結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2010年08月20日(金曜日)

「現状肯定」の隣に横たわる「現状否定」と故渥美俊一本再読の薦め

毎日書くが、夏の甲子園大会準決勝。
ベスト4の対戦ともなると、
夏も終わりに向かっていることを意識させられる。

明日は、とうとう決勝。
今夏は、強豪校が比較的順当に残った。

中学生の頃からか、高校生の頃からか、
甲子園大会の決勝戦が終わってしまうと、
何かぽっかりと心の中に穴が開いた気がした。

それとともに気分はもう秋。
夏休みも、あとは宿題を済ませるだけの「消化期間」となった。
そんなことを覚えている。

さて今日が、商人舎秋のアメリカ視察「スペシャル編」の締め切り。
急遽、キャンセルが出たりしているが、ほぼ満員御礼。
来週以降、どうしても参加したいと申し込んで来られる方には、
航空券と宿泊部屋確保のための特別な対応をします。

昨日は、百貨店協会7月の売上高概況が発表された。
調査対象92社・263店舗。
売上総額は前年同月比マイナス1.4%。
店舗数調整後の比較で、29カ月連続の減少。

昨日、このブログで取り上げた日経MJ「百貨店調査」では、
2009年度は、全国233店の百貨店のうち、
なんと3店しか前年をクリアしていなかった。

それでも、1.4%のマイナスと、
7月の減少幅は1%台。
関西弁で「ぼちぼち」まで、
回復してきたと見ることができるか。

しかし百貨店にこそ、渥美俊一先生の格言が必要。
すなわち今月の商人舎標語。
「現状を否定せよ!」

29カ月連続で売上高がマイナスとなると、
店舗の大半は、「現状を否定」してかからねばならない。

セブン&アイ・ホールディングスの総帥・鈴木敏文さんは、
「過去の成功体験を捨てよ」
と言い続けているから、
百貨店売上高順位138位、年商139億円、一等立地の西武有楽町店を、
今年クリスマスに閉店することを決めた。

最新の『広辞苑』第六版によると、
「現状」の意味は「現在の状況」で、
そのあとに「――維持」とだけ使い方が記されている。
最も頻繁に使われる四字熟語がここに掲げられているだろうから、
「現状」には「維持」がつきもの。
つまり日本人は「現状」と考えると、
すぐさま「維持」を思い浮かべる。

それを「否定」に逆転させるには、
よほどの意志力が要求されるということか。

だから、渥美先生は敢えて言う。
「現状を否定せよ」

鈴木敏文さんは繰り返す。
「過去の成功体験を捨てよ」

私には面白い経験がある。
レイバースケジューリングの権威・村上忍さんは、
私が『食品商業』編集長のときに、
レギュラー号で1年間連載記事を書いて、
それをまとめて『レイバースケジューリング原理』という単行本を上梓した。

2年後だったか、ふたたび1年ほどの連載記事をまとめて、
第二弾の単行本を出した。
『チェーンオペレーション・バイブル』というタイトルがついた。
2冊の本のあとがきには、私への感謝の言葉が記されている。
1冊目と2冊目の間に、
村上さんはコンサルティング活動を積極的に行って、
実例を蓄えていた。
だから2冊目が内容としては優れているが、
1冊目には著者の思いのようなものが込められていて、
感動的である。

ただし2冊の間には、きわめて重要な変化があった。
1冊目には「現状を肯定せよ」と説かれていたが、
2冊目では「現状を否定せよ」に変わっていた。

私は、村上さんの現場実績が、
「現状肯定」を「現状否定」に変えさせたのだと判断した。

ご承知のように、 レイバースケジューリングの導入期には、
現場に入って、ストップウォッチを持って、
一つひとつ、作業時間を測定調査する。

その意味において、「現状肯定」をしなければ、
レイバースケジューリングは始まらない。

しかし作業とオペレーションの時間管理を始めると、
現状の作業の手順や仕組みを改革、改善・改良しなければなくなる。
従って、「現状否定」となる。

私には、同じ筆者の連続した単行本の鍵を握る考え方が、
180度転換していることが面白かった。
そしてこれはあらゆる実務上の問題に関連することだと考えた。

今月の商人舎標語。
「現状を否定せよ!」

ここには「現状肯定」という真反対の概念が、
隣り合わせになって横たわっている。

昨日は、午後から、
一般社団法人パチンコチェーンストア協会の第34回経営勉強会。

dscn1999-1.jpg

私は、第二部で講演。
dscn2005-1.jpg

この協会は、発足の時に、
故渥美俊一先生に支援していただいた。
記念講演もお願いして、快諾してもらった。

だから私は今回、
「渥美理論」のダイジェスト版を、
できるだけ分かりやすく語った。
そのことに努力した。

dscn2015-1.jpg

「渥美理論」は、
まず商業の復権と産業化の理念・ロマンをベースにしていること。
そのために「チェーンストア産業づくり」と「流通革命の実現」を目標としていること。

はじめは皆、小さな店であった。
そこで準備段階として「ビッグストアづくり」を果たし、
その後、「チェーンストアへの転換」を果たすというシナリオが描かれたこと。

基本にあるのは「数字による科学的経営」と「マネジメント」の二つの考え方。
この二つの基礎理論のうえに、「店舗と商品」の技術論がのっていること。

最後は、「商品がすべて」であること。

最近私には、「渥美理論」を語れ、書け、
という要望が数多く寄せられている。

できるだけ応えるようにしている。
渥美先生への恩返し。

そしてこれは、改めて「渥美理論」の勉強をし、
私なりに再整理することに役立つ。

そして「渥美理論」を発展展開させることにも、
極めて有益である。

1987年、㈱商業界40周年記念事業として、
渥美俊一著『商業経営の精神と技術』が発刊された。
この本は、10数時間の渥美先生とのデスマッチのごときインタビューの挙句、
渥美語り下ろし、結城書き下ろしで、
誕生したものだった。

その時に贈られた渥美先生からの言葉。
「この書物は、すべてあなたの努力でできました」

印刷のインクの匂いの残る最初の本を届けた時に、
渥美先生がサインしてくださった。

私の宝物。
今も手元に残っている。

だが、この本は、
故倉本長治商業界主幹の『商店経営の技術精神を主題として、
渥美流解釈を加えた、当時の「現代版」であった。
それだけ渥美俊一は、倉本長治を研究し、学んだ。

私自身にも、この姿勢は必要だと思う。

「渥美理論」を聞きかじって、
渥美批判をする者が多い。

それは批判の精神に反している。

今こそ、渥美俊一の再勉強をしてもらいたい。
手元に渥美本がある人は、是非、
この夏の間に、再読をお勧めしたい。

まだ渥美先生の魂がわれわれの近くにいるうちに。

効能新たかであることは、私が保証しよう。

<結城義晴>

★事務局からのお知らせ★

本日、3つのブログ記事がアップされました。
毎週金曜更新の「林廣美の今週のお惣菜」は人気のおにぎり弁当。
不定期連載「標準クレート物語」第3回は中林氏による「イフコの導入」苦労話。
そして、浅野秀二節全開で笑って泣ける「イタリア紀行最終編―適地、ローマへ」
お楽しみください!


2 件のコメント

  • いつもありがとうございます。新秋刀魚が高く鮮魚売り場にひと苦労です どのように対応すれば良いのでしょうか お教えくだい。

  • akira kawaziri様、いつもありがとう。

    売場づくりの問題に関しては、
    鈴木國朗先生や林廣美先生、
    それから鮮魚部門のことなら、
    奥田則明先生がご専門です。
    このブログを読んでいらっしゃったら、
    お答えいただくと、幸いです。

    私の立場でも、一言コメントしておきましょう。

    新秋刀魚の漁獲量が極端に減っています。
    不漁の原因は、ご存知の猛暑。
    主産地の北海道の東部沖海域の水温が上昇し、
    漁獲高が激減しています。
    さらに北西太平洋での秋刀魚漁獲量も減りつつあります。

    百貨店では一尾700円近くの値段で売られ、
    スーパーマーケットでも400円を超える。
    だから売場づくりに苦労する。

    一方、解凍秋刀魚は100円以下で販売することができます。

    新秋刀魚は水揚げ後の生秋刀魚が氷詰めにされて出荷されます。
    これは脂の乗った上り秋刀魚であることが多い。
    冷凍ものは下り秋刀魚が大量に水揚げされ、相場が低いときに、
    大量に冷凍保存されたもの。
    冷凍品ですから相場をみながら出荷されます。
    だから冷凍秋刀魚は今、絶好の出荷時期でもあります。

    現在は、冷凍技術が進歩しています。
    だから冷凍秋刀魚も品質が損なわれることはありません。
    ただし上り秋刀魚か下り秋刀魚かの違いはでます。

    この条件の中で、いかに品揃えするか。

    第一に、自社自店のポリシーや政策があります。
    コモディティ重点型の企業では、
    「冷凍秋刀魚をディスカウントでどんどん売る」
    「今、超高値の秋刀魚を楽しみませんか?」とでも訴えて。

    ノンコモディティ重点型の企業や店舗では、
    仕入れが可能となったら、この高値の理由をお伝えしたうえで、
    それでも「新鮮な旬の秋刀魚をどうぞ!」と販売する。

    この両者の考え方をミックスして、
    売り場展開する方法もあるでしょう。
    そんな企業は多いでしょう。
    お客様は、よく解っています。
    新秋刀魚が高いこと。

    だから買う顧客は買う。
    高いから買わない顧客は代替品を探す。

    スーパーマーケットのシステムが優れているのは、
    代わりのメニューを提案できることです。
    代わりの魚種でもいいし、
    代わりの肉メニューでもいい。

    鮮魚部門の昨年の秋刀魚販売分の売上げが予算達成できないと、
    考える人もいるかもしれません。

    しかしそれはこちらの事情。
    売り手の発想です。

    大事なことは、この高値の時に、
    顧客をあざむかないこと。

    正直に正直に、
    それでいてお客様の気持ちになって、
    わが社、わが店のポリシーに則って、
    売場をつくり、商売することだと思います。

    お客様は、スーパーマーケットに、
    秋刀魚を買いに来るわけではない。
    メニューを買いに来るのです。

    もちろん、この異常時に、
    何か目立つことをやって、
    顧客の注目を引こうと考える店もあるでしょう。
    それはそれでよし。
    それが成功する場合もあるし、
    見破られて失敗することもある。

    お客様は、長い目で、店を見ています。

    BSEで牛肉が売れなかったときにも、
    中国餃子が売れなくなったときにも、
    結局は、正直に商売していた企業や店舗が、
    最後に評価されました。

    その意味で、スーパーマーケットは、
    いい商売なのです。

    もちろん、生産者の皆さんにとっては、
    秋刀魚の不漁は、大変困った問題です。
    これに関しては、行政も含めて対応するしかありません。

    小売業は、品揃えという考え方の中で、
    売場をアコーディオンのように広げたり縮めたりして、
    問題解決をすることができるのです。

    いかがでしょうか。

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