結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2025年07月27日(日曜日)

柳田国男の「一等むづかしい宿題」と「むづかしいからおもしろい」

「危険な暑さ」

最近のテレビなどが使う表現。
本当にそう思う。

朝日新聞「天声人語」

柳田国男を取り上げてくれた。

「10人ほどの子どもが、
縦書きの掲示板を見つめる白黒写真がある」

時は1928年、昭和3年。
25歳以上の男性に選挙権が与えられて、
初の「普通選挙」が行われた。

その告知を子どもたちがみている写真。

この写真は、柳田国男が、
『明治大正史/世相篇』に掲載した。81HNT0vJX8L._SL1500_
天声人語。
「衣食住から労働、恋愛など様々な分野で、
庶民の暮らしがどう変化したかを
描き出した名著である」

最後はこう結ばれている。
「すなわちわれわれは公民として
病みかつ貧しいのであった」

コラムは書く。
「なんとも不思議な響きだ」

普通選挙は昭和3年だつたのか、と思う。

フランスでは1792年。
フランス革命期の立法議会解散のとき。
それでも男子普通選挙だったし、
被選挙権は25歳以上、
投票権は21歳以上とされた。

ドイツでは1867年に、
男子普通選挙が実施された。

イギリスでは1918年に、
男子普通選挙が行われた。

そして1919年、ドイツ共和政で、
世界初の完全普通選挙が実現した。

だから日本の1928年の男子普通選挙実施が、
とくに遅かったわけではない。

先ほどの日本の写真の横には、
「一等むづかしい宿題」と、
皮肉めいた説明。

東京学芸大名誉教授の石井正己さんが、
柳田の自伝に詳細な注釈を付けた。
「石井正己校注」と表紙にある。71T4XMcmy6L._SL1500_

石井さんは言う。
「柳田は嘆いている」

「社会とは、貧富に関係なく
正しい判断ができる選挙民を育てるべきものだ。
だが、この社会にはそれができていない」

柳田国男は東京帝大卒業後、
農商務省などで働いてから、
朝日新聞社に入った。

そして1930年まで論説委員を務めた。

『明治大正史』が発刊されたのが1931年。

石井さんの見解。
「ジャーナリズムの限界を自覚し、
民俗学に専念し始めたころ」

柳田自身も書いている。
「『現実の社会事相』は、
新聞の報道より複雑だ」

「そこに限界を感じたのか、
権力者ではなく庶民の歴史をたどると決めた。
各地を旅し、人々の声をすくい上げ、
伝承を拾い集めた」

新聞の論説委員は、
権力者を追いかける者なのか。
柳田はそれを止めて、
「庶民の歴史」をたどったのか。

社会人になりたてのころ、
一人旅で遠野を訪れたことがある。
「遠野物語」に触れたいと思ったからだ。

柳田は一等むづかしい選挙や権力の問題から、
身を引いたということになってしまうのか。

コラム氏は言う。
「自戒を込めて考える。
いま、小さな声にも
耳を澄ませているだろうか。
『難しい宿題』から逃げずに
向き合っているか」

「一等むづかしい宿題」

それが正しい選挙民を育てることなのだと、
柳田国男は言いたかったのだろう。

日本では1945年に、
男女20歳以上に選挙権を与える規定に基づいて、
女性参政権が成立した。

フランスでは日本と同じ1945年に、
21歳以上の女子の選挙権が認められた。

イギリスでは1948年、
完全な普通選挙権制度が成立して、
男女に選挙権が与えられた。

日本は遅かったわけではない。
けれど「むづかしい宿題」であることは変わらない。

ドイツのワイマール共和国は、
1919年に完全選挙制を実験したが、
その意味で圧倒的に時代を先取りした、
凄い出来事だった。

今回の参議院選挙も、
「むづかしい宿題」を私たちに投げかけた。
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しかしむづかしいからこそ、
たいせつなのだ。

翻って私たちの自身の仕事。
「むづかしい宿題」を後回しにしていないか。
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やさしいことからはじめるのは、
一つの方法だけれど、
「むづかしい宿題」に、
いつまでも正面から取り組まないのは、
やっぱりいけない。

夏休みはすぐに終わってしまう。

「むづかしいからおもしろい」
このスタンスを貫きたい。

私も自戒を込めて。

〈結城義晴〉

2025年07月26日(土曜日)

ロピア上田店・バロー八幡一ノ坪店開業と「居抜きのパラドックス」

昨日も今日も「居抜き」出店。

月刊商人舎7月号。
特集「居抜き」の是非
店舗開発の標準化パラドックス
2025-07商人舎
ロピアとバロー。

ロピアnews|
7月に長野県初出店、京都府・三重県にもそれぞれ2号店

ロピアは7月下旬に3店舗の出店。

昨日の7月25日(金)は2店舗同時オープン。
第1は京都。
M’s mall内に「ロピア宇治店」開業。

第2は三重県四日市市。
ロピア四日市北店。
閉店したパチンコ店の跡地への出店。

そして今日7月26日(土)は、
長野県上田市。

「ロピアアリオ上田店」

イトーヨーカドー アリオ上田店が、
今年1月19日に閉店した。

その跡地への居抜き出店。

私も見に行くつもりだったが、
急用ができてかなわなかった。

ロピアの福島道夫さんから、
メールをいただいた。

今朝の「賄い」
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ん~、残念だった。

顧客は開店前に1000人並んだ。
そして入場制限をしながら、
つつがなく初日の営業をした。

長野県第1号店は上々の滑り出しだったようだ。
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この店には、
店舗併設型飲食店「MTO」が導入された。
「Made To Order」はロピアでは8店舗目。
惣菜部門による取り組みは、
注文を受けてから製造する。
つまり、つくりたて商品の提供。

ロピアの勢いは、
現場が支えている。

一方のバロー。

今年に入って新店は3店。

4月25日に愛知県稲沢市、
スーパーマーケットバロー稲沢平和店。

5月30日に愛知県豊橋市、
スーパーマーケットバロー豊橋菰口店。

7月4日に大阪府寝屋川市、
スーパーマーケットバロー香里園店。

そして昨日は京都府八幡市。
山本恭広編集長が取材に出かけた。

バローnews|
京都府に「スーパーマーケットバロー八幡一ノ坪店」7/25出店

京都府4店舗目。
スーパーマーケットバロー八幡一ノ坪店。

バローグループのマルチ業態全体で、
関西圏1000億円を目標としている。

バロー八幡一ノ坪店は、
ホームセンターコーナン内に出店。01

今年1月19日までは、
平和堂フレンドマートが出店していた。
だから居抜きだ。

バローはスーパーマーケットを、
245店舗展開している。

しかし居抜き出店は少ない。
「居抜き」の是非に、結論が出たのだろう。
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店舗は国道1号線沿い。
府道と交差する角地に立地する。

店舗の出入り口は1カ所で、
コーナンと共有している。

バローの売場面積は560坪。
その広いエントランスゾーン。
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バローが掲げているのは、
「ディスティネーション・ストア」づくりだ。

とくに新しいバナーはつけない。
けれどバローの新フォーマットである。
生鮮食品の比重を高めた商品構成だ。

入口は「フルーツ・スイート・ファクトリー」
カットフルーツとフルーツデザートの売場。
顧客が殺到する。
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青果に続く鮮魚売場。
「頭から尻尾まで見える魚屋を目指しています」
これが謳い文句。
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平日でも丸物を売り込む。
調理サービスの要望が多く、
受け渡しを売場で行う。
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精肉は赤身肉の厚切りを中心に、
焼肉商材を売り込む。
センター供給率が高い。
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プライベートブランドの焼肉たれを使って、
試食をしかける。
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惣菜売場はグループ会社の中部フーズが手掛ける。
関西風の味付けが顧客の支持を集めている。08-0

プライベートブランドは拡大中だ。
加工食品、日配品の重点カテゴリーは、
とくに強調して訴求する。
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バローの新店も好調だ。

詳細は月刊商人舎8月号に掲載予定。

新フォーマット、
ポジショニング戦略。
そして居抜き出店。

[Message of July」
パラドックスから抜け出せ。

景気が悪くなると、皆が倹約する。
しかしその結果として需要が減る。
そしてさらに景気が悪化する。
「倹約のパラドックス」である。

落書き禁止の壁に、
「落書きするべからず」と書く。
それは許されるのか。
「落書きのパラドックス」と呼ぶ。

正しそうに見える前提。
妥当と思われる推論。
それなのに受け入れがたい結論。
それがパラドックスである。

標準化された店舗は、
出店スピードが早い。
しかし標準に適した物件は出にくい。
だから店舗開発は遅くなる。

パラドックスに陥らないためには、
正しそうに見える前提や、
妥当と思われる推論を、
疑ってみる必要がある。

正しいと言われてきた理論、
わかりやすそうな理屈を、
頭から信用してはいけない。
自分で考えなければならない。
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今がよければいい。
リスクを背負わない。
目先の利益を追いかける。
それがパラドックスに陥る原因となる。

革新的技術によって先行した企業は、
その技術にこだわって革新性を喪失し、
新たな革新を果たした新興企業に打倒される。
「イノベーションのジレンマ」。

正しいと言われてきた理論、
妥当と思われている推論。
いつもそれらを疑ってかかれ。
そしてパラドックスの隘路から抜け出せ。

〈結城義晴〉

2025年07月25日(金曜日)

ヘモグロビンA1c「6.3%」と「債務膨張に揺らぐ世界」の憂鬱

午前中は大手町。

まず東京駅。
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東京ステーションギャラリーでは、
藤田嗣治展をやっていた。
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新丸ビル(右)と丸ビル(左)。
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7分ほど歩いて、
大手町プレイスタワー。
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地下1階の大手町プレイス内科。
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院長は田嶼尚子先生。
私の主治医。
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毎月の血液と尿の検査。

そして診断。

ヘモグロビンA1cは、
なんと6.3%に下がった。

血糖値も尿酸値も良好。

血糖値センサーが効果を発揮して、
自覚が生まれた。

運動量も増えた。

すべて田嶼先生のおかげだ。
感謝しています。

この調子で自己管理します。

帰りに隣接するトモズに寄って、
処方箋で薬を手に入れる。

トモズのおかげでもあります。
感謝します。
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それでも気分は完全には晴れない。
どこか憂鬱だ。

大手町から横浜に戻って、
商人舎オフィス。

倉本長治の本を3冊ほど読み漁って、
3000字の原稿を書き上げた。

そのなかの『日本商人史考』
1967年の労作だ。
長治68歳のときの著書。
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ん~、すごい。

私の書きたい本のテーマでもある。
今も講義で使っている内容も盛り込まれていて、
実に興味深かった。

そして書き上げた原稿の結論のところで、
ある重大なことを発見した。

私自身にとっても、
励みになることだ。

それは原稿を読んでほしい。

朝日新聞「折々のことば」
第3450回。

批評の始まりは、まず
説明しがたい奇妙な細部を

見つけることだ
〈岡崎乾二郎「美術手帖」7月号から〉
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「どんな絵にも、
うまく説明できない細部がある」

「そこで感じた違和を抑え込み、
既存の枠組みで説明しようとすると、
対象は歪(ゆが)んでしまう」

「逆にその違和をもはや違和としない、
理解の枠組みを組み立てるのが批評だ」

岡崎は69歳の造形作家、批評家。

編著者の鷲田誠一さん。
「これは科学上の発見や医師の診断にも
いえることだろう」

商売の技術論にも当てはまる。
それが商人舎8月号特集だ。

倉本長治にも若い時から、
この正当な批評の精神が宿っていた。

それには本当に驚かされた。

日経新聞「大機小機」

コラムニストは無垢さん。
いつも正論を吐く。

テーマは、
「債務膨張に揺らぐ世界」

「世界には債務膨張の危険があちこちにある」

同感だ。

「日本は参院選後の政治の混迷で、
債務がさらにかさむ」

「トランプ米政権による減税・歳出法で、
米国の債務膨張は必至だ」

「ウクライナ戦争は、
NATOの国防費拡大をもたらした」

「大砲(国防)もバター(民生)も」
これは世界経済危機を招く。

ドワイト・アイゼンハワー米国第34代大統領。
1961年の退任にあたって、
「軍産複合体」を警告した。
それが今、世界中に広がっている。

だから私たちは批評の精神をもたねばならぬ。
説明しがたい奇妙な細部を見つけねばならぬ。

「軍と軍需産業がもたれあい
防衛需要を頼みにする限り、
危機の時代は終わらない」

無垢さん。
「『力による平和』は幻想である」

理想論のように聞こえるかもしれないが、
私もそう思う。

だから「技術革新を安易に、
軍事力に結び付けるのは危険である」

「AIの進展はめざましいだけに、
AI兵器の全面禁止が求められる」

「軍拡競争と減税などによる債務膨張が続けば、
危機は世界中に拡散する」

2022年、リズ・トラス英国首相のとき、
「財源なき減税」によって金融危機が起こった。
それが「トラス・ショック」だ。

「通貨安、国債売り(長期金利上昇)、
株価下落という『トラス・ショック』は、
どこでも起きうる」

「その深度は、
トランプ関税による大混乱をも
上回るだろう」

私の憂鬱の真因はここにあると思う。

〈結城義晴〉

2025年07月24日(木曜日)

「日本は二季の国‽!」と寺岡精工&商人舎のコラボプロジェクト

日経新聞夕刊コラム。
「あすへの話題」
再び佐倉統さん。
実践女子大学教授。
「そもそも日本は二季の国」 

「地球温暖化のせいなのだろう、
毎年6月ぐらいから、
猛暑で茹(ゆ)で上がっている」

同感だ。

「桜がきれいだと思う間もなく暑くなり、
いつまで経(た)っても夏が続き、
ふと気がつけば冬がやってくる。
秋という季節自体が
つるべ落としになったようだ」

「いやいや、もともと
二季の国なのだよ」

50年以上前に喝破していたのが、
吉良竜夫大阪市立大学名誉教授。
1919〜2011年。

吉良教授は言った。
「日本は四季の別が明らかで、
自然のめぐみゆたかな国……とは、
かつての国定教科書のうたい文句だったが、
ほんとうはうるわしい春と秋の季節は
あまりにも短い」

「日本の大半は、
長い夏と長い冬の交代する国、
蚊帳とこたつの交代する二季の国なのである」
(梅棹忠夫・多田道太郎編『日本文化の構造』)

佐倉さん。
「快適な春と秋がなくなったのではなかった。
もともと短かったこの2つが、
さらに短くなっただけなのだ。
量の違い。程度問題」

商人舎7月号。
52週MD[2025年 下期編]
月別コンセプトと重点販促テーマを提案する
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「『秋期』が消滅して、
『晩夏・初秋期』となる」

アパレルの専門家・小島健輔さんの指摘だ。

佐倉さん。
「このことを知ったからとて
猛暑がやわらぐわけではないけれど、
季節対応の心構えは変わってこよう」

商売の心構えも、対策も変わってくる。

「四季が二季になったと騒ぎ立てるのではなく、
今の姿は日本がもともと持っていた性質が
少し極端になったのだ、
今までの夏と冬の対策を少し強化すれば
当座は十分なのかもしれない」

佐倉さんは、進化学者。

「信頼できる専門家の洞察は、
事柄の本質を射抜いている。
だから半世紀経っても十分通用する」

本当の専門家の言は、
重視するのがいい。

さて今日は東京・大崎。
山手線で言えば品川の隣。

㈱寺岡精工大崎ビル。
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2019年4月にグランドオープン。
フードインダストリー(食品製造・加工)と、
ロジスティックス(製造・物流)の、
一体型ショールーム。
「テラオカ・エクスペリエンス・ショールーム」IMG_4579 (002)

入り口のモニュメント。IMG_4580 (002)

東京ショールーム。
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寺岡が掲げるスローガン。
「Grow with Green」
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寺岡も環境を問題とする。
「Good for Environment」

座るレジもある。
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「Shop & Go」
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寺岡精工と商人舎のコラボレーション。
プロジェクト第1弾は大詰め。

みんなで満足そうな写真。IMG_7838 (002)
左から一木里華さん、鈴木佐知子さん。
川越純一さん、右は松井康彦さん。

もう一息です。
よろしく。

帰りに吉水小学校児童の作品を見た。IMG_4586 (002)

危険なほどの暑さの日。

それには、なんとか耐えられる。

快適な春と秋がなくなったわけではない。
もともと短かった春と秋が、
さらに短くなっただけなのだ。

だが、それがさらに短くなることだけは、
止めなければならない。

「温暖化」は地球人全員の問題だ。

「Drill Baby Drill!」と口走る、その口に、
「✕」をつけてやらねばなるまい。

〈結城義晴〉

2025年07月23日(水曜日)

「リベラルアーツ」はポピュリズムを寄せつけない。

「リベラルアーツ」という言葉が、
最近は何度も頭に浮かんでくる。

㈱商業界社長を辞して、
翌年から学校法人立教学院から給料をもらった。
ビジネスデザイン研究科の特任教授となったからだ。

この立教大学が、
リベラルアーツ教育を基本としていた。
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リベラルアーツは一般的には、
「教養」と訳される。
立教は「専門性に立つ教養人」と表現する。

「専門という確かな軸をもった上で、
さまざまな学びの分野に触れ、
広く深い視野と多面的かつ
柔軟なものの見方を養う」

中学と高校の時代、
私が通った一貫教育の学校も、
それを重視する校風だった。
私はそう認識している。

リベラルアーツの教育を受けて、
とても良かったと思う。

大学でも1年・2年の教養課程は、
リベラルアーツのカリキュラムだ。

これも良かった。

さまざまな領域を学んだ。

自分で教科をチョイスする。
理系では数学3とコンピュータを選んだ。

数3で微分と積分を教わった。
面白かった。

早稲田キャンパス9号館の高層ビルの、
地下1階と2階が一つのコンピュータだった。
パンチ式の巨大なコンピュータで、
言語はフォートランを使った。

体育では1年次にフェンシング、
2年次でボクシングを選んだ。

これも私には良かった。

ただしピーター・ドラッカーは、
「Knowledge worker」をこう表現する。IMG_4588

「夕食に招く客には教養のある人がよい。
だが、砂漠では教養のある人はいらない。
何かのやり方を知っている人がよい」

「マーク・トウェインが、
1889年に書いた小説の主人公、
コネティカット出身のヤンキーは
教養ある人間ではなかった。
ラテン語もギリシャ語も知らず、
シェイクスピアを読んだこともなく、
『聖書』もほとんど顧みなかった」

タイトルは『アーサー王宮廷のヤンキー』
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ドラッカーは言う。
「しかし彼は、機械のことなら、
電気を起こすことから電話機をつくることまで、
すべて知っていた」

私はここから「知識商人」と言う概念を考えた。

商売のこと、商品のこと、
お客様のこと、地域のこと。
これらを誰よりもよく知っている専門家。
それが、知識社会の「知識商人」だ。

そして、
その専門知識に応じた専門技術を身につけ、
お客様のために動くことができる。
実行することができる。
それが「知識商人」である。

トウェインの小説は、
古き良き時代だった。

このヤンキーたちが今、
「アメリカ・ファースト」に凝り固まっているのか。

いや、「Knowledge worker」たちは、
まだまだカスタマーの役に立って、
そのカスタマーには公平公正に対応しているに違いない。

真の知識商人は、
自分の顧客を見失ってはいないだろう。

仕事こそリベラルアーツだからである。

政治家がさまざまなことを考え、
さまざまなことを言う。
さまざまな思想をもっている。
選挙のときにはそれが凝縮されて表現される。

時には正当な知識を逸脱していたりする。
それが最近は実に多い。

その明らかな間違いは、
「Knowledge worker」にはわかるのだろう。

朝日新聞「折々のことば」
第3446回。
いかなる名目も、
武器をとってもかまわない
名目とはならない。
(金子光晴『日本人について』から)

「人は神の名において戦い、
自由の名において殺しあってきた」

「『理想』を名目に無慈悲に犠牲を求め、
平気で人を見殺しにすらする」

「『理想』は本来『夢みるもの』で、
教育や政治に手渡されると
かならずや悲惨な事態を招く」

「現実の中に差し込まれたそれは
人々を熱情で包み込む。
いったん洪水になってしまえば止(とど)めようがない」

金子は1895年(明治28年)生まれの詩人。IMG_4589

世界を放浪して無国籍者の視野を獲得した。
そして反権力、反戦の詩を多く残した。

詩人の視点のなかにも、
リベラルアーツは含まれている。

映画007シリーズ/ドクター・ノオに、
なんの教育も受けていない美女が登場する。

「私は百科事典から全てを学んだの。
8才の時、Aからはじめて、今はTよ。
たぶんあなたより物知りよ」
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これもリベラルアーツの一つだ。

それは単に「お勉強」ができることではない。
いわゆるエリートではない。

世界を放浪したり、
他国の商売を見たりすることも、
人間形成に資する。

なにより自分の仕事に真摯に向き合う。

リベラルアーツは、
ポピュリズムに踊らされないのだ。
ポピュリズムを寄せつけないのだ。

〈結城義晴〉

2025年07月22日(火曜日)

「男性の日傘、女性服のポケット」と「教科書シリーズ」の技術論

二十四節気の「大暑」

1年で一番暑い15日間。

日経新聞夕刊のコラム「あすへの話題」
実践女子大学教授の佐倉統さん。

本人によく似たイラストだ。
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1960年、東京生まれ。
私よりひと回り若い。

都立日比谷高校から東京大学文科三類へ。
つまり文学部。
1990年、京都大学大学院博士課程修了。
理学博士。

三菱化成生命科学研究所特別研究員、
横浜国立大学経営学部助教授、
ドイツ・フライブルク大学客員教授、
東京大学大学院情報学環教授など歴任。

タイトルは、
「日傘とポケット」

「もうかれこれ10年近くになるだろうか」

「日陰を連れて歩くのは、
なんといっても快適だ。
健康にも絶対良い」

結構早くから日傘派。

「使い始めるまでは抵抗があったのも事実。
男子たるもの、日傘をさして歩くなど、
軟弱この上ない、
とまでは言わないものの、
他の手段があれば、
それに越したことはないと思っていた」

「だが、帽子も似合わないし、
他にしかるべき方法もない。
で、やむをえず日傘を使ってみたら、
なんのことはない、
もっと早く使わなかったことを後悔した次第」

私は帽子を愛用する。
それでも日傘のほうが、
太陽の光を遮る空間が圧倒的に広くて、
それがとてもいい。

私はミズノのゴルフ用傘を、
日傘として使っている。
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UVカット率99.9%。
全体に軽い。

とってのところが、
ずん胴でシンプル。

佐倉さん。
「先日、女性の服にポケットをという
デザイナーの話を目にした」

「この問題、長い歴史があり、
ポケット付き女性服を実現しよう
という運動は何度もあったが、
そのつど反対があってうまくいかなかった」

「そのことを知って、
自分が女性の服にポケットがないことに
疑問を抱いてこなかったことに
今さらながら気づいて、
愕然(がくぜん)とした」

女性服のポケットは、
男性服と比べて小さい。
あるいはついていない。

アパレルの歴史に影響されたようだ。
17世紀末のフランス。
男性のズボンにはポケットがついていた。
女性のドレスは下着にしかついていなかった。

第一次世界大戦が勃発した20世紀。
働く女性が増えて、その衣服にも、
ポケットがつくようになった。

しかしその後、ハンドバッグが流行。
美しさを追求するために、
男性服ほど機能性が発達しなかった。

佐倉さん。
「男子の日傘、女子のポケット。
まだまだ、気づかない躓(つまず)きの石は
たくさんある」

同感だ。

今日はずっと横浜商人舎オフィス。

月刊商人舎8月号の原稿が、
4本も上がって来た。

いずれも筆者の労作。

それに手を入れつつ、
見出しをつけたりして、
仕上げた。

面白い原稿ばかりで、
今、こんな内容の雑誌は他にない。

今回は「技術論」です。

経営には論理がある。
マネジメントにも、
マーケティングにも、
論理がある。

もちろん戦略にも戦術にも論がある。

戦争論を書いたのは、
カール・フォン・クラウゼヴィッツ。
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小売業の技術にも論理がある。

それがひどく少ない。

「ノウハウ」はあるし、
「ノウハウ本」も数多。

しかし「技術論」は少ない。

私は商業界の時代から、
これを追究してきた。

「惣菜の教科書」
「店長の教科書」
「陳列と販促の教科書」
「青果の教科書」「鮮魚の教科書」「精肉の教科書」

「教科書」はいろいろな分野に、
もともとあった。

それをチェーンストアの「技術論」として、
「教科書」のネーミングを使った。

「教科書シリーズ」は、
私が考え出したものだ。

一番最初は20代。
販売革新編集部員の時代。
1年間の連載記事をもとに、
池田壽太郎「青果物の12カ月」を一冊にした。
これは実に良く売れた。

ただしこれは連載時から、
「青果物ノウハウ本」の要素が強かった。

私は壽太郎先生から、
「選別値入れの理論」や「顔の理論」を学び取って、
それを「技術論」に仕上げた。

ノウハウ本を技術論に仕上げる。
ノウハウに論理をつくる。
ここにポイントがある。

そうするとノウハウは、
論理的に発展し、進化する。

その後、商業界の後輩編集長たちも、
散々、「教科書シリーズ」をつくった。

自慢話になってしまうが、
最初のそれは「男性の日傘」だった。
「女性服のポケット」だった。

商人舎8月号はその「技術論」特集です。

ご期待ください。

〈結城義晴〉

2025年07月21日(月曜日)

海の日に思い出す「ハワイ研修会」と6大新聞の「社説」の違い

Everybody, Good Monday!
[2025vol㉙]

2025年第30週。
7月第4週。

三連休最後の日、
海の日。

海は好きだった。
若いころは毎年のように、
泳ぎに行った。

しかし最近はそれは考えられない。

最後に海に入ったのは、
いつだろうと考える。

ブログは便利だ。

2019年9月9日。
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まさに海の日だった。
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第6回商人舎ハワイビギナーズコース。
9月第1週に開催した。

モアナルアガーデン。
モンキーポッドの木の前で。
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2014年から始めて、好評を博したが、
コロナ禍によって中止した。

あれ以来、海からは遠のいた。

毎回、最終日のディナーパーティーは、
海を臨むバーベキューレストラン。
DSCN88599

みんなとサンセットを見た。
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大きなおおきな夕日。
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そして誕生祝いをしてもらった。
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渡航費が急騰した上に、
物価が高くなって、
ハワイ研修は実施できない。

しかし現在も全米小売業ランキング10位の、
9社がハワイで見ることができる。

1位Walmart
2位Amazon.com
3位Costco
4位The Kroger
5位The Home Depot
6位CVS Health
7位Target
8位Walgreens Boots Alliance
9位Lowe’s
10位Albertsons

このなかで4位のクローガーだけが、
ハワイに進出していない。

他の企業には訪れることができる。

ホールフーズマーケットは今や、
アマゾン傘下だが、
ワイキキビーチそばの最新店では、
そのエッセンスを学ぶことができる。
IMG_03939

オアフ島のノースショアでは、
オーガニック農園を訪問する。
IMG_05039

海の日に、ホノルルのことを思い浮かべた。
DSCN90919

今週はずっと横浜にいる。
できるだけ原稿を書きたいと思っている。

海の日の祝日は何もしなかったが、
ほんとうにいい休養になった。
土曜日には長野に行くつもりだ。

来週も頑張ろう。

さて昨日の参議院選。

日本の政治の大きな転換点となった。
そう思うし、そう書いた。

そしてそれは「政党政治」の終わりかと思う。
IMG_4576 (002)

新聞各社の社説。

読売新聞と産経新聞は、
石破茂総理は退陣せよと指摘した。

読売。
「野党にとっては、衆参の選挙で戦った首相が
自民党総裁のままでは、協力しにくいだろう。
野党に連立参加を促す上でも、
首相は進退を決するべきだ」

産経。
「参院選でも大敗した首相に
国のかじ取り役は任せられない」

自民党寄りの新聞は、
与党の頭のすげ替えを要求した。

朝日新聞。
「石破首相は早々に続投の意思を示したが、
最終的に自ら掲げた目標を達成できず、
昨年の衆院選に続いて
『信任』を得られない事態となれば、
職を辞すのが筋だろう。
国民の支持のない政権が
長続きできるわけがない」

積極的に辞任せよではないが、
辞職が筋だろう、と言う。

毎日新聞。
「首相の責任は重い。
自民は参院でも
比較第1党に踏みとどまる見込みだ。
首相は続投の意向を示しているが、
党内から退陣を求める声が出ることは
避けられまい」

こちらも退陣の声が出ると指摘。

新聞としての意志は見えない。

日経新聞の社説は、
石破退陣には触れずに、
「政局の混乱を最小限にとどめ、
国政を停滞させないことが肝要である。
与野党には責任ある対応を求めたい」

「政治の勢力図は、
野党の新興政党が躍進することで
多党化が進みそうだ」

現状が劇的には変わらないという予想か。

中日新聞も日経に近い。
「与野党は議論を尽くして結論を得る『熟議』に、
これまで以上に真摯に取り組まねばならない」

6大新聞の社説。
読売と産経が「退陣」を迫る。

朝日と毎日は、
「辞任」が筋だろうと遠巻きに指摘する。

日経と中日は、
与野党の真摯な議論を促す。

私は石破でも石破でなくとも、
与党は長くはないと思う。

では野党にはそれに変わる政権がつくれるか。

それも否。

私自身、今回の投票では、
選ぶ候補者がいなかった。
選ぶ政党はもっとなかった。

そもそも選挙前の現金給付にも減税にも、
肯首することはできなかった。

自分の住むところに、
いい店がまったくなくて、
仕方なく買物する。
そんな消費者の気分だった。

新規参入した店舗にも、
残念ながら自分の好みの店はなかった。

そんな絶望感が深まった。

それでも政治は国にとって必要な機能だ。

大新聞の専門の政治部トップたちにも、
それが見えなくなっている。

「政党政治」には多くを期待せず、
その枠の外から何かが起こることに、
淡い期待を抱いて見続けることにしよう。

チェーンストアは、
一つの商圏内に次々に、
有力で魅力的な店が出現している。

強い者同士の競争は激しくなるばかりだ。
ポジショニング競争が起こっている。
選ぶ楽しさが増えている。

政治にはそれがない。

だから私は、
流通小売業の健全な競争に期待しつつ、
自分の仕事に邁進することにしよう。

欲しいのはこれだ。

ちいさな喜び、
ささやかな幸せ、
あすへの希望。

では、みなさん、今週も、
あすへの希望を。

Good Monday!

〈結城義晴〉

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