結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2025年06月29日(日曜日)

新保民八「滅びてもよし、断じて滅びず」の本当の意味

日本スーパーマーケット協会総会。
その記念パネルディスカッション。
IMG_9114

月刊商人舎7月号で再現して、
問題意識を共有する。

この討論会のパネラーの一人が、
ヨークベニマル社長の大髙耕一路さんだった。IMG_9110
大髙さんは一つのフレーズを使った。

「正しきに依りて滅ぶる店あらば
滅びてもよし、断じて滅びず」

故新保民八師の言葉だ。
新保民八
商業界設立に参画した指導家。
もちろん倉本長治の盟友だ。

岡田徹、新保民八、
そして倉本長治。

岡田徹は昭和13年、
倉本の後を継いで、
雑誌「商店界」編集長となった。
名文家だった。

そして詩人だった。
「岡田徹詩集」は、
長治の著書を超える商業界のロングセラーだ。
IMG_69741

この詩集の一篇が、
商業界会館のロビーに掲げられた。

小さな店であることを
恥じることはないよ。
その
小さなあなたの店に
人の心の美しさを
一杯に満たそうよ 徹

一方の新保民八は、
演説の名手だった。

1901年生まれ、1958年没。

倉本長治は1899年生まれで、
19世紀の最後に誕生した。

新保は20世紀が始まった年に生を受けた。

霊南坂教会神学校に学んで、
キリスト者となった。

同志社大学を経て、米国に留学。
戦前の最新のマーケティングを習得した。
帰国後、花王石鹸㈱(現、花王㈱)常務。
宣伝広告の専門家だった。

1948年(昭和23年)、倉本とともに、
雑誌『商業界』を創刊した。

倉本が公職追放の処分を受けていたので、
新保が初代主幹に就任した。

倉本は戦中には憲兵に目をつけられた。
それほどの正義感をもっていたが、
誠文堂新光社の経営に関与していて、
それがパージの理由となった。

倉本に代わって主幹となった新保は、
その火を吐くごとき弁舌によって、
多くの商業者に感動をもたらした。

講演に集中して、
熱を帯びてくる。
聞き手が反論などしようものなら、
壇上から降りてきて、
その胸ぐらをつかんた。

そして叫んだ。
「君はなぜ、わからないんだ!」

その熱がさらに、
多くの聴衆に伝わっていった。

信念の人だった。

そして新保の決め台詞。
「正しきに依りて滅ぶる店あらば
滅びてもよし、断じて滅びず」

新保は書いている。

「私は日本が敗戦の惨めな状態に陥ったとき、
毎日泣いた」

「そうしたら私の友だちが、
立ち上がれ、
そんなことでは駄目だぞと言って
教えてくれた歌が、
平田篤胤(あつたね)の
『正しきに依りて滅ぶる国あらば
滅びてもよしかならず滅びず』
という実にいい歌だった」

「私はこの歌によって奮起し、
ふたたび働く気持ちになった」

「それを諸君にそのまま伝えるならば、
『正しきに依りて滅ぶる店あらば
滅びてもよし断じて滅びず』である」

「もし、あなたが正しい商人として、
信念ある商人として、
科学性に立脚して、
目標を正しく進んでゆくのに対して、
受け入れないような世間であるならば、
それはよこしまな世間じゃないか、
邪悪な世間じゃないか、
われわれが一致して、
生きる価値のない世間なのだ」

「だが、そうじゃない」

「大衆は真実を求めているのだ。
正しきことを考えて、
正しきによりて滅びる店があるならば、
滅びてもいいじゃないか、
こう思い切るならば、
断じて滅びるはずはないんだ」
(新保民八講演集『愛と真実の商道』より)
愛と真実の商道

1977年に商業界に入って、
私は新保民八に感動した。

倉本は存命であったが、
新保は没していた。
だから神格化もされていた。

私は新保の言葉を考え続けた。
そして突き詰めて、
結論を導き出した。

新保の言う「滅びてもよし」と、
「断じて滅びず」の間には、
一瞬の「マ」がある。

それがカギを握っている。

このことを「販売革新」の巻頭言で発表した。

「滅びてもよし、断じて滅びず」

新保民八の言葉。
「正きによりて滅ぶる店あらば、
滅びてもよし。断じて滅びず」

新保は何よりも、正しくあれ、と諭す。
そして正しくあるならば、
滅びてもよし、と言い切る。

現実を顧みると、
正しくないものは即座に、
滅びる。

しかし正しさを唱えるものが、
滅びてしまうことも、
ある。

なぜか。
なぜ、正しくあることを目指しているのに、
滅びるのか。

それはイノベーションがないからである。

イノベーションとは不断の自己革新である。
「店が客のためにある」ことに向けた、
自己変革である。

『商売十訓』の第二訓、
「創意を尊びつつ良いことは真似ろ」は、
イノベーションの考え方を明らかにしている。

「良いことを学び、実行する」
「創造力を働かせ、実践する」
両方を実現させ続けることが自己革新である。

原点を貫くための原則を新保は、
「滅びてもよし。断じて滅びず」と、
心意気を示すように訴える。

だが私は「滅びてもよし」と「断じて滅びず」の間に、
「自ら、変われ」「自己革新せよ」という、
強い意志が横たわっていると考える。

経営の革新と技術の変革は、
滅びぬために、
不可欠だからである。

商いの原点と原則は、
「正義」を貫き、
「革新」を続けることにあるのだ――。

〈結城義晴〉


2 件のコメント

  • 「滅びてもよし。断じて滅びず」
    この言葉に、私は少しモヤモヤを感じながらも、単なる決意表明と解釈して受け流していました。
    自分がそのように思考停止していたので、結城さんの論に大変、感銘を受けました。
    これまで同様にモヤモヤしていた、伊藤雅俊さんと鈴木敏文さんの間、スチューレオナードとイータリーの間のマを埋めるものでもあると思いました。

    • 吉本さん、ありがとうございます。
      私もずっとモヤモヤしていました。

      ある時、ふっと思いついたことが、
      販売革新のメッセージとなりました。

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