商人舎7月号特集「居抜き」の是非の「トルストイ派と寺山修司派」

[Cover Message]
チェーンストア業界に「居抜き出店」が目立つ。ニッポン小売業番付第4位の㈱パンパシフィック・インターナショナル・ホールディングス(PPIH)のドン・キホーテ、西友を買収して1兆3000億円規模の番付第7位に躍進する㈱トライアル・ホールディングス、ロピアを核に急速成長を続ける㈱OICグループ。
しかし話題の「居抜き店舗」が急増する現象は、撤退店舗の激増を前提としている。競争の激化、マーケットの縮小、さまざまなコストの高騰、人員の不足。それらの結果、起こるのが「閉店」と「撤退」、「居抜き」の急増。通常のスーパーマーケットやチェーンストアは指をくわえて、この「居抜き」の行進を見ていていいのか。
教科書通りの標準化思想は本来、多店化のスピードを上げるための方策でもあるが、皮肉なことにそれにこだわると物件が見つからず、結果としてチェーン化の速度は鈍る。これこそ現代チェーンストアのパラドックスである。さて、どう考え、どう決断するか。今、「居抜き」の是非を問う。
特選のケーススタディが3本。
ドン・キホーテの居抜き出店作戦
PPIHの融通無碍な物件開発とマーケット開拓とは?
ロピア花巻店の広域化作戦
イトーヨーカドー撤退店舗をどう変え、どう活かしたか?
イオンスタイル竹の塚
ヤマダデンキとのコラボで旧イトーヨーカドーを凌駕する
「店を再び元気にする」基本メソッド
居抜き物件の活かし方「チェックリスト」(新谷千里)
今月号は巻頭にパネルディスカッション。
日本スーパーマーケット協会。
「食品流通の新しいカタチ」
会長の岩崎高治ライフコーポレーション社長、
副会長の川野澄人ヤオコー社長、
服部哲也サミット社長。
それから原和彦アクシアルリテイリング社長、
大髙耕一路ヨークベニマル社長。
豪華なパネラーの発言は、
一言も見落とせない。
実にいい内容だった。
それから[新店の注目点]
サミットストアららテラス北綾瀬店
ブランディングと全従業員でサミットらしさをつくりあげる
巻末に、
52週MD[2025年 下期編]
月別コンセプトと重点販促テーマを提案する
7月号も全力で執筆し、編集しました。
そして[Message of July]
パラドックスから抜け出せ。
景気が悪くなると、皆が倹約する。
しかしその結果として需要が減る。
そしてさらに景気が悪化する。
「倹約のパラドックス」である。
落書き禁止の壁に、
「落書きするべからず」と書く。
それは許されるのか。
「落書きのパラドックス」と呼ぶ。
正しそうに見える前提。
妥当と思われる推論。
それなのに受け入れがたい結論。
それがパラドックスである。
標準化された店舗は、
出店スピードが早い。
しかし標準に適した物件は出にくい。
だから店舗開発は遅くなる。
パラドックスに陥らないためには、
正しそうに見える前提や、
妥当と思われる推論を、
疑ってみる必要がある。
正しいと言われてきた理論、
わかりやすそうな理屈を、
頭から信用してはいけない。
自分で考えなければならない。
今がよければいい。
リスクを背負わない。
目先の利益を追いかける。
それがパラドックスに陥る原因となる。
革新的技術によって先行した企業は、
その技術にこだわって革新性を喪失し、
新たな革新を果たした新興企業に打倒される。
「イノベーションのジレンマ」。
正しいと言われてきた理論、
妥当と思われている推論。
いつもそれらを疑ってかかれ。
そしてパラドックスの隘路から抜け出せ。
〈結城義晴〉
最後に朝日新聞「折々のことば」
今日は第3440回。
哲学者の鷲田清一さんが毎日編著。
幸福な家庭はすべてよく
似(にか)よったものであるが、
不幸な家庭はみな
それぞれに不幸である。
〈トルストイ〉
ロシアの文豪の『アンナ・カレーニナ』の書き出し。
幸福については定義をしないまま、
味なことを言う人が多い。
歌人・演劇家の寺山修司の『幸福論』。
「不幸はいつも同じ顔をしているが、
幸福の顔は、それぞれ違っている」
真逆。
鷲田さん。
「幸福を一つの達成と考えるか、
目的とは無関係な悦(よろこ)びと捉えるかの違いか」
「居抜き」の是非も、
この二人の幸福のとらえ方と同じ。
あなたはトルストイ派か、
寺山修司派か。
〈結城義晴〉