結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
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2017年05月28日(日曜日)

【日曜版・猫の目博物誌 その42】菖蒲

猫の目で見る博物誌――。
DSCN8963-2016-4-10-66666
猫の目は季節を読み取る。
5月の終わり、6月の始まり。
そんなころの花は、菖蒲。

「いずれ菖蒲か杜若」
どれも素晴らしくて優劣がつけ難いこと。
どちらもすぐれていて選択に迷うこと。

ツツジとサツキ、シャクナゲ。
ツバキと寒椿、山茶花。

自然界にはそんなものが多い。

「菖蒲」は、「アヤメ」とも読むし、
もちろん「ショウブ」でもある。

「杜若」は「カキツバタ」

そのアヤメの学名は、
ラテン語のIris sanguinea。

英語で、Siberian iris。

和名の「アヤメ」は、
「菖蒲」と書くし、「文目」「綾目」でもある。

アヤメ科アヤメ属の多年草。
images.jpgあやめ

アヤメは山野の草地に自生する。
おなじアヤメ科アヤメ属だが、
ハナショウブやカキツバタは、
湿地に生える。

アヤメの葉は、
40cmから60cmで細長く、直立する。
8cmくらいの紺色の花を1~3個咲かせる。

外花被片で、網目模様がある。
アヤメの「綾目」の名は、
この網目模様からきている。
th__DSC7768.jpgあやめ

花弁を「内花被」といい、
萼(がく)を「外花被」という。

アヤメは外花被が、
前面に垂れ下がっていて、
そこに綾目模様がある。

一方、カキツバタは、
外花被片に網目模様がなくて、
白い斑紋がある。

ハナショウブも、
外花被片に網目模様がなくて、
黄色い斑紋がある。

つまり「菖蒲」は、
ツツジ、サツキ、シャクナゲや
ツバキ、寒椿、山茶花と同様に、
見分けにくいけれど異なる仲間を持つ。

ただし、「菖蒲」にはもうひとつ、
別の仲間がある。

ハナショウブとは違う「葉菖蒲」

つまり、
①アヤメ
②ハナショウブ
③カキツバタ
④ショウブ

④が菖蒲湯に入れる「菖蒲」

この「ショウブ」がちょっと面倒くさい。
植物分類で諸説あるからだ。

まず一番最初にできた分類体系は、
1700年代のカール・フォン・リンネの体系。
リンネはスウェーデン人。

次にアドルフ・エングラーの体系。
エングラーは1889年から1921年、
ベルリン大学教授だったドイツ人。
ベルリン・ダーレム植物園館長兼務。

その後、1950年代から60年代に、
新エングラー体系が登場した。
ハンス・メルヒオールらが提唱。
メルヒオールもドイツ人。

さらに1980年代には、
クロンキスト体系が生まれる。
米国人アーサー・クロンキストが提唱。

そして1998年に、
DNA解析によるAPG体系が発表される。
先端的な学術分野ではAPG体系が主流で、
クロンキスト体系以前のものは、
「歴史的体系」と位置づけられている。

④のショウブは、
新エングラー体系などでは、
サトイモ目サトイモ科のショウブ属、
クロンキスト体系では、
サトイモ目ショウブ科。
そしてAPG体系では、
ショウブ目ショウブ科のショウブ属。

しかしいずれも、
アヤメ科アヤメ属とは異なる。

ショウブ(Acorus calamus)は、
アヤメなどと葉が類似している。
しかし花は蒲(がま)の穂のような黄色。
花を見れば全く異なる分類であることが、
はっきりとわかる。

しかし菖蒲湯などで使われるから、
商品となる。
http://www.shoninsha.co.jp/wp-content/uploads/2015/05/9c4dabdf8251933687a1951e45da2ec4.jpg

ハナショウブ、アヤメ、カキツバタとは、
分類が違うことは覚えておきたい。

アヤメは山野に生えるし、
畑のような乾燥地で栽培される。
カキツバタは水辺などの湿地帯、
ハナショウブはその中間で、
畑地でも湿地でも栽培できる。

だから水辺に咲くのはアヤメではない。
ハナショウブかカキツバタ。

花の大きさは、
大輪がハナショウブ、
中輪がカキツバタ、
小輪がアヤメ。

網目模様も三者三様。
アヤメが網目模様、
カキツバタが白い斑点模様、
ハナショウブが黄色の斑点模様。

アヤメが5月中旬から下旬に咲く。
カキツバタも5月中旬、
ハナショウブは5月下旬から6月下旬。
各地の菖蒲園の祭りなどは、
だからハナショウブが多い。
(写真はhttp://www.masugatasou.jp/ayame1より)
th__DSC3973.jpgあやめ
日本四大菖蒲園は、
新潟県新発田市の五十公野公園あやめ園、
山形県長井市の長井あやめ公園、
茨城県潮来市の前川あやめ園、
千葉県佐原市の佐原市立水生植物園。

ハナショウブは大輪で見栄えも良いから。

ハナショウブは江戸時代中期に、
自生したノハナショウブが改良され、
それが発達して日本の伝統園芸植物。

だから万葉時代から、
歌に詠まれてきたのはカキツバタ。
「菖蒲」は葉菖蒲のことだった。

から衣
きつつなれにし

妻しあれば
はるばる来ぬる
旅をしぞ思ふ
在原業平の歌で、
『古今和歌集』『伊勢物語』に登場する。

平安の歌人在原業平。
東下りのときに、
三河の国・八橋で詠んだ。

「か・き・つ・ば・た」の5文字が、
句頭にいれて読まれている。

八橋はカキツバタの名勝地だった。
しゃれている。

アヤメ、ハナショウブ、カキツバタ。
DSCN8963-2016-4-10-66666
それぞれ似ているけれど違いはある。
それがポジショニングというものです。
違いこそ存在価値です。

(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)


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