商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.10

2009年05月18日(月曜日)
カテゴリー:
  • 企業文化
  
9:47 AM

第10回 企業文化―効率的な試行錯誤システム

■迷信的タブーと未知なる課題

わが国で、SMが業態を確立したと宣言し、成長期を迎えた昭和40年代に、業界には迷信タブーが数多くあった。SMは惣菜を扱うべきでない。現在では、ソリューション・アイテムとして、競争面で欠かせない差別化のための花形部門となっている。
また、タイやヒラメのような高級魚を扱うべきでない。イワシ、サンマ、アジ、サバなどの大衆魚、それも冷凍魚でよい、という考え方が、業界の主流の考え方であった。現在では、高級魚と大衆魚の区別もあいまいになり、迷信的タブーに悩まされている間に、デパ地下の食品売場に地歩を奪われた。
振り返ってみると、SMも確信を遂げたしものである。
しかし、リスクを覚悟で自ら、積極的に確信を進めた企業は少なく、後追いでしぶしぶ、しかし苦労して改革を行ってきた企業が、今、劣位にある。
劣位企業は、これからの競争に勝ち残るためには、後追い主義から脱して、未知なる課題に取り組まねばならない。

例えば、大根の品揃えは、青首のほかに、何なにを加えれば、客数は増えるのか。大根全体の売り上げ増につながるのか。その場合、青首の売上数量に影響はあるのか、ないのか。
販促面でも、カテゴリー内で、1アイテムだけお勧め品を打ち出すのと、複数のアイテムを同時に打ち出すのでは、どんな違いがあるのか。エブリデー・ロープライスとチラシ特売の違いは、チラシ特売の値引き率はどのくらいか、売り上げ面で最大効果をあげるのか。これらの試みを、日配品と干物で比較すると効果の違いがあるのか、ないのか。このように、営業各分野において未知の課題は山のようにある。

■■試行錯誤的アプローチ

現在の品揃え、販促、サービス、その他のコンセプトに基づき、未知の課題を次々と実施(実験)し、その成果のフィードバックを繰り返すこと自体、売り上げの向上に貢献するが、フィードバックはデータの蓄積の中から、新たな営業ノウハウを開発することになり、営業の各コンセプトを発展的に修正することにつながる。
新たなノウハウの開発と、コンセプトの発展的修正こそが、SM競争力強化の中核的課題といえよう。
結果の予測が難しい(まだわかっていない)問題を、いろいろ試しながら確かめていく方法を、「試行錯誤(トライアンドエラー)的アプローチ」という。

自然科学の分野では、試行錯誤は専任者が実験室で行う。
しかし、小売業には実験室はない。また、特定の施設で行ったのでは実験にならない。
現実にある店舗で、現実の顧客の反応を確かめるためのトライアルでなければならないからだ。
現実の店舗では、日常の業務を行っているので、実験をしている暇などない。
試行錯誤的課題(しばしば、単なる思いつきと軽視されがちである)は、日常業務の中でこなさなければならない。現に、今までも、こなしてきたのである。
これらの課題の大多数は、本部の商品部、販促部、店舗運営部などで計画され、日常の営業会議で、品揃え計画、販促計画などにおりこまれ、各店舗に伝達される。
店舗でも、定番商品、販促商品別にルーティンな処理基準にしたがって、処理される。

一連の処理システムの流れの中で、特に大きなことは、
①当該課題の目的と処理方法が、計画者から店舗側に十分に説明されること。
②店舗では、計画的に処理されること。
③当該計画の商品以外の商品の“売場づくり”も平常通り安定させておくこと。
④当該計画の成果データを(必要ならば時間帯別に)正確に記録すること。
⑤店舗からは、顧客の反応行動を、可能な限り多く報告書にまとめること。
⑥店舗側の意見を報告すること。
⑦計画者は必ず、実施の結果を総括して、そのまま継続、修正して再チャレンジ、あるいは廃止の意見をつけて、報告書をまとめること。

これらの7つのステップを、それぞれの役割を担う全員が遵守すれば、営業ノウハウが改革される。
また、次々に店舗で現れる新しい企画に、顧客は店舗(企業)イメージを変えるであろう。つまり、客数が増えるであろう。
しかし、これらのステップを全員が、すぐ遵守するであろうか?
企業文化が、イノベーティブで、改革に協力するのは当然だ、自らが参画したがる組織であれば、比較的容易に受け入れられよう。
しかし逆に、既存のノウハウをフルに使って予算達成することが最高、というような気風の組織では、一笑に付されてしまうような構想にすぎない。
後者のような企業でも、これからの競争では、新しいノウハウ開発は必要になる。

■■■イノベーティブな企業文化

以上、少し長すぎるほど経緯を述べてきたが、要約すれば、これからの競争では、試行錯誤的にマーチャンダイジング、販促、サービス等に、新しいノウハウ開発が必要になる。
そして、試行錯誤を効率的に行うためには、イノベーティブな企業文化が前提となる。
企業文化は変容する。
これは、操作することはできるが、コントロールすることはできない。
したがって、クリエーティブな組織文化づくりに挑戦することが、試行錯誤を必要とする、最優先すべき最重要課題といえることになる。
そして、挑戦を続けていくと、レイバースケジューリングなどの店内業務システム、データシステム、各種の手続きシステム、役割システム、人事の業務評価システム、教育システム等の改変に影響する大プロジェクトに発展する可能性が大きい。
それだけに、つまずくと、企業内に大混乱を起こしかねないリスクを背負っている。

最終的にまとめの一言。
SM企業も、企業文化について、もっと目を向ける必要がある。

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スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.9

2009年05月11日(月曜日)
カテゴリー:
  • 企業文化
  
11:40 AM

第9回  企業文化

前回は、競争力強化のためには、組織改革の必要な企業があり、組織は変容することについて述べた。
組織は、企業の成長期には、規模の拡大に伴い、創業期とは別の気風に変容するが、やがて安定する。一度安定した組織の気風は、組織改革を行うとまた変容するが、これもまた安定する。

■カルチャーショック
安定した気風は、社風、組織風土などと呼ばれてきたが、昨今は、企業文化、または組織文化と呼び、専門の研究者も増えている。
文化は個人の人格形成に底知れぬ影響力をもっている。
幼いうちから、ピアノやバイオリンを習い始め、ヨーロッパに留学し、国際コンテストで入賞し、現地で演奏活動を続け、一流と認められている日本人の音楽家が、一定年齢に達すると、「やはり私は、日本人であった」と述懐するほど、日本人は、日本文化の影響を受けるものである。

高度成長期であったエピソードを一つ。
旧財閥系の銀行、商社、保険会社が共同で、リース会社を設立した。社員も3社から派遣された。創業以来、業績は、順調に伸び続けていた。
銀行の常務から転出してきたリース会社の社長は、好調な業績にも関わらず、不安を感じていた。組織がしっくり動かないのだという。
社員たちの間に、いわゆるカルチャーショックがあり、ショックが顕在化し出したのであった。
社員が出身企業別に派閥を作り、いがみ合うという気配ではないが、話がかみ合わず、活性が失われがちになったという。
話がかみ合わない原因の一つに、用語の意味が微妙に違うということがあった。
例えば、利益という言葉の意味を、商社出身者はフローの意味で使い、金融出身者はストックに重きをおいた。このほかの考え方でも、微妙な違いが多く、従業員をいらだたせた。
このエピソードで明らかなように、従業員たちは、それぞれの出身企業の企業文化を知らないうちに身につけながら、職業人としての人格を形成していたのである。
ある文化は、異質な文化に触れると、ショックを起こすものである。
カルチャーショックは、起きるものである。
このショックを放置すると、両文化の関係は悪化しがちである。憎み合うことにもなりかねない。イスラエルとイスラム諸国およびキリスト教諸国の三つ巴の関係が好例である。誰も手をつけられなくなっていている。
今後は、SM産業の中にも、合併・提携する企業が増えるかと予想されるが、カルチャーショックの兆候が現れたら、相手方を屈服させようとはせず、共生の道を模索することが必要である。そこに両者が受け入れる新しい文化が生まれる。

■■組織改革に必要な3つの文化特性

さて、ここで再び話を競争力に戻すことにする。
競争力の強いSMであるためには、どのような企業文化特性が必要か。
言葉をかえれば、組織改革に当たっては、どんな企業文化特性を目標とすべきか。
現在の企業特性に照らして考えれば、無数といえるほどの特性が考えられるが、ここでは一般的に、次の3つに要約する。

第1は、イノベーティブな課題にたずさわり、自分の役割を忠実に果たすことを楽しむ気質である。

 第2は、顧客の食生活の向上に貢献するために、その実態を調べ、変化の方向を見定めようとする心構えである。

 第3は、企業の期間利益目標にストイックな思考、行動を行うことである。

以下、順を追って、少し掘り下げて考えることにする。

続きます

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スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.8

2009年05月07日(木曜日)
カテゴリー:
  • 組織の変容
  
4:04 PM

第8回 組織の変容 まとめ

改革を進めるためには、組織の変容が必要な場合が少なくない。
しかし、組織は、説教や説得で変容することは、まずないといって差し支えない。
改善、開発の成功を積み重ねるうちに、変容していくのである。

■プロジェクトリーダーの権威

したがって、改革を成し遂げるためには、
初めのプロジェクトは成功させなければならない。
プログラムのリーダーの選択は、特に慎重に行われるべきである。
リーダーには権威が求められる。
ここでいう権威とは、過去に実績をもち、人望のある人ということである。
権威者か権力者(職制の地位にある人)である場合、それにこしたことはないが、
権力は握っていても、権威を認められていない人物をリーダーにすると逆効果となる。
権力による強制には、反発が高まるからである。

適任者が見当たらない場合、社長が自ら、実施リーダーになってでも、
一番目のプログラムは成功させることが肝要である。
プログラムが成功した場合、関係者を褒賞することも大切である。
褒賞は個人に与えてもよいが、グループを対象とする方が、
組織変容には効果が大きいといえよう。

■■成果の積み重ねが組織体質を変容させる

以上を要約すると、明確なコンセプトに基づくマスタープランを作成し、
そのコンセプトおよびマスタープランの内容を、
中堅幹部以上に分かりやすく説明することが、スタートである。

次いで、自社の体質でもこなしやすく、
比較的短期に、数値で表せるような成果が確認しやすいプログラムを選び、
最適任者をプログラムリーダーにして、関係者に成功を味わわせる。

第1のプログラムの成果の兆しが見えたら、可能ならば同時並行的に、
不可能な場合はプログラム終了後、
直ちに、第2のプログラムをスタートさせること。
プログラム進行中は、新課題を忠実に実行させることが最も大切で、
それが、リーダーの最重要役割である。
ただし、権力を笠に、高圧的に強制すると逆効果である。

なお、プログラムが成果を収めた時には、適切な褒賞を与えること。

以上のような、開発、改善の成功を積み重ねているうちに、
組織体質は変容していくのである。

<次回は「企業文化」について述べていただきます。—-事務局>

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