結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2020年02月29日(土曜日)

新型肺炎厳戒の「無私と利他」と第十五代樂吉左衛門の「天問」

2020年2月が終わる。
一月、往ぬる、
二月、逃げる。

うるう年は今日の29日まで。
1日余分にあるはずだが。
新型コロナウィルスに明け暮れて、
時間だけが逃げるように過ぎていった。

日経新聞の今日の社説は、
「新型肺炎厳戒」と表現した。

安倍晋三首相による全国一律の休校要請。
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社説は言う。
「政府が設けた専門家会議は、
全国での一斉休校が感染防止に
現時点でどれだけ効果があるかを
検討していない」

つまり専門家会議は、
全国一律の休校を議論していない。

社説の論説委員の表現。
「トップダウンによる臨時休校は
教育現場を混乱させている」

これ、
チェーンストアをはじめ企業経営で、
本当によく使われる言い回しだ。

もちろん緊急事態や戒厳状態のときには、
トップダウンの意思決定は必要だ。

しかしほとんどの場合、
神は現場にあり。

現場から発想しなければならない。

「全国一律の休校要請は、
クラスター(集団)ごとの対応では
追いつかない特別な状況が
生じたとの判断なのか」

「高齢者は重症化するリスクが高いが、
子どもにそうした傾向は出ていない。
根拠に基づく行動基準を示さないと、
自治体が判断に迷うケースも出るだろう」

トップダウンであっても、
根拠に基づいた行動基準でなければ、
現場は動かない。

新型肺炎の経済へのインパクト、
小売りサービス業の営業に及ぼす影響。

計り知れない。

しかし一方で反動のような特需もある。
スーパーマーケットやコンビニ、
そしてドラッグストアなどは、
買い溜め需要も手伝って、
比較的好調だ。

しかし、
こんな時の商売こそ、

「無私と利他」である。

イベントをはじめ人が集まる催しは、
控えねばならない。

私も4月の米国研修は延期した。

この激震の2月の間、
日経新聞最終面「私の履歴書」は、
陶芸家の十五代樂吉左衞門さん。
樂直入と名乗る。

今日はその最終回。

実にスリリングな人生で、
そのうえ真摯なものの考え方に、
感動しつつ毎日読んだ。

樂焼(らくやき)は、
轆轤(ろくろ)を使わず、
手とへらだけで、
「手捏ね」(てづくね)でつくる。

成形した後は100℃で焼成する。
だから軟質施釉陶器となる。
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狭義には樂家の歴代当主が作製した作品。
樂家は千利休に茶碗を提供して始まった。

その十五代当主が吉左衛門さんだ。

安土桃山時代から、
楽焼を創り続ける伝統の重み、
その不易流行。

京都の樂美術館には、
絶対に行こうと決めた。
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本気で仕事すること、
命をかけて精進すること。
それを毎日毎日、教えられた。

28回の連載のうち、
特に感動したのが第20回「天問」。
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1990年、樂直入さんは、
個展を開く。
そのタイトルを「天問」とする。

その評価は分かれた。
大茶人は嘆いた。
「こんな茶碗で茶を飲まんならん時代に
なったのか」
美術商は顔をしかめた。
「他の道具とつり合わない」
「独りよがり」

点(た)てにくい、飲みにくい、
茶筅(ちゃせん)がいたむ、
茶巾が回らない、
茶杓(ちゃしゃく)が乗らない、
口が切れそう、
赤い釉(ゆう)が血みたいで怖い、
どこから飲むのか分からない、
などなど。

数多(あまた)のそしりを、
直入さんは大いに喜び、
祝杯を挙げた。

「拒否反応をもたらさない創造は
真の創造とはいえない」

心から感動した。

利休と初代長次郎は、
樂茶碗に命懸けだった。
〈初代長次郎作・黒樂茶碗「面影」〉
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「その静けさの奥に、
激しく牙をむき、
世間の常識をことごとく砕き、
体制にかみつく意志と思想が
秘められている」

既存の価値観に突き付ける匕首(あいくち)。

その桃山時代のかつてない、
様式を持つ長次郎茶碗は、
名前さえなく「今焼」と仮名された。

樂直入の茶碗もまた名称を持たなかった。
そこで老子の説く「無名天地之始」から、
新しい命の誕生の証しとして、
「天問」のコンセプトで、
「焼貫茶碗」と仮の名を付した。
〈樂直入作・焼貫黒樂茶碗「女媧」〉
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「道とすべき道は、常の道に非ず。
名とすべき名は、常の名に非ず。
無は、天地の始まりを、名し、
有は、万物の母を、名す」

樂直入の生きざまはまさに、
強烈な個性による、
「無私と利他」である。

〈結城義晴〉


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