商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.31

2009年11月30日(月曜日)
カテゴリー:
  • グローバリゼーション
  
11:07 AM

第31回グローバリゼーション-食生活と衣生活のちがい

■衣生活のグローバル化

衣の生活も食の生活同様、グローバルに変化を続けている。むしろ衣の変化の方が目に見えるので、より激しく見える。昨今の若い人達のアパレルのファッションには、私の目に余るものがある。
「なぜ、これほどだらしなく着るのか」「ホームレスの真似をしなくてもよいのに」などなどの思いがする。
彼らは反論するだろう。「ジジイ~ひっこんでろ、センスが違うんだよ」

ジェネレーション・ギャップ論はさておき、衣生活はグローバルに同じ方向に進んでいるように見える。公的な場では男はスーツにネクタイ、女はスーツまたはワンピース。カジュアルには、Tシャツまたはセーターに、ジーンズまたはスカートといった塩梅だ。エスキモーもアフリカの黒人も、明治の頃、日本人が“洋服”と呼びだした被服をまとうようになっている。

食もグローバルな同一方向の変化はある。
ハンバーガーやフライドチキンのようなファストフードの普及はグローバルに進んでいる。日本では洋風化が進み、パンを米の代わりに主食として食べる人も増えている。
しかし、衣と食では変化の仕方が違う。
衣では新しい商品が現れると、古いものは捨ててしまう。あるいは、普段は伝統的な民族衣装などはクローゼットにしまい込まれ、セレモニーや祭りの時にしか着用されない。日本の着物がタンスの中に隠れてしまう。
また、衣では新しいファッションを買う場合には、自分の好みのセグメントの中で商品を選び、他の多くのセグメントには立ち寄りもしない。

こんな傾向に対し、食は新しいメニューも取り入れるが、これまでのメニューも簡単に捨てない。いわば、話題の新メニューにも飛びつくが、おふくろの味も楽しむ。むしろ、おふくろの味が度々話題になる。
レパートリーもひとつにこだわらない。和食も洋食も中華料理もインド料理も誰でもが、いつでも楽しんでいる。少しオーバーに表現すれば、東西古今の食を混在させたまま変化させているのである。
そんな食生活をワンストップ・ショッピングで支えようとするのがスーパーマーケットの使命なのである。

アパレルの店とスーパーマーケットでは仕入れの方法が全く異なる。
アパレルでは、シーズンに先駆けて、シーズン中に売り切る。セグメントの中のアイテムを発注する。
スーパーマーケットでは、発注の大部分は自動的なリピートオーダーが占める。
10~30%は販促品の数量をバイヤーと店舗が協議した後にオーダーする。多分1~3%くらいは新しくラインアップに加えられた商品を、バイヤーが自らオーダーするのであろう。

■新商品導入の難しさ

さて、ここまでは新商品導入の効果と選別の方法について考えてきた。
しかし、売上の60~70%が自動的発注であり、販促品売上30~40%中の90%も定番商品であるから、売上の95%以上は定番商品という事実に注目する必要があろう。
適切な新商品を次々に導入することは、お客様の食生活の向上に貢献する。だから新商品は他社に先駆けて、なるべく多く導入すべきである。
この点に成功すれば、ストア(企業)イメージが上がり、新商品はさらに売りやすくなり、客数も増加する。その結果、売上も増加する。しかし、売上の95%以上はこれまでの定番品の売上であることに着眼しなければならない。

新商品を導入するために、これまでの定番商品からいくつかのアイテムをカットしなければならなくなる。
この場合、カット品の選別が導入品の選別法と同様、あるいはそれ以上に重要であり、難しい。安易に導入商品の属するカテゴリー内の最下位アイテムや、ストアブランドを導入せず、ナショナルブランドのトップブランドは残してローカルブランドはカット、というようなことはすべきでない。
これらのアイテムの中には、この商品でなければ、と少数でも強いこだわりを持つお客がいるかもしれない。こだわり商品をカットすることは、こだわりを持つお客の食生活の満足度にマイナス効果を与えることになる。

アパレル店では、品揃えでこのような配慮をしなければならないことはまずない。しかしスーパーマーケットでは、導入よりカットの方がさらに難しいといえよう。

続きます

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スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.30

2009年11月24日(火曜日)
カテゴリー:
  • グローバリゼーション
  
11:58 AM

第30回グローバリゼーション-効率的・試行錯誤的アプローチ

■トライ・アンド・エラー

グローバリゼーションに対する心構えの第2課題は、試行錯誤的にアプローチすべき課題を、効率よく処理するシステムを開発定着させることである。

テレビでも、毎日のように世界の家庭料理が紹介されている。また、我が国の新旧の郷土料理も紹介されている。これらの番組ではレシピの中で新旧の食材、調味料などを紹介している。
さらに環境保全、資源保護にからんで、新しい食材生産方法が進んでいることも報道されている。
農薬を使わないで、トマトやレタスを生産するため、特殊なビニールシートを開発し、数階建ての工場を建てて、水耕栽培を始めた企業があるという。
また、クロマグロの資源保護のため、輸出入を禁止するための国際条約の論議が盛んな中で、大手水産会社が魚肉ソーセージ製造の技術を活かし、クロマグロの養殖用ソーセージ状の餌の開発に成功し、本格的に事業を開始した。近い将来、国内需要を上回る生産が可能になるため、輸出先の国を探しているという。

このような状況のもとで、新しい食材、新しい商品が次々に市場に登場している。一口にまとめて言い直せば、「食生活が変化し続けている」ということになる。
スーパーマーケットの使命のモットーはこのような変化の中で、食の向上により大きな貢献をすることである。

ところで、食の向上とは何か。
そのコンセプトはまだ確立していない。食生活がどう営まれているかが理論的に解明されていないからである。
消費者は王様である。我々日本人は、昨今の世界的不況の中でも、ごく一部の気の毒な人達を除き、飽食の世の中で、気まぐれな食生活を楽しんでいる。勝手なご託宣を唱えている。もっと美味しいものを食べたい。もっと安い方がよい。後片づけは面倒だ。などなど。
一昔前のコマーシャルが思い出される。「亭主元気で留守がいい。」こんな主婦は一体どんな夕食を子供と食べていたのだろう。

食生活の実態を具体的に論理的解明することは難しい。家計簿調査は長年続けられているはいるが、スーパーマーケットが必要とする調査データとしては不充分すぎる。
目標も手段も特定化することのできない条件のもとで、手探りで問題解決を図ろうとするアプローチの方法をトライ・アンド・エラー(試行錯誤)という。
スーパーマーケットの経営(スーパーマーケット以外の経営でも同じことなのだが)はもともと、トライ・アンド・エラーを続ける社会機関なのである。

現在、アメリカのメジャーリーグで大活躍を続けている、イチロー選手が「バッティングはどうすればよいという答えはない。だから終わりはないのだ」と述べ、「工夫をし続ける」理由を説明している。工夫を効率的に続けるシステムが、効率的試行錯誤システムである。

■実売して検証

市場に登場してくる新しい食材、新商品を商圏内居住者の食生活向上のために、なるべく早く提供するのがスーパーマーケットの役割である。
しかし、新しく登場してくる商品は取り扱うべきか否かを選別しなければならない。
選別の基準は、食生活の向上であるが、手続的としては最終的に、お客様が受け入れてくれるかどうか、平たく言い直せば、売れるかどうかということである。

ところで、ここまで食材と商品を並べて記述してきたが、私がここで食材と呼んできたのは、生鮮食品の商品化前の素材のことである。例えば、牛肉は食材であり、パックされ、「アメリカ産 サーロイン」というラベルを貼付したものが商品である。同様に、前述の養殖クロマグロは新食材であり、切身やサシミに調理して、パックし、定められたラベルプライスカードを貼り終えて、商品となる。

ここで、ごく最近の私の小さな経験をひとつ。家内は高齢化して買い物に出ても、重いものを持ち帰るのが難儀になり、通販も一部利用している。
2~3日前にその通販でもやしを購入し、野菜の炒め物とラーメンに入れて食べた。
日頃、食べ続けているもやしと一味違って美味しかったので、「これは何だ」と尋ねた。家内は発注のためのカタログを出して、「緑豆もやしって言うんだって。使っている豆が違うのかしら。スーパーでも扱えばいいのに」と言った。私も全く同感であった。ちなみに1パック200グラム入、72円の商品だという。
我々は高齢化し、食も細くなっているので、この程度の価格ゾーンの商品なら、高い安いにはあまりこだわらない。美味しいと思えば、それだけ豊かさを感じる。
しかし、食べざかりの子供を2~3人かかえた若夫婦の世帯では?もやしが好きでない人はどう受け取るか。

これは食生活の豊かさの受け止め方の違いを確かめながら品揃えの改善を進めるのが、試行錯誤的アプローチである。そのアプローチの効率を高めるためのプログラムの概要とスピードアップのための組織文化については、5月11日、5月18日のこのブログで述べているので、重複を避けさせていただく。

続きます

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スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.29

2009年11月12日(木曜日)
カテゴリー:
  • グローバリゼーション
  
10:44 AM

第29回グローバリゼーション-心構えの第三段階:戦略展開

■販促概念から脱皮

ここで私が強調したいことは、次の2つのことである。

その1は、一昔の大目玉商品で、お客を釣り出すといったような素朴な販促概念から脱皮することである。

「この季節だからこの商品を」、「この社会行事にはこれこれの商品を」、「この週末にはこのメニューをメインディッシュに」、「この度、こんな商品を開発しました」などなど、お客様の食生活の向上に貢献するためのお勧め品をお知らせすることが、チラシ特売の目的である。

これに対し、「そんなキレイごと(独りよがり)では商売は成り立たない」という反論もあろう。
「独りよがり」では商売にはならない。だからこそ、予算達成が可能かの試算を3段階にも当たって行う必要があるのだ。まず、販売促進部において。次のステップでは、商品部において、各部門別に。最後に、店舗において店別予算へ達成見込を確認する必要があるのである。

■フェイス調整の重要性

強調点の2番目は、文中のフェイス調整の重要性である。

基準フェイス表を使ってフェイス調整を行う理由は、今日のフェイス調整を行った後の現場で明日のフェイス調整を行うと、移動された定番商品の関連が乱れる。5~6回同じことが繰り返されると、当初に設定した関連が大幅に乱れ、初めのフェイス設定方針が担当者にも分からなくなってしまう。つまり、お客様から見て、選びにくく、買い忘れをおこしやすい陳列になってしまう。これを防ぐため、フェイス調整は、必ず、基準フェイス表の上で行う必要がある。

さて、サンマを例に、販促品に使う場合のフェイス調整の行い方の要点は次のようなものある。

当該商品に、カテゴリーの下段の中央部分で4フェイス与える。前年、または前回実績データから、チーフはこの販促価格なら、何パックぐらい売れるかが予測可能である。
発注量完売に自信の持てない場合は、1フェイスを増やすなどの調整を行う。

次に、輸入エビ、サケも当日の販促品であれば、それらの販促品のフェイスも決める。
この場合、基準フェイス表がないと、販促品の陳列場所も決めにくくなる。販促品ならばすべて下段に大量に陳列すればいいというものでもない。

さて、主な販促品のフェイスが決まれば、次にはその左右に何を陳列するかを決めねばならない。サンマの左にはスルメイカか、イワシか、カレイか、右には何がよいか。
つまり、販促品は隣に並べられる商品によってアピール度が変わるのである。また、定番品も販促品との位置関係により、売上個数が変わるのである。
従って、フェイス調整の適否により、売上は相当に変動することになる。

あるベテラン・チーフは、「フェイス調整には少なくとも1時間半はかけたい。しかし実際には半分も時間をかけてない。30分くらいで済ますことが少なくない」と述懐していた。

お客様の食生活の向上に貢献する、販促策とは、独りよがりのコンセプトではない。しかし、これを効果的に実践するには、上述のように、作業的に見ただけでも大変な時間とエネルギーを必要とする。だからこそ、これを実践する企業は競争力優位を保てるのである。そして、販売予算コントロールの精度も高まるのである。

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