盆の明け。
夏の甲子園高校野球は真っ盛り。
連日、いい試合が展開されている。
日経新聞電子版に、
伊藤順朗さんが登場。
今、セブン&アイ・ホールディングス会長。
もちろん故伊藤雅俊さんのご次男。
日経の単独インタビュー。
カナダのアリマンタション・クシュタールから、
ずっとM&Aを迫られていた。
そのACTが撤退を表明した。
そのATCに対してずばり、
「正直言って誠実な会社とは
思っていない」
はっきり言った。
いいと思う。
その声をセブン&アイの全従業員が聞いている。
金融関係も取引先も注目している。
「M&Aで規模を追求してきた会社」と評価し、
理由も語った。
「買収した多くの店舗が、
そのままの形で運営されている」
その通りだ。
「仮に同社がセブン&アイを買収したとしても、
店舗を成長させられなかった」
セブン-イレブン・インクのほうが、
店舗の革新性においても勝っている。
ACTは1980年にカナダ東側のケベック州で、
コンビニの「クシュタール」(Couche-Tard)として開業。
ケベック州はフランス語圏で、
Couche-Tardは「夜更かし」といった意味だ。
その後、アメリカのコンビニチェーンを買収し、
2003年にはサークルKを傘下に入れた。
サークルKは当時、全米3位だった。
ACTは現在、アメリカで第2位のコンビニチェーン。
伊藤さんが指摘するように、
コンビニ業態として目立ったイノベーションはない。
私もACTに買収されなくてよかったと思う。
なにしろセブン-イレブン・インクは、
全米トップのコンビニチェーンである。
しかし日本のセブン-イレブン・ジャパンは、
成長が鈍化している。
伊藤さん。
「ACTは今は手をおろしたが、
業績が上がらなかったらまたやってくる」
そのうえで、
「市場の変化に対応できないと生き残れない。
チャレンジ精神と失敗から学ぶ姿勢を取り戻す」
その通りだ。
「基本の徹底と変化への対応」が、
イトーヨーカ堂時代からずっと、
セブン&アイの在り方だ。
セブン-イレブン・インクは、
米国市場での新規株式公開を計画している。
伊藤さん。
「企業価値をしっかりとつけ、
一部株式の売却で得られる資金を
株主還元や新規投資に充てていく。
その意味で上場は必要だ」
上場後もセブン&アイが「過半の出資を維持する」
その意味で米国セブン-イレブン・インクは、
セブン&アイ存続のための企業と位置づけられている。
一方、24年10月に社名を変更すると発表した。
「セブン-イレブン・コーポレーション」
日米と世界のセブン-イレブンだけの会社。
伊藤さんは語る。
「私から社名変更の検討をやめようと言った」
ACTによる買収提案への対応を優先するため。
社名変更はそれに伴ってコストもかかる。
社名変更は引き続き検討しているようだが、
「優先順位は低い」
ヨーク・ホールディングスは、
イトーヨーカ堂、ヨークベニマルなど、
約30社で構成される。
9月に米国のベインキャピタルに売却される。
セブン銀行も非連結化されているから、
セブン&アイは9月からコンビニ事業に集中する。
順朗さんは1990年に最初に入った会社が、
セブン-イレブン・ジャパンだった。
だから順朗さん自身は本業に専念することになる。
それはとてもいいことだろう。
ヨーク・ホールディングスには、
順朗さんが一部出資している。
コンビニ展開で世界を目指すセブン&アイ。
傘下にセブン-イレブン・ジャパンと、
やがて米国上場するセブン-イレブン・インクがある。
ヨーク・ホールディングスは、
他の資本のもとで再出発する。
まあ、そんなことがはっきりしたインタビューだ。
私はヨーク・ホールディングスの中の、
イトーヨーカ堂の再生は困難を極めると思う。
ヨークベニマルは順調だ。
ただしそれらは新しいオーナーのもとでの仕事となる。
問題は競争的飽和状態を迎えている、
日本のコンビニをどうするか。
鈴木敏文さんは「飽和はない」と言い切った。
この考え方を基本として、
未知なる独自の世界を切り拓いていくか。
いや、コンビニ業態の「鼎占」の中で、
どう、トップチェーンの地位を維持していくか。
今のところ後者の考え方のようだが、
それでいいのか。
世界のどんな業態でも、
歴史的に鼎占状態は長く続く。
そのあとに「複占」が訪れる。
複占は意外に長くは続かない。
日本のコンビニのその鼎占を維持していくにも、
持続的イノベーションが求められる。
鈴木流の破壊的イノベーションにも、
挑戦してもらいたいとも思う。
クレイトン・クリステンセンは教えた。
「偉大な企業は、
すべてを正しく行うが故に失敗する」
「イノベーションのジレンマ」とは、
業界のトップ企業が、
技術や市場構造の破壊的変化に直面した際に、
市場のリーダーシップを失ってしまう事象だ。
セブン&アイは鈴木敏文氏の辞任によって、
その優位性を失ったと思われているが、
もしかしたらこの会社は、
破壊的変化に直面していたのかもしれない。
いや、直面していたのだ。
だからこそ持続的イノベーションとともに、
今、破壊的イノベーションが必須だと思う。
やっとそれに対応する状況が生まれた。
伊藤順朗さんのインタビューが、
そのきっかけになるといいのだが。
〈結城義晴〉