結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
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2025年05月18日(日曜日)

将棋名人戦第4局と「AIにあらがう将棋棋士」

日曜日の日経新聞一面トップ記事。
「AIにあらがう将棋棋士」
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新聞のデスクとしては、
思い切った判断だ。

将棋界ではこの土日曜の2日間。
第83期名人戦の第4局が開催されていた。

藤井聡太名人(22歳)に、
永瀬拓也九段(32歳)が挑戦した。
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最も権威のある伝統のタイトル棋戦。

しかし初日の土曜日になんと千日手。
2日目の日曜朝から差し直し対局。

その日曜朝刊の一面トップ記事が、
将棋の記事だ。

この名人戦第4局は逆転に次ぐ逆転、
藤井が勝利したと思った。

AbemaのAIは78%対12%で、
藤井の圧倒的な有利を示していた。

ここまで来て、
藤井名人が負けることはない。

けれど持ち時間10分を切って、
藤井に判断ミスが出た。
形勢は覆らず、
そのまま永瀬が押し切った。

ミスを犯してから藤井は考え込んだ。
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天を仰いだ。
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そして負けを認めた。
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日経の記事のサブタイトルは、
「不利戦法、藤井七冠に善戦、
人の創造力探る」

永瀬が不利な戦法を使ったわけではないが、
記事のタイミングはぴったり。

記者もデスクもほくそ笑んだことだろう。

「将棋トップ棋士の間で、
AIが不利と評価する戦法、
『振り飛車』が見直されている」

その通り。

AIは振り飛車を採用した途端、
マイナス点をつける。

その振り飛車を積極的に採用する棋士が現れ、
藤井七冠とのタイトル戦でも、
指される局数が増えた。

「AI全盛の世で、
人間の創造力を探る好例」と記事。

「飛車」は攻めにも受けにも強く、
盤上で最も強力な駒だ。

将棋には大きく分けて2つの戦い方がある。
飛車を動かさない「居飛車」と、
横に大きく動かす「振り飛車」。

居飛車と振り飛車のプロ棋士の割合は約3対1。

「もともと振り飛車党は少数派だが、
近年は上位ほどその割合が減る傾向にあった」

ただしこれはプロの話。
アマチュアでは振り飛車全盛だ。
私は基本的に居飛車党だが、
ネット対局での対戦相手は、
7割くらいの人が振り飛車で向かってくる。

プロに居飛車が多い理由の一つが、
「2016年ごろから浸透してきた将棋AIの活用だ」

「飛車を動かす場所は主に3通りある」
これは間違い。

村上由樹記者には申し訳ないが、
将棋の素人だと言わざるを得ない。
仕方ないけど。

中飛車、四間飛車、三間飛車、
それに向かい飛車。
4通りある。

さらに例外的な「袖飛車」戦法もあって、
正確に言えば5通り。

まあ、いい。

「いずれも将棋AIはマイナスの評価を下す」

記事。
「2020年前後には、
8つあるタイトル戦で振り飛車は
ほぼ見られなくなった」

藤井聡太七冠は居飛車しか指さない。
これも大きい。

だからこの時期のトップ層は、
ほとんどを居飛車党の棋士が占めていた。

「だがこの1、2年で風向きが変わった」
振り飛車復活の流れを作ったのは、
居飛車派から振り飛車に「転向」した、
佐藤天彦(あまひこ)九段(37歳)。
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天彦九段は居飛車を指していた時期に、
名人を3期獲得した天才だ。

それが23年秋、振り飛車に転向。
当初は慣れずに苦戦したが、
24年度はA級でトップを走った。

最終的に名人挑戦は逃したものの、
モデルチェンジの成功を印象づけた。
それによって斬新な戦術考案者に贈られる、
「升田幸三賞」を受賞した。

「振り飛車再評価の背景には、
AI研究合戦による居飛車同士の戦いの、
行き詰まり感がある」

だから今回の名人戦4局も、
居飛車戦で千日手となった。

転向派の天彦九段。
「居飛車同士の戦型はある程度、
演繹(えんえき)的な推論が成り立ち、
セオリー(定跡)ができていく」

「推論は緊密なので感覚を挟む余地がない」

AIが示す有利な戦い方を暗記し、
再現できるかが勝敗に直結する。

これ、本当だ。
永瀬九段がそれに長けている。

天彦九段の指摘。
「AI研究は若さ、時間との親和性が高い」

「体力と時間を要する研究勝負は、
若手に有利な面がある」

他方、振り飛車を指すようになった棋士は、
30代半ばが目立つ。

天彦九段。
「30代には人間同士の中で得てきた、
戦い方の知恵のようなものがある」

AI研究が進むと、
実戦で蓄積してきた感性を、
「捨てていかなきゃならなくなった」

日本将棋連盟前会長の佐藤康光九段(55歳)は、
感性型棋士の筆頭だ。
羽生善治九段(54歳)とほぼ同年の羽生世代。

この康光九段も、
居飛車と振り飛車の二刀流だ。

あるA級棋士の発言。
「研究で負かされると、
何をやっているんだろうと思う」

タイトル戦では23年度に、
純粋振り飛車党の菅井竜也八段(32歳)が、
藤井七冠に2度挑戦。71nW1UtxAvL._SL1500_
大善戦して、
藤井七冠相手にも振り飛車で、
十分戦えることを示した。

藤井七冠。
「振り飛車党でも佐藤九段と菅井八段では
棋風が全く違う。対局者の個性が出やすい」

「最善」や「真理」の追究は将棋の醍醐味だ。
対局の中で生まれるひらめきこそが、
楽しさにつながる。

それはどんな分野にも通じる喜びだ。

記事は言う。
「AI研究の先端を行く将棋界での静かな変革は、
人間とAIの関係を見つめ直す示唆に富む」

同感だ。

素人の振り飛車大流行の理由の一つは、
故大山康晴十五世名人の存在が大きいと思う。
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大山は34歳になってから、
振り飛車に転向した。
そして69歳で死ぬ直前まで、
現役A級棋士として君臨した。
その原動力が振り飛車戦法だった。

「美濃囲い・四間飛車」のわかりやすい定跡と、
大山伝説は今も受け継がれている。

まだAIなど考えもつかない時代だった。

超のつく天才たちは、
AIが登場するずっと前から、
AI時代の人間の在り方を予見していた。
そう考えることができる。

ちなみに私は、
居飛車戦略を基本に、
振り飛車も指す。

将棋界ではオールラウンドと呼ぶ。
羽生善治や佐藤康光がそれだが、
私のはなまくら派だ。

ただし私の場合、振り飛車を指す時は、
「ゴキゲン中飛車」と呼ばれる戦法一本槍。

これは近藤正和七段(53歳)が考案した。
そして2002年度の升田幸三賞を受賞。
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まあ、なまくら派でもこのAI時代に、
人間の創造性と触れることができるのが、
将棋の良さだ。

ボケ防止などという防御的姿勢ではない。
私はいつも攻撃的な生き方なのだ。

〈結城義晴〉


2 件のコメント

  • 介護施設でのボランティアをしていて、あるおじいちゃんと将棋をさすのですが、現在、5連敗中です。真剣にやっているのですが。。
    でも、将棋は負けても面白いです。一緒に振り返りをするのがまた楽しいです。

    • 素晴らしいですね。

      プロの対局では局後の検討会を「感想戦」と呼んでいますが、
      振り返りまで「戦い」と表現するところが面白い。

      その振り返りが楽しいというのは、
      とてもいい話です。

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