商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング Vol.29

2011年04月05日(火曜日)
カテゴリー:
  • 試行錯誤的問題解決
  
11:48 AM

29.関西スーパーの「試行錯誤的問題解決」

■天才のひらめき

 ここで試行錯誤の行為を分析してみよう。
生鮮売場の画期的改革時の行為の分析である。

 関西スーパーでは、ダイエーなどGMSの出店など、相次ぐ競合店の出現により、業績が伸び悩みだした頃、当時の北野社長は打開策を模索するため、アメリカのスーパーマーケットの視察に出かけた。その際、青果売場の良い香りをかいで「これだ」とひらめいたものがあったという。私は後にこの経緯を聞いた時、「天才のひらめき」だと思った。

 「これだ」は「生鮮強化、そのための鮮度管理」というコンセプトとなり、社員達に伝えられた。社員達は恐らく、「では何をしろと言うのか」と訝ったであろう。北野社長は言葉で説明するばかりでなく、幹部社員を研修のためにハワイのスーパーマーケットへ派遣した。研修は1回だけではなく、数回繰り返された。北野社長自身も研修に参加して、夜間はその日の研修内容を話し合った。研修とは言っても、講師がいたわけではない。毎日の仕事ぶりを一日中観察し、時には作業の実習を体験させてもらい、分からないことは質問して答えてもらい、自分主体の研修をしたのである。

 自分の目で活動の実態から学ぶことにより「生鮮強化」とは何をすることかがはっきりしだした。研修を繰り返すことにより、イメージは広がり、かつ深められた。話し合ったことにより、活動のプロセスはより明確になり、プロセスごとのキーポイントもはっきりするようになった。

 北野社長自身も自らが学んだ。話し合いの中で学んだことも多かったはずである。そして何より大事なことはトップと幹部社員の間でこれからやるべきことについてのトータルイメージが共有化できたことである。共有イメージの有無はシステムの設計・実施・修正すべての段階で精度に決定的な影響をもたらす。

■鮮度管理のトータルイメージ

 関西スーパーマーケットはプロセスモデルの最終プロセス陳列状態のあるべき姿についてイメージがほぼ一致していた。順次このイメージを言葉で表現していったのであるが、その1つ。
「陳列してある商品の鮮度は、すべて一定水準以上でなくてはならない。」

 この表現1つで売場イメージは客観化される。同時に一定水準とは何か、という疑問が浮かぶ。肉なら変色度、魚ならドリップの有無、青果ではみずみずしさ(乾燥度と変色度)で水準を決めることができる。目で見た水準より客観するために、商品化した日から何日以内の商品に限定する、日付管理。2つの基準の併用法は?というようにイメージは順次具体的な課題となって展開される。

 また、基準内のみの商品を陳列するためには前プロセスの品出しの仕方、さらに前プロセスの商品づくり、さらに保管のプロセス1つ1つ。そして基準を超えた商品の処理法、ロスの防止策、というように設計は進んでいく。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.28

2011年03月31日(木曜日)
カテゴリー:
  • 試行錯誤的問題解決
  
10:44 AM

28.新戦略を開始する時のむずかしさ

■品揃えを決めるむずかしさ

新戦略をスタートさせる時、最初に戸惑うのは商品部のバイヤー達であろう。新戦略のコンセプトが解り、自分の役割をも納得したとしても、役割を果たすための具体的な行動を明確に把握し、それをやらなければならない。

 バイヤーの役割の1つは、品揃えを決めることである。コモディティ商品の他にライフスタイルも加える。そこまでは分かった。コモディティ商品の品揃えの方法も理解している。しかし、味に焦点をおいたライフスタイル商品の品揃えとはどんな品揃えなのだろうか。

 これまでは分からないことは、解決のヒントを得るため、他店見学に行った。時にはアメリカの視察旅行に参加した。しかし、今回はそんな方法では解決できそうもない。

 そんな戸惑いであろう。

■「問題解決」とは

 結論から先に言えば、戸惑いの正体は試行錯誤的問題解決に不馴れなことである。

 不馴れと言ったが、正確には意識的にしなかったと言い直すべきであろう。スーパーマーケットはさまざまな試行錯誤を積み重ねて今日の企業システムを築き上げてきた。今にして思えば、試行錯誤をしているという自覚なしに、試行錯誤を続けてきたのかもしれない。

 一般に問題解決とは、「目標を決定し、目標達成の手段を選択し、手段を行使して、目標を実現すること」と定義されている。

 また、目標到達のための基準から逸脱した行為を基準内に修復することを問題解決と呼ぶこともある。

 日本では、日常は後者の定義による用語使用のケースが多い。しかし、経営トータルを論ずる場合は、先に述べた定義による用語使用が多くなる。

 さて、前者のケースでは、目標も手段も明確になっていれば、問題解決は比較的容易である。とはいえ、経営目標(例えば年間利益目標)を達成することは、決してやさしいこととは言えない。理由は手段が多すぎる上に、絡み合っていて、それらをすべてクリアすることはむずかしいからである。

 まして、目標は示されても手段がすべて分からない場合、問題解決は更にむずかしくなる。こんなむずかしさを試行錯誤的に解決し続けてきたと言えよう。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.27

2011年03月30日(水曜日)
カテゴリー:
  • 組織計画
  
3:18 PM

27.組織計画と仕事の流れ

■組織計画のレベルの差異

 先述のように、組織の成熟度のレベルの違いによって、むずかしさは違う。しかし、いずれもむずかしさがあり、これを克服しなければ前には進めない。精度の高い計画書を自力ではつくれない企業では、コンサルタントを招へいしてでも、計画書は作成しなければならない。

 事前調整で苦労する組織は、我慢して工夫を積み重ねることによって、組織としての調整能力高める結果も得られる。

 組織の成熟度の差異は、組織計画のレベルの差異に起因するものが多い。
組織計画は役割明確化の初歩的ツールではあるが、基本となるコンセプトでもある。

 テレビのスポーツ番組で、解説者が「まず基本を習得しろ。それから自分なりのプレーをつくれ。そして、自分のプレーに徹しろ。勝負は二の次だ。負けても悔いは残らない。そして、そうしないと勝てるようにはならない。」という意味のことを異句同音に言う。

 昨今、ようやくうんちくに富んだ評論として理解できるようになった。

■プロセスモデルの整理

 基本の習得度の差が組織の成熟度の差になって現れると言いたいのだが、成熟度の低い企業の人にはまだ組織計画のコンセプトの理解が不十分な人も少なくないのではないかと思うので、簡潔に復習をしておこう。

 組織計画と仕事の流れをプロセスモデルとして整理し、それぞれのプロセスを処理する担当者を明確にきめることである。以上のことを図で示すと次のようになる。

process-model.jpg

 プロセスモデルはフローチャートで流されることが多い。実際のフローはもっと長く複雑である。
成熟度の高い企業の1社では、実施の3ヶ月前から月次販売計画の作業が始められる。長い道のりを経て実施が始められるのである。

 上のプロセスモデルは月次販売計画のフローを極言まで圧縮したもので、実務者のイメージとは程遠いものであろう。

 しかし、こんな簡略化したモデルを使ってでも言いたいことは、商品部は仕入れ、店舗は販売を受け持つ、とか、計画は本部、実施は店舗というような粗すぎる役割分担の考え方は役に立たないのみならず、有害だということなのである。

 図表の1は定番品の流れ、2は販促計画の流れである。それぞれ当月の計画コンセプトが示され、1の流れでは品揃表プライシング、陳列法、および部門別、カテゴリ別の売上、粗利益、ロス削減目標などが文書化される。このプロセスが1-2である。2の流れでは週間別、販促計画の実施要項と販促品の売上、粗利益目標が文書化される、2-2のプロセスである。1-3、2-3のプロセスでそれぞれの担当部長の承認を得て、4のプロセスに送られる。4のプロセスは月次販売会議で調整・修正が行われて最終決定となる。5以降のプロセスは主として店舗で行われるプロセスとなり、店舗の業務システムの領域に入る。

 さて、提出したモデルでは捨省が多すぎて実感を持ちにくいのではあるが、プロセス1-2、2-2及び、プロセス4で示すように担当者は部門、職階を越えて指名されている。つまり、協業しろということである。

shokuseizu.jpg

 組織計画による役割の明確化は、組織の協業意識向上に不可欠なコンセプトである。協合意識向上は組織の成熟の原動力になる。
そして戦略システム、業務システム、組織システムの三者はスパイラルに上昇もすれば、下降する関係がある。

 成熟期の企業競争は組織の成熟度競争といっても過言ではない所以である。

 革新的戦略を展開するためには、事前準備段階において、戦略実践を障害する要因をリストアップし、だからできない、という風潮を改め、要因1つ1つを除去するための知恵を出し、組織の成熟をスピードアップする決心が肝要である。

続きます

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