伊藤弘雅イトーヨーカ堂取締役が語る「変化への対応」

休養の日曜日。
家のすぐそばの石段のわきに、
黄色い花が咲いていた。
オトギリソウ。
和名は「弟切草」
洋名は「セント・ジョーンズ・ワート」
葉は薬草としても使われ、
ヤクシソウ、アオグスリの別名もある。
平安の花山天皇の時代に、
この草を使った秘伝薬の秘密を弟が恋人に漏らし、
鷹匠の兄が激怒して弟を切り殺した。
そんな伝説から「弟切草」と名づけられた。
洋名は聖ヨハネの祝日の前の晩に、
この薬草を摘めば悪魔払いになると言われた。
聖ヨハネが「セント・ジョーンズ」だ。
どちらも薬草であることからの命名。
さて日経MJに、
伊藤弘雅さんが登場。
イトーヨーカ堂取締役執行役員。
タイトルは、
イトーヨーカ堂再建、創業者の孫
「ヒーロー店長が狂った歯車を直す」
ん~、あんまりいいタイトルじゃない。
伊藤弘雅さんは1983年生まれ。
多分、41歳。
イトーヨーカ堂創業者の故伊藤雅俊さんの孫。
岡田尚也イオンマレーシア社長と同年。
尚也さんは創業者岡田卓也さんの孫。
伊藤さんと岡田さんと、
ユニーの故西川俊男さん、
それに東急ストアの中原功さんが、
「初孫会」と名づけた会をやっていた。
伊藤さん、岡田さんと中原さんの初孫が、
同じ年に生まれたから始めた会だが、
西川さんの初孫がギリギリ、
翌年の早生まれで誕生して、
この会に加わることができた。
伊藤弘雅さんは慶応義塾大学商学部卒業。
ベイン・アンド・カンパニー入社。
ビル・ベインが創業したコンサル会社。
弘雅さんはその後、ヨークベニマルで修業し、
2023年9月、ヨーカ堂商品本部長、
2025年3月営業本部長。
「創業家の一員として
幼少期から知っていたが、
入社するつもりはなかった」
父は雅俊さんの長男の裕久さん。
叔父が現在のセブン&アイ会長の順朗さん。
裕久さんはヨーカ堂専務から、
横浜商科大学客員教授へ転身。
私の古巣㈱商業界から、
単行本を出していただいた。
『ようこそ小売業の世界へ』
弘雅さん。
「一種の反発心もあって、
大学卒業後に選んだのはコンサル会社」
「30歳手前でヨークベニマルに入社した。
ものづくりより小売業に向いていると
実感するようになった」
イトーヨーカ堂について。
「課題は山盛りすぎる」
「ハード面では、
店舗が顧客のニーズに対応できず、
どこかで歯車が狂い、
乖離がどんどん生まれてしまった」
「ソフト面をみると、セブン&アイ内で、
コンビニとスーパーが大きな塊だったが、
根本的にビジネスモデルが違う。
『パワーバランス』や『人事』を含め、
強い方に引っ張られて無理が生じていた」
その通りだ。
「スーパーは地域ごとの経営が大事だが、
ヨーカ堂は変化に対応できない構造になっていた」
「基本の徹底と変化への対応」。
イトーヨーカ堂とセブン&アイの社是。
皮肉なことに、それから遠ざかった。
「売場は人で成り立っている」
正しい。
「旗艦店や郊外のヨーカドーを回り、
顧客が求めるスキルと
一致していない場面が目立った。
従業員の教育やキャリアプランを考え、
巻き返しを図っている」
今、やろうとしていること。
「まず、ヒーローのように活躍する店長や
マネジャーを一人でも増やしたい」
ん~。
ヒーローはパートタイマーさんだ。
いつもそれを言わねばいけない。
「売場や本部で従業員と対話し、
こんな状況でもヨーカ堂に、
残ってくれた人が多くいる、
『不安の中でも何とかしたい』
という気持ちを強く感じた」
「4月にヨーカ堂としては初めて、
各店舗の事業計画を共有するイベントを開いた」
「地域ごとに旗艦店に集まり、
各店長が10分ずつ話していった」
「上司の承認を得るためではなく、
ほかの店の店長や商品本部の社員も参加した」
これまでの報告は、
上司の承認を得るためにやっていた。
つまり「ヒラメ状態」
典型的な大企業病だ。
「売上高や利益を増やすことも必要だが、
現場の元気を戻したい」
「『売る楽しさ』という原点に立ち戻る」
これは正しい。
「ヨーカ堂はマネジメントの視点が強かった」
「ベニマルでは売ることに集中していた」
会社が不調になる原因は、
大抵同じだ。
「ヨーカ堂の本部や現場をみて
管理や上司をみる時間が多かった。
顧客のことを考える時間が少なく、
顧客不適応と感じた」
「ロピアやドン・キホーテなど、
顧客でにぎわう競合店も見習っていきたい」
「ヨーカ堂にきた当初は、
本社オフィスで働く社員が多かった。
今は取引先や店、現場で、
学ぼうとする社員が増えている」
とてもいい傾向だ。
期待したい。
いつも書いているが、
イトーヨーカ堂は、
伊藤雅俊から離れると駄目になっていく。
伊藤雅俊に近づくと良くなる。
雅俊さんはいつも、誰からも、
学ぼうとした。
イトーヨーカ堂は、
管理する組織から、
学ぶ組織、売る組織に変わらねばいけない。
〈結城義晴〉