結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2007年04月19日(木曜日)

「真のお客」は誰か?

Publisher’s Message by Yoshiharu Yuki<18 April.2007>

「君の真のお客は誰か?」

3000人の商業者が、シンと静まりかえった会場に向けて、壇上から倉本長治は、こう叫んだ。

倉本は戦前から「商売の神様」と呼ばれ、戦後、昭和23年に㈱商業界を興した伝説上の人物である。

竹村猛志は、その言葉が、たったひとり、自分にのみ向けられている、と感じて、背筋がぞくっとした。

竹村の商売は、菓子屋。長野県小布施で90年続く老舗である。

しかし、和菓子を製造して卸す、という商売に、竹村はずっと限界を感じていた。箱根の商業界ゼミナールに通い始めて、様々な知識を得ても、なかなか商売はうまく転じなかった。

しかし、このとき、倉本長治の口から放たれた「君の真のお客」という言葉に、竹村は電気ショックのような衝撃を受けた。

「今まで自分は、菓子をつくって、それを卸す先の問屋や小売業をお客だと思っていた」

竹村はいつも悩んでいた。自分の菓子を食べてくれるお客さまの喜ぶ顔を見たときにこそ、心の底から幸せが感じられることを。

それから、竹村は、小売店を始めた。

菓子をつくって、売る。
お客の顔を見る。
また、菓子をつくって、売る。
お客の顔を見る。

自分のお客が見えてから、竹村の商売は順調に進んだ。

それから30年、今、長野県内に12店の店舗を経営する県下第1位の菓子小売企業となった。竹村は商業界全国連合同友会前会長で、今や商業界運動のリーダーである。

「方寸」というらくがんのような菓子は、1枚25円。90年間寿命のつづくこの菓子は、竹村の商売換えによって、今も、顧客から愛好されている。

「企業の目的」は「顧客の創造」である。

竹村猛志は、倉本長治の「ひと言」に目覚めて商売換えを断行した。

菓子の製造卸しから、製造小売りへ。

簡単なことのようで、ひどくやっかいな事業転換であった。

なぜなら、これまでのお得意様だった小売店が、今度はライバルや敵になってしまうからだ。今までのお客を捨てる勇気がなければできない仕事なのだ。

竹村が心酔した倉本長治は「店は客のためにある」という不変の真理を唱えていた。どんな店にも、その店の自分の客がある。その顧客のために、店は存在するのである。客が、店のために存在するのでは、断じて、ない。ただし自分の顧客とは、現在のお客とは限らない。

ドラッカーは「企業の目的」を「顧客の創造」と喝破した。「あなたの顧客は誰か」そして「あなたの顧客は何を求めているか」。

「店は客のためにある」――「君の真のお客は誰だ」と、ドラッカーと全く同じことを言った倉本の真意を、竹村はこのとき神の啓示のように感じとったのだ。

小売業でいえば、ダイエーは商売換えによって、成長へのきっかけをつくった。

中内功は、戦後、家業の薬局を継ぐ形で商人の道に入ったが、そこで得られた資金力で、「主婦の店ダイエー」を始め、スーパーの世界に進んだ。その後も誰よりも意欲的に商売換えをやりつづけて、2兆5000億円の年商をピークに、会社が傾いた。中内は一昨年、死んだ。

今、そのダイエーの株式の15%を取得し、傘下におさめつつあるイオンは、岡田屋、ジャスコ、イオンと名前を変えつつ、積極的な商売換えをやってきた。ダイエーを合わせれば6兆円の年商である。

イオンには、「大黒柱に車をつけよ」という家訓が残っている。

立地も、商売そのものも、時流にあわせて変える勇気をもて、という家訓である。

考えてみるとトヨタも、豊田佐吉が発明した「自動織機」から始まり、今や自動車会社に商売換えした企業である。

ホンダもスズキも、商売換えの連続が、その成長の歴史といってよい。

小売業や外食業は、この商売換えのことを「業態転換」と呼ぶ。

八百屋、魚屋がスーパーマーケットになる。
薬局がドラッグストアになる。
酒屋が、フランチャイズのコンビニになる。

みな、商売換えである。

商売換えの本質は、「自分の真の客」を見ながら、前の商売のやり方と前の顧客を捨てることである。新しい顧客を見つけることである。

㈱商業界社長 結城義晴

<2007年春『Pachinko-Hall Business Review』より>

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