結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2011年04月12日(火曜日)

「東北関東大津波大震災」結城義晴・渾身の現地レポート「五章 ヨークベニマル湊鹿妻店長物江信弘物語〈後編〉」

チャリティセミナー
「ひとつになろう日本!商人支援プロジェクト

㈱商人舎として、参加、協力しています。

皆さんにも、ご参加を要請します。

私は、今回の「東北関東大津波大震災」に対して、
自然の猛威に恐れおののくとともに、
日本商業のライフラインとしての働きぶりに感動し、
商業にかかわってきた者として誇りにしたいと考えています。

その被災地の商人を支援するプロジェクト。
私たちは会社の名前を「商人舎」としました。
つまり「商人が集まるところ」。
だから、こういったプロジェクトには、
何をおいても参加します。

結城義晴にできること、
㈱商人舎に可能なことなら、
喜んで、進んで、行いたいと思っています。

従って今、進行中の単行本の印税は全額、
被災地の義援金にします。

こんなことは、あまり、
おおげさにいいたくはないのですが、
皆さんに、チャリティへの参加を要請するのですから、
呼びかける人間として、組織として、
どれだけの決意があるかは、
示させていただいた方がいいのではないかと考えるものです。

東北や茨城の企業を訪問したり、
支援したり、激励したりしています。
それが私にできるささやかな役目のひとつでもあると、
思っているからです。

そんな人たちの活躍を語り合い、
そんな人たちとともに歩むことを誓い合う。

そういった集まりになればいいと思います。
まさに商人の集まる舎(とねり)。

謙虚に、控えめに、真摯に、
被災地の商人を支援したいと思います。

ひとつずつ、すこしずつ、いっぽずつ、
被災地の商業の復旧復興を応援したいと思います。

いつも、そして、ずっと、
心をひとつにしていたいと思います。

さて、何度もなんども、
余震がやってきます。
そのたびに携帯電話が、
「キューッ、キューッ」と鳴ります。

そしてそのたびに、
現地の人々の精神的な負担を思います。

マグニチュード9の大きな地震が始まりでした。
次に最高遡上高37.9メートルの津波が押し寄せました。
そして福島第一原発の事故と最悪のレベル7の評価
さらに、余震はだんだん南下してきて、首都圏に迫る。

次から次へと、新しい難題が降りかかります。

「艱難が忍耐を生み、
忍耐が練達を生む。
練達が希望を生み、
その希望は絶望に終わることはない」

この新約聖書の言葉を、
今回は、信じたいと思いつつ、
「最悪を覚悟して最善を尽くす」
そんな心境になってしまいます。

けれども、へこたれてはいられません。
くじけてはいられません。

元気を出そうよ、
それがあなたの仕事です。
元気を売ろうよ、
それがあなたの役目です。

こう言い続けているのは、
私自身なのですから。

さてさて文体が変わって、ここから、
宮城県石巻市のヨークベニマル、
湊鹿妻店の物語〈後篇〉。

物江信弘店長にご案内いただいて、
石巻蛇田店から、湊鹿妻店に向かった。
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物江店長は昭和55年、ヨークベニマル入社の30年選手。
「YBマン」と称するが、その代表のような人。

話をしていても、
表現力の的確さ、豊かさに、驚かされる。
ベニマルにはこんな人材が、
うようよ、いる。

見えてきた、ヨークベニマル湊鹿妻店。
石巻の一番端の伊原津2丁目。
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ワンフロアで屋上が駐車場。
左に屋上に向かうスロープが見える。
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店舗左サイドのマクドナルドの前に、
流れ着いた人家の屋根。
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手前側500メートルほどのところに海が広がる。
その海から津波がやってきて、車や瓦礫を運んだ。
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ヨークベニマルのマークの前に、
トラックやセダンが打ち寄せられている。
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店が津波を堰止めたかのように、
ありとあらゆるものが瓦礫となって積み重なっている。
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人家がそのまま流されてきて、
横倒しになって、店舗入り口のところをふさいでいる。
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駐車場の横に人家があって、
その白い壁に浸水時のラインが残っている。
1階部分は完全に水没した。
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ヨークベニマルの隣には、ホーマック。
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こちらも同様に1階部分が壊滅した。
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今や必要なくなった「店舗入口」のサイン。

店舗のサイドも水流で突き破られている。
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ホーマックの裏側は完全崩壊。
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ヨークベニマルの裏側、プラットフォームのところ。
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プラットフォームの横のバックヤード。
手前に泥をかぶって壊れたパソコン。
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ヨークベニマルの裏手にある団地。
2階以上は無事だった。
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この団地も11日には水没していて、
ベニマルから流れてきた商品を、
住民が掬い上げて、
それを食べたり飲んだりして、凌いだという。

「あとで、団地のお客さんから感謝されました」
物江店長は笑う。

あたり一面、水に囲まれていたのだ。

正面に回って、湊鹿妻店の全容。
この屋上駐車場に2日間、
物江店長たち500人は籠城した。
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現在の店舗の中に入ってみる。
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日差しが眩しくて、
中に入ると真っ黒にしか見えない。

それでも目が慣れてくると、
すこしずつ、かつての店内が見えてくる。
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入口を入ったすぐのところ。
この天井近くまで水が来た。
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店内に流されてきた軽自動車。
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店舗右手のベーカリー部門。
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天井もはがれている。
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ベーカリーの奥の青果部門。
「Fresh Produce」のサインが見える。
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いちばん奥に「Sea Food」のマーク。
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正面は「Daily Market」。
店舗の奥には瓦礫が、
押し付けられるように詰まっている。
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冷蔵ケースが横倒しになって、
転がっている。
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フロントのATMは七十七銀行。
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店の中央の柱はしっかり残った。
この柱が屋上を支えた。
残された黒い線が津波の高さを示す。
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店舗の真ん中あたり。
瓦礫と呼ぶしかない物が集まっている。
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銘品コーナーからレジのあたりを臨む。
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左手にレジの番号が「1」「3」と見える。
レジ前の柱には「花粉対策」の文字。
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店舗の外に出てくると、眩しい。
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2011年3月11日、午後2時46分。
最大震度マグニチュード9の大地震。
物江店長は店内にいた。

5分後に第一波の津波が来た。
これは50センチほど。

さらに20分後、第二波の津波。
これがすごかった。

あとで市場の漁師に聞いたら、
地震直後に「海の底が見えた」という。

海底に亀裂が入り、
水位が下がって海底の地肌が見えた。

その大きな亀裂に海水が吸い込まれ、
その返し波が第二波となって、
猛烈な勢いで押し寄せてきた。

ただし第二波以後は、
ドーンとくることはなく、
じわり、じわり、グーッといった感じで、
次々に波が来て、
やがて店舗1階の天井近くまで、
水に埋まった。

だから店舗は壊されなかった。
しかし濁流のような引き波が、
すべてのものをさらっていった。

このとき、店舗屋上には、
車が100台くらい避難してきていた。
もちろん勤務中の従業員は全員、屋上に上がって、無事。
徒歩で屋上に避難する周辺住民もいた。

休みの人、遅番出勤の人、
4人の従業員が帰らぬ人となった。
車に乗っていてそのまま流された従業員もいた。

屋上から見ていると、
返し波の濁流に車ごと流されて、
車から助けを求める人。
家が流されて、
屋根のうえから助けを求める人。

物江店長たちは必死だった。

屋上にトラックで逃げてきた人が、
ロープをもっていた。
そのロープを投げて、
みんなで力を合わせて引きずり上げた。

ロープが届かない人もいた。
流れていくのを眺めていた。

物江店長は、暗くなる前に、
売場に懐中電灯があったと気がついて、
それを取りに降りて行った。
するとまた津波が押し寄せてきた。
水が足もとまで迫ってきて、
スロープを走って屋上に上がった。

そのスロープにはいま、
車がひっくり返っている。
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広い広い屋上。
この屋上が人々の命を救った。
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津波はじわり、じわりと水位を上げていった。
そこで屋上駐車場の機械室の上の屋根に、
まず子供たちを上げることにした。

たまたま梯子を積んでいる車があった。

「子供たちを上に上げろ!」
「妊婦さんはいないか?!」

不思議なことに、みんなで自然に、
力を合わせて、梯子を登らせた。
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故渥美俊一先生は「屋上駐車場」を否定したが、
尊敬する渥美先生の説でも、
この時ばかりは、私は思った。
屋上駐車場の有難みを。
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それから、津波が引くまで、
500人はこの屋上で助け合った。

夜は、車の人はエンジンをかけて車内で寝た。
それ以外の人たちは屋上にある社員食堂に入って寝た。
それでも人があふれていたので、
機械室のドアを壊して、
そこを開放して寝てもらった。

車にラジオがあった。
だから震災と津波の全体の情報は得られたが、
石巻に関しては一切、報道されなかった。

ヨークベニマル湊鹿妻店の屋上は、
まさに孤立無援だった。

もちろん裏の団地の人々、
隣のホーマックの人々、
それぞれに孤立無援の状態だった。

物江店長は、みんなに言った。
「1日や2日では駄目かもしれないけれど、
1週間くらい経ったら助けてもらえるから」

翌日は少しずつ津波が引いていった。
まだ水に取り囲まれているものの、
水位は低くなった。
「泥の海」のような店舗周辺一帯。

いったん家に戻ってくるという人もいた。

売場から水や食料を運び上げてきて、
人数と日数を計算して、少しずつ配った。

被災した11日金曜日は、
チラシの立ち上げの日だった。

バックヤードや冷蔵庫はパンパンだった。
従業員もいちばん多い日だった。
だから多くの人が助かった。

「今日はこれだけだよ。
これしかないから」

文句を言う者はいなかった。

それにお腹は空かなかった。
なぜか喉も乾かなかった。
水をちょっと、パンをちょっと。
それだけで生きていた。

それでも女性のためにトイレが必要だった。

食堂のロッカーをみんなで出してきて、
屋上の隅に囲いをつくった。
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その12日の夕方、
上空をヘリコプターが飛んだ。

みんなで手を振り、声を上げた。

それまで一切、報道もされず、
湊鹿妻店の500人のことは知る人もいなかった。

けれど、すぐに助けが来るわけではなかった。

「救助がくるまで避難した人たちを安全に守る」
それがYBマンの使命だと思っていた。

13日も助けは来なかった。

14日の朝、小林稔店長の石巻蛇田店から、
田んぼのようなどろどろ道をぬって、
救援物資が届けられた。

その日、給水車が来た。

市からの救援物資が届いたのは、
4日目の15日だった。

この間、湊鹿妻店は、
人々を守りきったのだった。

4月6日に私たちが訪れた時、
まだ避難者の一部の人は、
ここにいた。
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物江店長は親しげに状況を聞いた。

現在は簡易トイレが設置されている。
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手洗いのルールも決められている。
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洗濯物も集められる。
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食堂には簡易ベッドがしつらえられ、
近所の避難所よりもすこしは快適だと言う。
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13家族20人の人が、まだここで避難している。
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食堂の調理場で食事をつくる。
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暮らしのルールも決めて、集団生活が続けられている。
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救援物資も、ありがたいことに、
自宅で暮らす人よりは、ずっと潤沢だ。
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みんなが口をそろえて言う。
「ヨークベニマルのおかげ。
物江店長のおかげです」

機械室の横の壁に物江さんのメッセージ。
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物江さんは行方不明になった従業員を探して、
泥の中を歩き回った。
その時に首からぶら下げた手書きのボード。
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この駐車場が、500人の人々を救った。
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そこに、物江信弘店長に立ってもらった。
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「とりあえず食べるものはありました。
だからみんなで力を合わせて、
規則正しく生活しました」
物江さんはそう語る。
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「自分にとって今、できることは何か。
お客さんのために今、できることは何か。

それだけを考えていました」

「ベニマルさんのおかげで助かった」
地域の人々の声。

もう、それだけで、十分だと思う。
それが物江信弘に贈られる最高の勲章である。 (明日につづきます)

<結城義晴>


8 件のコメント

  • 初めてコメント致します。てっちゃんと申します。
    今日の記事は、同じ店長として感動致しました。
    店長仲間として、本当に誇らしく思います。
    普段の誠実な仕事への姿勢が、こんな場面で地域の方々への
    命がけの貢献に繋がるのだと思います。

  • てっちゃん、ご投稿、感謝。
    「店長仲間として」というニュアンス。
    いいですね。
    会社も違うだろうし、
    地域も違うかもしれないけれど、
    同じ店長仲間として共感する。

    物江店長も店長仲間からの共感が、
    やはりうれしいのだと思います。

    明日のブログには、
    物江さんの店長仲間の小林稔さんが登場します。
    ご期待ください。

  • 結城先生へ
    被災地からの渾身のレポートを涙で霞んだ目で読ませていただきました。
    現在のテレビの放映からでは私達に伝わってこない、何かを感じさせれます。
    それは 結城先生が被災地の方々と同苦してこのレポートを書かれたからだと思いました。
    俯瞰的客観的レポート(一般のマスコミ報道)も必要でしょうが、
    結城先生のこのレポートが日本中の商人魂に火をつけ、
    復興への努力につながると確信します。
    私もその一人として応援します!

  • 18才で石巻を離れるまで、徒歩2分?くらいの近くに住んでいました。
    離れてから出来たベニマルのパン屋さんの細くて長くてシュガーまぶしてあって・・が好きで、
    よく母と買ってました。
    とにかく踏ん張っていきましょ!
    微力ながら支援します!!

  • こんばんは。お疲れ様です。

    以前、部下だった者です。
    さすが、物江店長だと思いました。

    5年前、宮城の新店・白石店のオープン準備の為、
    異動赴任した際、
    物江店長にアパートの保証人になっていただきました。

    お世話になった、物江店長がご無事で安心しました。
    このサイトで、店長の笑顔が見れて良かったです。

  • いまちゃん、ゲストさん、motさま。
    ご声援、ご支援、ありがとううございます。
    私もみなさんと一緒に、物江店長をはじめ、
    被災地の「仕事」する人々を応援します。

  • 物江店長をはじめ、従業員の方、そして、石巻の皆様本当にありがとうございます。
    本当にお疲れ様です。
    地震直前まで、湊鹿妻でお世話になっておりました。
    天災とはいえ、心痛む惨劇が起きてしまった事が残念で仕方ありません。
    石巻では、数多くの方にお世話になり、様々な面で、成長させて頂きました。
    人情身溢れる石巻の方の恩は忘れていません。
    今は苦しい時ですが、止まない雨はありません。
    皆様のこれからの生活が明るく過ごせることを、切望致します。
    自分も、微弱ながら、第2の故郷の石巻の復興を願い、出来る事をしていきたいと思います。
    皆さん、くれぐれもお身体には注意してください。

  • 小林英樹様、ありがとうございます。
    「止まない雨はありません」
    その通りです。

    小林さんも、元気を出して、
    元気をください。

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