結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2021年12月26日(日曜日)

新保民八「滅びてもよし」と「断じて滅びず」の間にあるもの

2021年も終わろうとしている。
ひどく寒くなった。

昨日の土曜日も執筆。
今日の日曜日も執筆。

なかなか進まない。

それでも今年最後の原稿書き。
ブログは別として。

『あきないの心』
「繁昌を招く倉本長治の88のことば」あきないの心2
88の文章のうち一遍だけ、
倉本以外の筆になるものがある。

新保民八の一文である。

1901年生まれ、1958年没。
20世紀が始まった年に誕生し、
その20世紀の前半を生きた。

倉本長治の盟友の一人として、
商業界設立に参画した経営指導家。

霊南坂教会神学校で学んだキリスト者。
同志社大学を経て、米国に留学。
戦前のマーケティングを習得した。
帰国後、花王石鹸㈱(現、花王㈱)常務。
宣伝広告の専門家だった。

1948年、倉本とともに、
雑誌『商業界』を創刊し、
初代主幹に就任した。

私は直接聞いたことはないが、
演説の名手だった。
テープが残っている。

その火を吐くごとき弁舌は、
倉本以上のものがあって、
多くの商業者に激しい感動をもたらした。

熱を帯びてくると、
壇上から降りてきて、
聞き手の胸ぐらをつかんで、
「なぜ、わからないんだ!」と叫んだ。

その熱がまた多くの聴衆に伝わっていった。

この小文のタイトルは、
「正しきに依りて滅ぶる店あらば
滅びてもよし断じて滅びず」
新保民八1
「私は日本が敗戦の惨めな状態に陥ったとき、
毎日泣いた」

「そうしたら私の友だちが、
立ち上がれ、
そんなことでは駄目だぞと言って
教えてくれた歌が、平田篤胤(あつたね)の
『正しきに依りて滅ぶる国あらば
滅びてもよしかならず滅びず』
という実にいい歌だった」

「私はこの歌によって奮起し、
ふたたび働く気持ちになった」

「それを諸君にそのまま伝えるならば、
『正しきに依りて滅ぶる店あらば
滅びてもよし断じて滅びず』である」

「もし、あなたが正しい商人として、
信念ある商人として、
科学性に立脚して、
目標を正しく進んでゆくのに対して、
受け入れないような世間であるならば、
それはよこしまな世間じゃないか、
邪悪な世間じゃないか、
われわれが一致して、
生きる価値のない世間なのだ」

「だが、そうじゃない」

「大衆は真実を求めているのだ。
正しきことを考えて、
正しきによりて滅びる店があるならば、
滅びてもいいじゃないか、
こう思い切るならば、
断じて滅びるはずはないんだ」
(新保民八講演集『愛と真実の商道』より)
愛と真実の商道

商業界に入ったころ、
倉本長治よりもむしろ、
私は新保民八に感動した。

倉本は存命であったが、
新保は没していて、
神格化されていたからかもしれない。

そしてこの新保の言葉を突き詰めて、
私なりの結論を導き出した。

新保の言う「滅びてもよし」と、
「断じて滅びず」には、
一瞬の間がある。

それは何か。
202102_cover-pic

そして雑誌の巻頭言で発表した。
「滅びてもよし、断じて滅びず」

新保民八の言葉。
「正きによりて滅ぶる店あらば、
滅びてもよし。
断じて滅びず」

新保は何よりも、正しくあれ、と諭す。
そして正しくあるならば、
滅びてもよし、と言い切る。

現実を顧みると、
正しくないものは即座に、滅びる。

しかし、正しさを唱えるものが
滅びてしまうことも、ある。

なぜか。
なぜ、正しくあることを目指しているのに、
滅びるのか。

それはイノベーションがないからである。

イノベーションとは、
不断の自己革新である。
「店が客のためにある」ことに向けた
自己変革である。

『商売十訓』の第二訓、
「創意を尊びつつ良いことは真似ろ」は、
イノベーションの考え方を明らかにしている。

「良いことを学び、実行する」
「創造力を働かせ、実践する」
両方を実現させ続けることが、
自己革新である。

原点を貫くための原則を新保は、
「滅びてもよし。断じて滅びず」と、
心意気を示すように訴える。

だが私は、
「滅びてもよし」と「断じて滅びず」の間に、
「自ら、変われ」「自己革新せよ」という
強い意志が横たわっていると考える。

経営の革新と技術の変革は、
滅びぬために不可欠だからである。

商いの原点と原則は、
「正義」を貫き、
「革新」を続けることにあるのだ――。

残り僅かな2021年を噛みしめ、
自己変革の2022年にしたいものだ。

〈結城義晴〉

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