商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

スーパーマーケットのマーケティング vol.2

2010年11月17日(水曜日)
カテゴリー:
  • マーケティング
  
2:14 PM

2. チェーンストアのマーチャンダイジング

■ダンカン教授のレクチャーから学んだこと

 チェーンストアのマーケティングとは何なのか――。その方向性とイメージを私自身が意識づけられたのは東京オリンピックの年に参加した米国流通業の視察ツアーの時だった。 

 カリフォルニア大学で小売研究のオーソリティであるダンカン教授のレクチャーを受けた。そのレクチャーの中で教授は「製造業と小売業では“マーチャンダイジング”という言葉の使い方が違う。製造業ではマーチャンダイジングとはマーケティングの中のサブ概念の一つであり、製品群の中の単品(1つの製品)の材料の仕入れから製造、販売(含む流通)までの取り扱い方、つまり商品計画を意味する。一方、小売業では同じ言葉を製造号のマーケティングとほぼ同じような意味を持たせて使うことが多く、バイイング・アンド・セリングの内容が主体である」と述べられた。 

 その頃の私は商社を退職し、マネジメントの教育団体を経て、初期の衣料中心のチェーンストアに就職していた。マーケティングという言葉の内容については、曖昧さが残ってはいたが、使い続けているうちにおおよそのイメージはつかめるようになっていたように思う。それよりも小売業で使うマーチャンダイジングという言葉の意味に悩まされていた。

 しかし、先述のダンカン教授のレクチャーにより、それまで分からなかったスーパーマーケットのマーチャンダイジングもなんとか分かるようになった。

 それ以来、私は日本語ではマーチャンダイジングすなわち、バイイング・アンド・セリングを「仕入れから販売までの商品に関わる一切の業務」と訳して使ってきた。

 小売業では“マーチャンダイジング”を製造業の“マーケティング”のような広い意味で使う例がある。例えば、品揃えはマーチャンダイジングの主要なサブ概念の一つである。当時米国のチェーンストアでは、品揃えにはマーケティングの主要サブ概念の“セグメンテーション”が取り入れられていた。所得別、職業別、人種別などのようなセグメントである。

 ダンカン教授のレクチャー以後、私はあまり“マーケティング”にはこだわらずに仕事を進めてきた。ところが、数年後には、再び“マーケティング”の壁に突き当たったのである。


続きます

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スーパーマーケットのマーケティング vol.1

2010年11月10日(水曜日)
カテゴリー:
  • マーケティング
  
2:13 PM

1. 初期のマーケティングの概念と戸惑い

■「マーケティング」という新語

 今日ではマーケティングと言えば、誰でもよく使い、よく理解している言葉のように思われている。しかし少し注意深く考えると「経営」「グローバリゼーション」「安全・安心」などなど、広範囲にわたる概念を一括して明確化するのは極めて難しい。そのため我が国のチェーンストアが活躍し始めた昭和30年代か40年の暑気にかけて、チェーンストアにはマーチャンダイジングが大切であって、マーケティングは必要ないという論者も現れたりもした。ちなみに、この頃は製造業をはじめ、他の産業では、マーケティング論全盛で広告代理店をはじめとするマーケティング屋が次々に登場した時代であった。

 その頃、私は繊維商社の社員であったが、学校時代には習わなかったマーケティングなる言葉が、技術革新などの新語と並んで毎日のように新聞誌上で使われるのを戸惑いながら読んでいた。そこで解説書を読んだり、セミナーに参加したりしたが、いつも釈然としないものが残った。あるセミナーで某大学の商学部教授がやさしく解説するためか、次のような比喩を使った。

 「大量生産が進んだため従来の販売方法では処理しきれないほど製品が増える。これを処理するために広告宣伝をし、より多くの消費者に買う気を起こさせて、その後でセールスマンが販売をする。このような一連の活動がマーケティングである。あたかも戦争で空爆した後に歩兵が登場して掃討するようなもの…」と語った。

 産業のあり方が変化しているので営業の仕方の変わらなければならないということが漠然と解っただけで、マーケティングの意味を理解することはできなかった。

 その後、マーケティングには市場調査、広告宣伝、ディーラーヘルプス、商品開発、テスト販売、販売促進、PR、etc…などの課題が含まれていることを学んだ。その中にマーチャンダイジングも含まれ、プロダクトマネジャーの職位のあることも知った。大学には経営学科を新設するところも増えてきて、マーケティングは一部の学生間で花形的存在になった。

■チェーンストアのマーケティング
 我が国のチェーンストアが登場したのは、このような不調の時代で、大多数は40~100坪程度の小型店であった。スーパーマーケット、あるいはスーパーストアと呼ばれるセルフサービスの店舗は安売りで売上げの増大を図っていた。

 その頃、消費財製造業では、自社製品の占拠率を高めるため、流通経路対策に力を入れ始めていた。今では業種店と呼ばれている従来の繁盛店を支援して自社製品をより多く取り込もうとしていた。その政策の一環に値崩れ防止があった。値崩れの大きい商品は繁盛店が嫌ったからである。

 しかし、価格安店の高い商品ほど、チェーンストア側では安売りすると効果がある。つまり、良く売れるので、製造業とチェーンストアの間に軋轢が発生する。この軋轢の解消もまた製造業のマーケティングの新しい課題として登場した。

 この例のように、マーケティングは製造業を中心に発展し、外部からの研究が進んできた理論領域であった。したがって、マーケティング研究者もチェーンストアのあり方について深い関心を持つようになり、製造業中心にマーケティングの研究をしている学者の一部が経営の新しい戦略的視点としてチェーンストアを注目するようになった。さらに、商学研究者、商業指導者は当然のことながら業界の革新に対し、積極的発言をしていた。

 しかしながら生れたばかりのチェーンストアは、まだ幼くて骨格も固まらず、筋肉も発達していないので、どういう動きをするようになるのか、まだ実態をつかめない段階では、研究者達の発言にさまざまな重要な見落としや欠落があったり、解説や見解に相違があったりした。

 前述の「チェーンストアにマーケティングは不要」という論理の背景は理解しかねるが、当時の斯界の雰囲気の中で「チェーンストアには製造業のようなマーケティングは不要」と言いたくなる人がいても不思議ではない。これは換言すれば、「チェーンストアにはチェーンストアのマーケティングが大切である」ということなのである。

続きます

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再出発に際してのお願い

2010年11月08日(月曜日)
カテゴリー:
  • 筆者からのメッセージ
  
2:07 PM

  半年ほど前まで、「競争力の視点」と題してこのブログに雑文を載せてもらっていた。執筆の目的は、スーパーマーケットの使命、業績(利益)、能力開発(組織)の複雑なダイナミックの関係を私なりにまとめることであった。

  一連の雑文も終わりに近づき、「これからの戦略」を書き出して、私自身が食生活の実態をほとんど知らなかったことに気がつき、本当に慌てた。筆が先に進まなくなったのである。
  その後、気を取り直し、この戦略論をなんとかまとめられそうになっている。

  そこで、ブログ掲載を再びお願いすることになったが、戦略論をこれからは「スーパーマーケットのマーケティング」と題することにした。つまり、半年前まではマネジメント論の枠組で書いていたが、今後はマーケティング論の枠組に変えることにした。

  ついては、これからの記述に、これまでの記述とエピソードなどでかなり重複することがあることをお許しいただきたい。

  また、このマーケティング論では、品揃えの改善プログラムを紹介する予定であるが、このプログラムはいわゆる規範モデルで、しかも私が頭で考えたものに過ぎず、何らの検証もしていない。したがって、効果については何の保証もない。いわば、プログラムの形はとったものの、一つの考え方ということである。

  この段階で、読後の感想・ご批判をお聞かせいただければ幸甚である。

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