LIVE TO WORK 働くことが生きがい
数日前、病と戦いながらも最後の最後まで仕事を続けた
知人の死を知りました。
お通夜に出向いた友人から届いたメールには、
まるで眠っているような安らかな顔だったと綴られていました。
それはある意味、彼なりの人生を全うしたということなのでしょうか。
米国の流通視察の仕事を通して、
優良店と呼ばれる小売業の店長やスタッフの方々に
インタビューをしていると、
彼らが生き生きと自分の働く店の自慢話をし、
本当に自分の職場が好きでたまらないのだなという気持ちが
言葉の端々からビンビン伝わってくることが多々あります。
そんな彼らの言葉を通し、
“WORK TO LIVE”と“LIVE TO WORK”の違いについて
私はいつも考えます。
結局は、それは働く我々自身が決めることなのかもしれません。
しかし、多くの人は
朝起きて、“WORK TO LIVE=生活のために仕事をしているのだ”と
自分自身に言い聞かせて職場へ向かうという現実があります。
その中に生まれる感情は、自分の意思ではなく、
家族や生活の為に仕事をやっているという犠牲の思いが強いのです。
特にゆとり社会で育った人々はある程度の高い給料を得たとしても、
好きでも無いことを続けていく自分に疑問を抱き、
仕事を覚える頃には離職してしまうというケースが増えています。
米国でも同じような現象はあります。
つまり、働きたい企業に選ばれるところが
地方の小さな小売店だったりするのは、
「大企業+高所得=良い企業」とは限らないことを示しています。
近頃は日本でも、「従業員満足なくして顧客満足は実現できない」
という考えが浸透しつつあります。
店長インタビューの質疑応答コーナーでも必ずと言っていいほど
「従業員満足度を上げるために店長さんは、
どのような工夫をしていますか?」という質問が出ます。
その度に、一番多く耳にする店長さんの言葉は、
「私はスタッフたちを自分の家族の一員だと思い、
そのように接しています。」という答えです。
「全米働きがいのある企業ランキング100」に
10年以上連続して選ばれているNUGGET MARKETS。
現在北カリフォルニアに9店舗と別バナーの店3店舗を
展開するスーパーマーケット。
そこの店長は
「私には10歳の娘と8歳の息子がいますが、
その子らに接するように部下にも接しています。
誉めるときは皆の前で誉め、
注意する際は一対一でとことん話し合います」と言います。
TRADER JOESは企業の意思で「働きがいのある企業100」には、
参加を辞退しているが、もし参加したとしたら
上位に入るであろうといわれている。
TRADER JOESの店長は
「出勤したら、皆をハグをするんだよ。私の家族と同じようにね」
と大きな両腕を広げて笑います。
そういう店長さんのいる店で買い物すると、
実際に楽しくてワクワクするのは、
働いている人達の動きや笑顔が本物で、
ここでは皆が”LIVE TO WORK”をしているのだなと
感じられるからなのです。
そういえば数ヶ月前に“LIVE TO WORK”という言葉が
ぴったり当てはまるエピソードがありました。
これはNUGGETS MARKETのROSEVILLE店で
店長補佐を務める、ある女性の話です。
「先日のことでした。
いつも決まった曜日に買い物に来られる女性のお客様に、
いつものように“こんにちは、ご機嫌はいかがですか?”とお声をかけると、
“あまり元気ではないの”という答えが返ってきました。
私が心配そうな顔をしていることに気が付いたその方は、
“実は数週間前にX線検査をした結果が今日出てね。
入院して手術をしなければいけなくて、
それで少しショックを受けてたの”と語られました。
その方がお買い物をしている間に、
私は自分の上司である店長にその話をしました。
しばらくして、そのお客様が会計を済ませて、
店の自動ドアを出たところに、
店長が両手に抱えきれないくらいの花束をもって立っていました。
静かに微笑みながら、そのお客様へ花束を手渡したのです。
お客様は驚き、ポロポロと涙を流して“ありがとう、ありがとう”と
何度も言ってました。
私はその光景を見ながら、
“ああ、私はこの店で、彼の元で働けて本当に幸せだ”と思ったんです」
先月の初旬にワシントンDCを尋ねた際に訪れた
アーリントン墓地に刻まれていた言葉に、
心が熱くなったことを思い出しました。
1961年にケネディー大統領が残した就任演説の言葉です。
AND SO MY FELLOW AMERICANS
(同胞であるアメリカ国民よ)
ASK NOT WHAT YOUR COUNTRY CAN DO FOR YOU
(この国が君たちの為に何をしてくれるのかを問うよりも)
ASK WHAT YOU CAN DO FOR YOUR COUNTRY
(君たちがこの国に何が出来るかを問うてくれたまえ)
“働く人々が企業に何をして欲しいかと問うのではなく、
自分が企業のために何ができるのかと問う”
そこには“LIVE TO WORK(働くことこそが生きがい)”なくして答えは出ず、
その思いをより多く持つ従業員が多い企業こそ、
成長を持続し、生き残っていくのだと確信します。
<By 五十嵐ゆう子>