商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング Vol.20

2011年01月28日(金曜日)
カテゴリー:
  • こだわり商品
  
3:05 PM

20. こだわり商品によるマス・カスタマイゼーションの効用

■こだわり商品論

 またまた脱線が長くなり過ぎたが、話をこだわり商品論に戻す。

 こだわり商品論はスーパーマーケット産業内でますます激化する競争の中で、自企業が存続発展するための方策についての議論である。誤解のないようにお断りしておくが、競争のための議論と言っても、競争に勝って相手企業を滅ぼして、勝ち残ろうとするための議論ではない。

 どんなに競争が厳しさを増しても、存続発展をし続けることが、ここで取り上げる競争論の意味である。

 さて、スーパーマーケットの社会の現代化、この産業の成熟期移行に際しての基本戦略のキーワードはマス・カスタマイゼーションである。こだわり商品は、マス・カスタマイゼーションの一つの手法であることは、これまで見てきた通りである。この手法システムの充実をはかって、お客の食生活の向上に貢献して、企業の業績を伸ばすことがマーケティングの狙いである。

 スーパーマーケットのお客にとって、コモディティ・アイテムの充実は、必要条件であって、満足条件という輪が広がりつつある。つまり、不満足な点が増えている。この不満足な点を改善して、お客の来店頻度を高めること、つまり固定客づくりの手法として、こだわり商品を活用しようとするものである。

 ここで取り上げるこだわりの味とは、食通ではない普通の人間が、いつの間にかこだわるようになった味である。従って、その味にこだわりを持つ人間の数は少数であり、マスセールの対象からは除外されていた。しかし、トーフの中にはこだわるアイテムは無くても、おでん種のいくつかにこだわる人はいる。

 日本の伝統的商材にはあまりこだわらないが、ハンバーグ用のひき肉、ないしはその混ぜ方にこだわる人もいる。しかし、どの商品もこだわる人は少数である。

 このようなこだわり商品を品揃えのラインアップに加えると、どんな効果が得られるのかを考えてみよう。

■新しく3アイテムをした場合の例

 A、B、C 3アイテムをラインアップして、それぞれ10、9、7パック売ったとする。単価はそれぞれ300円だとすれば、300円×26パック=7800円の売上増になる。新アイテムが売れたため、従来アイテムが売れなくなったかもしれない。仮に5パック売れなかったとすれば、1500円減になり、売上増は6300円に止まる。この程度の売上増のために作業をしたり、気を使うより、コモディティ商品の販促の工夫をした方が効果は大きい。しかも新しい企画には商品ロスのリスクが伴う。という考え方が、お客の少数要望に耳を傾けなかった原因であった。

 しかし、もう少し掘り下げて分析してみよう。
合計26パックの売上は、従来客が20パック、新規客が5人で6パック買ったとする。5人の新規客は、自分好みのこだわり商品で他店では購入できないので、固定客になる可能性が高い。この新規客は、こだわり商品以外のカテゴリ商品も、来店するたびに買ってくれる。

 つまり、毎日の客数アップにつながる。平均客単価を2000円にすれば、さきほどの6300円の売上増を(2000円×5名)+6300円-(300円×6パック)=24500円 と訂正すべきということである。

 こだわり商品は従来客の固定客化にもつながり、お客の流出による売上減を削減する。流出による売上減を減らせば、減らしただけ期間売上トータルを増やすことになる。

 このように考えると、固定客づくりの効果は固定客づくりのために新しくラインアップ加えたアイテムの売上だけで評価すべきではないことが、誰の目からでも明らかになろう。固定客を何人獲得するかが目標となり、実務的には毎日の来店客数の増加率が判断資料として使われることが多くなろう。

 以上がマス・カスタマイゼーションの効果の概説である。
引き続き、マス・カスタマイゼーションのためのこだわり商品以外の手法、手法システムの効果を高めるための関連システムの強化策、手法システムを持続した場合の時間シナジーなどを考えてみよう。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.19

2011年01月27日(木曜日)
カテゴリー:
  • 賢者は歴史に学ぶ
  
2:59 PM

19. イタリアの自生的変容から学びとれること

 ここで、また少し脱線することをお許しいただきたい。脱線してまで申し上げたいこととは、上述したような自生的変化を自生性のままに見逃してはならぬということである。

■イタリアの文化

 昨年末からNHKのBS番組でイタリア文化特集が放映されている。大変面白い。他国、例えば、英米仏独などとの違いを解説するプログラムでは全くないが、私にはこれらの国との違いがはじめてよく分かったという気になれた。そこが面白かった。

 ローマの文化を地域(国土全体、つまり半島全体で)引き継いだイタリアには、さまざまな芸術、すなわち美術、音楽、建築などが豊かに育った。また、半島の各所に多くの良港があったため、地中海沿岸各地との交流に恵まれ、物産を入れやすく、経済的にも発展した。

 物産と共に文化も流入し、前述の芸術の発展にも貢献したという。半島内各地が貴族の統治下にあって、イタリア全体に統一的統御するシステムは無かった。イタリアの各都市は、住民主体で発展してきため、それぞれが大変個性的で、現在世界中からの観光客を楽しませている。また、国民は個性的な自分の故郷に誇りを持ち、伝統を大事に保存してきたという。

 プログラムの一つで、ビジネスマンの家と日常生活の一部を紹介したものがあった。日常生活では、音楽を演奏していた。プロ並みの技術の持ち主である。また、オペラを鑑賞しているシーンもあった。家はゆったりした間取りの部屋がいくつもあり、壁には大きな絵画がいくつもかけられており、一つの部屋の天井には星空を模した装飾が施されていた。このビジネスマンは天文学への造詣も深いという。

 このプログラム以外の番組でも、職人が親譲りの仕事に誇りを持ち、地元の音楽文化を楽しむなど、豊かな人間生活を描き出した映像がいくつも紹介されている。

■イタリアの食生活

 食生活も紹介されていた。イタリア人のイタリア料理研究家のコメントが特に面白かった。イタリアにはイタリア料理など無いというのだ。あるのは地方料理だけで、全部違う。

 この研究家は、まだ知らない料理がたくさんある。特に南部と北部のはずれにはこの専門家の手のつけていない料理が数多く残されていると言っていた。地方料理のレストランの経営ぶりが2~3紹介されていた。全部地産地給料理であった。それぞれが特徴的になったわけである。

 その中での傑作。あるレストランでは、地元ワインを味付けに使っている。そのメーカーのワインしか使わないという。そのワインメーカーの畑と工場が紹介されている。ほとんどが家族労働で成り立っている。

 その家族の夕食が紹介された。3~4世帯の大家族である。毎週一回は、大家族全体で夕食を共にするという。おばあさんがシェフで、若い女性がアシスタントを務める。アシスタント達は、おばあさんの料理を習うのが楽しみだという。日本流に言い直すと、おふくろの味を次の世代に伝えるのが自分たちの責任だということになる。ちなみに、この家族はめったに外食はしないという。

 イタリアはグローバリゼーションとは無関係というわけか。

■イタリアとイギリスの比較

 イタリアはルネッサンス発生の地域であり、いわば当時は世界をリードする先進国であった。しかし、イギリスを中心に爆発的に突き進んだ産業革命の波、すなわち近代化に乗り遅れた。イタリアの文化は自生的に変容しながら今日に及んでいる。そのために中世の色を強く残した。それぞれが自生的に発生し、発展した個性的な都市が現在、観光客を楽しませている。前述の地方料理も世界中から食通を集めて繁盛している。しかし、彼らはチェーンストアを世界に出店しようとはしないであろう。それがイタリアの文化になっているからだ。

 学生の頃、イギリスは伝統を重んじる国だと教えられた。今回テレビで、イタリア人はイギリス人以上に伝統を重んじる国民であることを知らされた。しかし、イタリア人は伝統に縛られているとは感じていないようだ。1人1人はのびのびと暮らしているようである。

 イギリスは伝統を重んじる国かもしれないが、産業革命で一度は伝統を突き破り、ブルジョアジーと呼ばれる新しい階層を生み出し、貴族政治を終わらせるという革新を遂げた。その結果として、生み出された民主議会政治は、長い期間、自由主義国の模範として政治学の研究テーマとなった。

 イギリスは議会政治で決定した政策によって、その後の繁栄を築き上げた。しかし、イタリアには、文化がイギリスのような近代政治の発生を拒み、国として強制力の強い政策のないままに自生的変容を続けて、現在の社会を実現している。そこには、アメリカなどにみられる現代社会が失った、ほのぼのとした人間味が職人の罵り合いの中にも感じとられる。アメリカやイギリスなど政治政策の行き渡った社会と、イタリアにみられる自生的変容にゆだねる比重の高い社会とではどちらが住みやすいのか、豊かなのかは、私には判断がつかない。

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という。今、私は歴史に学ぶことの重要性を改めて強く感じている。しかし、賢者にほど遠い私には結論が得られない。しばらくは考え続けなければならない課題となろう。

 ただ当面の問題として、国および企業組織の競争力を論ずる場合は、的確な政策のある場合と、自生性にゆだねる場合の優劣はあまりに明白で論議の必要もあるまい。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.18

2011年01月26日(水曜日)
カテゴリー:
  • こだわり商品
  
2:31 PM

18. こだわり商品による固定客づくり

■固定客づくりの手法

 スーパーマーケットのマス・カスタマイゼーションとは、店舗づくりの中にサービスの特性を打ち出し、これを是とするお客の来店頻度を高めることである。

 例えば、高齢徒歩客(絶対数があまり多くないはず)が持ち帰りに苦労するビールや醤油などの重量商品、ティッシュなどのかさばる商品を配達サービスをすれば、高齢徒歩客の人数も来店頻度も高くなる。

 ポイントカードも固定客づくりの手段の一つではあろうが、競争相手も同じ手段を使えば、効果は少ない。競争相手が真似をしない、できない手法をつくり出せば効果は高まる。

 この観点に立てば、これから述べるこだわり商品は、固定客づくりの一つの有効手法と言えよう。

■私のこだわり商品

多くの普通の人はいくつかのこだわり商品を持っている。私自身の例で言えば、私は食通とはほど遠いが、おいしいものが好きである。日に3食、おいしい食事をしたいと思っている。年をとってから、他の楽しみが減ったせいか、おいしさにこだわるようになってきた。といって、おいしさとは何か、全く分からない。体調が良く、お腹がすいていれば、何を食べてもおいしい。機嫌の悪い時はその逆である。

 普通の人は、私に似たりよったりだろうと勝手に思っている。それでも年を重ねるに従い、食い意地が張ってくると、特定の食材、料理をおいしいと思う頻度が増えてくる。そして、もう一度食べたくなる。

・その1:トーフ

 私の場合、頻度ナンバーワンは、トーフ(豆腐)である。夏は冷やっこ、冬は湯ドーフ、ほとんど毎夕食、晩酌時につまむ。「よく飽きないわね」と老妻が呆れている。これだけトーフを食べると、私でも、自分の好みの味が分かってくる。「トーフなら何でもいい」という訳にはいかなくなる。文京区に住んでいた時には、坂下の小さなトーフ店のもめんドーフが好みであった。飯能に移ってからは、2年前に閉店した地元の八百屋出身のスーパーの前で営業していた業種店のトーフを愛用してきた。このトーフ店は昨年廃業したので、今は次善のトーフで我慢している。

 私のこだわり食材の筆頭はもめんドーフである。誰でもこんな傍目にはたわいないが、本人にとっては大事なこだわり商品を一つや二つは持っているのではないかと思う。

・その2 ミソ

 私の場合、トーフに次いで、産地ブランドにこだわる食材、調味料がいくつかあり、その数は年々、一つか二つ増えていた。友人の奥さんが趣味でミソを作っている。数年前、これを土産にもらってから、病みつきになった。毎年、2~3回分けてもらっている。それ以来、スーパーのミソは買っていない。

その奥さんが昨年、体調を崩し、ミソ造りを止めると聞いたので、さきほど、土産を持参し、作業を手伝うからミソ造りを止めないよう、お願いしてきた。

・その3 オリーブオイル

 また、イタリアのロザーティ社製のオリーブオイルは私の食生活に彩りを添えてくれている。サラダのドレッシングにも、パスタにも、他のオリーブオイルでは味わえない香りとコクを作り出してくれる。価格は一般のブランドの倍ぐらいするというが、使用量はたかが知れているから、家計をおびやかすことにはならない。

 他にも、刺身、野菜、ベーコン、ソーセージなどの中に、もう一回食べたい、あるいは、どうせ食べるならこれを食べたいと思う食材や料理が少しずつ増えている。

 以上は、私のこだわり商品の例である。スーパーマーケットでは、品揃えしていないアイテムがほとんどであろう。15年前にもなろうか。親しい付き合いをしていたスーパーマーケットの社長に「もう一格上のヒレのステーキ肉が食べたい」と言ったら、「百貨店か専門店で求めなさい」とつっぱねられた。お前のようなことを言うお客もいるが、スーパーマーケットの役割外の問題だという。つまり、スーパーマーケットはコモディティ・アイテムを取扱うのが役割と決め込んでいたのである。

■ライフスタイル商品の重要性

 これに似たエピソードをもう一つ。
業績を伸ばし続けていた中堅どころのあるスーパーマーケットの商品部担当者の一人に、「青首大根はおろしにしてもおいしくない。おろし向きの大根も品揃えに加えたら?」と提案したことがあった。その返事として、「辛味大根を品揃えしたことがある。10本も売れず、ロスが発生した」と言われた。20本も30本も売れたら、定番に加えたのであろう。

 当時、スーパーマーケットで新しくラインアップに加える商品は、はじめから良く売れる商品に限られていた。つまり、コモディティ・アイテムに限定されていたのである。

 しかし、現実は、少しずつ変わっている。辛味大根を定番として扱う店も増えてきた。

 なぜ売れるようになったのか。その前に、なぜ、はじめは売れなかったのか。
売れなかった理由の第一には、辛味大根の存在を知っているお客が少なかったことが挙げられる。第二には、お客はこれまでこだわり商品を店側から勧められたことが無かったことを挙げることができよう。

 これが少しずつでも変わり出したのは、お客側は自分好みの食材を無意識のうちに探し出す傾向が強まりだし、店側でもインストア・ベーカリーや惣菜部門によく見られるが、オリジナル・アイテムを作り、売り込む工夫がなされるようになったからといえよう。生鮮品売り場、グロサリー部門にもこんな傾向は少しずつ進捗しはじめている。

続きます

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