行していた。また我が国の工業も素朴なマス・プロダクションから離脱し始めていた。例えば、アメリカに自動車を輸出するため、アメリカのメーカーがまだ製造していない、そして一部のアメリカ人が欲しいと思っている車種を模索していた。

 このように時代背景の中で、チェーンストアのロープライス戦略は消費者に歓迎されたものの、すぐ、「安さだけでは」という新しい要望を表面化させることになった。

 以上を要約すると、スーパーマーケットはマスを追求し始め、その“マス”の追求が充分に経っていないうちに、顧客側はロープライス戦略以外のサービスも欲しがるようになった― ということになる。

 スーパーマーケットは、小売産業の近代化のリーディング業態の一つであったが、半世紀も過ぎない短期のうちに、現代化に移行していたのである。

続きます

コメント (0)
<次のページ
前のページ>
商人舎サイトマップ お問い合わせ
カレンダー
2015年4月
月 火 水 木 金 土 日
« 8月    
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  
指定月の記事を読む
カテゴリー
  • こだわり商品 (2)
  • ことわざから学ぶ (1)
  • カスタマイゼーションの効用 (1)
  • グローバリゼーション (13)
  • コンセプトの効用 (3)
  • スーパーマーケットのマーケティング (13)
  • スーパーマーケットの店舗づくり (1)
  • スーパーマーケットの未来 (1)
  • チェーンストア (1)
  • マス・カスタマイゼーション (10)
  • マス・カスタマイゼーションの準備段階 (2)
  • マーケティング (5)
  • リーダーシップ (1)
  • 事務局 (2)
  • 企業使命の重要性 (1)
  • 企業文化 (2)
  • 利益の概念 (1)
  • 商業の現代化 (2)
  • 固定客づくり (2)
  • 新プロセスモデル (5)
  • 業態の転機 (1)
  • 競争力は開発・改善スピード競争の成果 (1)
  • 筆者からのメッセージ (2)
  • 組織の変容 (4)
  • 組織計画 (1)
  • 組織計画は組織力強化不可欠の基礎条件 (1)
  • 組織計画は設計するだけでは機能しない (1)
  • 試行錯誤的問題解決 (3)
  • 賢者は歴史に学ぶ (1)
  • 週間販促計画に見る効率的な組織の運用 (2)
最新記事
  • 2011年08月05日(金曜日)
    【最終回】 スーパーマーケットのマーケティング Vol.41
  • 2011年07月13日(水曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.40
  • 2011年07月07日(木曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.39
  • 2011年07月01日(金曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.38
  • 2011年06月24日(金曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.37
最新コメント
  • 2010年12月14日(火曜日)
    ワンダーウーマン :スーパーマーケットのマーケティング V...にコメントしました
  • 2010年07月04日(日曜日)
    ヒロロ :スーパーマーケットの競争力強化の視点...にコメントしました
  • ホームに戻る
  • トップに戻る
  • 友達・上司・部下に知らせる

掲載の記事・写真・動画等の無断転載を禁じます。
Copyright © 2008-2014 Shoninsha Co., Ltd. All rights reserved.