結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2021年06月15日(火曜日)

[評伝]「流通革命」の林周二、逝く。「自ら軛を絶て」

林周二先生が逝去された。
1962年発刊の『流通革命』の著者。
東京大学名誉教授。
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6月7日、老衰のため永眠された。
大正15年(1926年)生まれの95歳だった。

清水信次ライフコーポレーション名誉会長と同じ。
ということは故渥美俊一先生と同年。

私の早稲田の恩師・故壽里茂先生とも、
私の父とも同じで、寅年。

岡田卓也イオン名誉会長相談役は一つ上、
故西川俊男ユニー創業者も一つ上。
伊藤雅俊イトーヨーカ堂創業者は二つ上。

故中内功ダイエー創業者は大正11年で、
四つ年上だった。

しかしそれらの流通革命者たちすべてに、
林周二は決定的な影響を与えた。

東京大学教養学部助教授時代、
弱冠36歳の気鋭の研究者のころ。
1962年9月11日からたった34日間で、
林はこの歴史に残る本を書き上げた。

月刊商人舎2015年12月号。
特集は、
「流通革命論」の軛を絶つ
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この号は保存版だ。
手元にある人は取りだしてほしい。
IDとパスワードを持つ人は、
クリックして読み直してほしい。

トップ論文は、
[結城義晴の「日本流通革命」評論記]
しかし革命の季節は去った?!

その[Prologue]「革命家の条件」より。

――流通革命運動の渦の中心にいたのが、
コンサルタントの故渥美俊一だった。
渥美も林、清水と同年の大正15年生まれ。

中内と渥美が扇の要のようになって、
若き商業者たちが、
「革命」の担い手となっていった。

林が理論的支柱で、中内や渥美が実戦部隊。
そこに意欲あふれる革命者たちが参集した。
中内は兵庫県の神戸から、
岡田は三重県四日市から、
西川は愛知県名古屋から、
伊藤は東京都北千住から、
清水は大阪府豊中から。

しかし林は、カール・マルクスと
フリードリヒ・エンゲルスのような関係を、
中内や渥美と結んだわけではなかった。

ポンと、預言書のごとき理論書を世に問い、
翌々年、その続編の『流通革命新論』を上梓して、
その後はさっさと研究の世界に
戻っていってしまった。

渥美は林著『流通革命』発刊の1962年に、
自らチェーンストア研究団体
「ペガサスクラブ」を立ち上げ、
中内・伊藤・岡田をはじめとする
全国の革命志望者たちを、
次々にオルグし、続々と組織化していった。
渥美も36歳だった。

この際、
倉本長治が全国組織していた商業界は
その受け皿となった。

レーニンは次のような言葉を残している。
「思想は大衆の心をつかんだ時、力となる」

林の基礎理論と渥美の実用化理論、
それらを大きくバックアップする倉本の思想。
それらが商業者大衆の心をつかんだ。

レーニンはさらに続ける。
「抽象的な真理など無い、
真理は常に具体的である」

林が抽象的に真理を追究したのに対して、
渥美は具体的にそれを求めようとした。
林が学者であったのに対して、
渥美は読売新聞記者だった。
そのジャーナリストであることが
渥美の「強み」だった。

大正14年生まれの警察官僚・柿嶋美隆は、
20世紀の革命家の五条件を指摘している。

第一に、理論家であること。
革命の理論と戦略の構築者でなければならない。
第二に、組織者であること。
同志を結集できるオルガナイザーであること。
第三に、扇動者であること。
「アジテーター」の要件を持つこと。
第四に、マキャベリズムの達人であること。
権謀術数を駆使できること。
そして第五に、カリスマ性があること。

渥美は、おもしろいくらい
この五つの条件を満たしている。
同じく中内功も革命家の五つの条件を、
実務家として、恐ろしいくらいに備えている。
そのうえ、戦中のフィリピン戦線で
死線をさまよった体験は、
中内に孤高の革命家の魂を備えさせていた。

毛沢東も革命家の条件を挙げている。
すなわち「若くて、無名で、貧しいこと」。
当時の中内や渥美は、この三つの条件も、
見事なくらいに備えていた――。

この流通革命の理論的支柱が林周二だった。

ただし結城義晴は、
その「軛を絶て」と言い切る。

[Message of December]
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自ら軛を断て。

あなたは縛られていないか。
会社に、上司に、組織に。
あるいは観念に、慣習に、古い理論に。

牛が曳かれてゆく。
首の上に木製の棒がつけられている。
(くびき)である。

牛は何も言わない。
ただひたすら下を向いて、
のろのろと歩いてゆく。

強制されているからか。
それが自分の役目だとでも
観念しているからか。
それとも何も考えていないからか。

商人はもともと自由である。
一人の顧客と対面するとき、
一人の商人は奔放である。

ところがその自由な商人のなかに、
いつのころからか軛につながれる者が出てきた。
社畜と堕す者が生まれた。

ひたすら命令に従う者、
顧客や市場よりも体制に迎合する者、
権力や理論に従属する者。

強制されているからか。
それが自分の役目だとでも
観念しているからか。
それとも何も考えていないからか。

2015年が終わろうとする今、
そんな軛を、自ら断ちたい。
正々堂々、顧客や市場と向き合いたい。

組織人でありつつ、
独立自営商人の気概をもちたい。
自分で考えぬく脱グライダー商人でありたい。

あなたは今も縛られていないか。
会社に、上司に、組織に。
あるいは観念に、慣習に、古い理論に。
〈結城義晴〉
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最後に告白。

拙著『コロナは時間を早める』
執筆中、もっとも意識した本が、
林周二著『流通革命』である。

最終段階で三つの章を割愛した。
その一つが、
「附章 コロナは『流通革命』の軛を断つ」
1万6994字の原稿も、
ゲラも出来上がっていた。
手元にそれが残っている。

この章は削除すべきではなかったかもしれない。

しかしその三刷が刷り上がってきた。
2021年6月17日発行。
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とてもその域に達することはできないが、
この本こそ、結城義晴の、
「ポスト流通革命論」である。

林周二先生のご冥福、
心から祈りつつ、
この三刷を捧げたい。

それにしてもしみじみと思う。
「革命の季節は去った」のだと。

合掌。

〈結城義晴〉

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