結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2022年05月04日(水曜日)

クリミア戦争のトルストイとナイチンゲール

みどりの日の祝日。
「自然にしたしむとともにその恩恵に感謝し、
豊かな心をはぐくむ」

ゴールデンウィークも終盤。

ウクライナ戦線に異常あり。
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ウォロディミル・ゼレンスキー大統領。
ウォールストリートジャーナル開催の、
イベントにオンラインで登壇。
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「領土保全が我々の第一の任務だ。
クリミアを取り戻したいと考えているし、
それは可能だ」

クリミヤ半島は黒海の北岸にある。

1853年から56年まで、
ロシア帝国が、
トルコ・イギリス・フランスなどの連合軍と闘った。
「クリミヤ戦争」と呼ばれる。

レフ・トルストイはこの戦争に従軍した。
26歳の士官候補生だった。
驚くことに陣中で『セヴァストポリ物語』を書いた。
セバストポリ
トルストイはその10年後、
36歳のときに『戦争と平和』を書き始めた。

フローレンス・ナイチンゲールは、
このクリミア戦争で、
敵味方の別なく傷病兵の看護に尽くした。
イギリスの看護婦で社会起業家。

「クリミアの天使」と称された。
それが後年、赤十字運動につながった。
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連合軍の戦死者は7万人、
ロシア側は13万人にもおよんだ。

国際連盟も国際連合もなかったが、
文豪は小説を公開し、
赤十字の精神が生まれた。

プーチン戦争にそれはない。
事実を隠蔽し、
無差別の殺戮を繰り返す。

人間の歴史は、
果たして進歩しているのだろうか。

クリミヤ戦争から160年後。
ロシア帝国はソビエト連邦に変わり、
さらにロシア連邦に変わって2014年、
クリミヤはウクライナ領になっていたが、
ウラジーミル・プーチンによって、
一方的に武力併合された。

国際連合にも承認されていない。

ゼレンスキーは、
それを取り戻すと宣言した。

ウクライナは「領土問題では妥協しない」。
喜んでいいのかどうか。
いずれにしろ、戦争は続く。

さて、先のナイチンゲール。
『看護覚え書』を著している。
その「ロンドンの子供たち」より。

「子供たちに、
新鮮な空気が入り、
明るく、陽(ひ)当たりよく、
広々とした教室と、涼しい寝室とを与え、
また戸外でたっぷりと運動をさせよう」

マリウポリの製鉄所から、
女性や子どもたちが避難してきて、
解放された喜びと、
地下生活の辛さを語った。

ナイチンゲール。
「たとえ寒くて風邪の強い日でも、
暖かく着込ませて充分に運動させ、
あくまで自由に、
子供自身の考えに任せて、
指図(さしず)はせずに、
たっぷりと楽しませ遊ばせよう」

「もっと子供に解放と自然を与え、
授業や詰めこみ勉強や、強制や訓練は、
もっと減らそう」

「もっと食べ物に気をつかい、
薬に気をつかうのはほどほどにしよう」

あくまで自由に。
子供自身の考えに任せる。
指図はせず、
詰め込み教育、強制や訓練は、
減らそう。
たっぷりと楽しませよう。
遊ばせよう。

明日はこどもの日だ。

〈結城義晴〉

2022年05月03日(火曜日)

75年目の憲法記念日「何はあれけふうららなり」か?

朝から自宅で原稿を書き、
昼すぎに商人舎オフィスに出て仕事。
月刊商人舎5月号を責了する。

「勝って兜の緒を締めよ」
「負けて褌を締めてかかれ」

今月の原稿では、
こんな言葉を対比的に使った。

日本語は面白い。

施行75年目の憲法記念日。
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憲法記念日天気あやしくなりにけり
〈大庭雄三〉

天気も怪しくなったが、
憲法論議も怪しくなりにけり。

憲法記念日何はあれけふうららなり
〈林 翔〉

ゴールデンウィークの中の憲法記念日。
何はあれ、今日、うらら。
それでいいか。

憲法記念日罐詰にもある裏表
〈佐藤正賢〉

缶詰にも裏表がある。
憲法にも裏表あり。
裏表の論議あり。
それでいいのか。

憲法記念日鴉は黒かむらさきか
〈星野麥丘人〉

これも同じ。
カラスは黒色か紫色か。

読む気せず憲法記念日の社説
〈井出和幸〉

そこで各紙の社説。
今年はタイトルのオンパレード。
それだけで中身はおおよそ見当がつく。

「人権守り危機に備える憲法論議を深めよ」
〈日本経済新聞〉

「憲法記念日に
浮足立たず、向き合う時だ」
〈京都新聞〉

日経と京都新聞は、
向き合いつつ、論議を深めよ。

「憲法施行75年
激動期に対応する改正論議を」
〈読売新聞〉

読売は改憲派だ。
故渥美俊一先生は、
読売の記者だったが、
改憲派だったのだろうか。
聞きそびれた。

「揺らぐ世界秩序と憲法
今こそ平和主義を礎に」
〈朝日新聞〉

「危機下の憲法記念日
平和主義の議論深めたい」
〈毎日新聞〉

朝日、毎日は「平和主義」を主張する。

「きょう憲法記念日
平和の理念今こそ大切に」
〈北海道新聞〉

「どうしん」はいつも平和理念を謳う。
それがブロック紙として、いい。

「憲法記念日に考える
良心のバトンをつなぐ」
〈中日新聞・東京新聞〉

発行部数は実は、
中日新聞・東京新聞が第3位だ。
そして結構、リベラル。

その社説。
「民主主義は”現在”の多数派が
少数派の意見を踏まえつつ権力を行使します。
それに対し、憲法を力にする立憲主義は
“過去”が未来を拘束します」

「例えば”過去”が保障した基本的人権は、
“現在”の多数派がたとえ奪おうとしても、
奪うことができません」

「人間は愚かで移ろいやすいゆえに、
憲法原理は変えられないようにしているのです」

これ、護憲派の主張。

日本国憲法の基本的な考え方は定着した。
国民主権、平和主義、基本的人権の尊重。

これを変える意味はない。

しかし戦後の憲法制定時の想定を、
はるかに超える状況が生まれた。

新型コロナウイルス感染拡大は、
「個人の自由」と「社会の安全」の、
トレードオンを要求している。 tobira
大震災などの災害、テロリズム、
そしてロシアのウクライナ侵攻。

とくに「プーチン戦争」は、
「法と正義」に基づく国際秩序を揺るがしている。
日経新聞号外ウクライナ侵攻
憲法9条が定める戦争の放棄、
そして戦力および交戦権の否認は、
日本の国土と国民を守る防衛力強化と、
どう整合性をとるのか。

ここでもトレードオンが求められる。
tobira
カラスは黒か紫かと、
どちらかに決めることではない。
両方だ、と言っていい。

立法府たる国会での真摯な論議は、
不可欠だし、
私たち国民も一人ひとり、
この考察を深め、
議論に参加すべきだと思う。

さて、「読む気せず」と詠んだ俳人は、
どの新聞を読んでいたのだろう。

日本新聞協会の2021年12月下旬の調査。
一般の日刊紙97紙の総発行部数は、
3065万7153部。

前年に比べると179万7643部減で、
これは5.5%の減少。

20年前の2001年は4700万部、
10年前の2011年は4400万部。

3000万部割れ目前。

高度経済成長期の1966年に、
3000万部台に乗った。

そして1990年代末は5000万部超のピークだった。

不思議な同期現象だが、
日本の総合スーパーのピークは、
1997年だった。

その後、新聞も総合スーパーも、
現在まで下降が続く。
部数減、売上げ減が止まる気配はない。

しかしそれでも新聞は、
3000万部も読まれている。
こちらのほうが不思議か。

私も新聞は、
ネットで読むことがほとんどだ。

そのネットで知る世界の動向、
ウクライナの情勢。
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「何はあれけふうららなり」とはいかない。

〈結城義晴〉

2022年05月02日(月曜日)

イビチャ・オシム逝去/その語録「走って走って走れ!」

Everybody! Good Monday!
[2022vol⑱]

2022年第18週。
5月第1週。
ゴールデンウィークの後半。

商人舎裏の遊歩道。
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緑が深くなって、
しかもその緑がまぶしい。IMG_27072

ランチは北海道らーめん「楓」。IMG_27022

堪能しました。IMG_E27032

毎年書いているし、
昨日も書いたけれど、
今週は子と母の週。

5月5日のこどもの日は、
国民の祝日に関する法律第2条の趣旨は、
「こどもの人格を重んじ、
こどもの幸福をはかるとともに、
母に感謝すること」

自分自身もその感謝の気持ちを持つとともに、
われわれの武器である店舗では、
母と子のためのプレゼンテーションを、
精一杯、盛り上げたい。

イビチャ・オシム氏が亡くなった。
サッカー元日本代表監督。
80歳だった。
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ユーゴスラビアのサラエボ生まれ。
64年の東京五輪に同国代表として出場。
90年のワールドカップイタリア大会では、
監督としてストイコビッチらを擁して、
ベスト8の快挙を成し遂げた。

Jリーグにやって来て、
2003年から監督業。

ジェフユナイテッド市原を率い、
ユニークなチームづくりで快進撃。

私は日本リーグ時代から、
父が務めた古河電工のファンだった。
そのチームがJリーグでは、
ジェフユナイテッドとなって、
リトバルスキーなどが活躍した。

だから新監督のオシムに期待した。

オシムはジェフでの手腕を買われて、
2006年のW杯ドイツ大会後に、
日本代表監督に就任。

「オシム語録」はいつも印象に残った。

2003年1月、ジェフ監督就任あいさつ。
「君たちはプロだ。
休むのは引退してからで十分だ」

ジェフの監督時代に故障者が続出した。
「肉離れ?
ライオンに襲われた野うさぎが
逃げ出すときに肉離れしますか?
準備が足りないのです。
私は現役のとき1度もしたことはない」

「レーニンは、
勉強して勉強して勉強しろと言った。
私は選手に、
走って走って走れと言う」

「疲れているのはわかるが相手も同じ。
走りすぎても死なない」

「サッカーは
危険を冒さなければならないスポーツ。
でないと塩とコショウのないスープになる」

「こぼれたミルクは元に戻らない。
うちは勝ち点を失ってきた。
電車は行ってしまった。
駅に着いたのが遅かった」

オシムはアナロジーの達人だ。
たとえ話が実に的確だ。
オシム
新加入選手懇親会で両親たちには?
「あなたは息子さんを
最後まであきらめずに走る子供に
育てましたか?
もしそうでなければ
期待をしない方がいいでしょう。
もしそうなら、
私が責任を持って育てます」

2003年5月、Jリーグ戦は、
中断期間を設けた。
「残念なことに7、8月は選手に休みを与える。
ただ忘れてほしくないのは、
休みから学ぶものはないという点。
選手は練習と試合から学んでいくものだ」

ジェフの成功を評価されて一言。
「つくり上げることは難しい。
でも、つくり上げることの方がいい人生だ」

2006年6月、日本代表とジェフの
兼任監督を要請された。
「2つの車を同時に運転することはできない」

2006年W杯ドイツ大会で、
日本は1次リーグ敗退した。
それを嘆く日本全体の風潮に対して一言。
「物事を客観視すればいい話ができる。
自分たちの能力以上のものを
期待して盛り上がると、
失望することになる」

2006年7月、日本代表監督内定のとき。
「古い井戸には水が少し残っている。
それなのに、古い井戸を完全に捨てて
新しい井戸を掘りますか?
古い井戸を使いながら
新しい井戸を掘ればいい」

日本人選手の特長を指摘する。
「世界基準があっても、
日本は誰のまねもしない方がいい。
ほかの国にないものを持っている。
俊敏性、積極的な攻撃、高い技術。
でも、教育の段階から
自由に判断することを許されていない」

「チームを“日本化”させること。
つまり日本代表が本来持っている力を
引き出すことが必要だ。
そして初心に帰ることも大切。
日本人らしいサッカーをしようということだ」

「巻には何もいうことはない。
巻はジダンにはなれない。
でもジダンにはないものがある」
巻はジェフのエースストライカーで、
ジャパンのエースでもあった。

2007年3月、天才中村俊輔のプレーを語った。
「天才ぶりを発揮する機会は何回かに一度。
いつも天才であろうとすると、
結果は無残に終わる」

2007年7月、アジア・カップ初戦。
カタールと引き分けた時に選手たちに。
「お前たちはアマチュアか。
プロの私は死ぬ気でこの試合に臨んだのに、
そういう気持ちがあったのか」

「勝つと大切な直すべき点が見えてこない。
歴史、戦争、原爆の上に立って、
考えるべきだ。
負けたことから、
最も教訓を学んでいる国は日本だ。
今は経済大国になっている。
失敗から学ぶ姿勢がなければ、
サッカーは上達しない」

最後に90年代、
祖国の内戦を乗り越えて、
欧州でクラブ監督に歴任したとき。
戦争から何を学んだのか、と聞かれて。

「戦争から学べたとすれば、
それは必要なものになってしまう」

そう。
戦争から学べるものなんて、
何もない。

イビチャ・オシム。
ご冥福を祈る。

では、みなさん、今週も、
走って走って走ろう。
考えて考えて考え抜こう。

Good Monday!

〈結城義晴〉

2022年05月01日(日曜日)

丘浅次郎の「信ずる働きと疑う働きとを適当に養うこと」

いやはてに
鬱金(うこん)ざくらのかなしみの
ちりそめぬれば
五月(さつき)はきたる
〈北原白秋〉

ウコンザクラはバラ科サクラ属の植物。
オオシマザクラをもとに、
日本原産で生まれた栽培品種、
サトザクラ群のサクラ。

鬱金色はやや赤みを帯びた黄色。
だからウコンの別名は「浅黄(桜)」。

白秋はその浅黄の桜が散る中で、
五月が来たことを思う。

その5月です。

ゴールデンウィークが、
5月5日のこどもの日で終わると、
3日後の8日の日曜日は母の日。

毎年のように言っているが、
だから今週は子と母の日、
母と子の日。

日経新聞巻頭コラム「春秋」

日本画の大家・鏑木清方(かぶらききよかた)。
その随筆「若葉」から。
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「五月という月は
若いものだけに許された
季節のような気がする」

「鮮やかな緑、強く匂う花々、きらめく光」
それが5月だ。

一方、ビー・ジーズの「ファースト・オブ・メイ」
「5月になると若い頃を思い出す――」と歌う。
ビージーズ

邦題は「若葉のころ」。

1971年の映画「小さな恋のメロディ」で、
主人公のダニーとメロディが、
並んで下校するシーンで流れた曲。
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「古い因習にあらがい、
自由を求める子供らの奮闘ぶりが
歌と相まって共感を呼んだ」

「若者らが思い切り手足を伸ばし、
誰もが心躍り風薫る初夏」

それが5月だ。

コラム。
「観光船の遭難も軍事侵攻も、
これから人生で若葉の季節を迎えるはずの
子供や若者が犠牲になった」

「国民への奉仕者であるはずの
政治のリーダーを、
王様のように子供や若者にあがめさせる。
そんな映像も海外から伝わる」

「時代錯誤だと思うものの、
自由を尊んできた国々に
同種の窮屈さが広がる兆しもある」

「安全でのびやかな世界を
子供らに渡すという責任を、
大人はきちんと果たしているか。
自問すべき5月になった」

「春秋」に同感して、
ほぼ全文をダイジェストした。

丘 浅次郎。
1868年(明治元年)~1944年(昭和19年)。
動物学者であり、
高等師範学校教授だった。
〈出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」(https://www.ndl.go.jp/portrait/)
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「初等教育においては、宜(よろ)しく、
信ずる働きと疑う働きとを、
いずれも適当に養うことが必要である」

素晴らしい。

「疑う理由の有ることは
何所(どこ)までも疑い、
信ずべき理由を見出したことは
(たしか)にこれを信じ、
決して疑うべきことを
疑わずに平気で居たり、
また信ずべき理由の無いことを
軽々しく信じたりすることの無い様に、
脳力の発達を導くのが、
真の教育であろう」
(「疑いの教育」より)

明治の人だが、
教育の本質を言ってくれている。

仕事でも商売でも同じだ。
アカデミズムもジャーナリズムも、
つまり大人の世界でも、
まったく同じだ。

疑う理由があるときには、
どこまでも疑う。

信じるべき理由が見つかったら、
確かにこれを信じる。

疑うべきことを、
疑わずに平気でいる。

また信じるべき理由がないことを、
軽々しく信じたりする。

これらの行為がなされないように、
自分の脳の力を養い、鍛える。

つまり盲信や盲従をしない。
自分の頭で論理的に考察する。

すぐ役に立つことは、
すぐに役立たなくなる。

その理由を追求する。

そのためにいい本を読む。
優れた人の話を聞く。
美しいものを見る。
聴く。触れる。

いい店を見るし、
いい商品を愛でる。

真理を追い求めながら、
仕事に邁進する。

そんな5月にしたいものだ。

〈結城義晴〉

2022年04月30日(土曜日)

セブン&アイの「27億円の男」か「お客様最上位の組織」か。

2022年4月最後の日。

二月の雪、三月の風、四月の雨が、
輝く五月をつくる。
内館牧子さんのエッセイにある。

黄金週間の土曜日だけれど、
商人舎オフィスに出て、
原稿執筆と原稿手直し。
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編集作業をして、
デザインの七海真理さんに入稿した。
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疲れた。
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今日の朝日新聞「折々のことば」
第2365回。

やっぱり仕事は
命に
目立てをかける事なんだなァ
(土田一郎の父)

「鋸(のこぎり)目立て職人の父は、
親からもらった体は
減らないものと思っていたが、
鋸と同じで、
いい仕事をしようとつい酷使するうち
やっぱり細ってくると嘆いていたと、
跡を継いだ息子はいう」

「根を詰めればいやでもタコはできるし、
持病も出てくる」

「それでも人が働くのは、
命を削ってでもそれに
張りをもたせようとするからだ」
(『職人衆昔ばなし』から)
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命を削ってでも、
商品に張りをもたせる。
売場や店に張りをもたせる。

本や雑誌、文章に張りをもたせる。

そのために人は働く。

今日の気分にぴったりだ。

今月の日経新聞に、
セブン&アイ・ホールディングスの、
組織や役員会についての、
署名記事が2本掲載された。

対照的で面白い。

セブン&アイにとっても、
これは有益だった。

ひとつの原稿は今日の記事。
「セブン&アイ、外国人が社長になる日」
論説委員の中村直文さんが書いた。

ふたつめは4月15日に発表された記事。
「セブン&アイ、逆三角形の組織図の思想を保てるか」
編集委員の田中陽さんの筆。

中村記事はこう始まる。
「セブン&アイ・ホールディングスの役員は
かつてこう話していた」

この語り口は、
新聞記者や雑誌記者がよく使うが、
私は嫌いだ。

名前を明かさない裏話。

その匿名の役員は言う。
「投資家やアナリストの話ばかりを聞いていたら、
経営革新なんてできないよ」

これは、その通り。

しかしこれ、
言ったのは鈴木敏文さんだと、
私は推測する。
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「そんな同社が米アクティビスト(物言う株主)の
バリューアクト・キャピタルなどの声を受け、
取締役の過半を社外人材にする。
隔世の感がある」

そのあとに鈴木さんの記述がある。

「セブン&アイは少なくとも
6年以上前までは自信に満ちていた。
創業者の伊藤雅俊氏による
イトーヨーカ堂の業務改革、
鈴木敏文氏が主導したセブンイレブンの導入など、
日本の流通業界をけん引し続けてきた」

この表現は厳密に言えば間違っている。

業革もセブン-イレブンも、
伊藤さんが容認して、
鈴木さんが実行した。

「外部から招いた
サラリーマン経営者の鈴木氏を
絶対的なリーダーとして、
2005年にイトーヨーカ堂から
セブン&アイへ社名変更まで認めたことも
実に革新的だ。
創業一族の”イトー”(伊藤)を
表看板から消したわけだから」

これもニュアンスが違う。

鈴木さんは「外部から招」かれたわけではない。
若いころに東販を辞めて、
イトーヨーカ堂に転職しただけだ。
あとは自力でのし上がった。

「かつて役員が語ったように、
鈴木氏は二番煎じを嫌い、
誰もが反対してきた事業で
成功を収めたとの自負が強かった」

ここで「かつての役員」は鈴木さん自身だから、
これは鈴木さんが自分を語ったものだ。

「恐らく鈴木氏自身が内部にいながら
“アウトサイダー”という
自覚があったからだろう」

中村記事は、
鈴木=アウトサイダー、
=外国人取締役⇒外国人社長と、
ストーリーが続く。

そしてこれが結論。
「カギを握るのは”27億の男”と呼ばれる人物だろう」

「セブン&アイの取締役にして、
米セブン-イレブン社長の
ジョセフ・マイケル・デピント氏だ」

週刊誌的な記事だ。

「デピント氏は02年に入社し、
米国事業の基盤を固めてきた。
直近の報酬は約27億円で
井阪隆一セブン&アイ社長の約20倍を手にしている」

一方の田中陽原稿の冒頭は、
「セブン&アイは取締役会の過半数を
社外メンバーにする方針だ」

同じテーマ。

「先進的なガバナンス体制をつくります」
井阪隆一社長が力を込めて語った。

しかし田中原稿の主役は、
創業者の伊藤雅俊さんだ。
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一般の会社組織は、
「三角形の樹形図」のようになっている。

頂点に株主や株主総会が構える。
その下には会長や社長、
その下に総務部、人事部、営業部、
企画部などが横並びで配置される。
さらに一段下がって、
三角形の底面には各部の課や室や研究所などが
末広がりにぶら下がる。

それに対して、セブン&アイの組織は、
「逆三角形」になっている。

「まず最上部は、
全国にある店舗や地域が横一線に並ぶ。
その下には店舗や地域のオペレーションを支える部署、
その下に本社や本部の管理部門がある。
そして逆三角形の下の部分には
社長(会長)があり、一番下には取締役会、
そして株主」

「”お客さま”は最上位の位置づけだ」

これは伊藤さんの考え方だ。

田中原稿は、
伊藤さんの30年以上も前のコメントを書く。
「会社の利益の源泉は
お客様の買い物金額から生まれます。
そこから、仕入れ先への支払い、
従業員への給料や賃料などに使い、
残ったお金を株主への配当に回します。
だから一番、偉いのは
お客様や地域の皆さんなのです」

この逆三角形の組織図が導入されたのは
1968年だった。

1978年、イトーヨーカ堂は、
日本企業として戦後初の無担保社債を
米国で公募発行した。

この時の伊藤さんの感想。
「企業として下着まで脱がされた気がした」

伊藤さん、いい表現するねぇ。
そして田中さんもよく覚えているねぇ。

伊藤雅俊さんの述懐。
「上場すると内なる規律と
外からの規律に縛られる」

「そんなセブン&アイHDが、
消費者(お客様)から遠い取締役会に
外部人材を多く登用する」

そして田中陽、渾身の一言。
「そこに魂は入るのか」

「決算発表の翌日のセブン&アイHDの株価は
強烈な売りを浴びせられた」

「おそらくヨーカ堂やセブン-イレブンで
買い物もしたことがないような
海外の投資家などから学ぶことが
どれほどあるのか」

同感だ。

日経新聞の二つの記事は、
対照的だ。

一方は鈴木敏文の言葉を、
匿名性を出し入れして書かれる。

一方は伊藤雅俊の述懐を、
掘り起こしつつ綴られる。

27億円の男が社長になるか。
それとも、
お客様を最上位にした組織が蘇生されるか。

私の答えははっきりしているが、
セブン&アイも「解」を求めておくべきだ。

命を削ってでも、
張りをもたせる会社と組織が、
つくられねばならない。

〈結城義晴〉

2022年04月29日(金曜日)

昭和の日に思うこと、そして合掌。

ゴールデンウィークが始まった。

初めは昭和の日の祝日。
昭和天皇の誕生記念日だった。

昭和生まれとしては、
微妙な心境だ。

それでも、
行く春や昭和は遠くなりにけり

絶対に誰かが、
そんな句を作っていると思っていたら、
やっぱりそっくり同じのがあったし、
類似した句は数知れず。

もちろん元の句は、
中村草田男の昭和6年の作。
降る雪や明治は遠くなりにけり

明治も激動の時代だったが、
昭和は太平洋戦争と戦後を経験して、
激動の連続だった。

しかし平成の30年間も、
さらに4年しか経過していない令和も、
激動の日々だ。

これからを担っていく人たちは、
ほんとうに大変だろう。

明日の30日と明後日の5月1日は、
土日曜日。

そして来週火曜日からの三連休が、
憲法記念の日、みどりの日、
子どもの日。

今日は白幡クラブの会計監査をした。
地元の横浜市立白幡小学校の校庭開放活動が、
今、名前を変えてクラブとなった。

私はかつてこの会長を務めていたが、
いまは年に二度のご奉仕。
会計監査と総会での報告。

少しでも地元とつながっていたい。
そんな気持ちで役目を引き受けている。

ツツジが真っ盛り。
しかし横浜は篠突く雨。

つつじ生(いけ)
其陰
(そのかげ)
干鱈
(ひだら)(さ)く女

松尾芭蕉の真骨頂。
凄い。

北海道新聞の巻頭コラム、
「卓上四季」

「死を予見することは
死を恐れることではない」
フランスの思想家モンテーニュの言葉。
「予見とは吉凶いずれに対しても
等しく行われる行為」
「危ないと判断することは
おびえではないのだから、
恥じる必要もない」「恐怖とは
判断の不足から来るものであり、
勇気の不足によるものではない」

モンテーニュは宗教戦争の中で、
危険に遭遇しても動じなかった。
「恐れがなかったのではなく、
驚愕と自失がなかった」からだ。

「冷静な判断があれば
慌てず対応できるということだ」

知床の観光船遭難事故。

冷静な判断をしなかった者の責任は、
極めて重い。

「出航判断の是非と運航体制が
問われることは間違いない」

コラム。
「モンテーニュの言葉を借りるなら、
危険を正面から認めることの方が
むしろ勇気を要するものである」

亡くなられたなかに、
28歳の小池駿介さんがいた。
㈱リオン・ドールコーポレーション取締役。

福島県立会津高校から、
慶応義塾大学商学部に進み、
東京の人材サービス会社に勤めた。
それからリオン・ドールに戻って、
3年前から取締役。

ご本人にはお会いしたことはないが、
優秀で人柄の良い青年だったようだ。

父上の同社社長・小池信介さんのご心痛、
察するに余りある。

このブログに書いていいものかどうか。
ずっと悩んでいたが、
やはり書き記しておきたい。

日本の小売産業は、
未来を担う貴重な人財を失った。

ご愁傷さまです。

心から、心から、
ご冥福を祈りたい。

合掌。

〈結城義晴〉

2022年04月28日(木曜日)

「虹が立つと市が立つ」と商人の「聖なる戦い」

ロシア軍によるウクライナの侵攻は、
まだまだ続いている。

私たちがこうして日々、
安穏と暮らしている間にも。

故瀬戸内寂聴さん。
「戦争にいい戦争はない。
すべて人殺しです」
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「愛する人と別れること、
愛する人が殺されること。
それが戦争です」

プーチンによって引き起こされた、
「プーチン戦争」

そんななかでNHKが伝える。

首都キーウ近郊のボロジャンカは、
ロシア軍によって激しい攻撃を受けた。

4月28日、町の中心部に、
「市」が立った。

食料品などを売る仮設の市場だ。

これは希望の星だ。

ボロジャンカは、
いたるところで集合住宅などの建物が破壊され、
ロシア軍が撤退したあとに、
多くの市民が遺体で見つかった。

電気や水道などインフラも大きな被害を受けた。

だからほとんどの商店が閉まっていた。

28日には、町の中心部に、
テントが並んだ。

それが仮説の市場だ。

そして食料品や生活用品が売られた。

ソーセージなどの肉製品や魚のくん製、
さらに眼鏡などまで販売された。
〈NHK newswebより〉
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「市場」は平和の象徴だ。

商業は「市」から始まった。

4月26日のこのブログで、
商業界会館がなくなる話を書いた。

その会館のファサードの2階部分に、
「虹の市」のレリーフがはめ込まれている。
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丸い緑青のレリーフ。

「虹の市」がデザインされている。

「虹が立つと、
市が立つ」

日本でも平安時代には、
虹が出ると市が開かれた。

虹は神の世とこの世の架け橋である。
天からのメッセージである。
だから市を開き、交易が行われ、
神に祈った。

商業界会館は、
その虹の市が立つ、
礎となる場を目指した。

倉本長治は、
マックス・ウェーバーに、
大きな影響を受けていた。
「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
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ピューリタニズムは、
営利の追求を敵視する。
しかしその経済倫理が実は、
近代資本主義の生誕に、
大きく貢献した。

倫理と資本主義、
哲学と商売。

倉本長治の「商業革命と革命的商人」
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「われわれがいう商業革命とは、
商品の取引、消費者に対する販売の
考え方(思想)から、
そのための組織や方法を
すべて急変させることを指し、
革命的商人というのは、
その激動をみずから挺身推進する
勇気ある先駆的商人のことである」

「商業革命とは、
“大衆が損をしても商人が儲かればよい”
とする不当な伝統主義を打破して、
新しい商業モラルを
打ち立てる聖なる戦いなのである」

虹の市が立つと、
この「聖なる戦い」を思い出す。

ウクライナに幸あれ。
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最後に朝日新聞「折々のことば」
第2362回。

節制も勇敢も
「過超」と「不足」によって失われ、
「中庸」によって保たれる
(アリストテレス『ニコマコス倫理学』から)
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「栄養の過多も不足も
ともに体の健康を損なうように、
勇気のありすぎもなさすぎも
人を無謀か臆病にする」

欧米の経営者教育の核心は、
この「中庸」にある。

超過でもいけないし、
不足でもいけない。

「中庸」である。

例えば粗利益率は、
高ければいいのか。

高すぎると顧客が損をする。
低すぎると店が成り立たない。

「中庸」に設定して、
それを一定に保つのがいい。

編著者の鷲田清一さん。
「若い頃は、中庸とは
結局は妥協だと決めつけていたが、
齢を重ね日々の身動きにも
慎重を要するようになり、
適切な中間を選び取ることこそ、
断崖に挟まれた尾根を歩むように
難しいと思い知る」

そう、中庸こそ難しい。

プーチンには、
この「中庸」の教養が欠落している。

〈結城義晴〉

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