「店を開けることが私たちの使命」福島県いわき市「マルトの大震災孤軍奮闘物語」〈前篇〉
Everybody! Good Monday!
[vol14]
すべての人々にとって、
良い1週間が始まりますように。
より良い1週間でありますように。
2011年、第14週。4月第2週。
東京大学地震研究所の調査で、
岩手県宮古市では、
津波の高さは37.8メートルだった。
我々の想定をはるかに超えた自然の力だった。
旧約聖書の世界では、「神」は「自然」とイコールだった。
原始宗教は、信仰の対象そのものが、
自然である。
プリミティブな「自然崇拝」がいま、また、
私たちの心のなかに、
ちょっと芽生えた気がする。
しかしそれよりも強く大きくなったのは、
人と人との心のつながり。
瓦落ち塀倒れたる者同士こころゆるして給水を待つ
<ひたちなか市 篠原克彦 朝日歌壇より>
それが私たちの復旧から復興への原動力だ。
4月に入り、今週から本格的に、
新たな気分で生活や仕事に臨む。
被災地の人々はそんな状況ではないが、
それ以外の地域の人々は、
戸惑いながらも日常にもどっていく。
ひとつずつ、
すこしずつ、
いっぽずつ。
横浜は、桜が咲き始めた。
今週が最盛期。
岸根公園武道館横の桜。
菊名池公園の桜。
桜の季節が、
私たちの気分を和ませてくれる。
さて昨日は、甲子園選抜高校野球の決勝。
九州国際大学付属高校と神奈川の東海大学付属相模高校。
どちらも大学の付属高校。
私は「博多生まれの横浜育ち」。
どちらも応援したが、両方勝つことはできない。
神奈川が勝った。
それにしても、春の甲子園、
粛々と終わった感が否めない。
短かった。
例年よりも、私自身が、
中身に集中しなかったからだろう。
それが東北関東大震災のときの高校野球だったと、
覚えておきたい。
励ましにはなる。
気分も晴れる。
けれども根本的なところで、
まだまだ解決に至る道が明らかでない。
だから甲子園野球も、
どこか「上の空」で傍観している感じ。
しっかりしなければ。
自分に言い聞かせつつ、
「シゴト」という使命感の領域に入って行って、
自分を鼓舞する。
さて今週は、
石原慎太郎東京都知事が「自粛」を訴えたけれど、
花見最盛期。
大いに桜を愛でて、
日本人であることを実感したい。
全国のお店でも、
このプロモーションを中心に積極的に展開されることだろう。
ただし「花見」と盛り上がるより、
「桜を愛でる」の心持ちが、
ぴったりしているのではないか。
上場企業の決算発表が次々に行われる。
経済記者は忙しい。
7日の木曜日の深夜から、
アメリカ・オーガスタでゴルフのマスターズが始まる。
ついでながらこの日、第69期将棋名人戦も始まる。
羽生善治名人に森内俊之九段が挑戦する。
ともに40歳。
脂の乗り切った日本を代表する頭脳。
そういったことやそういった人たちにも、
期待をしつつ、私たちの誇りにしたい。
10日の日曜日は、統一地方選挙。
12の都道府県知事選挙と、
4つの政令市長選挙。
それに道府県議員選挙に、
政令市議会議員選挙。
なんとも盛り上がりに欠ける統一地方選だが、
いつものように小売業・サービス業の従業員のみなさんに、
投票を呼び掛けたい。
日曜日に仕事をする関係上、
小売り・サービス業従業員の投票率は低い。
しかしだからこそ、
「選挙に行こう・投票しよう」
日経新聞のインタビュー「領空侵犯」に、
野村證券チーフエコノミストの木内登英さん登場。
2001年9月11日の米国同時多発テロの経験をもとに、
「9・11後のくじけぬ米国は震災に見舞われた日本の参考になる」
「委縮の悪循環を断つ」には、
「売り上げの一部を被災地支援に充てる、
寄付付き商品が登場」するはず。
この案はとてもいい。
小売業も流通業も、
こういった商品には大いに販売協力すべきだし、
この趣旨の商品開発も積極的に進めるのがいいだろう。
「少なくとも個人も会社もいつもの仕事をきちんとこなす、
日常を取り戻す努力が社会を動かし、
復興につながるのだと思います」
賛成。
さて先週金曜日の4月1日。
私は、茨城県の潮来市から、
福島県の浜通り・いわき市に足を伸ばした。
いわきでは㈱マルトを訪れた。
このいわきを中心に、
スーパーマーケットとドラッグストア、
さらに衣料品店ファミリー、酒のマルトを展開する。
典型的なローカルチェーンである。
震災の3月11日の翌日12日から、
一日も休まず、元気に営業し続けている。
前列左から、安島祏司会長、安島光子副会長、
後列左から安島誠人専務、安島浩社長、安島力くすりのマルト社長、
そして商業問題研究会代表世話人の高木和成さん。
福島第1原発に対する避難命令とその風評被害で、
市民の2割が避難した。
あるいは「逃げ出した」
しかしまだ30万人の市民は、
ここで生活している。
マルトはその市民のライフラインとなって、
営業を続ける。
いわき市内に病院・診療所など医療機関が100カ所ある。
福島原発の放射能漏えいニュースが広がった3月15日には、
そのうち、医療行為を続けていたのはたった3軒に減っていた。
全メーカーがいわき営業所を閉鎖した。
全マスコミがいわきを去った。
それでも30万人の市民は、
いわきで生きていた。
マルトは被災翌日から、
店を開けた。
営業を続けた。
「マルトはいわきの宝だ」
私は声高らかに、
そう叫びたい。
いわき市は人口34万人。
広さは東京23区の2倍。
東西南北に車で1時間で行き着く。
ローカルチェーンを展開するにはぴったりのエリアである。
マルトがスーパーマーケットを24店舗、
ヨークベニマルが9店舗、
イオンとイトーヨーカ堂がそれぞれ1店舗、
そして地元スーパーマーケットが4店舗。
3月11日2時46分、
地震が発生したとき、
「立っていられない」揺れだった。
「6メートルの津波がくるぞ」
このニュースに全員が避難。
スーパーマーケットのマルト安島浩社長は、
東京出張で銀座線の電車の中にいた。
くすりのマルトは、安島力社長以下、主要メンバーが、
千葉県幕張のJAPANドラッグストアショーに参加していた。
衣料品のファミリーは安島ゆみ子社長以下、
これまた幹部がビッグサイトの展示会に参加中だった。
その中で、マルト本部では、
安島祏司会長、安島光子副会長、安島誠人専務が、
創業50年史の打ち合わせをしていた。
スーパーマーケット24店の店長のうち、
3分の1が公休をとっていた。
そこに最大震度マグニチュード9.0の大地震、
続いて大津波。
マルトは、全体でどう初動したか。
第1に「被害状況はどのくらいか」の確認。
お客様・従業員の怪我などの確認、
店舗の被害、電気、ガス、水道の確認。
ところが電話は不通。
携帯電話も使えなくなった。
たった一つ本部の公衆電話は生きていた。
そこで各店の公衆電話に連絡し、
安否や被害状況を把握した。
第2は、「明日の営業ができるか」の確認。
開発部スタッフが全店舗を現地調査。
第3は、「幹部はどこにいるのか」の確認。
いっせい携帯メールで、経営会議メンバーの安否と居場所を調べた。
店舗は商品が散乱し、
ゴンドラや冷蔵ケースが破損した。
防煙たれ壁の一部、天井ボードの一部が落下し、破損した。
防犯カメラも破損し、
正面サッシガラスは割れた。
駐車場に段差ができた。
外壁も割れた。
特に基幹店舗の中岡店では、
2階部分の強制排煙ダクトが8カ所落下し、
天井全体の軽天が外れ、
消火栓から散水してしまった。
店が壊れた。
電気も水もない。
しかし従業員にもお客様にも怪我はない。
駐車場は使える。
そこで、被災した3月11日、
倒壊ゴンドラや冷蔵ケースを移動し、
散乱商品を撤去した。
命令系統を一本化し、
「やる」方針を決定した。
「店を開けることが私たちの使命」
しかし各店ごとに状況は違う。
店長には「自分で判断してくれ」
そこで全店長が踏ん張った。
12日、全店が、
駐車場での販売を開始した。
いわきではマルトだけだった。
お客様はマルトに殺到した。
旗艦店舗の中岡店には、
1500人もお客が並んだ。
店頭では50人もの社員がずらりと揃って、
1個100円、1個200円で、
商品を手渡した。
お客さんたちは口々に、
「ありがとう」という言葉を発した。
「ありがとう」が連鎖のように響いた。
13日には、店内の危険区域を封鎖し、
一部店内営業を開始した。
入場制限し、出入り口を1カ所に変更し、
レジは半分以下だった。
断水の店舗では生ものや店内加工品はない。
川の水でトイレの水を確保した。
ガソリン不足で出勤できない従業員が多数いた。
乗合で従業員を集め、
とにかく店を開け続けた。
マルトには「緊急マニュアル」があった。
CGCジャパンから支給されものだが、
それが大いに役に立った。
震災のための机上訓練や実地訓練もしていた。
店長はベテランぞろいで、柔軟に店舗対応を落とし込んだ。
初期の商品は250品目に絞り込んだ。
これは新潟県中越地震の時に、
小千谷の原信に救援に行った経験が活きた。
さらにCGC本部、東海CGC本部、千葉CGC支社などからの救援商品、
原信、おーばん、タカヤナギなどの仲間企業からの援助が奏功した。
「地域のライフラインを守ることが、
私たちの使命と誇りです」
このこと一心に全幹部、全従業員が一致した。
それがまさに地域の人々のライフラインを守った。
「市民生活を守る砦たれ」
故倉本長治商業界主幹の言葉だが、
それをマルトは全うした。
しかし、マルトに降りかかった試練は、
それだけではなかった。
<明日に続きます>
マルトの物語を書きつつ、
今週が始まる。
今朝の日経MJの最終面。
「底流を読む」で、編集委員の田中陽さんが、
この春の新入社員に向けてメッセージを発している。
「被災地で奮闘する先輩と、
有事の場所で聞いた『ありがとう』は、
業界の存在意義を浮き出させた」
マルトの奮闘は、
まさに地域小売業の存在意義を、
ありありと示したものだ。
心の底から勇気が湧きあがってくる。
いざ、4月第2週へ。
Everybody! Good Monday!
<結城義晴>
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「安心」=「安全」ではないことがわかりました。物理的に安全性が証明できても、「安心」は証明できません。放射能というつかみどころのないものにはさらに「不安」が勝ります。小売業の「価格」「品質」の安全・安心は、企業の努力が見えるようにする手段は様々です。特に其の企業の姿勢を「オネスティ・カード」や「デメリット表示」として表現するようになりましたが、心の「安全」については、さらにその「企業姿勢」をどう表現するかにかかっているようです。「だから、私は、○○スーパーに行く!」というお客様の気持ちは、その店が、その人にとって「安全」な商品を「安心」して買える場所だから。マルト様はきっと、地域のお客様の心の中に、「安心」して買い物に行ける企業として、ずっと語り継がれることでしょう。ストアロイヤリテの真髄は、企業の経営の大小には左右されないことは明白です。
inoueさま、いつもありがとうございます。
ストアロイヤルティは企業規模の大小には左右されません。
これは地方の企業にとって、勇気が出てくることです。
それをマルトが示しています。