「士農工商」
「士農工商」の序列は、誰がつくったのか。
徳川封建政治を支える身分制度として、
当時のお上が考え出したものなのか。
私はそうは思わない。
「士農工商」はもっともっと前から存在した。
農業や工業や商業が、そして軍人としての武士が、
生まれてくる過程のなかにこそ、
「士農工商」の階級分化の理由があった。
春山満を知って、私はハッと気づかされた。
「士農工商」が人間の肉体的な強さの序列によって
機能分化してきたことに。
ずっとずっと昔、「士農工商」は、
フィジカルな能力の高い順に位置づけられたのだ。
最も強い者が、人間を打ち倒す軍人になった。
次に強い者が、自然と闘い、農作物を生産する農民となった。
三番目に強い者が、道具を使ってモノをつくる工の民となった。
そして一番体の弱い者が、商人となった。
私たちの意識の底に残っている肉体的序列としての
「士農工商」はやがて、
あとかたもなく消えうせ、
頭脳と言葉によって、社会に変革がもたらされるに違いない。
すなわち、考える能力と訴えかける情熱によって
ビジネスが再編成されるのだ。
私は、それが新しい商業の出発だと思う。
だから商業人は見つめなければならない。
商業人は、考えつづけなければならない。
商業人は、訴えかけつづけねばならない。
春山満のように――。
〈結城義晴〉
故春山満さんは1954年、兵庫県生まれの実業家、啓蒙家。24歳で進行性筋ジストロフィーを発症、数年後には首から下の運動機能を失う。1988年、「ハンディ・コープ」創設。その後、1991年、自ら㈱ハンディネットワーク インターナショナルを設立。介護・医療の独自商品を開発し、販売。2003年には米国「ビジネスウィーク」誌で、アジアを代表する指導者として、「アジアの星」25人に選出された。2014年2月23日、呼吸不全で死去。享年60だった。 |