結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2017年05月03日(水曜日)

古希を迎えた日本国憲法の「部分的な真・善」「部分的な偽・悪」

「ひとになぞらえれば、
いよいよ古希である」

日経新聞の社説。

70年目の日本国憲法を評する。

その憲法記念日。

「あちこちガタが来てもおかしくない。
だから、大事にいたわるのか、
それとも手術に踏み切るのか」

「思案のしどころだ」と諭す。
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やけあとの
つちもめぶきて
あをみたり

ほこなき国を
はるふかみつつ

〈金田一京助〉

毎日新聞の社説は、
全20巻の「昭和万葉集」から、
金田一の新憲法を詠んだ歌を引用。

「ほこなき国」は、
「武器を持たない国」

金田一京助は、
明治15年生まれ、昭和46年没。
1882年~1971年、満89歳で逝去。
言語学者、民俗学者で歌も詠む。

金田一は、焦土に芽が吹いて、
木々の緑が深まる情景を詠み、
平和憲法の誕生を称えた。

日本国憲法には、確かに、
この「ほこなき国」の精神がある。

再び日経新聞社説。
「立憲君主制の元祖である英国には
憲法がない」

不文憲法である。

「英国は王の権力を少しずつ制限してきた」
これが1297年のマグナ・カルタ。

「国民は基本的人権や立法権を獲得し、
行政権と司法権の分離がなされた」
1688年の権利の章典。

「ひとつにまとめた憲法典はないが、
過去の勅令や法律を総称して、
憲法と呼ぶ」

そして英国民は、
「最古の立憲国家であることを
誇りに思っている」

日経は主張する。
「要するに、
形式よりも中身だ」

「明治憲法は
大正デモクラシーを育んだが、
政党が政争の具にしたことで
軍部独裁を生んだ」

「護憲か改憲かだけが、
憲法論議ではない。
まずは身近なところから、
憲法が果たす役割を考えたい」

改憲護憲論議から、
逃げた、という印象。

毎日新聞『余録』

「他国の憲法に比べて条文の簡素なことは
日本国憲法の特徴でもあるという」
「『憲法改正』の比較政治学」からの引用。

簡素な憲法には、
適応力がある。

「つまりは制度の改憲は不要だった」

「象徴天皇制や
平和・人権条項への主権者たる
国民の支持が生んだ改憲なき70年だった」

「もし目指されているのが
改憲のための改憲ならば
現憲法の『不磨』の70年を
軽んじすぎていないか」

朝日新聞社説は、
「個人」にフォーカスする。

だから日本国憲法13条。
「すべて国民は、個人として尊重される」

近代立憲主義の根底に流れるのは、
「憲法は一人ひとりの人権を守るために
国家権力を縛るものである」という考え。

英文では「as individuals」
つまり「個人として」

翻訳家の柴田元幸さんは、
この「as individuals」に対して、
「固有の権利を持つ人間」のニュアンスを感じた。

「as humans(人間として)」だったら、
「単に動物ではないと
言っているだけに聞こえます」

福沢諭吉は『文明論之概略』で、
「individual」の訳語に試行錯誤した。

「ひとり、一身ノ身持、独一個人」
そして福沢は嘆いた。

「日本の歴史には、
『独一個人の気象』がない」
「どくいつこじん」と読む。

伊藤博文が明治憲法を起草した際、
憲法を創設する精神について力説した。
第一に「君権(天皇の権限)を制限」し、
第二に「臣民の権利を保護する」

むろん、その明治憲法の「臣民の権利」は、
一定の範囲内でしか認められなかったが。

朝日は、5年前の自民党憲法改正草案が、
「個人」を「人」にしたことを指摘する。

つまり「as individuals」を「as humans」に。

一方で、自民党草案の前文に、
「和を尊び」の一節が加えられた。

そう、聖徳太子の十七条憲法。
その第一条。
「一曰、以和爲貴、
無忤爲宗」

一つ曰く、
和(やわ)らぎをもって貴しとなす。
忤(さか)ふることなきを宗とせよ。

「忤」はさからうこと。

朝日は指摘する。
「ただでさえ
同調圧力の強いこの社会で、
和の精神は、するりと、
『強制と排除の論理』に入れ替わりうる」

「『個人』を削り、
『和』の尊重を書きこむ」

「そこに表れているのは、
改憲草案に流れる憲法観――
憲法は歴史や伝統などの
国柄を織り込むべきもので、
国家権力を縛るものという考えは
もう古い――である」

朝日は「天賦人権説」を持ち出す。
人はすべて生まれながらにして、
自由、平等で、幸福を
追求する権利をもつという思想。

ジャン=ジャック・ルソーなど、
18世紀の啓蒙思想家が主張した。
アメリカ独立宣言、フランス人権宣言、
そして日本国憲法の「基本的人権」にも、
この精神が貫かれている。

自民党起草案は、
この天賦人権説を、
「西欧由来のものとして排除し、
憲法を、国家と国民がともに守るべき
共通ルールという位置づけに変えようとする」

そして朝日の断定。
「これは憲法観の転覆にほかならない」
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最後に改憲派の読売新聞社説。
「国民主権、平和主義、基本的人権を
3原則とする憲法は、
国民に広く支持され、定着した」

「一方で、一度も改正されていないため、
内外の情勢が大きく変化する中で、
様々な歪みや乖離が生じている」

この点は日経社説と同じ。

読売は憲法9条を問題にする。

「自衛隊は軍隊や戦力でないため
憲法に反しない。
今の政府解釈は確かに、
極めて分かりづらい」

その通り。

「国民投票で過半数の賛成が必要という
改正のハードルの高さを踏まえれば、
幅広い合意形成を優先するのは当然だ」

「首相は13年に、
改正要件を緩和する
96条の改正を唱えた」

そして「先行改憲」などと批判され、
96条改正論を封印した。

「9条は憲法改正の本丸だ。
国論を二分しかねない、
重いテーマでもある」

まるで政府顧問のような読売の主張。
「自民党は、
衆参両院の憲法審査会の議論を踏まえ、
民進党とも丁寧に意見交換し、
戦略的に取り組まねばならない」

折しも安倍晋三総理は、
憲法記念日に寄せて、
ビデオメッセージを発信した。
「2020年を新しい憲法が
施行される年にしたい」

改正項目の9条は、
「1項、2項を残しつつ、
自衛隊を明文で書き込むという考え方は
国民的な議論に値する」

その日本国憲法9条1項。
「日本国民は、
正義と秩序を基調とする
国際平和を誠実に希求し、
国権の発動たる戦争と、
武力による威嚇又は武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては、
永久にこれを放棄する」

戦争の放棄。
それも永久の。

そして2項。
「前項の目的を達するため、
陸海空軍その他の戦力は、
これを保持しない。
国の交戦権は、これを認めない」

戦力の不保持。

この1項、2項を残しつつ、
自衛隊を明文化する。

はて?

それが「ほこなき国」では、
ないだろうことは、たしかだ。

改憲論、護憲論、加憲論などなど。
それぞれの論議を聞いていていると、
あの明治憲法さえもなんだか、
良かったように思えるから不思議。

改憲の前に、
東北をどうする。
福島原発はどうする。
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最後にパンセ抄。
ブレーズ・パスカル。

「この世では、どんなものも、
部分的に真であり、
部分的に偽である」

安倍改憲論がそれだ。
朝日も毎日も、読売も、それだ。

「本質的真理というのは
このようなものではない」

「完全に純粋で、
完全に真でなければならない」

「真と偽の混同は、
本質的真理を損ない、
絶滅してしまう」

読売にはこれが当てはまる。

「純粋に真であるものはない。
つまり、真というものを純粋に
真であるという意味に解したとしたら、
いかなるものも真ではない」

これは朝日や毎日に言っておこう。

「わたしたちは真も善も、
部分的にしか持ちえないのである。
その真と善にも、
悪と偽が、
混じっているのだ」

(断章三八五)
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憲法記念日からの5連休。

読もう。知ろう。考えよう。
「ほこなき国」は存在し得るのか。
それが問題だ。

〈結城義晴〉

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