来る者拒まず、
去る者追わず。
私はできるだけ、
長治先生に近づきたいと思っている。
故渥美俊一先生も、
基本は同じだったが、
来た者は厳しく選別した。

ある高名なコンサルタントは、
「業績のいい会社しか顧問にならない。
だからいつもコンサルは成功だ」と言っていた。
こういった輩には、
私は原稿を書かせなかった。
講演も依頼しなかった。
これからも変わらない。
1月が終わる。
日経新聞最終面の「私の履歴書」
1月は御手洗冨士夫さんだった。
キヤノン会長兼社長CEO。

面白い1カ月だった。
しかし1月29日に、
キヤノンのトップ人事が発表された。
3月27日付で小川一登取締役副社長が、
社長最高執行責任者COOに昇格する。
御手洗さんは会長CEOに専念する。
ああ、この発表があったから、
今年最初の私の履歴書だったんだ、と、
ちょっと白けた。
1935年9月23日、大分県生まれ。
1961年3月、中央大学法学部を卒業し、
伯父御手洗毅が創業者だったキヤノンに入社。
1979年にはキヤノンUSA社長に就任。
ここで目覚ましい業績を上げる。
1995年、従弟の御手洗肇キヤノン社長が早世。
その死去を受けて第六代社長に就任。
2006年には日本経済団体連合会会長に就任。
2020年には、2016年に一度退いた社長に復帰。
そして今年、会長CEOに専念する。
輝かしい人生の振り返りの中で、
私が一番面白かったのが、
1月24日の第23回「セル生産」
社長に就任したあとに考えた。
キヤノンの本体の稼ぐ力をどう再生するか。
なかなか妙案がない。
長浜キヤノンで生産改革の説明を受ける。
周辺機器事業本部長の北村喬君と話すと、
「実はセル生産という方式があります」
面白そうな話だったが、
自分の目で見ないと納得できない。
1997年の夏。
千葉県にあるソニーの工場に向かう。
家庭用ゲーム機を組み立てる作業。
「ベルトコンベヤーは使っていない」
「セル(細胞)」と呼ばれるチームが、
複数の工程をこなし、
一つの製品を作り上げる。
作業者は円陣などの形に並んで、
自分が組み立てた部品を次の人に手渡す。
御手洗さん。
「私が知る生産現場とは全く違ったが、
ピンときた」
この「ピン」とくるところが大事だ。
キヤノンのレンズの組み立ては「ライン生産」。
作業者のそばのベルトコンベヤーが、
1分間に1.2メートル動き、
その上を流れる仕掛かり品を手に取る。
作業を終えると、再び戻して、
次の作業者に流す。
一方、セル生産は複数の工程を、
1人、または少人数のチームで担当する。
仕掛かり品は最小限になるし、
作業者の習熟度とともに
作業スピードが上がり、
生産性は高まる。
結果、部品の在庫も作業者も減る。
作業者は達成感や連帯感を得やすい。
「千葉から帰るときには、
『これでいこう』と決めていた」
ところが。
「会社全体の生産システムを決めている生産本部が、
セル生産の採用に大反対した」
実によくあることだ。
結局、長浜キヤノン工場で試してもらった。
すると、意外にも生産効率は、
ベルトコンベヤー方式の方が高かった。
しかし工場の女性社員たちが声を上げた。
「もう一回やらせてほしい。
他社ができて私たちができないのは恥ずかしい」」
セル生産の長所は、
作業者の習熟度次第で改善していくことにある。
彼女たちは自ら工夫を凝らし、
最後はベルトコンベヤーとの競争に打ち勝った。
なぜ当初うまくいかなかったのか。
分析してみると、社員たちが
セル生産での仕事の仕方を分かっていなかった。
そこで経営コンサルタントに依頼した。
「ムダとり」思想の提唱者といわれた山田日登志さん。
役員や部課長を含めて1000人を派遣した。
「現場を指揮する立場の人材の教育が重要だ」
様々な作業をこなせる多能工を育成するため、
全社に「マイスター制度」を導入して、
人事制度とひもづけた。
多くの工場従業員がセル生産に関心を示した。
セル生産で最も大事な現場の向上心を引き出した。
国内の全工場が採用するのに、
3年ほどしかかからなかった。
2003年までに世界の全工場が、
セル生産に切り替わり、
2万mあまりのベルトコンベヤーが消えた。
原価率は62%から50%に下がり、
ものづくりの力が最大の競争力に変わった。
極力、在庫を持たず、
資金を有効活用することができる。
キャッシュフロー経営の土台になった。
その後も工場の進化は止まらない。
今は無人化に挑んでいる。
工作機械メーカーのロボットを買うのではない。
現場の社員がロボットも内製して知恵を絞っている。
御手洗さん。
「考える工場なら無限に生産革新は続くのである」
いい話だ。
スーパーマーケットで言えば、
生鮮三部門は関西スーパー方式の、
いわば流れ作業がいいだろう。
しかし惣菜部門は「セル生産」がいいのかもしれない。
実際にそれをやっているのだろう。
成城石井のセントラルキッチンは、
巨大な台所である。
セル生産が基本になっている。
もちろん御手洗さんのように、
現場で実験を繰り返し、
現場の人たちがやる気になる必要がある。
経団連会長の話より、
断然、面白かった。
ありがとうございました。
〈結城義晴〉























