結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2007年08月31日(金曜日)

「誰が値段を決めるのか?」②

ベース
 

始めにお断り。
「値上げの秋」と、ここで論じる「値上げ」とは、
食品を中心とする消費財の「値段」のことです。

さて、早速のご意見、感謝。
田村洋三さんから、昨日の書き込み。
田村さんは、実は私のごく親しい一流のコンサルタントです。
いつも正論の人です。

「価格はお客が決めるものではないと思います。
高いと思えば買わないだけ。
価格は常に、
コストと需給バランスの両方の要素で、
決まるのではないでしょうか。
現在の環境問題の多くは、
安すぎからの浪費ではないでしょうか」

ありがとうございます。

「価格はお客が決めるものではない」

私と反対の見解のように見える。

しかし、田村さんの主旨は、
「価格はコストと需給バランスの両方の要素で決まる」
の方にあります。

 

「需給バランス」を私は「顧客」と表現しています。
無言の顧客の、一人ひとりの判断が、
トータルすると、「需要」となるからです。 

   

問題は、「コスト」。

重要な発言があります。
食品卸売業として今期1兆4000億円の売上高を見込む「菱食」。
残念ながら今期は減収減益の予測を発表した後藤雅治社長は、
30日、『食品商業』山本恭広編集長のインタビューに答えて曰く。

「世界的な食料相場の高騰もあって、
これだけ製造・流通コストが上昇する中で、
大手小売業が仕入れ価格引き上げを受け入れてくれないと、
われわれが被るとことになる」

「卸売業はもともと利益率の低い中で、
収益改善の取り組みを続けてきている。
もはや、そういうことはできない。
出荷側であるメーカーが対応しないということになれば、
私たちが被るわけにはいかない」

「規模・機能拡大によって、
価格決定の主導権をとろうという考え方があるかもしれませんが、
企業間の力関係や経済合理性だけで、
話ができるわけではないと思う。
今まで以上に製・配・販がお互いの必要コストを認め合い、
話し合った上で、お互いの納得が大事」

後藤さんは、コストのことを言っているのです。

すなわち今、「コスト」と「顧客=需給バランス」が、
秤にかけられていることになります。

 

1776年といいますから、今から231年前、
アダム・スミスは『国富論』を出版します。

「社会的分業が、イノベーションを起こし、生産性を向上させ、
それが富を生み出す」

私は、基本的に、ここに立脚点を置いています。

そして、私は、日本の食品製造業の機能に対して、
高い評価をする者です。

もちろんミートホープのような事例も、まだまだありますが。

国際的に見ても、高い能力を持つ日本の製造業が、
「原価をはじめとするコストが高騰している。
だから値上げしたい」
と言い始めている訳です。

菱食の後藤さんが、
「価格決定の主導権をとろうという考え」
と発言しているのは、イオンのことですが、
そして「イオンの価格凍結宣言」のことですが、
イオンは商品調達やSCMなどの機能会社を立ち上げて、
需給バランスと物流コストの両方に手を打つぞと言った上で、
「価格凍結宣言」に入っているのです。

もちろんまだ、その打ち始めた手が、
効果を発揮していないのがイオン側の問題でもありますが。

 

さて、田村さんの「需給バランス」の話に戻って、
「需給=顧客」としました。

しかし「需給」というのだから、「需要」と「供給」のバランスです。

イオンは「100品目の必需品」の値上げをしない「宣言」をしています。

私は、「コモディティグッズ」と表現しています。

ここで「コモディティ」“Commodity”の定義が重要となります。

“Commodity”の“Com”は共通のという意味。
“Modity”は“Mode”(尺度)から生まれた「状態」を意味する言葉。
一般的な英語の意味は、商品、産物、必需品、日用品、
あるいは便利なもの、価値あるもの、を示します。

しかし産業界では、特殊な意味に使います。

私は、10の定義をしています。
   ①標準化が進み、技術が発達し、市場が飽和し、
     ライフサイクルが成熟化することによって生まれる商品群
   ②生産者やメーカーなど、ものづくりをする側の製品開発技術が、
     一定レベルに到達して、停滞している商品群
   ③品質、価格、機能、形状等の属性が均一化、共通化、安定化した商品
   ④マスプロダクト・マスセールスの領域にある商品群
   ⑤誰にでも仕入れやすい商品群
   ⑥消費者全般に一般的な信用があって、売価が似かよった商品群
   ⑦顧客は実物を見なくとも購買の意思決定ができる商品群
   ⑧代替性のある商品群
   ⑨ブランド価値の低い商品群
   ⑩従って、価格の安さにこそ価値が見出される商品群

「コモディティ」とは、需給バランスの上で、
供給過多の商品群のことを言うのです。

イオンの「100品目の必需品」が、そのままそっくり「コモディティ」か否か。
これは、ひとつの問題です。

だから製・配・販で、よく話し合わねばならない。

 

「値段は誰が決めるか」

「売り手」と「買い手」が取引の上で決める。

製造業が売り手、卸売業が買い手。
卸売業が売り手、小売業が買い手。
そして小売業が売り手、最終顧客の生活者が買い手。

これらが「コスト」と「需給バランス」をはかりにかけて、交渉を行い、
結果として、「値段」は決められるのです。

「コモディティは寡占化される」

私の定義のひとつです。

需給バランスの、供給過多になった商品群は、
寡占化されねば「コスト」が合わなくなります。

同時に供給過多の商品群は、
「買い手」側の意思が反映されやすくなります。
逆に、供給が足りない商品群は、「売り手」市場になります。

今秋に限らず、歴史上の「値上げ」に関する根本の理屈は、
ここにあります。

メーカーもホールセラーも、
そしてリテーラーも、
マージンミックスを、なりわいとしています。

コモディティとノンコモディティのマージンミックス。

私は、このあたりの理屈は明確にして、
話し合い、取引が行われるべきだと思います。

優越的地位の乱用は、
メーカーが強いときにも、
小売りが強くなったときにも、
そして卸売業が強かった江戸時代にも、
許されるものではありません。

アダム・スミスの「見えざる手」が、
そのことを許さないのです。

<㈱商業界代表取締役社長 結城義晴>

今回も長文にお付き合いいただいて、心から感謝。


2 件のコメント

  • Posted by 田村 洋三 at 2007年08月31日 08:56

    需給バランスの重要な構成要素として時代対応した店舗に対する需給バランスがあると思います。現在SMなどコモディティー商品をコアとする業態における価格競争は、あきらかに出店競争による最新店舗同士の競争の結果であり、遡れば大店法廃止後に始まった大型郊外店舗の供給過剰にあったと思えます。

  • Posted by 商人伝道師 at 2007年08月31日 20:54

    なぜ、今、「価格」論争なのか?
    これからの消費の中心は「団塊ジュニア」世代。
    この世代は・・・・
    「なぜ、コーチのバッグが飛ぶように売れるのか?」
    「テレビで、納豆がダイエットによいと報道すると日本中のスーパーから納豆がなくなるの?」
    これはいったい何を意味しているのでしようか?
    もう"これからの消費者"は自分にとって「価値」のあるモノは「価格」を超越してるのかもしれません。
    「価格!価格!」とあまりにも過剰になりすぎでは・・・。
    消費者は小売側が感じているほど消費者は感じていないのでは・・。
    それと、近江商人の心得「三方よし」を最近の小売業は忘れているのではないでしようか?
    「誰が価格を決めるのか?」
    う~ん、誰でもない。「価値」だと思います。
    「価値の見える化」がこれからの"団塊ジュニアマーケティング"のキーワードだと思うのですが。
    商人伝道師☆

  • Posted by 田村 洋三 at 2007年08月31日 22:00

    商人伝道師さんの言うとおり確かに「価格!価格!」とあまりにも過剰になりすぎているようにも思えます。しかしまだ日常的な食品などに対して安さを魅力と感じる人が多数派ではないでしょうか。非日常的な商品に対する価格は、おっしゃるようにコーチのバックのように高くても買う人が沢山いますが、そうした価格に対する感覚は年齢や所得とはあまり関係はないのでは・・・。

  • Posted by 商人伝道師 at 2007年09月01日 00:17

    先生のような方から、アドレスを受けてとても光栄です。ありがとうございます。
    しかし、小生は思うんです。
    楽天市場の食品売上前年比130%の伸び。宅配サービスの需要拡大。それも利用者は、高齢者でなく、7割以上が20代~30代。何を意味しているんでしようか?
    所得と価格は全く関係ないと小生も思います。しかし、年齢は明らかに「価格」の価値観が違うんです。
    TDLやモバイル世代は、団塊世代と比べて、いい意味でも悪い意味でも「感性」豊かです。この感性って、「価値」なんですよ。あのアメリカのターゲットでさえ、ここ2~3年で劇的に"価値"アップして、復活したのですから。
    生意気なこと申して申し訳ありません。
    でもなんかが違うんじゃないでしようか?みんな現場は思ってるんです。でも、誰も消費者の変化について"新常識"を問題提起してくれないんです。「関係ない。関係ない。」といつも言われて・・・・。

  • Posted by 結城義晴 at 2007年09月01日 09:05

       商品を大きく二つに分けるとすると、
       「コモディティグッズ」と「ノンコモディティグッズ」に
       なります。
       今回の「値上げの秋」における価格論争を、
       私はコモディティに関して展開しています。
       田村先生、商人伝道師さん、両者の意見に、
       私は賛同するものですが、
       「ノンコモディティ」は高くとも買うのでしょう。
       これは「需要が多く、供給が少ない」商品群と、
       言い換えることが出来ます。
       ノンコモディティを、私は、
       消費を豊かにしてゆく役割(⇒個性化・多様化機能)
       と、表現します。
       コモディティを、
       生活を確かにしてゆく役割(経済性機能)
       と、言い表します。
       そして、大多数の店や企業は、
       ノンコモディティの開発、開拓に、
       努力しているのです。
       この議論は、土曜、日曜はお休みして、
       「仕事の時間」ウィークデーに、まだまだ続く。
       乞う、ご期待。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

post date*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

「月刊商人舎」購読者専用サイト
月刊商人舎 今月号
商人舎 流通スーパーニュース
月刊商人舎magazine Facebook

ウレコン

今月の標語
商人舎インフォメーション
商人舎スペシャルメンバー
商人舎発起人

東北関東大震災へのメッセージ

ミドルマネジメント研修会
商人舎ミドルマネジメント研修会
海外視察研修会
商人舎の新刊
チェーンストア産業ビジョン

結城義晴・著


コロナは時間を早める

結城義晴・著


流通RE戦略―EC時代の店舗と売場を科学する

鈴木哲男・著

結城義晴の著書の紹介

新装版 出来‼︎

新装版 店長のためのやさしい《ドラッカー講座》

新装版 店長のためのやさしい《ドラッカー講座》
(イーストプレス刊)

新着ブログ
毎日更新宣言カレンダー
2007年8月
« 7月 9月 »
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
指定月の記事を読む
毎日更新宣言カテゴリー
毎日更新宣言最新記事
毎日更新宣言最新コメント
知識商人のためのリンク集

掲載の記事・写真・動画等の無断転載を禁じます。商人舎サイトについて
Copyright © 2008- Shoninsha Co., Ltd. All rights reserved.