商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング Vol.26

2011年03月29日(火曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーションの準備段階
  
10:30 AM

26.組織の成熟度による「むずかしさ」の差異

■スーパーマーケット業界の「先送り」風潮

 またまた記述が長くなり過ぎたが、話を業務システムをボツにしたところに戻す。

 企画責任者は、鉄砲を数撃つ慣習に馴らされていたのである。「なすは、なさざるに優る」ということわざを「出来ることからなし、むずかしいことは後でも良い、数多くなせばよい」と解釈していたのであろう。また事実、初期のスーパーマーケットでは、特売、陳列、品揃え、値入れなど、どれでも少し工夫するだけでも、なせば議論するだけで、実践実行をなさざるに勝ったのである。そのため、むずかしさを伴う問題はすべて先送りにする風潮が業界内に広まっていた。

 関西スーパーマーケットが鮮度管理システムを創り上げ、本格的スーパーマーケットを標榜するようになって、事態は一変した。なすべきことをなさないと、業績は上がらないどころか、下落しだしたのである。業界が成長期に移行したからである。

 今また業界は成長期から成熟期に移行し、企業の施策も改革が求められている。このことを拙稿では、少しずつ視点を変えながら繰り返し論述してきた。

 これからは拙稿のまとめとして、「むずかしくても、なすべきことを成し遂げるため、予測される障害となるむずかしさを分類し、それぞれを克服する」ための考え方を概述する。

 一口に「むずかしさ」と言っても現実に現れる諸課題は、企業ごとにこれまでの歴史やこれから取り組もうとしている戦略によって、種類も、その数も、レベルも異なることがある。

 これらの違いのすべてを詳述する能力は私にはない。そこで歴史の違いを組織の成熟度の高い・低いの2つに分類し、戦略は「おいしさ」に焦点をあてたマス・カスタマイゼーション一本に絞って、概説を進めることとする。

■準備段階のむずかしさ

 さて、準備段階のむずかしさを考えてみよう。

 新政策を実施するためには、まず計画書をつくらねばならない。計画書は、冒頭に目的をのせ、実施要項は後に続く。実施要項は仕事の流れに従って、何をどのように処理するかを次々に説明していく。従って、複雑な大きなシステム改革の計画書は、目を通したぐらいでは頭に入らない。私は実施要項を数回読み直し、はじめて目的で書かれていることの意味が分かったという気になれることがしばしばであった。目的が分かってから実施要項を読み直して、ようやく納得し、“よし、やろう”という気になれたのである。

 成熟度の低い組織では、極言すれば計画書をつくる適任者がいないことすらあり得る。また、計画書は書き上げられても、精度が低く、実施段階でさまざまな不具合が発生する。

 成熟度の高い組織では、企画スタッフがさして苦労せずに精度の高い計画書を作成するであろう。

 しかし、ここにも問題はある。

 計画をまとめるためには、関係者と調整をしなければならないが、関係者の数が増えると、多数の関係者との調整には1人増えるごとに苦労が倍加するといった風のエネルギーが必要である。トップと実施グループとの調整も新しい段階を迎えての新しいむずかしさがあろう。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.25

2011年03月24日(木曜日)
カテゴリー:
  • ことわざから学ぶ
  
10:09 AM

25.ことわざから学んだ2つの経験談

■「成らぬは人のなさぬなりけり」

 30年も前のことである。当時、中堅どころにあったスーパーマーケットから業務システムづくりの依頼を受けたことがあった。一通りの事前調査を終えて、計画づくりの打ち合わせを進めていた時のことである。

 そのシステムにおける店長の役割をいくつかリストアップしているところで、企業側の企画担当責任者が、
「うちではできません。店長がそれほど育っていません。」と言いだした。
「では、店長教育をしましょう。」と言うと、
「そんな暇はありません。」と言い返され、その企画はボツとなった。

 数年後、その企業は吸収合併され、今は別企業になっている。
何とも後味の悪い、悔やまれる思い出である。

 店長が能力不足では、店内業務システムの設計がどんなに優れたものでも所期の成果は得られない。当然のことである。当然のことを企画担当者は「できない」と表現した。

 「できない」、「教育している暇はない」、などのネガティブな態度に腹を立て、私はこの仕事から降りたのであるが、店長の能力不足は業務システム運営のための役割の速成教育なら、2~3回の集合教育ですませることは可能である。日を改めて店長育成プログラムを作成し、時間をかけて総合的に能力開発をはかることが必要であったとしても。

 また、速成教育では所期の成果は得られないことも予測される。この点については、目標レベルを初期・中期・最終など段階的に設定してスタートさせることはできたはずである。

 このような工夫・努力をすることをことわざでは、「行うは難し」と一口にまとめている。腹を立てて、やめてしまったことは、「成らぬは人のなさぬなりけり」という戒めを忘れた行動として、反省している。

■「下手な考え、休むに似たり」

 思い出話をもう一つ。 昭和35~6年の頃の思い出である。
その頃、私は関西系の中堅商社からチェーンストア業界に転職していた。当初、私は商社と小売業の仕事の仕方、従業員の考え方のあまりに大きな違いに困惑した。

 私が転入した会社は水戸市に本部を置く、衣料スーパーで、木曜日が休日と決められていた。転入当初は、いわゆる単身赴任で、家族は東京に残してきた。最初の水曜日の夕方、家に帰ろうとして、社長に挨拶すると、不思議そうな顔で「何か家に用事があるのか」と尋ねられた。何もないと答えると、「明日は▲▲▲に行く予定だが、一緒に行かないか」と誘われた。結局、家には帰らなかった。その後も、木曜日に自分自身が休むことはほとんどなかった。

 サラリーマン生活に馴らされていた私は、カルチャーショックを受けた。カルチャーショックは毎日のように続いた。そんな中でも、小売業の中で知らないこと、疑問を正すことの勉強は続けた。そして、勉強は面白かった。

 ただし、分からないことが多すぎた。例えば、まったく同じセーターを東京の百貨店では3900円で売って、順調消化しているのに、水戸のスーパーで2800円で陳列してもほとんど売れず、商品ロスになったことがあった。

 なぜか。社長をはじめ、何人もの人に質問して回った。納得のいく答えはなかった。こんな質問が日が経つに従って増え続けていた頃のことである。

 後に学習院の学長をつとめるようになった田島義博氏(当時は少壮気鋭な研究者として注目を浴びだしていた)に会った時に、なぜ分からないことが多いのだろうと尋ねた。その答えは振るっていた。「なぜか、なぜかと聞き回るのはやめた方がよい。人に嫌われるから。それよりも、うまくいったということをどんどんやった方がよい。今、成功している人達は、みんなそうやっている。」

 「下手な考え、休むに似たり」ということである。

 私は「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」ということか、と理解し、その後はこだわり過ぎることは慎んだ。しかし、「なぜか」を確かめたがる性癖は今も続いている。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.24

2011年03月23日(水曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
3:59 PM

24.マス・カスタマイゼーションの実現

■「革新」と「改善」

 マス・カスタマイゼーションを実現するために、これからのコモディティ商品のマーチャンダイジングのあり方、および固定客づくりの手法の骨格を分けて考えてきた。これは、不特定多数客をターゲットとするマスと固定客づくりを最重視すべきとする相互に相いれない2つの概念の両立を試みるためであった。

 対立概念の両立は可能であり、しかもシナジーを生み出すことも分かった。
この記述を進めるうちに私にとっての興味深い発見は、手法、つまり組織行動に画期的な革新と改善が進むということであった。

 ここで、大ざっぱな言い方をお許しいただきたいが、カスタマイゼーションのための企業イメージづくりでは、革新という用語は、品揃面・陳列面などでコモディティ商品とライフスタイル商品で調整を行うこと、そして調整の仕方が上手になることは、改善と呼びたいのである。そして手法の改革、改善が相反する2つのコンセプトの両立、すなわち融合の触媒となり、新しいコンセプトが定着するということである。

 私には複数のコンセプト文化を一つにまとめ(融合)、新しいコンセプト文化を生み出すことは、十数年来の関心事であったが、前進の入口が見つかったような気がする。日を改めて掘り下げてみる。

■またまた閑話休題:「言うは易く、行うは難し」

 スーパーマーケットのこれからのマーケティングを展開する上で、マス・カスタマイゼーションが大きな効果を約束する新しいコンセプトであることを論述してきた。

 この拙稿の主旨をご理解いただいた読者もおられることと思う。
しかし、論述することも、論旨を理解することも実践を経て良い結果を実現しなければ、単なる画餅になってしまう。

 経営に関する議論は、良い結果を実現するためのものである。「言うは易く、行うは難し」のことわざのように実践はむずかしいが、むずかしさを理由に行動を起こさねば画餅に過ぎない。「なせば成る なさねば成らぬ何事も 成らぬは人のなさぬなりけり」の通り、行うはむずかしくても、行わなくては、よい結果は実現しないのである。行わないとよい結果が得られないに止まらず、最悪の事態に陥ることになる。

続きます

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