結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2018年05月26日(土曜日)

鷲田清一の「じっと聴くこと」と見守って「褒めること」

朝日新聞「折々のことば」の編著者。
鷲田清一さん。

1949年京都生まれの団塊の世代。
京都大学文学部を卒業して、
同大学院で博士課程を修了。
その後、関西大学教授、大阪大学学長。
現在は大谷大学文学部教授。
専門は哲学・倫理学。

私が最も尊敬する人の一人。

その著『「聴くこと」の力』
第3回桑原武夫学芸賞受賞。
サブタイトルが「臨床哲学試論」
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この本の初めの章の一番初めの節に、
「聴くという行為」がある。

鷲田さんが引用するのは、
医学哲学・医史学者の故中川米造さんの著、
『医療のクリニック』の中に、
アンケート調査の話が出てくる。
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対象集団は、医学生、看護学生、
内科医、外科医、ガン医、精神科医、
そして「看護婦」。
(古い本なので「看護師」とはなっていない)

このアンケートの中の設問の一つ。
患者の言葉。
「わたしはもうだめなのではないでしょうか?」
あなたならどう答えますか。

5つの選択肢が立てられている。
⑴ 「そんなこと言わないで、もっと頑張りなさいよ」と励ます。
⑵ 「そんなこと心配しないでいいんですよ」と答える。
⑶ 「どうしてそんな気持ちになるの?」と聞き返す。
⑷ 「これだけ痛みがあると、そんな気にもなるね」と同情を示す。
⑸ 「もうだめなんだ……とそんな気がするんですね」と返す。

ここから回答を選ぶ。
あなたならどれだろう。

医学生と内科・外科・ガン医のほとんどが、
⑴の「励まし」と答えた。

看護学生と看護婦の多くが、
⑶の「聞き返し」をいいと答えた。

精神科医の多くが答えたのが⑸だった。

「一見、なんの答えにも
なっていないようにみえるが、
じつはこれは解答ではなく、
“患者の言葉を確かに受け止めました
という応答”なのだ」

鷲田さん。
「〈聴く〉というのは、
なにもしないで耳を傾けるという
単純に受動的な行為なのではない」

「それは語る側からすれば、
ことばを受けとめてもらったという、
たしかな出来事である」

こうして「患者は、口を開きはじめる。
得体の知れない不安の実体が何なのか、
聞き手の胸を借りながら捜し求める」

「はっきりと表に出すことができれば、
それで不安は解消できることが多いし、
もしそれができないとしても
解決の手掛かりは
はっきりつかめるものである」

深い話です。
そして精神科医という新しい役割を、
よく示す話です。

鷲田さん。
「聴くことが、
ことばを受けとめることが、
他者の自己理解の場をひらく
ということであろう」

「じっと聴くこと、
そのことの力を
感じる」

私がずっと読んでいる小説は、
ロバート・B・パーカー。
2010年に故人となった。
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私立探偵スペンサーを主人公にした、
「スペンサーシリーズ」は39編。
未訳の1冊を除いて全部読んだ。

警察署長ジェッシー・ストーンの編は、
9冊だが、これも全部読んだ。

そして女性探偵サニー・ランドルの編。
その中の『メランコリー・ベイビー』
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アメリカに持って行って、
すぐに読み終えてしまった。

この本に、精神科医が出てくる。
スーザン・シルヴァマン。
実はスペンサーの恋人。

女性探偵サニーが、
スーザンの診察を受ける。
サニーの独白の形で物語は進む。

「診察室のなかは静かだ。
ドクター・シルヴァマンは、
白いカシミアのセーターを着て、
組んだ両手を机の上にのせていた。
爪にはきれいにマニュキアを塗っている。
豊かな黒い髪は艶やかで、
化粧も完璧だ」

名前からわかるように、
シルヴァマンはユダヤ人だ。
ハーバード大学で博士号をとっている。

「セラピーが終了するまでに、
お洒落の秘訣を教えてもらわなければ、
と思った」

ここからが大事。

「彼女は先をせかしはしなかった。
話したくなるまで、
このまま黙って座っていても
いいような気さえした」

これが聴く姿勢です。
じっと聴くことです。
その力です。

自分の部下や上司、
場合によってはお客様。
じっと聴く姿勢は大切です。

商人にはじっと聴くことが、
大切です。

日大アメフトの宮川泰介選手からも、
じっと聴いてあげる必要がある。
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内田正人元監督からも、
井上奨元コーチからも、
じっと聴くと、
真相は明らかになる。
内田
マスコミが寄ってたかって詰め寄る。
もし嘘だったとしても、
その嘘は嘘を呼ぶ。

それを世間が見ていて、
ある種の優越感と満足を得る。

不健全だ。

その意味では安倍晋三首相からも、
籠池泰典森友学園前理事長からも、
加計孝太郎理事長からも、
じっと聴く場が求められる。

不可能だろうが。

最後に5月16日の「折々のことば」
褒められた喜びというのは、
「ちゃんと見ていてもらった」
という喜びでもあった。
〈苅谷夏子〉

刈谷さんは国語教育者・大村はまの元生徒。
現在は大村の記念会の事務局長。
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「ふだんは気難しげな大村が時折、
すごい”熱量”で褒めたのは、
生徒一人一人をしかと
見続けていたからだ」

鷲田さん。
「誰かに見守られることで
逆に独り立ちできるということがある」

じっと聴いて、見守る。

宮川泰介君にとって、
いま必要なのはそれだろう。

自分で悪質タックルをした事実は、
消えないのだから。

〈結城義晴〉

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