商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング Vol.23

2011年02月03日(木曜日)
カテゴリー:
  • カスタマイゼーションの効用
  
12:42 PM

23.  カスタマイゼーションを復活させるためのプログラム

■おいしさを喜んでもらう施策

 拙稿では、ターゲットの焦点はおいしさ、手法にはこだわり商品をあげ、必然性、必要性と有効性をいくつかの角度から論述してきた。手法のこだわり商品は半世紀近く、スーパーマーケットが等閑視してきたカスタマイゼーションを復活させるためのプログラムである。

 しかし、こだわり商品が固定客づくりの最善の手法とは限らない。おいしさに焦点を合わせ、固定客づくりをするためには、例えば大根は昨今、青首1アイテムに絞り込んでいる店が多いようだが、おでん種などの煮物には青首、漬物用には練馬、おろし用には辛味など、3アイテムに増やすことも効果があろう。刺身コーナーに、コチ、アイナメ、シマアジ、メダイ、ソイ等など、定番としては安定供給の続かない近海魚を継続的に入れ替えて提供すれば、刺身好きの家庭には喜ばれるであろう。

 このようなお客においしさを喜んでもらう施策を継続的に数多く打ち出すお店には、徐々に新規のお客も増え、これまでのお客の流出を防ぎ、来店頻度が高まる。これが固定客づくりの基本モデルである。こだわり商品は、固定客づくりの一つの施策である。

 おいしさを喜んでもらう施策を継続しているうちに、お客がその店を主に買いに行く店と認めて利用し出すと固定客という用語のイメージと一致するようになろう。

 固定客が増え出す頃には、その店はおいしさを大事にする店、ないしは、おいしさを教えてくれる店というようなイメージが生まれ、お客の中に広がる。お店のこのようなイメージは、企業イメージと呼び変えてもよいが、競争戦略上の重要支柱である差別化の目標である。自動車産業でアフターケアが万全な会社などのイメージは、ユーザーの固定化に極めて重要な手段である。

 スーパーマーケットで優れた企業イメージを生み出すことは、「言うは安いが、行うは難し」のことわざのように容易なことではない。

 後に克服策の概要を述べるが、一口で言えば、難しく、その上時間もかかる。だから競争企業はしたがらない。競争企業が始めないうちに着手すれば、一歩リードすることになる。ただし、始めは効果は少ない。しかし、3年も経てば、効果は傍目にも明らかになりだすが、後発は遅れを取り戻すことは不可能となっている。5年も経てば後追いは同じ路線は諦めて別の路線を模索することになる。

 これが拙稿が描く、カスタマイゼーションの効用である。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.22

2011年02月01日(火曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
3:33 PM

22.  マス・カスタマイゼーションのシナジー

 カスタマイゼーション(固定客づくり)とマス・マーチャンダイジングを両立させると言うよりは、マス・マーチャンダイジングとシナジー(相乗効果)を狙うのが、マス・カスタマイゼーションなのである。

 マス・カスタマイゼーションのシナジーを狙うに当たって、次の3つの重要領域の課題を少し掘り下げて考えてみたい。

■重要課題その1:マス追求

 まずは、マス追求の課題である。

 マス追求は、半世紀の間に飛躍的に進展したとはいえ、アメリカと比べ、期間は半分以下と短く、まだし残している課題が少なくない。
農産物もアメリカでは世界一を誇る大農法の最先端技術を駆使して生産している。こうして生産される原材料の加工段階では、スーパーマーケットが主導するバーティカル・インテグレーションによるプライベートブランドを開発し、ロープライス戦略の効果を上げてきた。
酪農品、ソフトドリンクなどのコストダウンのためには、牧場、農場を自営していることもある。さらに、グローバリゼーションが進んできた今日、途上国に資本を投入して、ロープライス商品を開発している。

 これに引き換え、日本の農業は農民保護政策のため、改革が大変遅れている。
農産物の輸入関税の撤廃はアメリカをはじめとする多くの友好諸国からも求められている。
グローバルな圧力が強まっている今日、また深刻な財源不足を乗り越えるためにも、農政は変わらざるを得なくなっている。

 農業の改革は食生活に大きな変革をもたらす。マス・マーチャンダイジングもまた、新たな段階を迎えることは、ほど遠くはあるまい。

*******************************************

 この拙稿は、脱近代、ポスト・マスセールの必然性、マス・カスタマイゼーションの有効性を述べるためのものである。ポストを論ずるにしては、マスをたびたび取り上げ過ぎているので、書いている本人も、くどくどしさにうんざりする。しかし、同じ思いを繰り返すのも、マス追求が生み出した、コモディティ商品という品揃えの概念はマスカスタマイゼーションの基調となっている。この基調、つまりマスと固定客づくりとの関係を、角度を変えて説明したかったからである。くどくどしくなったのは、畢竟、私の文章力が稚拙なためであり、ご寛容をお願いする次第である。

 さて拙稿の中で、私がマス・マーチャンダイジングのまとめとして強調したいことは、マス・カスタマイゼーションの成功をはかるためには、コモディティ商品のマーチャンダイジングのすべてのサービスレベル(品揃え、商品づくり、陳列、プライシング、etc…)を競争企業の平均水準以上に保つための改善が不可欠ということである。

■重要課題その2:カスタマイゼーション

 二番目は、カスタマイゼーション問題である。チェーンストアが出現する前は、商店はお得意様を増やすために、さまざまな工夫を凝らした。御用聞きを回らせたり、おまけをつけたりして、お店に好意を持ち、利用頻度を高める努力を続けた。江戸時代の武士、明治に入っては公務員などからは、商人がお店に対し、好意をもってもらうための努力が卑屈に思えたのであろう。商人、とりわけ、小売商人の社会的地位は士農工商の順位にみられるように低いものであった。

 このような偏見は、仕事(事業)の使命、すなわち、社会的機能の重要性を的確に認識できなかった時代の中で出来上がった。

 人物の評価は、その人の内的欲求の充足度、すなわち、自己実現度と社会に対する貢献度を勘案して行うべきであるが、それらの分析のできない人、ないしは面倒くさい時には、かっこいいの一言で済ませる。

 極言になるが、小売商に対する偏見は、かっこよさで誤魔化そうとする人間の習性の中で生まれたものである。

 さて、ここで重視すべきことは、小売商、ここではスーパーマーケット企業が自らの事業の使命を的確に、操作的(具体的に何をすればよいかを分かりやすくするため)に確認し直すことである。

 スーパーマーケットの使命は、食生活の向上に貢献することである。

 その使命を今日的には、食生活のどの側面に焦点を合わせ、どんな手法を使えば、貢献度を最大にすることができるかを操作的に確認し直す要がある。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.21

2011年01月31日(月曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
2:13 PM

21. マス・カスタマイゼーションの進め方

■食生活の豊かさ

こだわり商品の手法は、スーパーマーケットがマス・カスタマイゼーション戦略を実現するための一つの手法システムである。

 これは、スーパーマーケットのマーケティング、すなわち、お客の食生活の向上に貢献すること、という概念の上でどんな位置を占めるのであろうか。

食生活には、次のような側面がある。
1.腹を満たすこと … 充分なカロリーを摂ること。
2.栄養を摂ること … 健康を維持するための栄養をバランスよく摂ること。
3.味覚 … おいしさ
4.便利性 … 買物、調理の手間(労力)、時間、気分(心理)、出費
5.選択肢 … メニュー、食材の種類
6.作法 … マナー、食器
7.社交(楽しさ) … 家族・親族との絆、友人・知人との交流、ビジネス上の接待
8.経済性

 食生活の豊かさに対する感覚は、歴史的に変化し、また民族によっても異なる。
昨年末よりNHKで続けて放映されているイタリア文化のシリーズ番組で紹介されるイタリアの食文化は、アメリカのそれとはまったく対照的と言えよう。

 食文化民族学が理論体系を創り上げてくれれば、スーパーマーケットのマーケティングの絶大なサポートとなろう。(近い将来、専門研究者が多数現れることを期待したい)

 イタリアでは中世から地域の特産食材を使って、その地域の料理を家庭食として日常から楽しんできたという。

 日本には、婚礼の祝いごと、夏祭りなどのご馳走は楽しんでも、日常は粗食で済ますことを美徳としてきた。この風習は、明治以降も続き、戦後の経済の急成期にようやく変わりだした。早い話、正月のご馳走にお金と時間をかけるよりは、毎日の夕食においしいものを食べるようになったのである。

 これは、食の豊かさの重点が、満腹、栄養などの生理的欲求に基づくものから、味覚、便利性、選択肢など、生活感覚に基づく心理、つまり楽しさに移ったことを物語っている。

 粗食を美徳とし、かつては贅沢の一言で退けられ、戒められた、おいしさを楽しむことが今日では普通なこと、健全なことに変わったのである。

 この変化に対応するためのスーパーマーケットの戦略の試案の一つがこだわり商品である。前にも述べた通り、こだわり商品は、マス・カスタマイゼーションの一手法システムである。

■ライフスタイル商品を強化せよ

 こだわり商品とは、例えば、「すき焼きには松阪牛の霜降りが一番」というように、少数の人が、少数の人がこだわる味をもった商品である。こだわり商品は、特定のライフスタイルをもつ人達が要望する商品をライフスタイル商品と呼ぶ企業があるが、ライフスタイル商品の一つである。

 ライフスタイル商品は愛用者が小数なため、従来スーパーマーケットの品揃えからははずされていた。スーパーマーケットの品揃えのモットーは絞り込みであった。

 品揃えから除外されていたライフスタイル商品で、愛用者の比較的多いもの、あるいは増えているアイテムを品揃えに加え、充実させれば、愛用者たちの来店頻度が高まる。お客の来店頻度を高めること、これが固定客づくりである。

 新規のお客を増やすこと、従来客の流出を防ぐことも、固定客づくり現象の一つであろう。固定客はライフスタイル商品を求めるために来店するが、同時にコモディティ商品も購入してくれる。

続きます

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