商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.13

2009年06月09日(火曜日)
カテゴリー:
  • マーケティング
  
7:00 PM

第13回 マーケティング―こだわり商品

■欲張りな王様

王様の満足は長続きしない。一度満足しても、すぐ次の欲しいものを求める。欲張りなのである。
鮮度も求めたが、冷食も求めた。安心・安全に対する欲求は特に強かった。
パスタに人気が集まると思ったら、故郷の味、次は中国はもとより韓国、台湾、マレーシア、ベトナム等々の料理・食材も欲しがる。

先にも述べたように、王様の要求は分類可能なもの、継続性のあるものもあるが、ワンタイムのもの、突然変異で出現し、後は継続するものなどさまざまである。
このような食生活の変化の中に、分類的には味に属する次のような事象がある。
それは味に対するこだわりである。
飽食の中で消費者は選択の自由を楽しんでいるうちに自分好みの味にこだわるようになってきた。そしてこだわる人が増えている。

前記のような人は、現在輸入品の特定ブランドのワインの味にこだわっている。
このワインはカルフールの後店にしか品揃えしていないので、友人は毎週20~30分のドライブをして、このワインを購買している。

■■黒田節子さんのいう「コダワリ商品」

黒田節子さんは特定のブランドないしはカテゴリーに属するアイテムの味にこだわり、多少時間をかけても、あるいは値段が高くても買われる商品を「コダワリ商品」と呼んだ。
現在「コダワリ商品」が徐々に増えつつある。
私自身は少年期には「出された食べ物は何でも感謝して食べなさい」と言う教育を受けながら育った。好き嫌いは極めて少ない。
しかし昨今は、食べられる量が少なくたって、「少し高くてもおいしいものが食べたい」と思うようになっている。また、若い頃からの釣り好きであったことも手伝って、刺身のおいしさ・鮮度にはこだわっている。
今年の冬はソイ・アイナメの刺身を食べられた毎食、楽しかった。一週間に1~2回はこんな刺身を食べたいと思っている。

しかし地元のスーパーマーケットにはこんな商材は滅多に登場しない。日替り、週替りのおいしい近海魚の刺身コーナーがあれば…と思うことがしばしばである。
また、すき焼きに入れるねぎは、下仁田ねぎが素晴らしいと思っている。下仁田ねぎが使われていないすき焼きは、私には価値が半減される。

先日、東京野菜復活のニュースをテレビで見た。
子供の頃、母に作ってもらった大根おろし、霜で葉先がチリチリになった根元の高い甘いほうれん草の味を思い出し、スーパーマーケットでも早く品揃えしてもらえないかと願っている。
味にこだわりの少ない私でもおいしさを求める。それが豊かな食生活の本質だからであろう。

人は美味しいものを食べると満足する。
また食べたくなる。
他のものでもおいしく食べたくなる。
さらにもっとおいしいもの、ないしはおいしく食べたくなる。

何をおいしいと思うかは人によって異なる。
また、病弱な人はおいしさよりは健康思考を優先させるかもしれない。若い世代では満腹感や栄養思考を優先するかもしれない。
しかし、異なる優先思考の中でもおいしさは追及されている。特に病弱な人は本人がおいしいと思わねば、元気を快復させられない。

■■■消費者が「こだわる商品」を研究せよ

スーパーマーケットはアメリカのスーパーマーケットの生い立ちの影響をあって、これまで経済性を最優先させて今日に及んでいる。
具体的には安さの追求である。
もちろん、市場主義社会では経済性は最重視すべき課題である。しかし経済性重視のあまり、効率にとらわれ過ぎ、人間に大事な他の領域、嗜好・五感性などを軽視したことを認めざるを得ない。

例えば業界指導者は品揃えの絞り込みを強調した。
ABC分析による上位品目に絞り込めというわけだ。
昭和から平成に移り変わる頃から、一部に差別化のためにはABC分析の中位・下位からもこれは育てたいと思う商品を定番化すべきだという声が上がった。
しかし、この声は異端視され、またバイヤーの「こだわり商品」にとどまった。

今回ここで取り上げる「こだわり商品」とは、消費者の「こだわる商品」で、バイヤーは「こだわり」を捨てた冷静な目で観察しなければならない。

「こだわり商品」の研究はまだ少ない。これからのスーパーマーケットのマーケティングの重要研究テーマであり、一企業の手に余る問題でもある。
しかし、消費者は自分の好みの味をデパ地下の食品売場・通販システムなどで見つけようとしている。
スーパーマーケットはスーパーマーケットの扱うべき「こだわり商品」をデパ地下・通販などを参考に模索すべきである。 スーパーマーケットの扱う「こだわり商品」には、売れ筋商品としてABC分析の上位にランクされるアイテムに育つ可能性もある。
ともあれ「こだわり商品」の育成は、今日のスーパーマーケットの競争力の主要な柱の一つで、マーケティング上の重要課題である。

続きます

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スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.12

2009年06月08日(月曜日)
カテゴリー:
  • マーケティング
  
1:26 PM

第12回 マーケティング――お客様は王様

■気まぐれな食生活者

食生活は、大勢はトレンドによって変化を続けるが、時には反流や渦巻を起したり、部分的には気まぐれな現象を起す。
欧米では、時には気まぐれを起す食生活者を、王様にたとえる。
我が国で「お客様は神様です」と言う人もいるが、キリスト教国では神様が間違えを侵したり、我がままを通そうとすることは考えられないので、絶対的な権力を握ってはいるが、気まぐれ、我がままなお客を王様と呼ぶのである。
つまり、お客様には逆らわないということである。

さて、先に述べた私の友人は、年齢は60才、2人の子供の学校教育を終えた典型的な普通の男で、年収は500万前後、外国生活の経験もない。もちろん、いわゆる食通でもないが、食いしん坊である。
日頃「高いものが美味しいのは当たり前で、安くておいしいのでなければ価値はない」などとうそぶいている。
ワインが好きになったと言っているが、その前は焼酎を愛飲していた。多分1本1000円以下の輸入品のワインで、自分の舌に合うものを見つけたのであろう。

ワインに合う食材云々とも述べたが、フランス風の食材とは限らない。
ちなみに私自身のことであるが、朝食にはトーストを食べることが多いが、トーストの前に豆腐か揚げの入った仙台味噌の味噌汁をとるのが好きである。
和洋折衷というより和洋ミックスである。
友人のワインに合った食材もまた、和洋・東洋ミックスであろう。

■■横に広がる選択肢こそ豊かさ

飽食と呼ばれるようになって久しい。
我が国の食生活は多様化が進み、変節とも言えるような好みの変化を楽しむ人間が増えている。
豊かさとはかつてのように、低額品から高額に移行することではなく、横に広がる選択肢の中から自分の好みを探し出すことに変わっている。
いわゆる貧困層を除き、昔風にいえば中間層以上の消費者は選択の自由を楽しんでいる。
そして今日の不況の中でもその意味で豊かさを求める勢いはむしろ強まっている。

豊かさを求める力が強まるということは、現状に満足できないということである。
おいしいと思った珍しい食材を日常的に入手したくなる。
また、他にもおいしい食材を探したくなる。
さらに、同じ食材でもっとおいしいものはないか、あるいは、もっとおいしく食べるための調理法はないか、しかも簡単にと、きりが無く貪欲である。
だから王様と呼ばれるのである。

再び言い換えれば、一度は気に入った店でも、変化(進歩)の乏しいマンネリ化した店にはすぐ飽きるのである。

初夏の飯能で、釣り、ゴルフ、執筆にいそしむ杉山先生。まだまだ考察は続きます。

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スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.11

2009年05月24日(日曜日)
カテゴリー:
  • マーケティング
  
4:03 PM

第11回 マーケティング―鳥の目、虫の目

競争が激化するに伴い、試行錯誤による実験でしか、その効果を確かめられない品揃え、販促などの新しい課題がふえてくる。
各企業は、これらの課題をスピーディにこなせる業務システムを整えるとともに、多忙なルーティン業務の中でも、新課題における自分の役割を楽しむような企業文化を育てなければならなくなっている。

■黒田節子氏のマーケティング定義

さて、このようなイノベーティブな企業文化の目は、どこに向けられるべきであるか。
いうまでもなく、お客様である。

黒田節子さんは、数冊の著書の中で、「SMのマーケティングとは、改革を、お客の食生活にマッチさせること」と定義し、食生活を買物行動、調理行動、食べ方の3つの領域に分類し、ミスマッチの事例、およびマッチングの仕方を解説している。
これらの著書が出版された当時と現在では、食生活も、SMの経営化のあり方も、また変化している。食生活とSM経営活動は相互作用の関係にあり、ともに変化し続けるので、SMの政策が、食生活と完全にマッチする瞬間はあり得ない。

EUに根拠をおくカルフールは、アジアにも進出し、日本にも上陸した。結局、日本人の食生活とのマッチングには失敗し、撤退したが、その置き土産には、興味深いものがある。
カルフールのあった店まで、車で20~30分のところに住んでいる友人の話であるが、その後、日本企業の経営に変わった店では、ワインの品揃えが良く、買物もしやすいので、たびたび行くようになった。
また、ワインに適した食材も、他のSMとは少し違って、気の利いた商品が揃っていて(例えばチーズ)、よく利用する、という。
カルフールのスタッフが聞けば、なんと思うであろうか。

■■食生活を見つめる2つの目

企業文化の目は、食生活に向けるべきと述べたが、まさに、その目は、ここで述べた友人のようなお客の食生活も捉えるべきなのだ。
食生活は、中長期的にみれば、確かにトレンドを示している。
モータリゼーションによるショッピング行動、西欧化に始まりグローバル化の真っただ中にある調理法、食材の調達システム、健康志向を中核とする安心安全の傾向、主婦の有職化に伴う買い方、調理法、ならびに外食を含む食べ方の変化、等等は、一定のトレンドを示しながら、変化を続けている。
しかし、反面では、上述の友人のように、気まぐれとしか捉えられない変化もある。気まぐれ的変化も見過ごしてはならない。

トレンドが明確化しだすと、あたかも川の流れのように、澱みの部分が発生し、そこには渦巻きや反流が生じるような現象が現れる。
例えば、モータリゼーションの反応として、住宅密集地区における、惣菜部門主体のスーパーレット、コンビニストアの利用、グローバリゼーションの反流として、地元物産の見直し、おふくろの味などが挙げられよう。

トレンドをじっと見据えるためには、鳥のように高いところから全体を見渡す目が必要である。気まぐれ的変化は、同じ目線に立って、細かなところまで見逃すことのないような、いわば虫の目でなければならない。
反流、渦巻きの現象を見る目は、上記2つをあわせもつ機能が求められる。

■■■小売業者が得意な目、不得手な目

鳥の目は、政治、経済に携わるものすべてがもっている目で、学者、研究者が特に優れ、理論化も進められてきた。
流通業者、特に小売業者は、この点で少し遅れていた。これからは巻き返しが求められている。

虫の目は、流通業者、特に小売業者が得意とする分野で、他者にはこの目で、この目で現象を見る機会が与えられない。
ただし、小売業者たちは一般化、理論化はしてこなかった。この点が、たびたび触れてきた「効率的な試行錯誤システム」の開発を遅れさせてきた主要な原因となっている。

両社をあわせもつ目のつけどころは、再び川を例えにとれば、魚類が集まりやすく、市場機会に恵まれた分野である。

続きます

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