商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング Vol.35

2011年06月02日(木曜日)
カテゴリー:
  • 新プロセスモデル
  
11:17 AM

35. 新プロセスモデルのフィードバック

●見切り発車後の中間チェック

 試行錯誤的問題解決のむずかしさを乗り越えるための知恵の出し方を、事前準備→見切り発車→フィードバックの繰り返し→目的実現の4ステップに分け、第2ステップの見切り発車まで検討してきた。次は第3ステップの諸課題の掘り下げである。

 すでに見てきたように、フィードバックの目的は一口にまとめれば、あいまいさを残したまま見切り発車した計画の妥当性を検証すること、および、あいまいさを順次より明確化することである。

 妥当性の検証、あいまいさの明確化の過程で修正・調整ポイントがクローズアップしてくる。クローズアップした修正・調整課題は、次の計画の改善項目として反映される。

●近所のスーパーマーケットでの実例(その1)

 あいまいさの明確化と改善項目のクローズアップにこんな関係があることを私自身が体験した。拙稿を記述しだしてから、散歩を兼ねて家の近くのスーパーマーケット2店で買い物をした。

 1店では、数ヶ月前に青果売場に地元野菜コーナーを新設していた。新設当初は、改善を進めているなとは思ったが、何のための改善なのかは深く考えなかった。拙稿を書き出して、「おいしさに焦点をおいた改善」を意識しだしてから、このコーナーに差し掛かった時、ふと、おいしさとコーナーの関わりに何があるのかと考えた。とりたての野菜は鮮度がよい。鮮度の良い商品は味がよい。だからとりたての地元野菜のコーナーを設置した。この程度の理由づけはすぐできた。

 しかし、コーナーを見ても、商品はちっともおいしそうに見えない。陳列が乱れ過ぎていて、品切れしたアイテムもあるからである。どうやらこのコーナーは契約農家が朝一回、商品を納入、陳列して、あとのフォロー作業はほとんどしないのではないかと想像された。これでは逆効果になる。これがその時の結論であった。

続けて、こんなことも考えた。例えば、トウモロコシなら畑で完熟したものを朝のうちに収穫し、その日のうちに食べれば、市場経由のトウモロコシにはない、おいしさを味わえる。完熟のおいしさである。「完熟」は野菜や果物のおいしさの1つの側面である。

 山梨の釣りの帰り、地元の路面販売所で完熟した桃を土産に買って帰りたくなるような心理が分かったような気がした。

●近所のスーパーマーケットでの実例(その2)

 もう1店の方では、次のようなことがあった。

 このスーパーマーケットの鮮度管理の業務システムを作り上げて以来、地に足の着いた改革を着実に積み重ねている。いつ行っても売場が乱れているようなことはない。従業員はいつもにこやかにきびきび働いている。レジで待たされ過ぎたり、不愉快な思いをさせられたこともない。私の好きなスーパーマーケットの1つである。

 1~2か月前、このスーパーマーケットに行った時、商品の吟味が行き届きだしたのに気がついた。陳列されている商品はすべてよく吟味されていることが分かった。百貨店に勝るとも劣ることのない吟味ぶりである。

もっとも百貨店のような高級品、高額品は省かれているが。スーパーマーケットのコンセプトに基づいた品揃えの商品吟味であろう。

デコポンは大きく色つやもよく、おいしそうに見える。トマトも、刺身も、ステーキもみんなおいしそうである。立派である。

●シアーズローバックの商品吟味

 少し横道をそれるが、シアーズローバックの商品は吟味が行き届いていたという。

 吟味法として注目すべき点は、商品の耐久性に主眼をおいたことである。試験室ですべての商品の耐久性をチェックした。チェックの方法は、商品にショックを与えて、いつまで壊れないかを確認した。その確認の方法が徹底していた。壊れるまでショックを与え続け、所要時間確認し、品揃えに入れる可否を判断したのである。

 シアーズがこのような吟味を行うルーツは、カタログ販売にあったという。カタログ販売では、お客はカタログを見て商品を選び、メールオーダーして代金を払う。購入した商品が、例えばラジオがすぐに壊れたり、セーターが破れたり、変色したりしてもクレームのしようがない。テキサスのお客がシカゴの本社に商品交換や代金返済を要求することは、事実上できない。一度こんな目に遭わされたお客は二度と、カタログ販売の商品は買わなくなる。

 こんなわけで、シアーズでは品質(耐久性)に焦点をあて、GMSにおいても、十全に行うようになったという。

●信頼のおける商品管理

 アメリカのGMSとスーパーマーケットでは、取扱商品が全く違う。GMSの取扱商品はソフトグッズ(衣料品)とハードグッズ(家具など)であり、スーパーマーケットは食品である。

 食品では耐久性は鮮度ではかられる。鮮度の客観的表示法は賞味期限である。生鮮食品は商品づくりした日の日付で表示されている。

 かくしてスーパーマーケットは品質吟味のために賞味期限、日付管理の技法システムを作り上げた。

前記、私の挙げた2番目の店では、賞味期限、日付管理の技法は高次に定着している。

 鮮度管理の目的は、安心・安全である。安心安全面では、このお店は全く信頼がおける。だから好きなのである。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.34

2011年05月27日(金曜日)
カテゴリー:
  • 新プロセスモデル
  
1:37 PM

34. 新プロセスモデルの見切り発車

■忍耐力持続のむずかしさ

 業務システムの改革は、目標コンセプトを明確にしてから出発する。

 戦略システムの改革は、目標コンセプトにあいまいさを残していても、見切り発車し、フィードバックを繰り返しながら妥当性を確認し、コンセプトの表現を操作的に明確化する。

 ここまで記述を進めてきて思うことは、「言うは易くして、行うは難し」である。このケースのむずかしさは、行うための忍耐力と知恵の出し方、しぼり方である。

 このシステムで成果を上げるには、長い時間を要する。長い経過の途中では、挫折することもある。挫折感に打ちのめされて途中で中止すれば、それまでの苦労が水の泡と消える。水の泡になるばかりでなく、企業の存亡が危うくなる。したがって、中止してはならない。挫折を乗り越えなければならない。挫折を乗り越える忍耐が必要である。長い道のりを通り抜ける忍耐力が必要なのである。そんな忍耐力をつくれるか、持続させられるか。むずかしい問題である。

 忍耐力持続のむずかしさを克服するためのキーワードは「組織の知恵」である。

 試行錯誤的問題解決を進めるためには、トータルイメージを共有化し、目標を設定し、スタート時の実施計画を作成し、それぞれの段階であいまいさが残っていても、見切り発車すればよいことを記述してきた。あいまいさは実施過程でフィードバックを繰り返し、実施計画を順次調整し、所期の成果を生み出すプロセスで是正しながら、妥当性を確認し、明確化すればよいということだ。

■組織的知恵

 以上を要約すれば、試行錯誤的問題解決とは、先例モデルのないケースで、あいまいさを残したまま見切り発車し、実施段階の各プロセスで調整しながら、所期の目的を実現することであるが、プロセスの各段階でさまざまなむずかしい問題に遭遇する。これらのむずかしい問題は先例モデルがないので、乗り越えるのがむずかしい。そんなむずかしさを克服するためには根気強く、忍耐力をもって、新しいオリジナルな解決方策を打ち出していかねばならない。オリジナルな方策をつくり出すのは、新しい知恵である。新しい、オリジナルな知恵を次々と打ち出して、障害を克服すれば、所期の目的は実現する。つまり、競争に勝ち残れる。

 オリジナルな知恵を打ち出すことによって、組織の忍耐力は持続し、強化される。忍耐力の強化とは、むずかしさに取り組む時の「またか」とため息をつくようなネガティブな姿勢を、「今度はオレが」というようなポジティブな意欲に変えることである。

 忍耐力の強化とオリジナルな知識開発の関係は、成熟期における組織の成熟に重要な一側面である。

 成熟期の企業間競争は、企業の組織的知恵くらべと言い直すこともできよう。

 なお、組織的知恵とは、ここまでもたびたびふれてきた通り、事にあたった時、個々人が集まり、問題解決のための知恵を出して話し合い、イメージを共有化し、さらに個々人の知恵を共有化されたイメージ実現のために修正、洗練し、組織としての知恵として結集した知恵である。

■“知識と知恵”

 この記述を進めているうちに思いだした小さなエピソードを紹介して、組織的知恵説を補完したい。

 マネジメントブーム花盛りの昭和40年前半の頃のことである。長年の実務生活を定年退職して、大学教授に転出していた大学校の大先輩と雑談していた時、「学生たちが集まっているところで、“知識をいくら集めても、何の役にも立たない。大事なことは、知恵を出すこと”と言うと、学生たちは一様にほっとした顔をする。だがその後、“広範にわたって掘り下げられた理論的知識を持たないと、よい知恵は出てこない”と付け加えると、一度輝いた顔も落胆の色に変わる」と、学生の不勉強ぶりを揶揄した。私はこの揶揄に同感して、声をあげて笑った。笑いながらも、“これはオレのことを皮肉っているのかな”と気がついて、顔がゆがんだ。

 組織のオリジナルな知恵を出すには、組織で知識を集蓄するステップづくりが決め手になる。

 さて、論述の局面を少し切り替えるが、商人舎の社長である結城さんはかねてより、「現代化の進む日本の小売産業では、『知識商人』が必要である」ことを強調している。結城さんが提唱する『知識商人』 とは、組織的知識を集蓄し、次々に遭遇する新しい事態にチャレンジして1つ1つ解決する組織的知恵をつくり出し、使いこなすことのできる人材、および人材グループをコンセプトとする熟語ではないか。

 ご意見、ご批判をいただければ幸甚である。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.33

2011年05月13日(金曜日)
カテゴリー:
  • 新プロセスモデル
  
3:14 PM

33. 新プロセスモデルの見切り発車

■新プロジェクトを進める際の注意事項

 商品リストアップの作業は商品部の部門別にバイヤーと店舗代表(スーパーバイザー、チーフなど)で会議方式で行えばよい。プログラム進行のためのプロジェクトチームが編成されていれば、プロジェクトチームからリーダーに参画してもらえば、さらに効果的であろう。

 この時点の注意事項は、次の2点である。
① 作業には相当時間を要するが、参画メンバーの他の役割に支障をきたさない程度に制限すべきである。
② 商品リストを作成するにあたって、アイテム数を決める時、コモディティ商品の陳列量を減らしすぎないことと、ライフスタイル商品のアイテム数が少なすぎて効果を得られないことの間のバランスのとり方を工夫すること。

 以上の2点を配慮しながらしていき時までに品揃表を作成し、十全感が得られなくても見切り発車してしまう。

■見切り発車後の注意事項

 その後、成果データをフィードバックして、次の商品リスト作成に役立てることになるが、この間の注意事項は次の通り:

 ① 計画決定後のプロセス、特に店舗の業務システムを決め事通りに進行するようにコントロールすること。これは主として、店長、チーフの役割の問題である。コントロール機能の優劣は成果に決定的な影響を及ぼす。したがって、成果データの適切な評価ができなくなる。

 例えば、単品の1日の平均売上パック数が2パックの場合、次の品揃えに継続すべきか否かを検討する。検討するに際し、商品づくり、陳列、鮮度管理などが決め事通り処理されていたならば、カットすべきと判断できる。逆に決め事が守られていないと、「守れば、5パック売れていたかもしれない」と思うことになり、決心がつかなくなる。

 成果データの信頼性は、業務システムのレベル、安定性と比例的関係をもつ。成果データの信頼性は、次のステップの商品リスト作成の精度、速度、作成者の意欲に決定的な影響をもたらす。

② ライフスタイル商品の成果データは見切り発車当初の1年間くらいは2週間ごとに成果データを店舗から商品部に店舗の分析所見をつけて報告すること。バイヤーが次の品揃表を作成するにあたって、もっとも中核的な最重要情報がこの成果データと所見である。所見は次の品揃表に反映されなくても、次の次、あるいは次の次の次には、反映されるものである。

 このような反復を繰り返す中で、情報は積み重ねられ、洗練され、品揃え改革に役立つ情報となっていく。役立つ情報は、時間シナジーの産物である。

■ストア・イメージの確立

 おいしさに焦点を当てたライフスタイル商品の品揃えは、おいしさがよく分からないままに見切り発車をしたのであるが、おいしさを分類するためには、おいしさのパターンが積み重ねられ、洗練されることを繰り返すことが基本となる。

 この間に農作物の植物科学のおいしさ、食品製造業で追求する食品科学のおいしさ、さらにはレストラン、料理教室などの料理研究のおいしさを勘案すれば、家庭が分類されるようになるはずである。

 一方、スーパーマーケットに役立つ家庭料理のおいしさの分類を進めていく過程で、ストア・イメージは順次明確化し、向上する。
ひいては、カスタマイゼーションが進む。

 家庭食のおいしさの分類が一次的に完結したと思える頃には、ストア・イメージは確立し、固定客数は増加し、安定する。したがって、業績も上がってくる。こんな連鎖関係を眺めていると、このプロジェクトの目標を品揃表作成に設定し、目標コンセプトをおいしさの分類基準の作成とすることの妥当性に確信を持てるようになってくる。これまた思考錯誤的問題解決の特性の1つであろう。

続きます

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