原稿を抱えながらの週末。
いい香りがする。
タイトル保持者の渡辺明棋王、名人。
挑戦者は藤井聡太五冠。
竜王と王位、王将、棋聖、叡王。
その棋王戦は5番勝負で、
これまでのところ藤井の2連勝。
しかも第三局は藤井の先手。
藤井は先手番がことさら強くて、
現在、28連勝中。
しかしこの第三局は、
渡辺がうまく差し回して、
終始、優勢を維持した。
けれど、藤井が粘りに粘って、
逆転に次ぐ逆転。
実にスリリングな将棋となった。
間違いなく将棋界の二強による、
ギリギリの1分勝負が続いた。
そして藤井が本当に珍しいことに、
詰みを見逃して、
敗着を指してしまった。
藤井聡太の「詰みの見逃し」は、
世紀の大事件だ。
指してから何度も悔しがる藤井。
子どものころなら泣きじゃくるところだ。
それほど惜しい敗着は、
2六飛車。
私はその瞬間を見ていた。
渡辺明が首の皮一枚で凌いで、
174手で勝利し、第四局に臨む。
その4局目は3月18日に指される。
現在、将棋界には8つのタイトルがある。
藤井聡太が五冠、渡辺が二冠、
永瀬拓也が王座を持つ。
藤井はタイトル防衛戦を闘っていて、
それはレジェンド羽生善治との王将戦。
羽生にはタイトル100冠目がかかる。
今、藤井が3勝2敗。
その王将戦第六局は3月11日・12日。
その前に藤井は、
3月8日に名人挑戦権をかけた、
A級順位戦プレーオフを、
広瀬章人八段と戦う。
ここで勝てば、
渡辺名人に挑戦することになる。
将棋界の3月は、
大イベントが目白押しだ。
藤井聡太はまだ二十歳。
羽生善治は52歳、
渡辺明は38歳。
世代別の闘いが繰り広げられる。
私はワクワクしながら、
三人とも応援している。
こんなワクワクは、
そうあるもんじゃない。
ありがたい。
朝日新聞「折々のことば」
おとといの第2662回。
いま卒業式があちこちで開かれている。
卒業証書を渡すのではなく、
ぬくもりを渡すんです。
(永六輔『学校ごっこ』から)
「昔の卒業式は、
もう一生会えないだろうとの前提で
臨んだものだった」
「とりわけ瑞々(みずみず)しい印象として
残っているのが、
俳優の渥美清が語ってくれた
小学校の卒業式だ」
「校長先生は卒業生らを輪にならせ、
右隣の子の手をぎゅっと握って
それを順に回していくよう言い、
ぐるっと一周した時、
“さあこれでお別れ、
さようなら”
と言った」
永六輔は2016年7月7日に死んだ。
83歳だった。
意外に長生きだった。
渥美清は1996年8月4日に没した。
68歳だった。
ずいぶん前に亡くなったんだと思った。
渥美清の卒業式。
この話は忘れられない。
それを記憶にとどめて、
短く表現できた渥美も、
書きとめた永も、
素晴らしい。
ありがとう。
〈結城義晴〉