結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2008年02月15日(金曜日)

「自ら、変われ!」の本当の意味<前編>丸一履物本店の閉店

昭和30年代初め、
日本一の履物商といわれた日下静夫さん。
日本一の下駄屋であった丸一履物本店。
丸一
日本中のお店が、
値切られ、値を負けていた時代、
敢然と「正札販売」を励行した。
その根本にあったのは、
顧客に対する「誠実さ」である。

値切り上手といわれる自分勝手な顧客が、
安く買う。
人柄の良い遠慮深い顧客が、
高く買う。

これに我慢がならなかった日下静夫。

値切り上手の自分勝手な顧客をバーゲンハンターという。
アメリカでは、チェリーピッカーと呼ぶ。
人柄の良い遠慮深い顧客を、ロイヤルカスタマーという。
私は、信奉顧客と名づける。

どちらも同じ顧客である。
しかしロイヤルカスタマーや信奉顧客が、
必要以上にないがしろにされていた。

日下さんは、それに我慢ならなかった。

だからどのお客様にも、
はじめからギリギリの値をつけて、
それを「正札販売」にした。

イノベーションであった。
「自ら、変われ!」であった。
だから、ここに、現代の商売に通ずるすべての要素が含まれていた。
「正札販売」だからセルフサービスが出来る。
スーパーマーケットやコンビニが運営できる。
ドラッグストアもホームセンターも、
100円ショップもカジュアルウェアのショップも。

学習院大学院長であった故田島義博先生
銀座のある靴店の靴を、
永きにわたって愛用されていた。
同じデザインの同じサイズの靴。
だから、傷んで来ると、電話をして、届けてもらう。
それで十分だった。
値段も変わらない、品質もかわらない。
その変わらないことに満足していた。

何十年ぶりかで、銀座に出たときに、
その愛用の靴の店に、訪れた。

田島先生、愕然とした。

店頭にでかでかと紙が張られていた。
「全品、5割引」

田島先生には、一度も、5割引の通知が来なかった。

この店は、丸一履物本店の正反対のことをやっていた。

さて、丸一履物本店の日下静夫さんが、
「正札販売」を始めてから3年目。

ある医師の家に嫁入りのお目出度があった。
そのときの話。

再び、『店は繁盛のためにある』(倉本長治著)から引用する。

「嫁入りの祝いであったから招かれるままに彼も、
商売物の革草履を一足祝いに持って出かけたという。
田舎の習慣として、お祝い品が部屋の一室に飾ってあり、
招かれた客は、一応その壮観さを見て誉めなくてはいけない。
ところが、日下さんは、そのお祝い品の飾り付けを見て、
思わず涙が滲み出し、どうしようもなかったという。
――それは、三十何函の履物の祝い品がズラリと並んでいた、
その一つ一つがことごとく
丸一の進物函に容れられた自分の店の品ばかりで、
他店の履物は一足も贈られていなかったためだった」

「正札販売」の勝利の物語である。
親戚一統に羽織袴で口上を述べた日下静夫のイノベーション。
それが日本の商業を変えた。
そのために日下さんは、「自ら、変った」

しかし、この岡山県津山市の丸一履物本店、
今は、ない。
「津山の丸一履物本店はその後、
後継の日下智之君によって続けられていたが、
先年、バブルのはじける前に、
時代の趨勢に従って静かに閉店した」
『倉本長治』(倉本初夫著)

「正札販売」を掲げ、正しさを説き続けた丸一履物本店。

「畳がある以上、下駄屋に繁盛がある」
日下静夫の信念。

なぜ閉店しなければならなかったのか。

イノベーションがなかったからだ。

「自ら、変れ」
これがなかったからだ。

畳の生活が減っていった以上、
下駄屋も変わらねばならなかった。

イノベーションは、続けなければならない。
一過性のものではないのだ。

イノベーションし続けるという信念が、
組織の風土として、
定着しなければならない。

そこまで行かねば、本当のイノベーションとはいえない。

残念ながら、丸一履物本店にはそれが出来なかった。

理念だけでは、店は続かない。

残念ながら。

しかし日下静夫の信念は、今、
日本中に広まっている。
全体のことを考えると、こちらのほうが大事である。

店も、看板も、信用も、
「自ら、変らねば、滅びる」

しかしその信念を継ぐものによって、
信念は生き続ける。

それがこの日下静夫の物語の救いである。

<結城義晴>

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