商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.19   

2009年08月11日(火曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
11:37 AM

第19回 マス・カスタマイゼーション―固定客づくりの試み

■“店舗づくり”の特長づくり

業者側が、お客の流出を防ぎ、流入を図り、自店の利用頻度を高めようとすることは、当然の課題となる。
そこで、スタンプを発行したり、ポイントカードを利用することとなった。
お客のストアロイヤリティを獲得するのが狙いである。しかし決定打としては程遠い。
お客はポイントを稼ぐことは楽しむが、ポイントを稼ぐために買い物場所を変える確率は極めて低い。まず、競合相手もポイントカードを導入すれば効果はさらに低くなる。

そこで、差別化のコンセプトが登場する。
荒井伸也氏が著書のなかで述べているように、食事材料の購買客は、何を買うかを決める前に、どの店で買うかを決めるのであるから、お客に選択される頻度の高くなる特長を、より多く“店舗づくり”に盛り込むことが、固定客づくりの着眼点となろう。
この場合“店舗づくり”の特長づくりが差別化ということになる。

マス・カスタマイゼーションの差別化を進めると、必然的に、品揃え、レイアウト、陳熱、販促、人的サービス等々に、新しいサブコンセプトが生まれる。

■コモディティアイテムとノンコモディティアイテム

若干の例を取り上げてみよう。

品揃えは、コモディティアイテムとコモディティアイテムに分け、ノンコモディティアイテムの強化を図る戦略を持っているSMがある。
コモディティアイテムは、昔は売れ筋商品と呼ばれ、ABC分析を行えばAクラスのトップ10に入るような、SMの品揃えには欠くことのできないアイテムである。
マスセールスの中核品グループで、鮮度管理(グロサリーの場合は賞味期限チェック)を行い、きちんと品揃えさえしておけば、よく売れる商品の総称である。
しばしば、特売の大目玉に使われる。

ノンコモディティ商品はライフスタイル商品と総称され、お客のライフスタイルにマッチするように開発されたアイテムである。
調理に手間をかけ過ぎたくないライフスタイルが増えたことに対応する商品は、ソリューションアイテムと呼ばれる。
惣菜部門の商品はすべて、ソリューションアイテムである。
日配商品のカテゴリーの中には、ソリューションアイテムが多い。
また鮮魚部門では刺身、青果部門のサラダ用のカット野菜の詰め合わせ、精肉部門のローストビーフ、生ハム、開ければすぐに食べられるハンバーグなども、ソリューションアイテムの代表例である。

以上は、品ぞろえ強化方針の差別化の例であるが、方針の差別化の結果は、必然的に品ぞろえが差別化され、その中に、他店にはないという意味での差別化商品も多く含まれる。

■広域商圏からの集客力をもつライフスタイルアイテム

その一例。

奥武蔵をドメインとする中堅どころのSM。惣菜を、別会社を設立してまで力を入れている。
このSMでは、「ジャンボチキンカツ」と名付けたアイテムを開発して、98円という大特価で毎週金曜日に販売している。 主原料は岩手産の地養鳥のモモ肉で、味も大変良いとの評判である。食べ盛りの子供を抱えているお母さんたちに、特に人気があるという。
秩父に通ずる国道のバイパス沿いに出店した新店では、この差別化商品の人気も手伝って、秩父市まで他にこれというほどの競争店もないことから、自動車30分以上もかかるような広域から、固定客を集めている。
広域から来店するお客は当然、コモディティアイテムはまとめ買いして、自動車に詰め込んで買える。

以上のように、ライフスタイルアイテムは、広域商圏からの集客力をもち、かつリピートしてもらえる。
これがカスタマイゼーションの役割を果たす。

またライフスタイルアイテムの強化は、ライフスタイルアイテム自体の売上げ、荒利益を増大するとともに、コモディティアイテムの業績向上にも貢献する。
まさに、マス・カスタマイゼーションのモデルプログラムといえよう。
なお、ライフスタイルアイテムのサブコンセプトには、これまた前述の、こだわり商品、安全・安心、故郷の味、等々をあげることができよう。
品揃えの差別化は、このようにして広がりを示すことになる。

■サブコンセプトで企業イメージが決まる

どんなサブコンセプトを選択するかによって、企業イメージ自体が差別化されてくる。
企業の購買客は、企業イメージに合わせて、当日の買い物に行くお店を選択するようになる。
これがマス・カスタマイゼーションの社会的機能である。
自分の好み、当日の都合に合わせて、買い物先、買い物し方の選択幅が広がることが、飽食の時代を迎えて久しい、我が国の食生活をさらに豊かなものに進展させるのである。

マス・カスタマイゼーションは、品揃えの差別化以外の“店舗づくり”の構成要素でも進められるべきである。特に販売促進も差別化して行うべきであろう。

続きます

コメント (0)

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.18  

2009年08月03日(月曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
10:45 AM

第18回 マス・カスタマイゼーション―買い物習慣の変移

■小売業の伝統的戦略
カスタマイゼーションは小売業の昔からの基本的に重要な戦略であった。それをマス化の進んだ今日、復活させようということである。
固定客は、昔はお得意さん、あるいは上得意などと呼ばれた。食品小売店、とりわけ
生鮮食品店の上得意客とは、毎日買い物に来てくれる主婦たちであった。
ただし、これは都市部でのこと。
田舎(ほとんど農村)では、おかず材料を毎日買い物するというような慣習は
なかった。自給自足を行っていた。農村の非農業者は、近所の農業者から分けてもらっていた。

都市部における毎日のおかず材料、合わせて子供たちのおやつの菓子の買い物は、主婦の日課であった。その主婦を取り込むために、小売業ではさまざまなサービスを行っていた。おまけをつけたり、今日は何がおいしいよと声をかけたり、子供をほめたりして、人間関係を強めていったのである。

マス化が進んだ今日、同じような手段で固定客を獲得することはできない。主婦の買い物行動が、まったくと言ってよいほど、変わってしまったからである。
昔は、ときには子供をおんぶして、歩いて買い物をしていた。したがって、住居最寄りの商店街ないしはマーケット(市場)へは、徒歩10分以内で行くことのできる範囲が限度であった。冷蔵庫などの保存設備もなかったので、毎日買い物をした。

現在では、専業主婦でも車で買い物をするので、遠方のスーパーマーケット、ショッピングセンターでも出かけられる。保存設備も整っているので、まとめ買いをする。このような背景が、マスの追求を可能にしてきた。
有職主婦は、職場付近の商店街、またはスーパーマーケット、電車のターミナルの商業施設(デパ地下など)、降車駅付近の商業施設、自宅付近の商店街など、買い物場所を選べる。おまけに休日には、自動車でまとめ買いをしている。
スーパーマーケットの利用客は、その時々に応じて、買い物場所を使い分けている。

続きます

コメント (0)

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.17   

2009年07月28日(火曜日)
カテゴリー:
  • マス・カスタマイゼーション
  
11:10 AM

第17回 マス・カスタマイゼーション―対立概念の両立

■マス・カスタマイゼーションとグローバリゼーション

スーパーマーケット(SM)の競争力の視点から、2つの戦略コンセプトを取り上げてみたい。
その1つは「マス・カスタマイゼーション」であり、第2は「グローバリゼーション」である。
以上の2つ以外にも、競争力強化という点では、より効果の大きい、また、時間的に優先させるべきコンセプトはいくつもあろう。
それにもかかわらず、この2つを取り上げるのは、ともに、SMチェーンの現代化に深い関係があるからである。

■「ハイ・マス・コンサンプション」近代の終焉

まず、マス・カスタマイゼーションから。
マスとは、マス・プロダクション、マスセールスのマスで、不特定多数の顧客を対象とした概念である。
イギリスの産業革命を皮切りに、ヨーロッパでは、工業化の進展に伴い、近代的産業システムが形成され、アメリカにも渡った。
フォードのベルトコンベアーシステムの開発により、マス・プロダクションのコンセプトは、一般的にも浸透した。
マスは、近代産業の立役者であった。

工業化が進展したため、一般大衆の所得が増大し、欧米においては、ハイ・マス・コンサンプション(consumption)、(高度、大量消費)が行われるようになり、生産と消費を結ぶ機能としてマス・セールが行われるようになった。
チェーンストアはマス・セールの花形である。
ハイ・マス・コンサンプションを続けた消費者は、安さだけの日用品、実用品だけでは、満足できなくなった。
特にアメリカでは、第二次世界大戦後、それまでは一世を風靡してきたバラエティストアやディスカウントハウスは、急激に業績を落とした。
生産者側も、消費者のライフスタイルに合わせて、商品を製造するように変わった。

マーケティングでは、セグメンテーションが大流行りとなり、小売業にも及んだ。
セグメンテーションでは、所得別、性別、職業別、年齢別、学歴別、人種別、TPO別等々、さまざまな区分法を使い、産業ごとに多くの試みがなされ、成功を収めたものあり、失敗に終わったものもあった。
ともあれ、近代は、工業化に始まり、マスの追求の時代であった。
とすれば、近代は終焉したのである。

■伝統的な小売業の戦略路線復活

昭和40年ごろ、アメリカでも、SMの店長の役割で、一番重要なものの1つに、「顧客の名前を正確に覚え、時間をつくって、店頭に立ち、『グッドモーニング、ミセス○○』と挨拶すること」と説明するチェーンストアがあった。
人的つながりをつくって、顧客を固定化しようとする試みであったのであろう。
サービス業、小売業では、セグメンテーションに加えて、固定客づくりが
求められている。

わが国では、昔は(私の子供のころの思い出であるが)、酒屋、クリーニング屋などが御用聞きに来た。
お屋敷には、魚屋や肉屋までが御用聞きに来たようであった。固定客で、商売を成立させていたのであろう。
つけ売りなどは、固定客づくりのもっとも有効なサービスであったと思われる。
その頃、固定化されたお客の側は、多少の不満はあっても、いわゆる浮気がいはしないのが常識であった。義理が立たない、というのが、その理由であった。

小売業の上述のような文化は、近代化とともに一時、消滅したかに見えた。業者側はマスを追求し、顧客側も、経済性を最優先するようになったからである。
思い起こせば、昭和30年代の我が国のチェーンストアの創設期、商業指導者が、チェーンストアは商業の工業化であると説いていた。
近代化イコール工業化ということであった。
標準化、コスト削減など、工業で開発された技術も、小売業のマネジメントにも多く導入された。

これまで見てきたように、マスとカスタマイゼーションとは、相互に、相いれない対立した概念であった。
その2つの概念を今後は、両立させようという狙いが、マス・カスタマイゼーションのコンセプトということである。

続きます

コメント (0)
<次のページ
前のページ>
商人舎サイトマップ お問い合わせ
カレンダー
2015年4月
月 火 水 木 金 土 日
« 8月    
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  
指定月の記事を読む
カテゴリー
  • こだわり商品 (2)
  • ことわざから学ぶ (1)
  • カスタマイゼーションの効用 (1)
  • グローバリゼーション (13)
  • コンセプトの効用 (3)
  • スーパーマーケットのマーケティング (13)
  • スーパーマーケットの店舗づくり (1)
  • スーパーマーケットの未来 (1)
  • チェーンストア (1)
  • マス・カスタマイゼーション (10)
  • マス・カスタマイゼーションの準備段階 (2)
  • マーケティング (5)
  • リーダーシップ (1)
  • 事務局 (2)
  • 企業使命の重要性 (1)
  • 企業文化 (2)
  • 利益の概念 (1)
  • 商業の現代化 (2)
  • 固定客づくり (2)
  • 新プロセスモデル (5)
  • 業態の転機 (1)
  • 競争力は開発・改善スピード競争の成果 (1)
  • 筆者からのメッセージ (2)
  • 組織の変容 (4)
  • 組織計画 (1)
  • 組織計画は組織力強化不可欠の基礎条件 (1)
  • 組織計画は設計するだけでは機能しない (1)
  • 試行錯誤的問題解決 (3)
  • 賢者は歴史に学ぶ (1)
  • 週間販促計画に見る効率的な組織の運用 (2)
最新記事
  • 2011年08月05日(金曜日)
    【最終回】 スーパーマーケットのマーケティング Vol.41
  • 2011年07月13日(水曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.40
  • 2011年07月07日(木曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.39
  • 2011年07月01日(金曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.38
  • 2011年06月24日(金曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.37
最新コメント
  • 2010年12月14日(火曜日)
    ワンダーウーマン :スーパーマーケットのマーケティング V...にコメントしました
  • 2010年07月04日(日曜日)
    ヒロロ :スーパーマーケットの競争力強化の視点...にコメントしました
  • ホームに戻る
  • トップに戻る
  • 友達・上司・部下に知らせる

掲載の記事・写真・動画等の無断転載を禁じます。
Copyright © 2008-2014 Shoninsha Co., Ltd. All rights reserved.