昨夜は私としては本当に珍しく、
11時前にベッドにもぐりこんだ。
しかし眠れない。
いつの間にか寝ていたが、
スマホの音で午前1時45分に目覚めた。
午前1時55分にも、
二重にアラームをセットしていた。
FIFAワールドカップ。
日本代表の正念場だ。
決勝トーナメントに進出して、
いきなりブラジルと当たった。
サッカーのワールドカップは、
1930年の第1回大会以来、
2022年までに22回開催された。
今回は23回目だ。
そのうち優勝経験のある国はわずか8カ国。
そして最多優勝はブラジルの5回だ。
その最強国と対戦する。
午前2時の真夜中、
ドキドキしながら大画面のテレビに集中した。
ゲームが始まる前から喉が渇いて、
水を飲んだ。
前線の前田大然は猛スピードで、
ブラジルのディフェンダーやキーパーに、
プレッシャーをかけた。
上田綺世(あやせ)も伊東純也も、
高い位置で相手にプレスをかける。

5人が並んだ守備陣も最終ラインを高く保つ。
結果として全体をコンパクトにして、
なおかつ網目を絞る。
ジャパンの守備陣は、
ブラジルフォワードに、
突破の道筋を与えない。
相手にボールを持たれる時間が長くなっても、
危険なシュートは打たせない。

ラグビーのゲームでよく出てくる、
攻めながら下がる、といった状況が、
ブラジル陣のオフェンスにはあった。
私はまた喉が渇いてきた。
12分、佐野海舟がイエローカード。
14分、ブラジルのカゼミロにイエローカード。
互いにじりじりとした展開で、
ファウルも出る。
27分、日本のコーナーキック。
上田が頭で合わせたが、残念ながら外れた。
そして29分。
フィールド中央。
ブラジルはボールを奪って、
カウンターに出ようとした。
その相手のパスを読み切って、
佐野海舟がパスカット。

逆にカウンター返しで、
ピッチ中央をドリブルで突き進んだ。
そのまま全速で持ち込み、
カリメロを軽く抜き去って、
ミドルシュート。
ガブリエウ・マガリャンイスが、
両手を後ろに組んでガードしようとしたが、
その足の後ろをすり抜けて、
ゴール左に突き刺さった。
技のブラジルを個の力で上回った。
そんな瞬間だった。
日本が1点先取。
佐野はワールドカップ初得点。
ブラジルは中央突破を試みるが、
日本守備陣は体を張って、
シュートコースを消した。
前半のブラジルのシュート数8本。
日本は4本。
ハーフタイムは胸の鼓動が高まった。
コーヒーを淹れようと思ったが、
真夜中なのでやめた。
後半、ブラジルは戦略を変えた。
監督はカルロ・アンチェロッティ。
1959年生まれのイタリア人。
現役時代はASローマやACミランで活躍。
1995年に36歳で指導者に転身。
ACミラン、チェルシー、パリ・サンジェルマン、
バイエルン・ミュンヘン、レアル・マドリード、
欧州のビッグクラブでタイトルを獲得。
UEFAチャンピオンズリーグ優勝5回。
これは監督としての最多記録。
そのアンチェロッティが、
初めてブラジルの外国人監督となった。
アンチェロッティは、
エースのヴィニシウス・ジュニオールを、
左ウイングに配置した。
とたんに左からの的確なセンタリングが増え始めた。
8分、ブルーノ・ギマランイスが、
ヘディングシュート。
鈴木彩艶好セーブ。
9分、ゴール前にボールを放り込まれ、
最後はカゼミロがシュート。
ゴールを守る富安健洋が顔面ブロックで逃れる。
しかし11分。
ペナルティーエリア左手前からの浮き球を、
カゼミロが頭で合わせて同点。
その後、ブラジルの分厚い攻めに、
日本はほぼ防戦一方。
13分、ジュニオールの個人技のシュート。
鈴木彩艶が弾いてポストに当たる。
日本に疲れが見え始める。
21分、堂安律と中村敬斗を下げ、
33分には鎌田大地と伊東純也を変えた。
菅原由勢と鈴木淳淳之介、
田中碧と町野修斗が入った。
田中碧の投入は、
ちょっと遅い気がした。
同点のまま、インジュリータイム。
アンチェロッティはカゼミロを変え、
ファビーニョを交代。
田中碧がペナルティエリアでボールを奪い、
カウンターで攻撃しようとしたが、
足が滑って転倒。
逆にボールを奪取されて、
足が止まった日本守備陣の間を抜けて、
球はゴール前に。
それを受けたガブリエウ・マルティネッリが、
冷静にゴール右ポストめがけて流し込んだ。
これで逆転の2対1。
あと1分。
森保一監督は前田を変えて、
小川航基を投入。
しかし万事休す。
後半のシュート数は日本が5本、
ブラジルは19本だった。
前半は想像を超えた善戦。
しかし後半に戦略を変えたブラジルに、
戦力も足りず対応できなかった。
右に堂安、左に中村。
攻撃的な駒を先発起用した。
5バックの一員として最終ラインをつくり、
攻撃になれば前線でフィニッシュする。
それが奏功した。
しかし後半21分、
彼らの消耗が激しく、
変えざるを得なかった。
たらればの話だが、
久保建英がいればそのキープ力で、
全員の疲れはこれほどひどくはならなかった。
三笘薫がいれば高速ドリブルで切り込んだ。
それを封じるためにブラジルは戦力を費やした。
南野拓実が先発したならば、
伊東純也は後半の切り札として温存できた。
前半の善戦と後半の失速。
厳しい言い方だがそれは、
決定的な戦力の不足である。
森保監督。
「ブラジルとの力関係は間違いなく、
縮めてこられている」
「ただ、結果としてまだまだ押し切られる
という部分があるというところは、
差があることも事実」

「ワールドカップ優勝」を、
多くの選手が口にした。
しかし5回優勝のブラジルにはペレがいた。
ロナウドやロベルト・カルロスがいた。
4回優勝のドイツには、
ベッケンバウアーや、
マテウス、クローゼがいた。
4回のイタリアにも、
ジャンルイジ・ブッフォンをはじめ、
ロベルト・バッジョ、
アレッサンドロ・デル・ピエロら、
絢爛たるサッカーアーティストがいた。
3回優勝のアルゼンチンには、
なんといってもマラドーナとメッシが、
2回のフランスには、
プラティニとジダンがいた。
1回のイングランドにも、
ボビー・チャールトンがいた。
レジェンドが君臨して、
それを支えるイレブンがいる。
そのレベルでなければ、
優勝はない。
ブラジルのジーコも、
オランダのヨハン・クライフも、
優勝はできなかった。
日本サッカーにも、
大谷翔平のような、
山本由伸のような、
超級のアスリートが続々と登場してこなければ、
ワールドカップ制覇はできないと思う。
しかしそれだけ価値のあることなのだ。
若いアスリートたちに、
それを目指してほしい。
ブラジルのマテウス・クーニャが、
ゲーム後に田中碧を慰めてくれた。
プレミアリーグでともに戦う「大の親日家」。
日本のサポーターは今回も、
ゲームが終わったらゴミを集めた。
1998年のフランス大会初出場以来の、
伝統として受け継がれる。
日本のサッカーは素晴らしい。
ワールドカップ制覇まで、
私たちの楽しみは残された。
考えてみると、
それは極めて喜ばしいことだ。
ありがとう。
〈結城義晴〉


























