結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2008年07月19日(土曜日)

伊藤忠・丹羽宇一郎「ドル妖怪世界徘徊説」[日本食糧新聞講演採録]

2008年7月18日。
東京・パレスホテル。
日本食糧新聞1万号・創刊65周年記念
感謝の集いが開催された。

日本の食品産業のトップが、
ほとんどすべて参集するというすごい会合。

日本食糧新聞社長の今野正義さんのご挨拶。
NSS1
「昭和18年創刊で、紙齢10000号を数えます。
私たちは世論紙、指針紙、擁護誌を旗印にやってきました。
いま、紙の新聞がネットで見られるし、
携帯電話でも読むことができる。
多機能サービスの提供を図りつつ、
食の総合メディア機能を果たしたい」

その後パーティでは、そうそうたる顔触れによる鏡割り。
かがみ割り

この式典とパーティに先立って、
伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎さんの記念講演があった。
丹羽さんは、国際連合世界食糧計画WFP協会会長。
この講演が素晴らしかったので、私のメモから採録。
タイトルは「食資源と環境――明日へのシナリオ」丹羽
[現状分析]
現在、穀物相場も小康状態を保ちつつあります。
小麦を中心に、やや安定してくる。
昨年から、世界中の人々の不安を呼び起こしたが、
今年はそれほどではない。

人類生存の三大要素は、
食と水とエネルギーです。

振り返ってみると、
20世紀は石油の100年でした。
21世紀は水の100年といえます。

農業や食資源にかかわる水の時代です。

この間の、サイレント津波は、世界のトップリーダーに、
温暖化よりも食と水が大事ということを認知させた。
食と水に対する危機感が、相当に刻まれた。

もちろん、石油も大切です。

しかし20世紀は
ドルと石油にどっぷりとつけられた時代だった。

大規模農業の穀物生産は、
すべてが石油ベースとなっている。

大量生産農業は、すべての科学や技術の結集です。
気象学、種子学、インフラ、倉庫・港・道路。

だから農業は本来、全産業の成長と歩調を合わせて進んでいく。

商社もかつて、ブラジルなどの土地を賃借して、
大規模農業をやろうとした。
しかしすべて失敗した。
私は「お天道様と勝負するな」と言った。
農業とは、食とは、そういうものです。

食料資源の問題に関しては、
10年前、ローマクラブから、
たんぱく質が足りなくなるという指摘があった。

ローマクラブが、10年後12~13ドルという指摘をしたが、
当時は、「何を考えているのか」という見方が強かった。

しかし、10年遅れでやってきた。
大豆がブッシェッル16ドルまで上がった。
間違いではないか?と思われたが、
考えて見れば、まとめて上がったというだけのこと。
ローマクラブの指摘は正しかった。

かつて石油は100年で40ドル上がった。
1年ごとに75セント上がるという計算だった。

しかし4年間で100ドル上がった。
かつてのテンポからすると、
4年で250年分上がったことになる。

大きな価格の流れは合理的な要因で上がるはずです。
食料資源の高騰の背景に、何があるのか。

ベースになるのは需給関係の逼迫という問題。
牛肉1キロ作るのに8キロの穀物が必要。
これもある。

中国も大豆を買う。
中国は、米、トウモロコシ、小麦は買わない。
しかし大豆は輸入する。
食物油が足りないから。

ここに、静かな地殻変動が起こっている。

あらゆる資産がアジアに動いてきている。
21世紀は着実にアジアの時代です。
アジアの人口は増える。
アジアを中心に動く。
鉄鋼の生産は、中国の動向に世界が動かされている。
それにインドやインドネシアがつづく。

需給の急速な拡大が起こっているのです。
ただし、50年かけて動くのならばいいが、
あまりにも急速です。
だから世の中に変調が起こっている。
地球に対する負荷がかかりすぎている。

これには、1990年代のグローバリゼーションが影響を及ぼした。

中国もあちこちで暴動が起こっている。
急速な変化にどう対処するか。

それが問題です。

[ドルという妖怪が世界を徘徊している]
食料資源高騰の本当の理由は、ドル漬けにあります。
1992年、WTOで、アメリカは
「国益を損なうことは一切しない」と発言しました。

かつて、『空想から科学へ』という本の中で、
エンゲルスは言いました。
「共産主義という妖怪が世界を闊歩している」

しかしいま、
「ドルという妖怪が世界を徘徊している」

10年前の世界のGDPは30兆ドルでした。
日本は5兆ドルで、16%を占めていた。
アメリカは28% でした。
この2国で50%近くを寡占していた。

GDPは、実体経済ですが、
これに対して貨幣経済がある。
それが10年前は60兆ドル。

現在、世界の実体経済は50兆ドルで、
貨幣経済は、なんと150兆ドル。

(厳密には178兆ドルという統計もある)

実体経済と貨幣経済には、100兆ドルの乖離がある。
10年前も30兆ドルかけ離れていた。
しかし今は100兆ドルの妖怪貨幣が動き回っている。

すなわち30兆ドルだった妖怪が100兆ドルに膨れた。
3.3倍になった。

このドルはどこへいったか。
サブプライムです。

小さなリスクで大きな利益を得ようとした。
だから詐欺にあった。

大きなリスクで大きな利益、
あるいは中くらいのリスクで中の利益が当たり前です。

サブプライム問題は慾深い連中が、
小さなリスクで大きな利益と、欲を搔いたことで起こった。

サブプライムを格付け機関が格付けした。
いま、壮大なる国際的詐欺事件といってよい。

すなわち、ドルはこの10年で、100年分くらい増えた。

そのドルが徘徊している。

貨幣経済の膨張とは、三つの膨張を言う。

第一は、株式時価総額。
これは、この10年高騰し、現在40%を占める。
簡単に言えば、株価が上がったということ。
誰が得たか、それは欧米金融機関。
日本の失われた10年とは、
株式時価総額で得る利益を、日本が得られなかったということ。
だから日本はドル漬けではない。
良かったのだと思う。
サブプライムに多大の被害を受けていないことが。

第二が、債券発行残高。
現在これが、100兆ドルのうちの40%を占める。

そして第三が、預貯金高で、20%を占める。

しかし100兆ドルの妖怪のような体重は、
アメリカ一国では大きすぎるし、重すぎる。

だからもしかしたら、ドルが暴落するかもしれない。
そうなると世界経済が暴落する。

公的資金の注入が必要となるかもしれない。
そうしなければ助からない。

すなわち余剰のドルを減らす。
妖怪の体重を減らす。

それには、時間をかけて、少しずつ。

日本は、妖怪体重に参加していない。

私は、言いたい。
「妖怪で太った人たちが損をしなさい」
ドルの妖怪は今も存在している。

そのひとつが穀物、エネルギーにきた。

穀物は株式市場の5%、5兆ドルにすぎない。
その株式時価総額40兆ドル。

だからちょっと株式市場から金が流れたら高騰する。

上海、中国にもドルの妖怪が侵入した。

結論として、ドルの妖怪の体重が急速に増えたことが大きな理由。
それを時間をかけてゆっくりと解決しなければならない。

[Water is a new oil.]
穀物の高騰の理由は、
このドル漬けと石油漬けです。

50年間で人口は、2.4倍となった。

地球が耐えられる生存可能な人口は80億人から100億人か。

問題は人口増加のスピードです。

急速に増え続けたことです。

経済は安定した成長を続けねば、壊れる。

地球の環境が一定であれば
土地を増やすしかない。

緑の革命で 単位収穫量が増えた。
第2の緑の革命といわれる遺伝子組み換えで、
どれだけ増やすかしかない。
農業は英知を集めて、第3の緑の革命を果たさねばならない。

日本は、英知を集めて米の革命をする。 

そのために単位収穫量革命に世界が投資していく必要がある。

そこで重要なのが、
Water is a new oil.

水は、Blue gold。
水は新しい金。

世界の水は14億立方キロリットルあります。

しかしその13%しか使っていない。
ほとんどが海水だからです。

海水を真水にするのに1トン当たり100円かかります。

これからは世界経済の成長が水によって左右される。

日本は一年間に840億トンの水を使います。
琵琶湖の2.5倍。
一方、食糧輸入量を換算すると海外で日本のために、
640億トンの水を使っています。

世界の都市化率は現在、50%。
50年前は30%で、100年前15%でした。

先進国は75%が、都市に人口がすんでいる。
大部分の都市で水がなくなる。
しかし、日本人には水に対する危機感がない。

農業において、
この水を守る最もよい方法は水田です。

だからコメの消費を増やして、水田を増やす。
米のパン、米のラーメン、米のうどんをつくって、食べる。

地産治水。
Water is a new oil.

これが締めくくりの言葉となります。

示唆に富んだ講演だった。
考えさせられることが多かった。

もちろん多分に、
総合商社のトップとしての経験や発言もあったが。

いい会だった。

最後に日本食糧新聞の今野正義社長と固い握手。
握手

今野さんも商人舎発起人で、商人舎ファミリーのお一人です。
ありがとうございます。

<結城義晴>

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