商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.7

2009年04月28日(火曜日)
カテゴリー:
  • 組織の変容
  
11:10 AM

第7回 組織変容の手順

■マスタープランの必要性を十分に理解させる

マスタープランは、企業特性により、また、組織の成熟度により、各社ごとにかなり異なるものになるであろう。
また、自社には、マスタープランづくりの適任者がいない、ないしは、ルーティン業務の手が抜けないなどの理由により、マスタープランづくりにも困難な企業もあるかも知れない。
その場合には、外部コンサルタントを利用するのも一つの方法である。
マスタープランは説明されなければならない。
少なくとも、中堅幹部以上には、なぜ何々を、どのようにするのかを、分かりやすく説明することが大切である。その中で、どのような考え方をして、プランを作成したかも理解させておくことが肝要である。
しかし、十分説明したから、改革が成功するはずだと考えるのは、早計に過ぎる。
この種の過ちを何度も繰り返し、部下を信用できなくなった経営者、マネジャーは後を絶たない。これらの人たちは、最終的には、部下からも信頼を失っている。

■■短期で数値が変われば意識は変わる

改革は最終的には、現場の人たちの仕事の仕方を変えるものである。
ところで普通の人は、人に指図されて慣れた仕事の仕方を変えようとはしない。古くからいる人、仕事熱心な人ほど、仕方を変えさせられると、抵抗することが少なくない。
本人は、ベストの方法と信じていることが多いからである。
これらの人たちには、成功を体験させることが決め手になる。
仕事熱心な人たちには、新しい方法を実践させて、今までのやり方より、もっと良い方法もあることを体験させる。仕事にマンネリ感を持っている人には、変えることによって、働きがいを体験させることが、これらの人たちの意識改革のきっかけとなる。
プロジェクトの成功が積み重なると、改革の意義が、ないしは、その底に流れる考え方を本当に理解するようになる。
したがって、改革の初めに取り上げるプロジェクトは、成果が短期に上がり、その成果が数値で表れるものが望ましい。

■■■初期サミットにみる改革例

少し古いことになるが、昭和40年代に、サミットが、オール日本スーパーマーケット協会に加盟し、関西スーパーマーケットの指導の下に、本格的な改革に取り組み出したころのケースがある。
売価決めを、各店別から、商品部一括に切り替えようとしたが、店側から反対の声が上がった。
「関西スーパーに追いつけ、追いこせ」でやっているのだから、まずは関西スーパー並みにやってみようということで、商品部一括仕入れを実施する。その結果、売り上げが減少した店もなく、粗利益額は急上昇。しかも、粗利益率も店別のバラつきがほとんどなくなった。
その後、同社では、職人的な、やみくもの反対がなくなり、改革のスピードアップが進んだという。同社の組織は、数年の短期間のうちに、目を見張る変容を遂げる。今日の基礎固めが行われたのである。
組織が変容すると、個人の意識も変わり、能力も開発される。好例であった。

続きます

コメント (0)

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol. 6

2009年04月22日(水曜日)
カテゴリー:
  • 組織の変容
  
11:30 AM

第6回 組織の変容

■うちの会社では、まだ無理

現在、競争面で、多少劣位に甘んじているSMで、まま見られることであるが、少し複雑、かつ、レベルの高い改革提案に接すると、「うちの会社では、まだ無理」という声が聞かれる。
無理な理由としては、マンパワーの質・量の不足、改革課題をサポートする関連サブシステムの未整備などがあげられる。
さらには、賛成者が少ない、協力が得られないなどの理由もつけ加えられる。
協力が得られないのでは、課題は成功するはずがないので、改革案は没ということになる。
しかし、こんな決定を続けていても良いのか。
劣位から脱することはできないに止まらず、企業の存続すら危うくなる。

開発・改善プロジェクトの決定に際しては、まず、有効性、必要性の見直し、他プロジェクトとの優先順位を検討する必要もあろう。
困難さ、コスト(時間、人的ネルギーも含む)から検討を始めて、没にするというような決定を繰り返してきたから、現在、劣位に甘んじているのではあるまいか。
特に、協力が得られない云々…を理由に挙げられる企業では、反対者を協力者に変える
ところから、改革に取り組まなければならない。

■■「なすは、なさざるに勝る」

小売業には、昔から「なすは、なさざるに勝る」という格言を遵守し、理想を求めて、空論を戦わすことを諌め、今日、明日の仕事に行を流すことを評価する気風がある。
そのため、「やれること、やりやすいことから、やれ」という意思決定が行われてきた。一歩前進すればよいというわけだ。
これは、難しいことは後回し、できればやりたくないという、気風につながる。コストを増やして、より、多くの収益を求めるという積極性にブレーキをかけてきた。
それでも、今までは、やってこられた。むしろ、健全経営と評されてきた。
しかし、SM産業も、成熟期を迎え、しばらく経過した今日、格言の解釈を変えねばならない。
いわく、「(他社のできないことを)なせるは、なさざる、なせざるに勝る」。

■■■マスタープランづくり

競争力を強化するためには、当然のことながら、多くの施策が必要である。既存の多種多様なサブシステムの再整備が必要であろう。
また、出店戦略ならびにマーチャンダイジング戦略の開発、修正。その中で、企業特性の創造、確立の課題などがある。
これらの情報をどのように処理していくかの構想をまとめて、マスタープランとし、ここの課題をプログラム化しなければならない。
まず、そのマスタープランづくりであるが、優位にあるSMは比較的、楽に進めることができる。現在、優位を占めている戦略的条件を分析し、それらの条件の中で、今後、より強化すべきもの、ならびに、今のうちに、再整備すべきサブシステムをリストアップすればよい。
また、今までは取り上げていなかった、新戦略の開発が実施できれば、優位性はさらに強化される。
これに対し、劣位企業は大変である。
現在の戦略路線の変更の必要性の有無の検討から始めなければならない。そこで、決められた路線を実施するために、既存サブシステムを整備しなおし、強化するプログラムを多数スケジュール化して、マスタープランに盛り込まなければならない。
ところで、このように苦労して作成した改革のためのマスタープランは、「難しいことは後回し」の体質が色濃く残っているSMには、全社的協力体制づくりという難題にぶつかる。

続きます

コメント (0)

スーパーマーケットの競争力強化の視点 vol.5

2009年04月08日(水曜日)
カテゴリー:
  • 組織計画は設計するだけでは機能しない
  
5:37 PM

第5回 組織計画は、設計だけでは機能しない

SMの競争力強化には、効率的なプロセスモデルを作成し、各プロセスの処理方法を定め、その担当者を決めること、すなわち、組織計画を設計することが欠かせない。

■組織は常にトラブルを抱えている

とはいえ、組織で仕事をしている人ならだれでも知っている通り、いくら優れた組織計画を作成しても、それだけでは、ほとんど役に立たない。
組織計画書は画餅にすぎない。
生きている組織は、組織計画者の組織の意図とは別の動きを見せるものである。
例をあげればきりがないが、SMチェーンでも、初期には仕入れと販売を分離することにすら抵抗する者がいた。
まして、値入れや品揃えを商品部で行うことに反対する、いわゆる職人気質には、手を焼いた経営者は少なくなかった。
その後も部門間の抗争、非協力、人事をめぐるステータス葛藤、派閥問題等々に起因するトラブルが後を絶たない企業は少なくない。
いや、正確にいえば、完全な人間が実在しないように、万全な組織など、この世にはないのである。組織は、常に何らかのトラブルを抱えている。

■■組織の凝集力を測る3つの指標

一般に、組織の「凝集力の精度」を測る場合、次の3つの指標が用いられる。

①意思統一の度合い
②目標達成の意欲
③協業度

能力が高い組織とは、これらの指標の程度が高く、さらに高まる傾向にある組織である。
その逆も真である。
では、どうすれば、指標の程度を高められるか。
これは医術に万能薬がないように、絶対的な技法はない。
万能薬はないが、組織力強化に役立つ研究は、数多く進められている。
SM企業は、マーチャンダイジング、マーケティングの研究とともに組織力強化の調査、導入に、責任者を置いて、力を入れるべきであろう。
あるべき論はさておき、初歩的シナリオを紹介してみる。
シナリオ紹介に先立ち、意識改革について私見を述べさせていただく。
組織力強化は、結果的に、個々人の意識改革が必要だからである。

■■■意識改革の必要性をだれもが感じているが

私が、企業のお手伝いをしていた頃、夕食を共にしていたときなどの雑談の中で、たびたび、「意識改革の必要性」が話題になった。
トップはもとより、店長、バイヤー、チーフ、入社後2~3年の社員まで、異口同音に意識改革の必要性を唱えた。
始めのころは、これほど意識改革の必要性を感じている人が揃っているのだから、改革はすぐにも進むと錯覚した。
こうした人たちと、業務改革を進めていて気がついたのだが、彼らは、すべて、上司、同僚、部下など、他人の意識改革を求めていたのである。つまり、自分と意を異にする他人に、自分の意見に従うようになって欲しいということであった。
議論しても、分かってもらえない。だから意識を変えて、自分の意見を分かるようになってもらいたいというわけだった。

■■■■自分は正しいと信じている

ここで大事なことは、「議論をしても、分かってもらえない」というくだりである。
ここでいう意識とは、心理学でいう態度、つまり、情報を受け取る姿勢のことである。
人間の態度は、その人の、その時期までの人生経験の中で形成される。
そして人は一度、形成された自身の態度を、他人(親や上司も含む)の説教や理論的説明で変えることは、きわめて稀である。
よく勉強しない人、真面目に働いていない人などは、自らの態度を変えようとしない。
平たく言えば、自分は正しいと信じているからである。
先に職人気質に云々…と述べたが、彼らは自分が正しいと信じていたからこそ、頑固に拒絶したのである。
企業のお手伝いを始めて両3年のうちに、私は、以上のようなことに気づいた。そして、私自身は、と振り返ってみた。自分自身は柔軟であろうと心掛けてきたつもりであったが、他人に説得されて意識を変えたことは、ほとんどなかった。
親しい人たちが、私はよく、「ふらふらしているのに強情な奴」とあきれていたことが、思い当った。

■■■■■意識改革は組織体質の変容と相互作用で進む

他人の意識をコントロールすることは、難しい。不可能に近いともいえよう。しかし、人間の意識は変わらないといっているのではない。
意識は変わるのである。
そして、経営の目標に対し、貢献するように意識を変えるような刺激を与えることはできる。
このような意識改革は、組織体質の変容と、相互作用の関係の中で進むのである。
組織力強化のシナリオとは、個人の意識改革と組織体質の変容の相互作用の関係を土台に、描き出されたものである。

次回は、このシナリオを紹介する予定である。

コメント (0)
<次のページ
前のページ>
商人舎サイトマップ お問い合わせ
カレンダー
2015年4月
月 火 水 木 金 土 日
« 8月    
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  
指定月の記事を読む
カテゴリー
  • こだわり商品 (2)
  • ことわざから学ぶ (1)
  • カスタマイゼーションの効用 (1)
  • グローバリゼーション (13)
  • コンセプトの効用 (3)
  • スーパーマーケットのマーケティング (13)
  • スーパーマーケットの店舗づくり (1)
  • スーパーマーケットの未来 (1)
  • チェーンストア (1)
  • マス・カスタマイゼーション (10)
  • マス・カスタマイゼーションの準備段階 (2)
  • マーケティング (5)
  • リーダーシップ (1)
  • 事務局 (2)
  • 企業使命の重要性 (1)
  • 企業文化 (2)
  • 利益の概念 (1)
  • 商業の現代化 (2)
  • 固定客づくり (2)
  • 新プロセスモデル (5)
  • 業態の転機 (1)
  • 競争力は開発・改善スピード競争の成果 (1)
  • 筆者からのメッセージ (2)
  • 組織の変容 (4)
  • 組織計画 (1)
  • 組織計画は組織力強化不可欠の基礎条件 (1)
  • 組織計画は設計するだけでは機能しない (1)
  • 試行錯誤的問題解決 (3)
  • 賢者は歴史に学ぶ (1)
  • 週間販促計画に見る効率的な組織の運用 (2)
最新記事
  • 2011年08月05日(金曜日)
    【最終回】 スーパーマーケットのマーケティング Vol.41
  • 2011年07月13日(水曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.40
  • 2011年07月07日(木曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.39
  • 2011年07月01日(金曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.38
  • 2011年06月24日(金曜日)
    スーパーマーケットのマーケティング Vol.37
最新コメント
  • 2010年12月14日(火曜日)
    ワンダーウーマン :スーパーマーケットのマーケティング V...にコメントしました
  • 2010年07月04日(日曜日)
    ヒロロ :スーパーマーケットの競争力強化の視点...にコメントしました
  • ホームに戻る
  • トップに戻る
  • 友達・上司・部下に知らせる

掲載の記事・写真・動画等の無断転載を禁じます。
Copyright © 2008-2014 Shoninsha Co., Ltd. All rights reserved.