商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング Vol.38

2011年07月01日(金曜日)
カテゴリー:
  • リーダーシップ
  
3:33 PM

38. リーダーシップ論

● リーダーの3つのスキル

 起死回生策は成功することは少ないが、成功することもある。優れたリーダーに恵まれれば、成功する。成功に導いたリーダーは、中興の祖などと呼ばれ、企業内外の人々から敬愛を受ける。ジャーナリズムはその人柄を称賛する。研究者はリーダーシップ論として理論化する。研究者は、中興の祖だけではなく創業者、部門リーダーなども研究対象に入れて、リーダーシップ論をまとめている。これらのリーダーシップ論は、ほとんど個人の資質を分析したものである。

 ところで、これ以外のリーダーシップ論もあるので紹介してみたい。

 他のリーダーシップ論とは、個人の資質の分析ではなく、うまくいっている組織の状態の分析から進められる。うまくいっている組織には、リーダーシップがあるとみて。そこにはどんな機能が働いているかを分析する。結論として、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプショナル・スキルの3つのスキルがうまくコンバインして機能しているとき、リーダーシップがあると評価する。

 テクニカルスキルとは、スーパーマーケットの場合なら、商売の能力、マーチャンダイジングの能力のことである。

 ヒューマンスキルとは、人間関係をまとめる能力である。

 コンセプショナル・スキルを、私は、企画分析力と訳している。

 以上、3つの能力を1人で兼ね備えている人物は、稀有である。したがってリーダーシップを1人の人間の人柄、能力的資質分析をするだけでは、経営には不十分だとする説である。

● 3つのスキルの役割分担

 初期のスーパーマーケットでは、社長がテクニカルスキルに優れていれば、それなりに業績を伸ばすことができた。成長期の初めのころは、社長がお父さん役、テクニカルスキル、専務がお母さん役、ヒューマンスキルに優れていれば、順調に規模拡大が続けられた。しかし、成熟期にいたっては、コンセプショナル・スキルの達人を欠いては、前進はかなわなくなっている。

 なお、上記の3スキルは、それぞれ、重複の人材で分担しても差し支えない。テクニカルスキルは、立地・店舗開発戦略とマーチャンダイジング戦略、店内業務、ヒューマンスキルは人事と教育、コンセプショナル・スキルは営業企画、財務、電算システム、etc、etc。

 リーダーシップは、複数の人間の持てる能力を組み合わせ、結合することによって確立し、強化される。いわば、組織のリーダーシップということであろう。中興の祖は、組織のリーダーシップをつくり上げるための人事の名手であったともみられよう。

 さて、3つのスキルを、どの場面でどのように組み合わせるかは組織の知恵比べ。知識商人の腕の見せ所である。各人がよく考えて知恵を出し合い、話し合いを重ねるうちに、自ら組織の適切な知恵が生み出される。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.37

2011年06月24日(金曜日)
カテゴリー:
  • 利益の概念
  
3:55 PM

37. 新プロセスモデルの妥当性

● 見切り発車の1年後

 次は妥当性の検証である。

 見切り発車後、1年もたてば、組織は、新戦略に基づく改革の仕事に慣れてくる。当初の戸惑いは暫時、薄れている。業績が5%も上がっていれば、この路線でいいんだというような機運が生まれていよう。逆に5%も下がっていれば、大幅な見直しが必要だとする者、路線そのものが誤りだとする者、路線は正しいがやり方に徹底が欠けていたという者など、いろいろな評価が入り乱れるであろう。10%もダウンしていると、全体で失敗を認め消沈することになる。

 これが組織による妥当性の検証である。

 この頃には、あいまいさを残しながら、共有化されたトータルイメージも明確化が進み、検証の議論もより具体的になっている。

 そこで、指摘したい最も重要なポイントは、1年目に業績が悪化しても、前年を下回らないようにすることである。前向きの評価を行うためである。その後の議論が、前向きに進められ、より具体的に、より効率的な議論、討論になるからである。しかも結論をまとめるための時間も大幅に短縮することができる。

 さて、初年に前向きな検証を行えるような業績をつくるためには、月次、半年目のフィードバックの精度を高めねばならない。

 つまり、部門別、店別の予算達成のための調整を積み重ねなければならない。今日、成長期を乗り越えたスーパーマーケットは、高次な予算コントロールシステムをつくり上げ、運営している。

 このシステムをさらに高次化すれば、年次予算の達成率は高くなる。したがって、月次予算をコントロールするための課題を順次、的確に把握して問題を解決する知恵を出さねばならない。

 知恵を出せるような、知恵をつくらねばならない。

● 財務上の利益の概念

 業績は通常、経常利益で評価される。経常利益が高ければ、再投資して、拡大再生産を行い、利益をさらに大きくするというのが、古典的経済学の考え方であった。

 実際には、獲得した利益を再投資するだけでなく、銀行から借り入れしたり、増資をして、利益の数十倍、数百倍もの再投資を行っている。借り入れ、増資をしやすくするためには、経常利益が安定、上昇していることが肝要なのである。

 以上は財務上の利益の概念である。財務上の概念とは、キャッシュフローを中核に広げられ、まとめられた概念であるということだ。

●組織のゆとり

 利益には、別の側面からみた重要な概念がある。そのひとつが組織のゆとりである。

 目標利益が実現していると、組織全体が、次のステップを打ち出すに当たって、意欲的な議論が展開されるようになる。

 逆に赤字に転落すると、まずは赤字を解消しようと、議論が赤字解消策に集中する。この議論の中には、責任の追及が必ず表われる。追求される側は、言い訳、すり替えの発言をする。追求する側は、言い訳は聞きたくない、すり替えはやめろと、ますます責め立てる。よしんば、責められる側が非を認めて謝罪しても、誤って済む問題ではない、早く対策を立てて直ちに実行しろと責め立てられる。両者の溝はますます深くなる。なかなか赤字解消策も決められなくなっていく。議論が泥沼に落ち込んでいく。

 利益が安定していれば、不毛な議論に費やすエネルギーも、時間も不要になる。前向きの課題を意欲的に話し合い、組織全体が前進する。

 赤字決算が続いている企業では、起死回生のための経営計画をつくり、全従業員が一致団結して実施しなければならない。このような場合、「背水の陣を敷く」という。しかし現実には、一致団結できないばかりではなく、計画すらまとまらないことが多い。経営は背水の陣を敷かねばならないほど追い込められてはならないのである。

 ドラッカーを始め、多くの学者、実務家が、利益を最終目標にしてはならないと説いている。私もこれらの説には賛成である。しかし、私は、ここで、「利益は、ゆとりをもって経営を進めるための絶対必要条件である」と言い返してみたい。

 知識商人は、利益について、どこまでもストイックでなければならない。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.36

2011年06月13日(月曜日)
カテゴリー:
  • 新プロセスモデル
  
4:07 PM

36. 新プロセスモデルの商品吟味

● 商品吟味への疑問

 さて、前述の1番目のお店の商品吟味の仕方が分からないと訝ったのは、安心安全のための商品吟味から一歩抜けだし、他の目的も取り込まれているようだが、その新しい目的が分からないということである。

 この店では、陳列商品には必ず品名カードがついている。生鮮食品の品名カードにはほとんど産地が表示されている。産地表示があるので、商品吟味が進んでいることをうなずかせる。

 ある日、ジャガイモが3アイテム陳列されていた。2アイテムは北海道産、残りの1アイテムは中国産であった。北海道産はメークインと男爵であった。ただし、品名カードには品種の表示はなく、「じゃがいも」と、同じ表示であった。

 そこで、私には新しい疑問が浮かび上がった。
最初の疑問は、なぜ産地表示をするようになったのだろうか、ということだ。その答えは安心安全のためであったと思われる。中国産の冷凍ギョーザがトラブルを起こした頃から、外国産と国内産を区別するため、国内産には、内地産と表示する店が増えたことを思い出した。

 その後、外国産には国名を、内地産には県名、地方名を表示するようになった。内地産なら安心だというメッセージを送ることから始まり、産地名が表示された商品なら安心できるというように変わったのであろう。

 次の疑問は、なぜ中国産は1アイテムで、北海道産は2アイテムなのだろうかということである。この疑問に対する常識的な答えは、中国産は安いからと、メークインと男爵の品質の違いがあるということは、すでに市場で定着しているから、ということになろう。

 なお、このお店の、その日の品揃えは、大根と長ネギは国産品それぞれ1アイテム、玉ネギは中国産1アイテムだけであった。またブドウは2アイテム、隣にメロンが1アイテム陳列されていた。大根、長ネギ、玉ネギは冬の必需品であるが、ブドウやメロンは季節外れの商品である。そんなことを考え合わせると、このスーパーマーケットでは、品揃え商品カードのコンセプトを見直さなくなっているなと思うにいたった。

 叙述が長くなり過ぎたが、以上が、フィードバックが新しい修正、調整課題を生み出すまでの推移を、私の体験に基づいて書き綴ったものである。

 現実の組織におけるフィードバックは、この叙述よりはるかに広範囲の要因の複雑な絡み合いを整理しながら修正、調整課題を設定し、前進を続けている。一人でやれば数カ月もかかることが、組織で取り組めば、数日で処理できる。現に処理している。

 組織能力の優劣は、フィードバック機能の効率に決定的な差異をもたらす。またフィードバック機能の効率化は、組織能力向上の最重要支柱でもある。
これからの企業間競争の知恵比べは、組織能力向上のための知恵比べと要約することができよう。

続きます

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