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『ポリティカル・マーチャント』の真骨頂

年商4000億円、196店舗。
日本最大の食品スーパーマーケット。
それがライフコーポレーションである。
そしてこの企業は、
清水信次という稀代の創業者の血と肉によって出来上がっている。

まず、日本チェーンストア協会40周年記念シンポジウムでの、
直近の清水発言から。
この8月2日に、東京赤坂プリンスホテル五色館で開催されたものである。

｢私は第6代目の会長だ。
もともと軍人か剣道師範になりたかった。
敗戦で、どちらもやれなくなったから、闇商人になった。
そしてスーパー業界へ入ってきた」

｢その後、売上税闘争で中曽根内閣と戦った。
大平内閣とも闘った。
大店法の矛盾を突いて、大店法訴訟でも闘った。
７回法廷に立って、出店規制の法律を変えろ、と闘った。
結局、大店法は改正された。
容器リサイクル法では、訴訟して２年争っている。
いまも、闘いの最中だ」

｢私は侍の道を志して、政府行政と闘っている。
剣道をやっていたから、怖いものはない。
ずっと闘い続けてきた。
棺おけに入るまで闘うつもりだ」

昭和20年8月29日、清水信次さんは復員し、
翌8月30日から働き始めた。
以来62年、休むことなく活動し続けてきた。
この精神的・肉体的エネルギーと問題意識の高さには、
到底、太刀打ちできない。

個人的なことを言わせてもらえば、
私の両親ともに大正15年生まれで、
清水さんと同い年である。

父は満州・大連生まれで、関東軍に採られたが、
幸いなことにすぐに終戦を迎え、
その後、苦労を重ねて、
一族が暮らす福岡に引き上げてきた。

だから清水さんの戦後焼け跡から出発した話は、
私には、若き日の父や母の姿が重ねられて、
深い感慨を抱かずにはいられない。

この時代の人は、
辛抱強い。
たくましい。
そして、会社や社会、国家への思いが強い。
貢献意識が高い。

私は、清水さんが創業し、
代表取締役会長を務めるライフコーポレーションを、
｢ポリティカル・スーパーマーケット」なる言葉を使って説明している。

｢ポリティカル」とは、
｢政治的な」あるいは「政治に関心の深い」といった意味の形容詞で、
清水さんの行動様式にぴたり、当てはまる。

しかし、この言葉には「市民の」という意味も含まれていて、
ライフという日本最大の食品スーパーマーケット企業への、
私なりの期待と要望がこめられている。

1945年に、仕事を始めた清水さんは、
朝鮮動乱を知るや、東京に出る。
たちまち商才を発揮して、5000万円の資金を作り上げる。
そして財閥の復帰を見るや、
彼らの出来ない小売業、スーパーへの転進を見せる。

さらに大規模小売店舗法施行から、
バブル経済とその崩壊の中で、
世間に逆行した大胆な「怒涛の進撃」政策を断行し、
首都圏と近畿圏においてドミナントエリアを確立、
日本一の売上高を誇る食品スーパーマーケット企業を育て上げるのである。

今、岩崎高治社長という後継者を得て、
清水さんの仕事は、
まさにポリティカルな分野に収斂しつつある。

清水信次自身にポリティカルであることを求める必要はない。
存在そのものが、ポリティカルであるからだ。
棺おけに入るまで、ポリティカルである。
本人も言っている。

問題はライフコーポレーションが、
この遺伝子をいかに組織として受け継ぐか、というところにある。

だから私は、
「市民のための、国民のためのスーパーマーケット」
という考え方を、いつも前面に出していくべきだと思う。

言葉は不思議である。
ひとつの言葉が持つ意味の広がりは、
互いに密接不可分の関係にある。

すなわち「政治的な」という理念と、
｢市民のため、国民のための」という営業との間には、
まったく矛盾しない論理性が貫かれるのである。

＜㈱商業界社長　結城義晴＞