このところ不調だと言われていた。
ところがこの1カ月で、
次々にそれを覆す勝利を収めた。
プロ将棋には8つのタイトルがある。
その全冠を手中にしたのが2023年。
21歳の時だった。
2016年12月24日に、
14歳5カ月でプロデビューして、
いきなり29連勝をしてしまった。
それから一つひとつタイトルを獲って、
全冠制覇。
迷いがなかった。
しかし同い年の伊藤匠が、
2023年に叡王位、
2024年に王座位を奪取。

それでも藤井の無敵さには、
変わりがなかった。
しかし今年に入って、
不思議な負け方をし始めた。
終盤で考えられない悪手が出る。
初めから良いところなく押し切られる。
なにか、「上の空」の将棋。
私は勝手に思った。
藤井が「恋」をしているのだ、と。
将棋以外に集中するものができたのだ、と。
まったくの当てずっぽうだ。
私はそれを楽しんでいる。
しかし藤井は土壇場で、
集中力を取り戻した。
王将戦では1勝3敗からの3連勝。
逆転防衛。
あの勝負所での粘り、終盤の切れ味。
「復調」の兆しが見えた。
棋王戦でも2連勝して逆転。
その棋王戦最終局が今日の対局。
見事な勝利だ。
復調と言っていいだろう。
では、なぜ藤井は復調したのか。
藤井は運動が得意ではない。
しかし、2024年の王将戦に勝利して、
副賞をもらった。
藤井は自らエアロバイクを希望した。
家でできる、続けられる、
そして効果が出る。
この三拍子が揃ったのだろう。
将棋は長時間座り続ける競技だ。
体力が落ちれば、終盤の読みの精度が鈍る。
運動習慣が脳を活性化し、集中力を支える。
羽生善治は散歩する。
渡辺明はランニングする。
藤井は盤外で、
自分をアップデートした。
それが復調の一つの理由かもしれない。
しかし藤井は恋を振り切った。
いや、それが成就したのかもしれない。
こちらが本当のところだろう。
藤井の一手一手をスマホで追いながら、
そんなことを想像して楽しむ。
メジャーリーグでは、
ドジャースが3連勝。
大谷がそれほど活躍しなくとも、
いつの間にか勝っている。
阪神タイガースも強い。
読売ジャイアンツに完勝した。
春の甲子園は、
近畿同士の決勝となった。
智弁学園高校と大阪桐蔭高校。
さて日経新聞「私の履歴書」
今月は村木厚子さん。
元厚生労働省事務次官。

「役所にいた40歳ごろ。
NPOを支援している学者の方に
教わった言葉がある」
0を1にするのはNPOの仕事。
1を10にするのは学者の仕事。
10を50にするのは企業の仕事。
50を100にするのは公務員の仕事。
なるほど、面白い。
「困っている人にすぐ気づくのは現場だ。
そこで生まれた実践を理論武装するのが学者。
事業として成り立つなら企業が広げる。
ペイしなくても必要なものなら、
制度にするのが公務員だ」
「それぞれに役割がある。
いろいろな人、組織が協力してこそ、
いい社会ができる」
0を1にするのが「現場」だ。
1を見つけ出し、広めるのが、
ジャーナリズムだと私は思う。
それを10にするのが学者だ。
ジャーナリズムはここでも、
それを知覚して、広報する。
企業が10を50にする。
これもジャーナリズムが、
報道する。
50を100にするのが公務員だが、
そこに政治が絡む。
政治がどう絡むかが、
社会を良くすることの鍵を握る。
失われた30年。
しかし日本はまだ豊かだ。
世界の成長に追いつかなかったのは、
最後の50を100にするところが、
停滞していたからだ。
これを指摘するのも、
ジャーナリズムの機能だろうが、
それがまた遅滞してしまった。
現代の政治もジャーナリズムも、
藤井聡太のように、
「恋」を克服することができない。
いや「恋」をすることができない。
ほとんどの政治家とジャーナリストは今、
はじめから「恋」のごときものに、
無縁である。
それが日本の一番の問題なのだ。
〈結城義晴〉




























