結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2014年05月07日(水曜日)

丸谷才一『星のあひびき』と伊藤雅俊「御用聞きとオムニチャネル」

飛び石連休中、
丸谷才一著『星のあひびき』を、
読んでいた。
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といっても、
頭からずっと読み続けて、
最後まで読み終わるのではなくて、
ひろい拾い、読む。

いろいろなメディアに書いたものを、
集めてきて編んだ本。

だから、ひろい拾い、読める。

1925(大正14)年、
山形県鶴岡市生れ。

ライフコーポレーション会長の清水信次さんの、
一つ上。

ということは、
イオン名誉会長の岡田卓也さんと同じ。

東京大学英文科卒で、英語に堪能。
だからジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』など、
難解なのを訳したりする。

1968年『年の残り』で芥川賞受賞。
谷崎潤一郎賞、読売文学賞、野間文芸賞、
川端康成賞、泉鏡花文学賞、朝日賞など、
数え上げたらきりがない。

旧仮名遣いが特徴で、
読んでいる側は、
実に気分がいい。

その『星のあひびき』の一文。
「『新聞言葉』の恥しい表現」。

私もずっと思ってきたことを、
これは丸谷さん、何度も書いている。
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「子供のときから新聞が好きで、
じつによく読んだし、今も読むが、
新聞の言葉づかひには
嫌ひなものが多い」

「ああ、いやだなあと怖気を震ひ、
それでも読むのをやめない」

たとえば――。

「――と胸を張る」
これは、ふつうに「・・・といばる」がいい。

「――さんも駆けつけた」。

丸谷さんが何度も書くのが、
「――とゲキを飛ばした」。

ぞっとしない、らしい。
同感です。

「あのゲキは本当は『檄』で、
木の札です」

「これは訓は『めしぶみ』『ふれぶみ』、
つまり回状のことで、
昔の中国で役所から人民に出した」

「特に急を要するときには鶏の羽をつけた。
だから『飛ばす』と言ふ」

「それを『激』と勘違ひして、
激しい口調で叱ること
だと思ひ、
野球の監督がすぐ目の前にゐる
コーチや選手にゲキを飛ばす」

「読んでて妙に恥しくなります」

しかし、この言い回し、
私もつい、使ってしまったりする。

もちろん「激」などとは、
死んでも書かない。
「ゲキ」はいいでしょう。
正しくは「檄」です。

ただし、そこら中で、のべつ幕なし、
「激」を飛ばすことを、
日々の業務にする勘違い経営者や、
似非コンサルタントがいたりする。

これは、恥しい。

このほか「辞書的人間」は筒井康隆、
「名人藝といふべき教訓句論」では高浜虚子、
「文系大学生に一番人気の社の経営者」では、
資生堂元社長の福原義春を題材にする。

現物を読んでほしいが、
丸谷才一の興味の視線の先が、
なにより面白い。

さて、日経MJ5月5日版の『斜光線』。
「伊藤雅俊氏卒寿の思い」
企業報道部次長の鈴木哲也さんが書いている。

セブン&アイ・ホールディングス創業者。
伊藤雅俊さんは、丸谷才一さんの一つ上。
つまり岡田卓也さんの一つ上だし、
清水信次さんの二つ上。

先週、90歳の卒寿を迎えた。

しかし、今も、
毎日、本社に出勤。
「人と会ったり、店を回ったり」。
活発な日々は続く。

その伊藤さんの「オムニチャネル観」。

「御用聞きはオムニチャネルの原点」。

オムニは「すべての」という意味。
だからオムニチャネルは、
すべての顧客接点をもって商売すること。

セルフサービスが極限まで発達した現代、
すべての接点の欠落部分を埋めるものは、
「御用聞き」ということになる。

これはさすがに鋭い視点。

昭和初期の恐慌時代の羊華堂洋品店。
伊藤さんの御母堂の伊藤ゆきさんが、
店を切り盛りしていた。

店で待っているだけでは
売上げを確保できない。

そこで伊藤さんが子供ながらに、
「商売の厳しさを目にして、
御用聞きや配達を手伝った」。

昔の商店の子供たちは、
例外なくそんな経験を持つ。

90歳にして伊藤さんは、
その時の感慨を思い出して、
オムニチャネルと結びつけた。

エーリッヒ・ケストナー。
ドイツの作家・詩人・児童文学者。
「子供のころを忘れないことこそ、
児童文学を書く才能です」
そんなことを言っている。
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実際にケストナーは、
『私がこどもだったころ』という
タイトルの本を書いている。

伊藤雅俊さんも、
ケストナーのような才能を
持っているのだと思う。

本物の商人は、
文学者でもある。

本物の商人は、
モノを売る人ではない。

人々に喜びをもたらす人だ。
人々に感動を与える人だ。

その条件の一つが、
「子供だったころのこと」なのかもしれない。

〈結城義晴〉


2 件のコメント

  • 結城先生へ
    いつもブログありがとうございます。
    二十歳の頃 丸谷才一著「文章読(旧漢字)本」を読みました。
    曰く「気取って書け、名文に親しめ・・・・」その中でも幸徳秋水が平民新聞に掲載した、「征け皇軍の兵士よ(日露戦争への反戦)」を採録した一文は、私のその後の人生の座右の銘となりました。

  • いまちゃん、ご投稿感謝します。
    ひとつの文章が、ひとの人生の座右となる。
    素晴らしいことですし、怖いことでもあります。

    丸谷さんはすごい。

    同感です。

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