結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2011年04月05日(火曜日)

店を開けよう、売場に立とう!これが私の誇りです!「マルトの大震災孤軍奮闘物語」〈後篇〉

昨夜、桜の下の坂道をのぼりながら帰った。
ふっと、歌が口をついて出てきた。

友よ 夜明け前の闇の中で
友よ 戦いの炎を燃やせ

夜明けは近い
夜明けは近い

友よ この闇の向こうには
友よ 輝く明日がある

岡林信康の作詞・作曲。

この闇の向こうには、
輝く明日がある。

心にしみる。

今朝の朝日新聞最終面に、
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」
これも、すごくいい。

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイゝトイヒ
北ニケンクワヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ

人々の面倒を見て、
世話を焼いて、
自然に親しみ、
自然におののき、
そのうえで、
「褒められもせず、
苦にもされず。
そういうものに、
わたしはなりたい」

この謙虚さが、
とりわけて、いい。

さて、「マルトの大震災孤軍奮闘物語」

「私たちの使命は
地域のライフラインを守ることです」

そう決意して、震災翌日の3月12日から営業を始めたマルト。

しかし3月14日、福島第一原発で水素爆発のニュース。
マルト本部からは13時時点で、
北部の4店舗に指示を出した。
「直ちに閉店して、避難してください」

翌3月15日には、政府の30キロ圏内屋内退避の指示が出た。
各店長からは、従業員が出勤しないので営業できないとの報告。
さらにトラック運転手はいわきに入ることを拒否し、
タンクローリーもいわきに入らなくなった。
これによって入荷なし、ガソリンなしの状況に追い込まれた。

このときいわき市内のほとんどのメーカーは営業所を閉鎖し、
従業員の退避を指示した。

マルトはいわき地区の従業員2000名のうち、
子どもを抱えるパートタイマーなど3分の1がいわき市から避難し、
3分の1はガソリンががないので出社できず、自宅待機。

そこでマルトは拠点となる5店舗に営業縮小することを検討した。

そしていわき市対策本部のいわき市長に状況を報告。
「店を閉店する可能性があります。
市民に食料の配給をお願いします」

3月16日には中岡店をはじめ、
高坂店、城東店、君ヶ塚店、湯長谷店に営業を縮小。

10時の開店前には、1000人のお客様の行列ができた。
閉店した13時にも、1000人の行列があった。

まさに配給所の役目を担ったわけだが、
閉店時には騒ぎ出すお客様への対応で、
やむなく警察に出動要請し、沈静化せざるを得なかった。

この日には、バイヤーが商品調達に動いた。
茨城県水戸市の笠原店、日立市の滑川店まで、
100キロ、80キロを自らトラックで走った。
そのために警察署に災害対策車両の申請をし、
災害対策本部には、
閉鎖道路を走ることができる災害救援物資搬入車両の申請をし、
その了解をとった。

災害対策本部からは、特別に、
従業員のガソリン配給を受けることになった。
これは4月3日まで続いた。

警察も災害対策本部も、
マルトを地域のライフラインと認めたのだった。

もちろん被災直後から、
CGCジャパン本部や各支部、
原信をはじめとした仲間の企業から、
センターには商品がどんどん送られてきていた。

CGC東海本部からのトラックが一番最初に着いたというが、
マルト社長の安島浩さんは、それがとても印象に残ったという。

ボランタリーチェーン本部から、全国の仲間企業から、
救済物資はマルトのセンターに届けられた。
それは小売業のプロの手によって、
即座に店頭に並べられ、地域住民に配給されていった。

一方、災害対策本部や市への救援物資は、
いつまでも仕分けされることなく、
放置されたり、廃棄されたり。

小売流通業の役割・機能が、
十二分に発揮されたわけだ。

3月18日になると、従業員には疲れのピークが訪れた。
しかし「お客様の家庭備蓄は1週間」と考え、
「今が踏ん張りどころ」と気力で頑張った。
副会長の安島光子さんは、五升釜で90キロのコメを炊き、
毎日、従業員のために大量のおにぎりを作った。

震災後10日経って、21日は雨の予報だった。
放射能雨として、街中、人が外に出なかった。
車も道を走らなかった。

この日、マルトは震災以来初めて、
全店、休業とした。
そして駐車場の案内はこれまで、
若い社員やアルバイトがやっていたが、
放射能雨の影響をかんがみて、
以後、年配の幹部たちが駐車場の案内担当を代わった。

放射能の数値が地域ごとに発表されるようになって、
真っ先に逃げ出していた医者たちが、
いわきにもどってきた。

そして25日、マルトは従業員に、
特別慰労金を現金で支給することに決め、
支給した。

なんとか気力を前向きに保つためだった。

次々に問題がふりかかった。
新しい課題が出てきた。

その都度、その都度、
社長を中心に意思決定し、
命令系統を一元化して対処してきた。
すべての店長がその決定を自分のものとして、
店を守り、お客を守った。

「毎日、祈る思いでした」
社長・専務、口を揃える。

そして4月1日。
「今日から気持ちを変えて平常に戻す」

私たちがマルトを訪れたのが、
4月1日だった。

マルトがこの震災に対して、
事前準備していて良かったこと、
無我夢中で心掛けたこと。

第1は、決意。理念と言い換えてもいい。
「店を開けることを使命と誇りにする」

「店を開けよう、売場に立とう。
それが私の使命です。
それが私の誇りです」

第2は、トップマネジメントの意思決定。
現場でものを考え、現場でものを決める。

第3は、即断即決。
非常時、有事には大本営方式で指示命令系統を一本化する。
それができた。

第4は、全国ネットワークや人的関係の重要さ。
マルトの場合、CGCジャパンに加盟し活動していた。
それが商品の集荷補充に何よりも貢献した。

そして第5に、健全な財務。
マルトはキャッシュフロー経営を貫き、内部留保していた。
さらに今回は20億円の地震保険に加入していた。
財務体質の良さは、
非常時の即断即決につながる。

安島光子副会長は語る。

「このいわきで20坪のお店から始めて、
従業員を子どもとして、家族として、
今日を築いてきました。
その店長たちから店を開けたいという要望が上がり、
店長を中心に営業を続けてきました。
社員の奥さんやおじいちゃん、おばあちゃん、
子どもたちも店を手伝ってくれました。
取引のないメーカーや問屋の人たちまで、
手伝ってくれました。
これがマルトの財産です

本部で2時間半も話を聞いた後、
本部から車で10分ほどのところにあるマルト中岡店を見に行く。
被災が最も著しかった店舗だ。

夜間専用出入口から安島浩社長に案内されて入る。
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被災したとは思えない売場にまず、驚く。
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しかし、福島産のホウレンソウやカキ菜などの野菜が、
放射能汚染で出荷停止になったこともあるのか、
青果はあまり動いていないという。

地場やさい生産者グループのコーナーには、
伊藤園の協力で野菜ジュースが並ぶ。
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鮮魚の冷蔵平ケース。
お勧め品の生食用のタコやボイルイカが並んでいる。
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海辺のいわき市民は、豊富な魚介類をいつも食している。
その期待にこたえるために、
マルトは今できるだけの、精一杯の品揃えをしている。
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4月1日に震災後初めてまかれたチラシが、
店内のあちこちに張り出されている。
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鮮魚売り場の寿司コーナー。
桜の花が飾られ、寿司予約も受け付けている。
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精肉売り場もご覧のとおり、充実。
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惣菜売り場。そのまますぐに食べられる商品の動きは早い。
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品薄といわれる卵も販売されている。
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ミネラルウォーターは安く販売されている。
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アルカリイオンの水2リットルサイズが100円。
1人2本まで。売れている。
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飲料売り場。水以外も品揃えされている。
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チルドデザート類は入荷も少ない。
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シリアル商品は欠品状態。
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同じく、パスタ類も欠品している。
主食になる保存食品へのお客のニーズは高い。

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そのため主通路では、餅とシュガーロールの大量販売。
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エンドではレトルトご飯とカレーの展開。
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CGCブランド商品のエンド。
CGCグループからの協力なしには、
営業を続けることができなかった。
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原信から届いた乳児用ミルク。
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紙製品は豊富な品揃え。
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エンドではカイロや湯たんぽの防寒商品を展開。
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ガスボンベも販売している。
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安島社長が丁寧に説明してくれた。
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そして中岡店の2階を視察。

落ちそうなコーナー天井を支える支柱。
その奥を水色シートでふさぎ、安全対策をほどこしている。

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天井をビニールが覆っている。

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その奥で忙しそうに働くスタッフの皆さん。
いわき市指定の学生服を明日から販売する。
その準備に追われているのだ。
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防災シートの前に並べられた各学校の制服。
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準備をしていたスタッフの皆さんに無理を言って、記念撮影。
右から2番目が衣料品ファミリーの安島ゆみ子社長。
地域の皆さんのために、頑張ってください。
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最後に、勿来地区店舗運営部次長・SC中岡店店長の遠藤孝さんと握手。
左は、リテイルマネジメントオフィス代表の高木和成さん。
商業経営問題研究会(通称RMLC)の代表世話人。
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㈱マルトグループホールディングスの安島誠人専務と、
㈱くすりのマルトの安島力社長も最後に、中岡店に駆けつけてくれた。

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この日、マルトのトップも本社社員も、
震災後初めてスーツを着た。
昨日までは、皆、作業着スタイルだったという。

4月1日は新たな復旧へのスタートである。
だから、初めてチラシも打った。

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チラシをまいて、市民を安心させる。
店を開いて、不安な市民の心を安堵させる。
福島原発問題は、まだまだ時間がかかる。

それでも、
いわき市民の生活は日常を取り戻しつつある。

中岡店の明かりが灯っている。
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酒のマルトも元気に営業している。
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そして最後に、
安島祏司会長と安島光子副社長の笑顔。
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お二人によって、20坪の小さな店から始まったマルトは、
いわきになくてならない存在になりました。

いわきの誇りです。
いや日本商業の誇りです。

店を開けよう、
売場に立とう。
それが私の使命です。
それが私の誇りです。

ありがとう。
心から感謝。

<結城義晴>

[追伸・良いお知らせ]

マルトの店で設置されていたピュアウォーター機。
停電・断水期間があったため、4月1日に訪問した際、
機械を洗浄し、水質検査を行っている点検中だった。
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このピュアウォーター機は、
㈱寺岡精工の純水造水機「ECOA」。
いま、ネット上で話題になっている。

寺岡精工担当者からのコメント。

暫定規制値を超えるヨウ素131が検出されていた
福島県飯館村役場の水道水を原水として、
ECOAの放射性物質除去能力を実際に試したところ、
ECOAでろ過した純水からは放射性物質は検出されませんでした。
逆浸透膜を使った浄水器で
放射性ヨウ素131と放射性セシウムの除去が確認できた始めてのケースです。

協会・団体を通じての質問が多数寄せられているという。
http://www.teraokaseiko.com/news/topics/11_3_30/index.html

スーパーマーケットが水道の水を
安全な水として提供できるようになるなら、
良いニュースだ。

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