商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング Vol.17

2011年01月25日(火曜日)
カテゴリー:
  • 固定客づくり
  
11:23 AM

17. コモディティ商品とライフスタイル商品

■スーパーマーケットの品揃え

 度々ふれてきたように、スーパーマーケットは大量仕入、大量販売を行っているうちに、繰り返し買い物に来てくれるお客の大切さを忘れてしまっていた。

 お客の側から見れば、店のサービスの特徴が自分の好みであったり、ほだされると、その店に繰り返し出かけるようになる。このことの大事さをスーパーマーケットは放念してしまったのである。

 スーパーマーケットの品揃えはカテゴリ毎にABC分析を行い、Aランクの上位から選定してきた。Aランクの上位アイテムは、昔は売れ筋、もうけ筋と呼ばれていたアイテムであった。このような品揃えの仕方を業界ではしぼり込みと称している。もっとも、数年前からいくつかの企業では、しぼり込まれた商品をコモディティ・アイテム(必需品)と呼び、ライフスタイルごとに要望される商品(例えば、料理をする時間の取れないキャリアウーマン、ないしは料理を不得手とする主婦のための惣菜)をライフスタイル・アイテムと名づけ、ライフスタイル商品も開発して品揃えに加えるようになってはいる。

 ライフスタイル商品強化は時代の要請に応える政策であり、マス追求オンリーから一歩前進している。しかし、Wの転換期を意識した基本戦略コンセプトの改革に伴う政策とはいいかねる。今大事なことは、基本コンセプトの革新であり、固定客づくりに全社の力を結集することである。

■固定客づくりについて筆を進める前に一言

 では、固定客づくりはどのように進めるべきか。そして、それが経営に本当に良い効果をもたらすかについての概説に筆を進めることにする。

 この概説は、私の長い雑文の中でキーポイントとも言うべき、スーパーマーケットの将来の進むべき戦略についての叙述である。換言すれば、これまでの長過ぎた前置きである。しかし、将来のための戦略論の必要性、有効性を述べるためには、その戦略システムの土台となる、これまでに築き上げてきた業務システム、能開システム、そしてこれまでの戦略システムの評価も重要な意味を持つ。これらのシステムについて、なるべく簡潔にまとめようとは心掛けたのだが、ついつい長くなり過ぎた。それだけスーパーマーケット経営はサブシステムの諸要素が複雑に絡み合い、変容を続ける経営システムなのだから…と思ってお許し願いたい。

 なお、私は仕事から退いて約10年になる。正直に言って、約10年は時折交わされた元仕事仲間と雑談の中で伝えられた情報以外に、新しい情報の入力はない。従って、10年前の引退時、情報ラッシュでもてあまして整理のつかなかった諸問題を、釣りとゴルフで時間を過ごしているうちに、自然に熟成(風化?)した整理枠組みに基づいてまとめたものである。その機会を与えてくれた商人舎に感謝する次第である。

 一方、年寄りの冷水の感も強く、忸怩たる思いも隠せない。実務家の多くは、私以上に情報ラッシュに悩まされておられるとも思い、参考になればということで書を綴っているものである。感想・ご批判を、特にこれからの戦略論についてお聞かせいただければ幸甚である。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.16

2011年01月24日(月曜日)
カテゴリー:
  • 固定客づくり
  
3:17 PM

16. 閑話休題 ― 固定客づくりとは

■小売店の御用聞き

 小売店は、昔から固定客づくりのため、さまざまな工夫を凝らしてきた。子供の頃、貧乏教師の私の家にも、酒屋やクリーニング屋が定期的に小僧を御用聞きに回らせていたことを覚えている。お金持ちの家には、魚屋や八百屋まで御用聞きを回らせていた。

 私の家に御用聞きを回す酒屋では、電話の取り次ぎまでしてくれていた。歩いて2~3分はかかったはずであるが、小僧が走ってきて母親に告げると、母親も酒屋まで走って電話に応答していた。もっともこんなことは年に1、2度しかなかったようではあったが。固定客だからこんなサービスまでしてくれたのか、サービスが良いから固定客になったのか、私には分からずじまいである。
何はともあれ、この酒屋は若い従業員が10名以上もいる繁盛店であった。

■釣具店の手口

 エピソードをもう一つ。
若い頃、釣り好きの私はよく釣具店を訪れた。ある日、釣具店の一軒で、「あなたのために良い竿を仕入れておきました」と言いながら、使いつけの竿より一格上等な竿を見せてくれた。小遣いが足りないと答えると、「支払いはいつでもいいから」ということで、買うことにした。支払いに次回その店に行くと、「この竿もあなたのために仕入れておいた」というわけで、また買わされた。同じ手口で続けて5本の竿を買わされて、支払いに大変苦労したことがあった。この釣具店のおやじは私の欲しがる竿のレベルをよく知っていたのだ。

「お客のための仕入れ、あるいは品揃え」には、そのお客は弱い。つまり、取り込まれてしまいがちである。

■現代における固定客づくり

 こんなことも固定客づくりには役立つことが多いのではないか。
固定客づくりの昔の手法が今でも役立つことは少ないはずである。現代化社会において、新しい手法を開発するには、知恵が必要である。

 企業間の知恵比べがこれからの優劣を決める鍵となると言っても過言ではあるまい。

 そこで、これからは知恵の出し方を検討したいのでが、その前に、その知恵は「何に」ついての知恵なのか、そしてその「何に」は本当に経営に役立つのかを確認しておきたい。

 「何に」とは、マス・カスタマイゼーションである。
スーパーマーケット企業にとって、マス・カスタマイゼーションとは、マスを追求すると同時に固定客づくりにも力を入れることである。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.15

2011年01月21日(金曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
2:09 PM

15. マス・カスタマイゼーションを進めるためのマーケティング

■スーパーマーケットの転機

 スーパーマーケットは、これまで大量仕入、大量販売をスローガンに発展を続けてきた。
つまり、マスを追求し、そのことが消費者の食生活の向上に貢献したので、今日のスーパーマーケット産業が出来上がったのである。

 今や我が国の食生活はスーパーマーケット抜きでは成り立たないほど、食品流通の中枢機能を担う存在になっている。

 駅前商店街の集客力に依存してせいぜい30坪から70~80坪の小型のセルフサービス店として出現したスーパーマーケットは、半世紀足らずの間に住宅地のはずれ、ないし、畑の中に自力で充分な集客力をもつショッピングセンターを開設できる力を持つまでに成長したのである。

 そのスーパーマーケットに今、二つの深刻な転機が訪れている。その一つは、産業のライフサイクルが成長期を終え、成熟期に変わり、競争が一層激しくなったことである。もう一つの転機とは、明治以来の工業の発展と共に進んだ我が国の近代化が終焉し、情報化、グローバル化をはじめとする社会の現代化が進行してきていることである。

 社会の現代化が直接スーパーマーケットに及ぼす影響としては、ライフスタイルの多様化に注目すべきことであろう。

 二つの転機に加えて、我が国経済のバブル崩壊後の20年以上にわたる不況感、さらにはグローバルな金融システムに対する不信感が暗い影を投げかけている。

 この小稿の目的は、産業の成熟期への移行、社会の現代化に当たってスーパーマーケット企業の戦略のあり方を論ずることである。景気問題については、あえてあまり惑わされるべきではないと言うにとどめておく。なぜならば、先進国において景気が食生活に及ぼす影響は、アパレル産業、住宅産業などと比べ、極めて小さいからである。

■倉本長治氏の名警句

 さて、二つの転換期の戦略を議論するにあたり、きっかけづくりに、小売業近代化のリーダーとして大活躍され、数々の名警句を残された倉本長治氏の警句の一つに登場を願うことにする。

 曰く、
「繁昌とは、たった一人のお客がくり返しお買い物に来ることの累積にほかならない」

 繰り返し来店してくれるお客は固定客と呼ばれる。江戸時代から成功した小売店は固定客を増やす工夫をしてきた。しかし、スーパーマーケットは不特定多数客に大量販売をモットーとして今日に及んでいる。そのために、個々のお客の好みや要望を無視するようになった。良い商品を安く売りさえすれば、お客は来てくれるものと思い込むようになった。

 しかし、安さだけではお客は躍らなくなった。バブル崩壊後、いくつかのチェーンストアは好機到来とばかりに「激安商法」を展開したが、失敗に終わっている。やはり小売業には固定客づくりは欠かせない課題なのである。

■二つの対立概念

 固定客づくりを英語では、カスタマイゼーションという。マスを追求し、かつ固定客づくりもするのが、マス・カスタマイゼーションである。

 小売業は近代化にあたり、マス・セールを行うため、カスタマイゼーションを放念してしまった。もともとマス・セールとカスタマイゼーションは相いれない対立概念であった。

 しかし、社会全体に現代化が進行する中で、食品小売業が成熟期の競争に対処するためには、異なる概念の融合をはかり、新しい概念を作り上げる工夫が必要になるケースが増えている。

 国際政治の世界でも、一国の国益は他国の国益とは相いれないものと考えられていた。しかし、グローバリゼーション、すなわち世界の現代化の進む今日、「戦略的互恵関係」などの新概念が生み出され、実効のための工夫が進められている。経済の面でもそれぞれの異なる文化を認め合いながら、融合化により、新しい文化を生み出す知恵が求められている。

 現代社会では、やみくもな排他的二者択一主義は通用しないだけでなく、混乱の元となっていることを改めて認識し直す必要がある。

続きます

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