結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
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2018年08月05日(日曜日)

斎藤茂吉の連作「死にたまふ母」と日曜日の母の葬儀

みちのくの母のいのちを
一目見む
一目見むとぞ
いそぐなりけれ

大正2年(1913年)5月、
歌人・斎藤茂吉の生母いく、逝去。

東京帝国大学医科大学助手だった茂吉は、
母危篤の報を受けとり、
山形県南村山郡堀田の生家へ急ぐ。

母に寄り添う斎藤茂吉、31歳。

寄り添へる吾を
目守(まも)りて言ひたまふ

何かいひ給ふわれは子なれば

「何か言い給う」
それだけでいい。

はるばると藥をもちて來しわれを
目守(まも)たまへりわれは子なれば

現在の東大医学部助手の茂吉は、
薬を持参した。

その茂吉を母いくは、逆に見守った。

いのちある人あつまりて我が母の
いのち死行(しゆ)
を見たり死ゆくを

生きている人が集まって、
母の命が尽きていくのを見ている。

我が母よ死にたまひゆく我が母よ
(わ)を生(う)まし乳足(ちた)らひし母よ

死んでゆく母に呼びかける。
生んでくれた母に呼びかける。
呼びかけるだけの歌だが、
その必死な呼びかけが胸を打つ。

のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて
足乳ねの母は死にたまふなり

「玄鳥」は「つばくらめ」と読み、
ツバメのこと。
「屋梁」は「はり」。
「足乳ね」は「たらちね」で、
母にかかる枕詞(まくらことば)。
枕詞は、和歌において、
一定の言葉の前におく一定の修飾語。

亡くなる瞬間をとらえた、
最も有名な歌。

通夜と告別式を終えて、
母いくの火葬。

わが母を燒かねばならぬ火を持てり
(あま)つ空には見るものもなし

この時代の田舎では、
遺族が自ら点火して火葬した。

夜空には見るものはない。

星のゐる夜ぞらのもとに赤赤と
ははそはの母は燃えゆきにけり

「ははそはの」は母の枕詞。

斎藤茂吉の連作「死にたまふ母」。
1913年5月、母の死の直後に発表、
10月、処女歌集『赤光』を刊行して収蔵。

今日は私の母の告別式。
DSCN7418.JPGui

7月31日午後4時30分。
行年92で逝った。

内臓に悪いところはなく、
耳もよく聞こえた。
認知症の症状はまったくなかったが、
80歳を超えて腰を痛めて、
ずっと床に伏していた。

今年の正月までは食事のときにも、
軽くカクテルなどを飲んだ。

1カ月ほど前に歯を痛めて、
水分しかとることができなくなり、
衰弱していった。

妹がずっと面倒を見てくれたが、
かかりつけの医者や看護師さん、
ヘルパーさん、ケアマネージャーさんに
自宅で世話をやいてもらって、
自宅で暮らした。

横浜の商人舎オフィスは、
歩いて10分ほどのところにあって、
ときどき顔を見に行った。

もちろん海外に行ったり、
国内を飛び回ったり、
忙しく動き回って、
ご無沙汰ばかりだった。

母の死の瞬間も、
宗像守さんのお別れの会から、
横浜のオフィスに戻ったところだった。
「心肺停止」の連絡を受けて、
慌てて、駆け付けたが、
間に合わなかった。

それでも92年間、生きて、
人のために尽くした母自身、
悔いはなかっただろうと思った。

今日は、家族だけで葬った。

導師は成願寺の若い釈和幸和尚。
IMG_5994.jpg8

告別式が終わって、
お別れの儀。
棺に別れ花をいれる。
IMG_5974.jpg8

そして久保山の火葬場へ。
IMG_5988.jpg8

横浜の街を見下ろす久保山。
IMG_5985.jpg8

再び斎藤茂吉。

遠天を流らふ雲にたまきはる
命は無しと云へばかなしき

「遠天」は「おんてん」、遠い空。
遠い空を流れる雲に命はない。
雲に母の命が宿っていない、
と言ってしまえば、それは悲しい。

連作「死にたまふ母」の最後の歌。

山ゆゑに笹竹の子を食ひにけり
ははそはの母よははそはの母よ 

母の葬儀の後、茂吉は山奥の温泉に行く。
そこで湯につかり、
笹タケノコを食べて、母を思う。

浄土真宗は「即成仏」を説く。
亡くなるとすぐに仏様になる。

若い時からずっと、
看護師として奉仕の仕事を続け、
晩年にはそういった人たちから、
丁寧な世話を受けた。

母は命が尽きるとすぐに、
仏になったのだと思った。

心から感謝して、合掌。

〈結城義晴〉

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